ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 外伝 1


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(04/10/21)

朝の光に照らされて一人の男が目を覚ます。ボサボサの髪、眠たそうそうな眼、大きな欠伸をしながら、
同じ部屋に寝ている妻を起こさない様に、のそりのそりと部屋を出てゆく。

リビングに下りて見ると誰もいない、まだ誰も起きていない様だ。
休みにの日になると、昼位までは寝ている自分だが、今日は思いのほか早く目覚めてしまった。

柔らかな朝日が部屋の中を照らしてゆく、テレビをつけるでも、新聞を読むでもなく、
自分で淹れたお茶を味わいながら、寝ぼけた頭を覚ましてゆく。

ツガイの小鳥が木の枝に止まって中睦まじげにしている、その姿に眼を細め、湯飲みをおいて深く息を吐いた。


「もう10年か・・・・・・」
誰に語りかけるでもなく、静かに呟き、その言葉は朝の静寂に消えた。











彼女が死んで・・・・



新しい命が生まれて・・・


新しい仲間と出会って・・・


懐かしい旧友と再開し・・・


妻と結婚して・・・・


娘が生まれて・・・


新しい家族も増えて・・・






いい事ばかりではない

砂を噛む思いをした。

自分の不甲斐なさに怒った。

不条理に嘆いた。

いつも頭を悩ませた。

いつも心を痛めた。

辛かった。

悲しかった。

自分にはあの時欲しかった物があった。

あの時初めて誰かから愛して貰えていると始めて気が付けた。

心の底から守りたいと思っていた。

世界を犠牲にしてもいいと思えた。

でも、出来なかった。

自分にとって世界は重すぎた。

世界と最愛の彼女は天秤に架けられた。

どちらも正解、どちらも不正解。







座っていたソファーから身を起こし、軽く伸びをして庭に降りた。
春の陽光が暖かく照らしている。徐にポッケトから煙草を出し紫煙を燻らせる、家族の前では吸うことは絶対にしない。
愛する娘に有害な空気の一欠けらでも吸わせるものかと・・・
それでは吸うなよ、などと無粋な事を言ってはいけない、男には一人吸いたくなることもあるのだ。
紫煙が光に照らされて、陽炎の様に揺れて空に上ってゆくその光景は、魂が成仏して上っていくのに良く似ていた。



彼女がいった
「お前のいる世界を守りたいの・・・」

そして、自分は世界を選んだ。

彼女を見殺しにして。

自分は弱くて、情けなくて、愚かで、でもそんな自分を彼女は愛していると言ってくれた。
命も惜しくないと言ってくれた。

その彼女に対して自分は何かしてあげたのか?

イヤ・・・何も出来なかった。

何も出来なかった

何も・・・・・

そこまで考えて、男は考えるのをやめた。
辞めよう・・・・・どんなに後悔しても、懐かしんでも過去に時間は戻らないし、亡くした者は帰らない。
何度考えて悩んで苦しんだ、もう十分すぎるほどに・・・

煙草の火を消し家に入ると娘の蛍花が起きていた。
自分を見ると嬉しそうに走りより朝の挨拶もなしに飛びついてきた。

愛しの娘よ・・・朝っぱらから鳩尾目掛けて頭から突っ込まんといて・・・パパは胃液が口まで来たよ。
「パパおはよう」
「・・・うぐっおはよう蛍花」
自分の腕の中で嬉しそうにしている娘を見て、男は痛みを堪えて不自然な完璧スマイルを浮かべている。
いつも通りの朝の光景だ。


あの時自分が失った大切な者は、形は違えどこの子の中で息づいている。
何度も血を吐き、涙を堪え、たくさん失った。

だがそれ以上に自分は、沢山のモノをこの手にした。
昔名付けた栄光の手は、沢山の悲しみと沢山の喜びを掴んだ。


悪夢を見ることもある。

深い悔恨の念苛まれることもある。

自分があの時選んだ世界が、本当に良かったかどうかなんざ解る訳もない。

それでも、自分は前に進む

それでも、自分は前に進む

自分があの時、彼女に託された魂と心を持って・・・・





腕の中の愛娘をギュッと抱きしめる。イカン泣きそうだ。
「パパ泣いてるの?」
「いんや、泣いてないよ」
「うそだ、泣いてるよ、心が痛いって泣いてるよ」
「そうか?」
「うん」
「蛍花今楽しいか?」
すると蛍花は満面の笑みで答えた。
「うん学校は楽しいし、パパもママもお姉ちゃんも皆大好き」
「そうかぁ、良かったな」



この笑みに自分は何度救われた事か解らない、いや娘だけじゃない、妻や弟子、同僚達に何度も助けて貰っている。
あのときの答えが正解か不正解かなんて解らないだが、この笑みを守るために自分が戦う理由は十分にある。

あの時と比べることなんて出来ないが、自分にはまた掛け替えの無いものが出来た。
いやそれも違う、掛け替えの無いもは前から沢山あった。ただそれが近すぎて解らなかっただけだ。
最近になってそれがようやく判ったのだ。






(ありがとうルシオラ・・・君がいなくなって悲しい事もあるけれど、俺はこの笑顔の為に君の残してくれた世界を守るよ)


(がんばってねヨコシマ)


瞬間弾かれたように顔をあげるがそこには、自分と娘しかいなかった。


つがいの小鳥が空に羽ばたいて行った。













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