おめでとう
投稿者名:BB
投稿日時:(04/10/18)
夕方の公園に二人の男女がひとつの影をつくっている。
影がひとつなのは二人が抱きあっているからだ。
女性はすすり泣いている。
しかし、男性の意識はその女性に向けらていない。
その意識は、抱きしめた肩越しにいる別の女性に向けられている。
彼女の表情は笑顔ではあるがどこか寂しげでもある。
彼は彼女の名を呼ぼうとする。
しかし、彼の言葉は形にならない。
彼女が口をうごかす。
なにを言っているのか聞き取ろうと耳を澄ました彼の耳に飛び込んできたのは、
聞き慣れた電子音だった・・・電子音?
ピリリリリッ ピリリリリッ
横島の眠りを覚ました携帯電話の液晶は、午前2時を表示していた。
「なんだったんだ?いまの夢・・・」
片手で頭を抑えながらつぶやく。
ピリリリリッ ピリリリリッ
「はいはい」
枕元の携帯電話を手に取る。
「はい、横島で・・・
えっ?いまですか?いまは寝てたんですけど。
・・・いまから中武百貨店?なんの話ですか?
いや、ちょっと美神さん?」
ブツッ・・・ ツー・ツー・ツー
二時間後・・・
「吸引っと。
ふぅ・・・これで全部片づいたわね」
「あの美神さん、今日オレ結婚式なんですけど・・・」
聞こえないかのように続ける美神。
「いやー、助かったわ。今夜中に終わらせないと報酬半額なんて言い出してさぁ。
まっ、遅れてもそのまま払わせるけどね。」
「はぁ・・・」
”この人らしいなぁ”
と思いつつ苦笑いの横島。
「・・・なによ?」
「いぇ」
「まっ、いいわ。
じゃあ、これご祝儀込みの助っ人代ね」
美神の投げた茶封筒が、横島の顔に当たり地面に落ちた。
横島はそれを拾いあげ、中身をふり出す。
スルスル・・・ ポトッ
「・・・・・500円?」
「2時間だから500円、小学生でもできる計算じゃない。
最初の時給が250円なら最後の時給も250円、当然でしょ?」
”なんか文句ある”といいたげな笑顔でほほえむ。
この笑顔の美神に、何をいっても無駄だと横島は知っている。
「さてと・・・横島クン?」
「はい?」
美神の笑顔が少し曇ったように見えた。
次の瞬間
バキィイッ
横島は飛んでいた。
”いきなりかい”
そんなことを思いながら横島は宙を転がり壁にはりつく。
ズズズっと壁から落ちていく。
「な、何するんスか?」
「あー、すっきりした」
「は?」
「最近ストレス溜まってたのよ」
肩をグルグル回しながら、爽やかな笑顔を浮かべる。
「おれは美神さんのサンドバッグですか?」
「そうよ・・・・今日まではね」
そういうと美神はスタスタと座ったままの横島に近づいてくる。
立ち止まり、手を横島の前にすっとのばす。
”また殴られる”
しかし、その手は身構えている横島の予想を裏切り、彼の襟元をつかむ。
驚き顔をあげる横島。その目にはまじめそのものの顔の美神が移るった。
美神はすうっと息を吸うと静かに話し始めた。
「いい・・・おキヌちゃんのこと幸せにしなさいよ。」
襟を握る手に、そして声に力がこもっていく。
「アンタも・・・・幸せになりなさいよ。
アンタたちが幸せにならないなんて認めないからね」
言い終えると”わかった?”首をかたむける。
「・・・はい」
「声が小さい」
「はい!」
「よし」
美神は満足そうにうなずき、これまでに見たどの笑顔よりも温かい笑顔でいう。
「おめでとう」
アスファルトがうっすらと日の光に照らされてゆく。
朝靄の中をゆっくりと歩きながら横島はさっき見た夢を思いだしていた。
そこは夕陽に彩られた公園だった。
「結婚・・・しよう」
彼女はその言葉に笑顔を浮かべる。
しかし、その笑顔はすぐに暗いものとなる。
ようやく聞き取れるような小さな声ポツリとつぶやく。
「大丈夫・・・・なんですか?」
その問いには答えず彼女を抱きよせる。
「返事は?」
ちいさな肩の震えが腕に伝わってくる。
「・・・・はい」
涙の混じったさっきより小さな声で答える。
そのまま目を閉じ、彼女を抱く腕に力を込める。
どれくらいそうしていただろうか?
ふと目を開けるとそこにアイツがいた。
アイツの表情は見たこともない寂しげな笑い顔だった。
”ルシオラ・・・”そうアイツの名を呼ぼうとするが、なぜか声にならない。
アイツが口をひらく。
”なんていってるんだ?”
夢はそこで終わった。
もちろんプロポーズのときルシオラはいなかった。
ならどうしてあんな夢を見たのか?
