ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第14話 前編 〜               


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/10/19)




(メドーサ・・・・?)

Gメン本部のとある一室。

興味深そうに、部屋の様子を観察していた神薙美冬が・・・不意に小さく顔を上げた。
冷蔵庫とキッチン・・食器棚に、テーブル、ベッド。感心するほど生活臭溢れる、広々とした間取り・・。

「・・で、ここが今日、あなたとタマモちゃんに泊まってもらう部屋なんだけど・・・?神薙さん?」

「・・・・ぁ・・・。す、すいません・・。少し、友人に名前を呼ばれた気がして・・・」

戸惑いながら雑念を払うと、神薙は、前方を歩く美智恵に向かって言葉を返す。
嫌な感覚は拭えないが・・大丈夫だろう。何か不測の事態が起こったなら、必ず自分に報告すること・・。メドーサにはいつもそう言い聞かせてある。

「ごめんね・・、ほんとは一人部屋を用意してあげたかったんだけど・・用心に越したことはないから。」

「いえ、当然の処置だと思います。泊りがけになるというのは・・・少々、予想外でしたが・・」

・・しかし、考えようによっては英断ともいえる。
2日後に爆弾魔の犯行予告を控えたこの状況・・・Gメン内部は否が応でも浮き足立つ。

(せめて・・爆弾魔の件が片付くまでは、対イーター用の自由に動ける人員が必要・・・そういうことでしょうね。)

唯一の気がかりはユミールとフェンリルについてだが・・それに関してはやり方次第で如何様にも対応できる。
このまま《喰らう者》を放置しておく方が、余程・・・・・


「あ・・いや、用心っていうのは、イーターのこともあるんだけど・・・その、横島くんとかがね・・」
ため息をつき、何とも言えない微妙な表情で・・美智恵が一つ、頭を抱えて・・・

「?横島君・・ですか?それは一体・・・」
不思議そうに尋ねる神薙に、またもや美智恵はため息をつく。

「神薙さん・・いざ迫られたら、何の抵抗もできなさそうだもんねぇ・・。ノーリスク・ハイリターンじゃ、横島くんの格好の的よ。」
げんなりとつぶやかれる、そんな独り言。年長者も楽ではないようだ。

「・・そういえば、当の横島君と・・・・タマモさんは?」

同室に泊まるはずの、少女の姿が見当たらない。怪訝に思い、神薙はかすかに首を傾けて・・・・
横島の名を口にした瞬間、ほんの小さく上がったトーン。美智恵はそれに、やはり小さく微笑み・・しかし、気付かないフリをした。

「2人とも、地下にある牢獄を見に行ったみたい。気になるなら、神薙さんも行ってきていいわよ?」

ニコニコと笑う美智恵の顔。
言葉にせずともその笑顔からは、『本当に2人きりにしちゃっていいの〜?』という台詞がにじみ出ているようで・・

(・・気のせいでしょうか・・?最近、私の周りには・・こんな人ばかりが増えているように感じるのですが・・)

疲れたように瞳を閉じる。諦めにも似た、憂鬱な気持ちを引きずりながら・・
神薙は・・いつも理不尽な追求にばかり精を出す、友人の顔を思い浮かべていた。



〜『キツネと羽根と混沌と 14話 前編』 〜



「・・これで・・しばらくは大丈夫・・。」

木造の扉が閉まる。
荒い息を吐き、魔鈴は素早く部屋のランプに手を伸ばした。
明かりが消え、静謐の中に闇が訪れる。イーターというらしい、あの怪物に・・一般常識がどこまで通用するかは定かではないが・・・
しかし、今のところ彼女には・・・火を消す程度しか身を隠す手段が思い当たらない。

・・・カーテンの縁から覗くのは、人界とは隔絶された異界の風景。

「傷のほうはどうですか?魔素が濃いはずだから・・・あなたたちには過ごしやすいと思うんですけど・・・」
おずおずと聞きながら、魔鈴は傍らのメドーサの方へ振り返り・・・

