ザ・グレート・展開予測ショー

本年度高等学校文化祭記録


投稿者名:HF28号
投稿日時:(04/10/17)





 今年もまたこの時期がやってきた。

 高校生活に咲き誇る一輪の華、日常を忘れさせてくれる清涼剤、努力と友情、そして金!(そこかっ)






 ―――本年度高等学校文化祭記録―――







 『――――と、いうことで今年のスローガンは

『18禁と女の祭典!めくるくめく未来に乾杯♪』

『ゴーゴーヘブン、地獄は天国だふははははっ!!』

『きれい事じゃないの★バトルロワイヤル・ザ・グレート』

『いっせい退治じゃ!どんとこい超常現象っ』

・・・と、今までにも増して碌でもない物をアンケートに書く生徒が増える異常事態になっています。

 そこで、今回に限り生徒界法(?!)第21条3項を、前文の『しかるべき対処においては・・・』を拡大解釈し、今この事態を『しかるべき』と判断、よって、その対処を生徒会が一任することになりました』

 生徒界法とは、全国の高等学校生徒会が属する亜空間組織『生徒界』でのみ効力を発揮する法律で高校生になった瞬間全ての生徒に適応されるものだ!違反すると日本上空の監視衛生から更生念波が送られ、清く正しい青春ライフに軌道修正されるというなんとも恐るべき法であるっ!!



・・・・



 なわきゃない。

 単に、かつての教職員が『学則』という言い方に面白みが無い!と言い張りいつしかこう言って使う伝統が生まれただけだったり。

 『そんなわけで、生徒会で独自にスローガンを再考した結果『羽ばたけ青春!真剣勝負の文化祭』に決定いたしました!』

 おお〜っ!!生徒会室に小さなどよめきが起こった。









 (って言ってもなあ〜、スローガンはスローガンやし)


 文化祭当日、特に羽ばたく事無くといって真剣勝負になるはずも無くいたって普通にというかかなり大盛況な横島忠夫属するクラスの出し物。去年は、1年生の定番、喫茶店だった。美神除霊事務所でバイトを始めてそんなに経たない時期だったが、妖怪変化に好かれる体質が災いしどーいうわけか、妖怪喫茶に早変わりしていた。第六感をくすぐる、ありえない演出に隣りでお化け屋敷を開催していたB組にどやされたっけ。

 もしおキヌちゃんともっと早く出会えていれば、その辺にふよふよ浮いて幽霊喫茶だったかもな・・・

 目玉親父より良いよ、色んな意味で(涙)


 ああ、青い記憶だ、ふっ。


 「はい、おつりの200円」

 去年抱いた負の感情を空の彼方に飛ばすと、陶然とした表情の女性客につり銭を渡した。今年は調理室利用権争奪戦(単なるくじ引き)に負け、手の込んだ飲食店が出来ず、単に駄菓子屋と化している。食品衛生をこまごま言う学校側にげんなりするが、もし偶々来ていた外部の客が食中毒になったら目も当てられないからこその予防策らしい。


 しかし、だからこそ確実に売上ねば金にならんのだ!!


 唯でさえ高コストな仕入れ値を割ればクラス全員が費用を負担しないといけない。そんなこと、貧乏一直線なこの俺が許すわけない。


 そして一計を案じた。


 そう、ほんのちょ――――っと仕掛け付きの模擬店をしているのだ。お陰で盛況盛況、また盛況。



 が


 (なんっか、面白くないのは何故だ!?)

 横島は机の下で(商品を並べる台は授業用の机を繋げて布を被せて作ったから)人知れず拳を作っていた。そこへ、元凶がやって来る。

 どっからどう見ても『ソレ』は横島忠夫だ。

 「よー銀ちゃん、はやってんな〜」

 「貴様、その姿でそれを言うかっ!!」

 「取り替えよう、と言ったのはそっちが先だっただろ?」

 ケラケラ笑う横島忠夫。

 横島忠夫をなじる近畿剛一。

 ああ、霊能力無駄遣い。

 別に体を入れ替えたわけじゃない。文珠の『偽』を両者飲み込むことでエクトプラズムスーツと同等の効果を作り出したに過ぎないちょっとした茶番劇である。


 この日の前日、偶々の偶然その日と翌日がオフだった銀一は、明日、横島の学校が文化祭だとこれまた偶然に知った。でもって、冷やかしに出かけてやるか、と美神除霊事務所の番号は知っていたので勤務時間中だが連絡を入れたら横島の奴が『おしっ!』と電話の向こうで気張る声がして。

