ザ・グレート・展開予測ショー

早くお家へ帰ろう。


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/10/23)



「寒っ!」


布団から出ようとして、思わず呟く一言。
すぐにまた布団の中に潜り込む。


「うわあ・・・こらあかん。正直ここから出たくないなあ・・・。」


顔にヒンヤリと冷気を感じる。まさしく冬の到来を告げる室温であった。


「・・・ああ、今日は休みたいなあ・・・。でも仕事に遅刻すると命の危険がなあ・・・。」


頭の中にあの人の顔が浮かぶ。勤め先の経営者の「あの人」。
布団の中は暖かい筈なのに少し身震いする。


「・・・でもなあ、多分あの人は布団からもっと出なさそうな気もする。」


そう考えると少し笑える。頭の方も段々と晴れてきた


「しゃあない・・・覚悟を決めて・・・。」


「・・・ん・・・。寒い・・・。」


布団から出ようとして布団の中から一つの声。
そしてほかほかとした感覚が足元にあった。いや本当はずっとなんだけど。


「あ、起きた?」
「・・・・・・何、もう朝?・・・仕事行くんだ。いってらっしゃい。私今日休みだから。」


視線の先には、丸まった形で寝ぼけ眼の少女がいた。
まあ正確には違うんだけど。それにもう少女とも呼べない・・・事も無いか、まあギリギリだな。
言葉を一つ返してまた眠りにつこうとしている。


「・・・良いなあ。休みかよ。」


・・・こいつと一緒に暮らすようになってはや半年。何でこんな事になったんだろ?
正直恋愛対象でも無かったような気がするし、何せ一応妖怪だしなあ・・・。今更ながら不思議に思う。


・・・まじまじと顔を見る。まるで猫のように丸まって睡眠を貪っている。
顔はカワイイ。まあそれは認める。性格は・・・キツい方だな。まあ美神さんに比べればましな方かも。


「・・・いや、あなたが悪いと言ってる訳じゃないですよ!美神さん。」


聞かれる筈も無いのに心の中で弁解している自分がちょっと情けない。


・・・それでまあ時々こいつとケンカをしたりもするけど・・・まあそこがカワイイ・・・のかどうかはわからんが。
髪の毛を燃やされたりするのはもう日常茶飯事だ。ボヤにも何度かなりかけたし。


ちなみに彼女は最近では事務所とその隣にあるオカルトGメンの仕事を手伝っている。
だからまあ社会「人?」みたいなものだ。今日はお休みらしいけど。


そしで自分はといえば高校を卒業して晴れて美神さんの事務所の正式社員となった。
扱いはほとんど変わってないけど。別に不満は無い。仕事も最近余裕が出て来たし。
その頃が一番危ないっていう話もあるが。


「おっと、時間時間。うー、寒い。」


時間が気になってきたので考え事を止めて服を着替え始める。
こん時が一番辛いな。ああ、たまらん。


「すー・・・すー・・・すー。」
「・・・・・・。」


布団の中でもぞもぞと気持ち良く寝ている丸みが寝息を立てている。
こっちは寒い思いをしているのにちょっと腹が立つってもんだ。胸の中にいたずら心が芽生える。


ばさあっ!



「ていっ!」
「きゃっ!!」



布団を思いきり剥ぎ取ってやった。思いのままに。その後のやり取りは何も考えずに。


「ちょっ・・・何すんのよ!!馬鹿!ちょっと・・・うわっ、寒い!布団返してよ!!」
「いや、俺ばっかり寒い思いをするのがムカついたもんで。」


素直に返してみる。こうやってからかうと彼女は分かりやすいぐらいに反応する。


「はあ!?何言ってんの!?ちょっとマジで布団・・・よこせ!こら・・・ちょっと・・・。」


手を伸ばして必死にこっちの手に持った布団を奪い返そうとする。しかしそうはさせない。
なにせこっちの方が背が高いし。彼女はピョンピョンと飛び跳ねて顔を真っ赤にしながら真剣だ。


「わかったわかった今返すからそんな慌てなくても・・・。」


どさっ。


地面に布団を落とした。その瞬間、彼女は急いでそれを拾って被ろうとする。
だがそれと同時に彼女の身体を抱きしめた。


ぎゅっ。


「きゃ・・・・・・って何しようとしてんの朝から?」
「いやそれは・・・・・・っていうか布団よりこっちの方が暖かく無いかな・・・と。」


彼女はきょとんとした顔で布団と自分の顔を見比べて・・・。





「・・・布団の方が良いや。」





手の中からするりと抜けると地面に落ちた布団を持って、また丸い形に収まった。


「・・・そりゃ酷いお言葉。泣けるわあ・・・。」


寂しい気分で涙がホロリと。しかしそんな事言う暇も無く、時間が無い事に気付き、慌てて服を着替える。





「たくっ・・・じゃあ行って来るわ。あんまり遅くまで寝て・・・」


・・・と言おうと後ろを振り返ると・・・寝床の丸みが無い。
それと同時に後ろから柔らかい感触が伝わってくる。





「・・・さっきの冗談だから。こっちの方が良いに決まってるでしょ。」
「・・・・・・!!」





かっと熱くなった身体は自然と振り向き、そして自然に飛びかかろうとして・・・。


ぼっ。


「あちいっ!!」


「あははははは!駄目よ。時間無いんでしょ?」





屈託の無い笑顔で笑う彼女。憎らしいというか可愛らしいというか。
こんな所を好きになったのかも知れない。そういえばそうだったかな。
何とも無しに口元が緩んだ。



「・・・ふう。まっ、そんじゃ改めて・・・行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい!あっ、そうそうちょっと。」
「ん?な・・・」





ぴたっ。





振り向こうとした頬に唇の感触が伝わった。暖かい感触が。


「残念。もうちょっと早く振り向いてれば口だったのに。」
「・・・・・・。」


少し照れた顔で彼女はモウイチドにっこりと笑った。





バタンッ。





ドアを閉める。そこには寒々とした空が広がっていた。冬の空。


「・・・今日は早く帰ろう。」


顔を真っ赤にして仕事場へと向かう青年の姿がそこにはありました。


おしまい。

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