「・・・・。」

「・・・・・メドーサさん?」

返事がない。メドーサは壁にもたれたまま・・・。
初撃で受けた肩の傷を押さえ、何も言わず・・ズルズルと床に崩れ落ちた。

「・・・っ!」
「心配要らないさ・・。出血は止まったし、霊力だって・・・・っと、これは奴には関係ないんだっけ?」

肩で息をして、そう言うと・・・メドーサは周囲に視線を向けた。
ひどく趣味の悪いアンティーク。鳥かごの飼われた魔界の鳥。
魔族である自分がこうい言うのもなんだが・・、スカベリンジャーを『小鳥さん』などと呼ぶ神経には、とてもではないがついていけない。

「・・ここがあんたの自宅ってわけか・・。また、偉く物騒な場所に住んでるね・・」
「ふふっ。でも、そのおかげで・・あの男の人を上手く撒けたじゃないですか・・」

ピッと指を立て、得意げにそんなことを言う魔鈴を見つめ、思わずメドーサは苦笑した。

・・たしかに言う通りではある。事実、あのまま戦闘を続けていれば、自分は間違いなく血の海に沈んでいただろうし・・
わざわざ、この小屋とは遠く離れた場所に、店とのチャンネルを繋げだことで、イーターとの距離も大分、稼ぐことができた。
超加速で一直線に突き抜けた自分たちとは違い、敵は未だ入り組んだ森の中を彷徨っているはずだ。

「・・しかし、胸糞悪いもんを見せられたね。あんたの知り合い・・西条、だっけ?よくあんなのと闘りあって無事でいられたもんだ・・。」

「・・・え?」

メドーサの言葉を聞いた瞬間、スカベリンジャーにエサを与えていた魔鈴の手が・・不意に、止まる。
反応を予想していたのだろう、表情を変える魔鈴をよそに、彼女は軽く伸びをして・・・

「無事どころか・・一度はあのイーターを追い詰めてるらしい。アイツの片目は、その西条って奴が剣で潰した・・そう聞いてるよ。」

「・・・。」

「・・ま、そういうことさ。それよりここって電話線は通ってるのかい?ちょっと連絡を取っておきたい奴がいるんだ。」
重くなりかけた空気を振り払い、、メドーサがヨロヨロと立ち上がった。

・・通ってるわけないか・・。
もう一度、部屋を見回し、頬をかきながらそう声をもらして・・・・

「連絡・・魔族のお仲間に、ですか?」
「ん・・?仲間・・あぁ、うん。そっちのほうがしっくりくるか・・。」

複雑な表情で、メドーさは半眼のまま首をひねる。どこか、嬉しげな口調。となりで目を丸くする魔鈴の姿を留めながら、彼女は穏やかに瞼を閉じて・・・

・・・。

(この人・・こんな顔する人だったかしら・・・?)

自分も、彼女と直接面識を持ったのは初めてだが・・それにしても・・・
美神たちから聞かされた話や、写真から受けた印象。
魔鈴が抱いていた「凶悪な龍族」というイメージと、今の、微笑を浮かべる彼女の横顔は・・あまりにもかけ離れたもので・・

「・・・・もしかして、その人ってメドーサさんのご家族か何かだったり・・します?」

「・・は?なんだいそりゃ?いきなりどうしてそうなる?」

突然の質問に・・・
キョトンとした顔で聞き返すメドーサへ、魔鈴は難しい顔で腕を組み・・・

「あれ?違いました?なんとなく、身内の方のことを話してるように見えたんですけど・・」

謎かけでも解いているかのような単純なしぐさ。
その様子をただ眺めていたメドーサも・・・やがて、ごくわずかだけ目元を緩める。

「・・家族・・か・・。」

「・・・?」

「・・似たような、もんなのかもしれないよ。出会ったのは、随分昔の話だからね・・」

押し黙る魔鈴に一声かけると、メドーサは小さく肩をすくめた。
おそらくは、これ以上聞いても何も答えてくれないだろう。居心地悪そうに逸らされた瞳から、それは容易に想像できて・・・


・・口を開きかけた魔鈴の眼前で、部屋の空気が一変したのは・・・その直後。
強烈な殺気に身を硬くする2人の聴覚をに・・口笛と、戸を叩く音が突き刺さる。

「・・・ちっ・・もう来やがったか・・」
メドーサが憎々しげに唇を噛んだ。

―――「こんにちは、お嬢さん方。探しましたよ・・。」

低い声。次いで現れたのは長身痩躯の男の姿。いつの間にか、人の姿へ戻ったイーターが・・ドアを軽々と蹴破った。

「すっかり迷子になってたみたいだね・・。いっそのこと、森に永住すりゃよかったんじゃないか?」

「・・森?あぁ、あそこなら、もうただの野っ原に変わっているぞ?抜けるのが面倒だったんでね・・美味しく頂かせてもらったよ。」

口元を拭き、目を細める男に・・・メドーサの首筋を冷たいものが伝っていく。
ハッタリか・・それとも事実なのか・・。外へ出て、確認する気にもなれなかったが・・・改めて思う。