 事務所に顔を出せ!と強制されたんで、渋々出向くと・・・

 『姿を入れ替えりゃもっと楽しめるで!』

 『な、頼むっ』

 と言いくるめられた。演技力もあるしアイドルになってからはっちゃけた事が出来ない鬱憤が堪っていたから銀一にとっても願っても無いことで。

 即OK

 今に至るわけだ。

 ちなみに、文珠は模擬店開店後こそっと抜け出した横島が学校裏で待ち構えていた銀一と服装を変えてから作用させた。ちなみにちなみに、銀一の服装は聞きつけたクラス関係者の意向で何故か踊るゴーストスイーパー風に神通棍携帯(本物)を義務付けられ―美神からリース料を取られてずに(すげっ)借りて来た代物―ていた。中身が横島であるのに、だ。つくづく美形に弱い世の中じゃ。


 「おーおー女にモテて羨ましいねえ」

 「皮肉か、皮肉だな横っち」

 「被害妄想じゃないのかい?銀ちゃん」


 そんなわけで、この駄菓子屋では何故か横島が余裕たっぷり喋る不思議な光景が繰り広げられていたり。といっても、横島本人が言う可能性があるセリフだから、変、だけどありうる感じに味付けしている。

 しかし、この物の怪呼び込み体質男が居るこの場所で何も起きないわけが無い。


 「!」


 剛一(以後、横島を剛一と示す)は、ショルダーから神通棍を引き抜くと念を送り教室の隅から漂う嫌な気配にチャキリと構え、横島(以後、銀一を横島と示す)に目配せする。
 大丈夫だろうが、もしものことが起きないとも限らない。プロの眼をした剛一に気圧されるように、横島は客をドアの外へ押し出すとその前を手で遮って立つ。


 「脅かして悪いな。けど、そのままそこに居たら危ないよ」

 そこに居たのは迷いこんだどこぞの浮遊霊だった。悪霊に、なりかかっているのが判る。


 『・・・さん、・・・りでシ・・の・・・』


 ブツブツ呟いたそいつは、ぐわっと襲い掛かって来た。

 「くっ」

 重い。慣れない道具は使い難いく、加減も何も判らず困る。

 しかし、周囲の目は『GS横山』の神通棍さばきを見たがっているのが伝わって。

 「んのヤローッ」

 シパアンッ!念の出力に負けて神通棍が鞭になっていた。美神を凌駕する霊能力保持者は伊達じゃないようだ。

 そのまま、鞭で押さえ込むと切り裂くのが得策でもなんとなく直感で文珠を取り出し浄化。

 しゃらしゃら、光に送られた悪霊なりそこないは、ふあっといつの間にか現れた誰か女性に抱きしめられ天に消えた。

 うむ、浄化で正解だった。これで今度こそ転生できるだろう。


 ほっとして振り返ると、任務完了!と親指を立てる。安堵の空気が場に流れ、ドアをふさいだ横島も詰めていた息を吐き出す。


 「今、なんか居なかった!?」

 そこへバタバタ駆け込んできたのはタイガーの誘いで来ていた一文字さん。人間以上の感覚を持つピートの方が素早く来そうなものだが、今だ校門周辺で女性のおしくらまんじゅうに阻まれ霧化さえも出来ず、タイガーは人出と巨体のせいでやはり廊下を動けなかったようだ。

 「って、横島いたんだ。なーんだ、来る意味ねーじゃん」

 「ねーじゃんってオイ」

 剛一が思わず言うと

 「あんたじゃない!そこの野郎、だ?」

 横島を指して言った魔理だが、妙な違和感に横島をじーっと見つめ。剛一を見つめる。

 「あはははははははははは」

 「はっはっはっはっは」

 剛一と見つめあいカラカラに乾いたフリーズドライな笑い声をあげる魔理。つられて剛一も空疎に笑う。
 横島は、何かがバレておどおどしたいつもの動きが忠実に再現されている。さすが、幼馴染みにしてプロの役者だ!

 魔理は横島の肩にポンッと手をおき

 「断っても良いんだよ、あんたに罪は無いから」

 意味深なセリフを残すと、抜き身の剣のごときギラッとした視線を剛一に送り颯爽と立ち去って行った。大方、合流し直したタイガーに話してやるつもりだろう。妙なことすんなと忠告しとけ、と。


 「っふい〜・・・さすがだな」

 さすが、GSの名門、六道女学院に1発合格出来ただけのことがある。霊的違和感を当然のように見抜いてくれた。

 思わず額の汗を拭う仕草をすると、念が消えグリップだけになっていた神通棍をショルダーへ戻す。この専用ショルダーポケットも美神からの借り物。なんでも、注文を間違えてメンズ用を買ってしまったが返品するのも面倒だからと、倉庫にほっぽりだしていたらしい。つくずく金遣いの荒い女だ。