ビュンッ
目の前を通りすぎた車が、横島を現実に引き戻す。
日の出の近い空は、その色をあかね色に染め始めている。
彼女は自動販売機の前に立っていた。
「久しぶりね、ポチ」
「・・・べスパ、どうしてここに?」
「ちょっと任務でね。それより結婚するんだって?」
「・・・ごめんな。」
「なに謝ってんのよ。」
「でも・・・」
「いいさ・・・子供できたら大事に育てなよ」
「・・・あぁ」
すこしの間だけ横島は泣いた。
許してもらえたこと、それでも残る彼女へのすまなさ、そして自分の愛した女性。
それらへの思いが横島の頬を流れていった。
「なぁ、やっぱり式でてくれないのか?」
「任務っていったろ」
彼女は苦笑すると、ふわりと浮かんだ。
ようやく顔をだした朝日に顔をしかめる。
「ポ・・・ヨコシマ」
「ん?」
「姉さんからの伝言」
横島にはべスパが、夢の中のルシオラと重なったように見えた。
「おめでとう」
今までの
コメント:
- 二本目です
感じたこと、気づいたこと、ここおかしいなどの
感想がありましたら言っていただけると幸いです
よろしくお願いします m(__)m (BB) (BB)
- ベスパがカッコいい!!
美神さんも照れてるっぽい行動がイイ!!
おキヌちゃんと結婚ってなったらこうなるんだろうなぁ・・・(しみじみ) (純米酒)
- 美神さん、強い女性ですよね。
好きな人を笑顔で送り出せる―――やっぱコレは、スゴイです。
俺にはとても真似出来ません(苦笑)
夢と交錯する現実が、何とも言えず幻想的です。
ベスパに託されたルシオラの気持ち。
きっと、本物ですよね。
とっても良いお話でございました。
次回を楽しみにしてますんで、適当に早くお願いします(微笑ぷれっしゃ) (龍鬼)
- 横島の襟元をつかむシーンが、美神が結晶を抜き取られた時のエミさんに似てると感じました。シャキっとしろ、と。
他に何人もの人からおめでとうが送られたんでしょうね。男のダチも女の子からも。幸せになれよ〜お二人さ〜ん。 (九尾)
- う〜ん。似た物を1,2個見た事あるので中立で。 (白)
- うーん、いい話ですね。
美神さんがらしくて (X-5)
- おめでとう。
って言葉の中に含まれてる思いは様々で・・・。
私的、べスパの―――「おめでとう」に惹かれました。
イメージがぱーっ、と浮かんできたんです。やっぱりあかね空で。
いや、正直、べスパの言葉ってあまり好きになれないはずなのですが(ぇ
何故か、受け入れることが出来ました。・・・ルシオラが重なった、というところも。
とても綺麗なラストシーンだったと思います。
・・・賛成! (veld)
- みなさまコメントありがとうございます(^^)
・純米酒さん
照れてるといいますかなんといいますか・・・
まぁ、素直には祝福しないだろうなぁと(笑)
・龍鬼さん
>美神さん、強い女性ですよね
ええ、強いけど素直じゃないんです(笑)
いや、強くあろうとするために素直じゃないのか・・・
・白さん
あうっ・・・
なんとかオリジナリティのある話が書けるようにがんばります (BB)
- ・九尾さん
>横島の襟元をつかむシーンが、美神が結晶を抜き取られた時のエミさんに似てると感じました。シャキっとしろ、と
横島のためはもちろん、おキヌちゃんへの思いも同じだけ込められていますので(^^)
「なにかあったらこんなもんじゃ(以下略)」という意味でも(嘘
・X-5さん
ありがとうございます(^^)
ホントはベスパとの絡みが中心で美神さんは行き掛けの駄賃だったのですが(笑)
・veldさん
>イメージがぱーっ、と浮かんできたんです。やっぱりあかね空で
「ベスパが横島が結婚すると知ったときどうするんだろう?」って考えたとき
最初に具体的なイメージが浮かんできたのがそこでした
夕日と朝日で対にしたかったんでしょうか・・・(こら) (BB)
- 気持ちは分かるが、そんな時にまで飛ぶ程殴らなくとも・・・いや、そんな時「だから」なのか。ともあれ、「幸せにしてあげなさい」と言い、続けて「幸せになりなさい」と迫った美神さん。ああ、今までずっとこうして彼らを見守って来たんだなあと感慨させられる場面でした。
続けて、「姉の伝言を持って来る」形で横島に告げるべスパ、その場面でも彼女の気持ちが表れている様です。
冒頭の夢に出ていたのは聞きたい人からの聞きたい言葉――二人ともそんな彼の事を理解していたのでしょう。そんな風に思えるお話でした。 (フル・サークル)
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