・・。

「・・この・・化け物が・・っ・・」

「・・・何だ?今頃、気づいたのか?」

押し殺したようなメドーサの声に、男はうっすらと顔を歪めた――――――・・。


――――――・・。

(「・・なんか・・とんでもな場面に出くわしちゃってない?私たち。」

場所は変わって・・わずかに距離が置かれたしげみの奥。
顔をヒクヒクさせながら、美神令子がつぶやいた。
・・そもそも、自分たちはここで一体何をやっているのか?たしか、朝食をとるために、魔鈴の店を訪れたはずではなかったのか?
目の前にあるのは、朝陽が差し込むテーブルと料理ではなく・・血や殺気が飛び交う完全な修羅場だ。

(「み・・美神どの・・!ここは拙者たちも加勢した方がよいのでは・・?」)
あせあせと、そう提案してくるシロに向かって、美神は何故か思案顔で・・・

(「そりゃそうなんだけどね・・。どっちに加勢すればいいの?メドーサが魔鈴を人質に取ってるって可能性も・・」)
言いながら、彼女は顔をしかめる。
視線の先には黒髪の男。紫色の瞳に邪悪な笑み、と・・・その姿は明らかに妖しさ全開で・・・

(「・・んなわけないか。オーケー、なんでメドーサが生きてんのかはこの際置いとくとして・・あいつに貸しを作るってのも正直、悪くないわね。」)

(「ん〜男の方の顔は、いいセンいってるんでちけどね〜」)

ほくそ笑む美神に、パピリオが半眼でそう言って・・
3人が勢いよく茂みから飛び出そうとした・・・・・その刹那だった。

「っ!美神どの!パピリオ!」

顔色を変えたシロが、2人を掴み大きくその場を飛び退る。
ボコリ、という奇妙な衝撃とほぼ同時。手前の壁に大穴が穿たれ、内から覗く黒い旋腕。
ゴムのようにしなる腕が地面をえぐり、数秒後、石造りの小屋を跡形もなく吹き飛ばした。

『・・・・・。』

飛礫の嵐が視界を包む。
間抜けともいえる呆然とした様子で、ポカンと立ち尽くす3人と・・・豪快に宙を舞うメドーサ、魔鈴。
意識せずとも、瞬間的に互い互いの目が合って・・・

(・・って、不意打ちができなきゃ勝ち目なんてないんだけど・・・)
思わず、美神は心の中でつっこみを入れた。

「・・おやおや、今日は千客万来だな。」
礫石を叩き割り、シュルシュルと収納される長い上腕。イーターの殺気がわずかに薄れた。

(「め・・メドーサさん、パピリオさんがいますよ?もしかしたら何とかなるんじゃあ・・」)
(「・・霊力が無意味じゃ役に立たないだろ・・。せめて、横島あたりがついてくりゃあ、文珠で逃げるぐらいはできたかもしれないが・・」)

状況は変わらない。イーターにとっては、ただ獲物が増えただけのことだ。

「くそっ!美神令子!あんた爆薬の一つでも持ってないのかい!?そういうのは得意分野だろうがっ!!」

「いくら私でも、凶器片手に病院行き来するわけないでしょーがっ!!!!!!」

叫びをかき消し、致命的な威力を有した斬撃が巻き起こる。
イーターの腕から生じる、竜巻のような薙ぎ払いに・・・全員が一度に弾き飛ばされ・・・・

(・・こいつ・・遊んでやがる・・!)

朦朧とする意識の中、メドーサが思う。霊波が効かないとはいえ、このメンツ相手になおこれ程の余裕。
剣を手放したのは失敗だった・・。肉弾戦ではまるで勝機が見当たらない。

「・・つまらんな。そろそろ『喰う』か・・」

遊び飽きた玩具をかなぐり捨てるかのように・・・嗤う男の全身から、瘴気が爆発的に吹き出していく。
踏み出された足先から凄まじい重量が生み出され・・・・地が割れる。地鳴りによる振動が、異界の大地に反響した

何処からか聞こえてくる咀嚼音。
それはあたかも、蓋を開けた地獄が・・・灼熱のマグマを吐き流すようで・・

―――――殺られる・・・!