 横島は知らない。実は美神が横島用に発注していたことに。たまたま霊波刀が出来たからいいようなものだが、横島が霊能に目覚めた時点で道具に頼る場合、どうしても必携だからと買い込んでいたことに。

 知らぬは罪だぞ、横島よ。

 あ、今は剛一か。


 「今の何?」

 横島がインネンつける兄ちゃんの如く剛一の肩を片腕で抱え込みヒソヒソ聞く。

 「ああ、あれね。いくら文珠が『万能』やら『便利』やら言われてても、完全に霊気やなんかを変化させられるわけじゃないからやっぱどこかに違和感というかズレというか、不自然なとこが出来ちまうんさ。さっきの娘は、六女(ろくじょ)の1年生で、けっこー才能あるから見抜けて当然ってとこだな」

 「へえ」

 六女、六道女学院・・・ドラマの関係で名前と存在は知っていたが、そこに通う人物をリアルな世界で見たのはこれが始めてかもしれない。仕事柄、役に合わせた取材や研究を怠ったことは無いが、実際逢うのと文章から想像するのにはやはり隔たりがある。

 もっと、こう、おしとやかな娘や高慢ちきで能力を鼻にかけた奴らばかりが居るのかと、一方的に思っていた節があって。

 「以外だな・・・」

 「まーなー。けど、ぎn・・いや、横っちの想像するような連中も結構いるぞ」

 以心伝心、幼馴染みの考えを見抜くとすかさず回答する。どうでもいいが、また『美形ってやっぱり・・・』とか『禁断の愛・・・』とか奥の方で聞えてすんごく、そりゃもうすんごく嫌だ。離れてくれ、頼む、そんな噂は要らんから!

 願いが通じたのか、ほどなくして銀ちゃんが離れてくれた。ああ、助かった。



 そこへ

 「なんだ、あんたが始末してくれちゃったわけね」

 美神参上。

 「あれ?もしかしてココって横島さんの高校ですか?」

 おキヌ見参。


 「ということは、なんですか?もしかしなくて、美神さんが仕留め損ねて、どうしたわけかこの学校に入り込んだヤローをオレが成仏させた、というわけですか・・・」

 「ラッキーね。お札も使わなかったから丸儲けよ♪サンキュー」

 周囲に実害も出ていないし、美神的にはなんら問題なしだ。ただ、

 「ただ、ちょっと気になったんだけど、あんたどうやって始末をつけた?」

 「へ?ああ、なんか変だなあって思ったんで浄化させましたが??」

 女の人が寄り添ったように見えたんスけど。

 「そ、なら良いわ。さっきの男ね、恋人とドライブ中に急カーブを曲がり損ねて死んだんだけど、女の方ががけ下に落ちて、男の方は搬送先の病院で2人共未練たらたら死んだんでだけど、恋人同士惹かれ合っちゃってね。悪霊になる前に片方を成仏させようとしても、片割れが邪魔してその繰り返しでドンドン出力あがっちゃって凄いことになってたのよ。もし、力で捻じ伏せたらもっとぶつかってぶつかって取り返しのつかないとこまで行ってたんじゃない?文珠で浄化させたんならもう平気ね、あー儲けたわー」

 その話に横島はゾクッとし、剛一は

 「んなもん、なんでココに連れ込んじゃうんですかーっ!もし何かあったら堪んないッスよ」

 「だーから、何も無かったじゃない。プロは何事も無く終わらせてその他民衆を安心させるもんなの」

 「そうですね、ともかく無事に済んでよかったです」

 ほやほや微笑むおキヌちゃん。

 「あんたの霊力が高かったから、それに惹かれるのも判るしどうせ片付けるのに変わりは無いじゃない」

 「そういう問題ですか!!」

 吠える剛一なだめるおキヌ。おキヌはこそっと、剛一姿の同僚に耳打ちする。

 「あのね、横島さん、あの悪霊さんを浄化し損ねたあとここへ向かったと知ったときの美神さんは」


 『大丈夫よ、おキヌちゃん!こっちにはツテがあるし、それにあれ如きにやれるバカじゃないわ』


 「ってすごく心配して・・・」

 ここに来るまで何のことか良くわからなかったんですが、と付加えると。

 「おキヌちゃ〜ん・・・」

 ずごごごごごごごごごごっ・・・業火の如き瘴気が美神の背景に渦巻く。

 「えへ、えへへへへ」

 「おほほほほほほっ」

 女の戦いは恐ろしい。安心させたはずの民衆が別の意味で恐怖に引き攣っていた。






 嵐のような2人が風のようにそこを立ち去ると、なにがどういうわけかわからん!と頭を傾げた生徒がワラワラ残った。

 だが、目の覚めるような美形が素晴らしく上等な霊術で超有名GSが退治出来なかった悪霊を蹴散らした事実だけはなんとなく理解してくれていたらしい。なぜか大きな拍手がその場に広がった。

 「いや、そんな照れますって。これも仕事のうちですし・・・」

 やんややんやの喝采の中でどうしたものかと立ち尽くす剛一を横島は。

 
 (ホンマ、かなへんわ・・・)

 ちょっぴりロンリー気分で見、窓の外に目をそらした。そこには


 「ってああああああっ!横っち!!」


 振り返れば、そこには学ラン姿のちょっと新鮮な感じな近畿剛一。

 「あー、そーかーさっき念を全開にしたから、俺の分を使い切って、そんでもって発動中だった銀ちゃんの文珠がこれまた俺の念に負けて体内で『護』に変化しちゃったんだな。きっとそれで知らぬ間にあそこに結界が張られたわけか・・・新しい発見だ」

 喝采を受けていたハズなのに、元に戻れば、ああ大変。


 「なによブサイク!」

 「騙したわねっ酷いっ」

 「きゃーきゃー本物、本物〜っ!!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにあった。



 「「さらばっ」」


 2人は飛んだ。ここは3階『浮』の文珠でそこそこゆっくり地上に降り立つと神業的速さで校舎裏に逃げ込み、マジックの如き早着替えで衣装を交換すると、その間に連絡をつけたマネージャーがこれまた素晴らしすぎる速さで銀一を迎えに来た。その車を片目で確認すると2人は停止し、ガッチリ握手を交わす。


 「またな銀ちゃん」

 「またな、横っち」


 「早くッ追ってが来ます!!」

 後からドドドドドドドドドドドッと横島と銀一を追う足音が聞える。なんて奴らだ。

 ふっと、とおっっっっっくを見た銀一は塀の上に足を掛け、小さくウィンク。


 バタバタバタ。


 忍者の如き乙女がその場に倒れた。

 さすが、アイドル、というか何故あの距離でたったあれだけの行動を識別できるのだ。ヒャクメじゃあるまいに・・・


 「じゃあな!」


 最後にこんな声が道から聞えて、車のエンジン音だけが遠くへ遠くへ消えていった。







 『えーと、2−Cの収支はマイナス、と♪』

 今年のスローガン『羽ばたけ青春!真剣勝負の文化祭』が上手いこと達成されて、気分がいい。

 神通棍と文珠で霊を成仏させたあれも一種の真剣勝負だし、なにより、最後の最後で生徒とお客さんが一応ながら空を飛んだ。

 『ああ、なんて達成感があるの!これだから生徒会は辞めれないわっ』

 手を組み、うっとりキラキラ。

 そう、今年のスローガンを採択した(制作したとも言われる)生徒会役員は、青春大好きの机妖怪愛子。

 普通は文化祭実行委員会がやるだろ!とか何故妖怪が?という一切の疑問が通じない高校、それがここ。

 『この調子で、どんどん青春を満喫してやるわっ!』

 壮大な野望を胸に秘め、愛子は黙々と文化祭の収支報告書を作成してゆく。


 ああ、青春。








 「あーかーじー・・・」

 しくしくしく・・・

 お前が悪い!と非難の一斉砲火を浴びた貧乏少年が翌日の教室で(翌日は片付け、その次に振り替えだから)どんより落ち込んでいた。この裏切り者めがっ!とか大阪商人の末裔じゃないのか!とか、さんざっぱら言われたのが痛かったデス、ハイ。

 ああ、相変わらずのやられキャラ。

 これもまた青春。








 その頃美神は


 「ったく、扱いが荒いったらありゃしないわ。これじゃ、直ぐにぶっこわれて赤字じゃないの」

 弟子のあまりに強すぎる出力のせいで、美神自ら神通棍に施した微調整がガタガタ。精霊石の出力をいじり、ヴィンッと伸ばすとまた縮めリミッターをいじる。再び伸ばすと、今度こそなんとかなったようで、ふうっと息をついた。

 「今はいいかもしれないけれど、無計画に出力を上げつづけりゃ何れ体が持たなくなるのに・・・」

 霊力放射部(伸びるとこ)を専用のクリーナーで磨く。

 ≪なんだかだ言って、横島さんを大切にしていますね、美神オーナー≫

 「・・・なっ!?何、言うのよ!!」

 人工幽霊の一言に思わず布を落とす。

 「い、いい!さっきの私のセリフは聞かなかったことにするのよ!わかったわね!!」

 ≪了承いたしました≫

 なんとなく、人工幽霊一号が笑ったように聞えたのは幻聴か。





 ま、ともかく

 こうして、本年度文化祭が幕を閉じたのであった。

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