悪寒が全身を貫いた。
ベキベキと鈍い音を伴って、男の骨格は変化を始める。刃となった指先が・・再び、5人を・・・・・・。

・・・・だが・・・


「!?」

美神が次に目にしたのは、灰色の輝きを帯びた・・・光と闇の巨大な明滅。
カノン砲の一撃にも見まがうほどの、高速の光弾がイーターの腹部に叩き込まれ・・・・・
・・漆黒の表皮には傷一つつかない・・・・にもかかわらず、男は小さく目を瞠った。

「・・・これは・・・」

あたりを見渡したところで、誰の・・何の気配も感じ取れない。
残り香のように、空をただただ舞い続けるのは・・・

「Howling・・・霊波の増幅干渉を利用した混沌の使う下位権限・・。それに・・灰色の羽根、か。」

肩に落ちる、腐りかけた翼の一端を掴み取り、彼は愉快げに体を震わせた。
侮蔑の表情を浮かべながら、額を押さえて笑い出し・・・・

「くくっ・・なるほど。メドーサや魔鈴ならいざ知らず、まだこの3人を始末されちゃ困るわけだ・・。まさか、一度殺した相手に牙を剥かれるとは・・」

「?・・あんた・・さっきから、何一人でブツブツ言ってんのよ・・。」

怯んだ様子を見せる、美神たちを一瞥し、イーターが不意に鼻を鳴らした。
・・・まぁ、いい・・。なかなか楽しめたことも確かだが、何より西条やドゥルジを猛らせるには、これで十分だろう。
下手に暴れてスズノなどを引きずり出されでもしたら・・それこそ堪ったものではない。

「・・いいぜ、今日のところは引いてやる・・『お前』に免じて、な」

虚空を見上げ、そう口にした後、男は森の中へと足を向けた。
死にぞこないの小娘など、正直もの数ではないが・・・混沌の誘いに乗るというのも・・まぁ、一興かもしれない。

「命拾いしたな。次に会うのは、お前らの知人の葬式だ。西条も、横島忠夫も・・そして、神薙美冬も・・一人残らず、俺が喰らう。」

たたずむ美神に・・肩を押さえ、膝をつくメドーサに・・彼は挑発的にそう告げて・・

・・・。

「・・待ちなさいよ。」

「・・・ん?」

呼び止める声。
射抜くような殺気が込められた美神の視線に・・・男は眉をひそめ、振り向いた。

「さんざん好き放題やっておいて、名前も名乗らず帰るつもり?イーターっていうの・・大方、偽名か何かなんでしょ?」

「・・・・。」

それは、唐突な問いかけだった。
意表を突かれ、一瞬固まる《喰らう者》は・・しかし、すぐさま目を細めて・・・・

「・・・そうだな・・。」

「・・・・。」

「『間下部 紅廊』。昔、人間だったときは・・・そう呼ばれていた気がするよ。」


静寂を破り、風が吹く。
それは、凍りついた年月が、ゆっくりと動き始めた・・その瞬間だったのかもしれない。


『あとがき』

うぅ・・・何度書き直しても、あんまり面白くならない・・(泣
こんにちは〜かぜあめです。ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます+ごめんなさい・・。

とりあえず、『間下部 紅廊』は『まかべ くろう』という読みです。ヘンテコな名前をお持ちですね、イーターさんは(笑
今回はなんというか、プロットがガタガタで・・。横島とタマモは後編でちゃんと目立ちます。
それにしても・・せっかく曲がりなりにも、横島とタマモとドゥルジさまが一つ屋根の下にいるんですから、
サービスショットの1つでも欲しいところですね(爆

と、いうわけで・・次回、おまけギャグで・・

@ 横島がタマモと神薙先輩の部屋に特攻をかける
A 横島がタマモと神薙先輩の入浴中に風呂へ乱入する。

のどちらかの展開を書く予定ですので、期待せずにお待ちくださいませ〜(女性読者の方すいません(汗))
と、いうわけで次回・・できれば今週中にまたお会いしましょう。それでは〜

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