ザ・グレート・展開予測ショー

GS美神 EP2 No,5 絆と人と心と・・・


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/10/17)

力強い足取りで雑踏を駆け抜ける少女が、アスファルトを削り粉塵を巻き上げながら急に止まってしまった。


「・・・・・・・そういえば拙者、『妙神山』の場所を知らんでござる・・・・・」



友人に見送られ、師匠の後を追って行こうと決心した時には、自分が「妙神山」について何も知らない事は、
少しも頭に浮かばなかった。

彼女が知り合いと呼べる人物で妙神山の場所を知っていそうなのは、横島を筆頭に令子とおキヌ、
それに美智恵とその部下の西条だけだった。

横島がその妙神山にいる以上、横島には聞く事は不可能。令子とおキヌに尋ねてもたぶん教えてはくれないだろう。
元々、二人には黙って出てきたのだ。いまから事務所に引き返すなどという事は、シロにとっては絶対に出来ない事だった。

(美神殿のお母上なら・・・拙者が一人で行けば絶対に怪しまれるでござる・・・
 西条殿なら?イヤイヤ、あの御仁は美神殿とお母上にはからっきしでござるから内緒話なんて無理そうでござるし・・・)

慣れない考え事と空腹が相まってなかなか結論が出ない。

他に妙神山を知っていそうな人物を思い浮かべようとしても

(そういえば、事務所で食べたおやつのビーフジャーキーは美味しかったでござる・・・)

(牛丼の復活はまだでござるかな・・・・?)

(胡麻と山椒のチキン!!・・・美味しそうでござる・・・)

と、思考が脇に逸れてしまう。

頬を伝う涎と、辺りに響く腹の虫のおかげで、シロはたいそう目立ってしまっていた。

そんな彼女に声を掛ける人物がいた。


「道の真ん中で涎垂らして・・・てめぇは犬か?」


彼女に『犬』と言うのは禁句である。
すぐさま、殺気のこもった目で睨みつけようと後を振り向く。

「拙者は犬ではござらん!狼でござ・・・居ない!?拙者の後ろを取るばかりではなく、その姿を見せぬとは・・・!」

声の主が見当たらない事に驚くシロ。

だが、彼女の直ぐ近くから怒りに震える声が『下』から聞こえてきた。


「テメー・・・そりゃイヤミか?」


シロがゆっくりと下を向くと、先ほどの自分と同じように殺気のこもった目で睨みつけられた。

「・・・・・・・あ、いや、雪之丞殿、決してワザとという訳では・・・」

「まぁいい・・・一人で何やってるんだ?」

彼の見たところ、シロは悩み事をしていたようだ。彼女らしくないと感じた雪之丞がシロにたずねる。
先日の除霊の一件もあって彼女のことを少しばかり心配していたのだ。

シロはというと、以前横島の口から、雪之丞が修行仲間であることを聞いたことがあるのを思い出し、目を輝かせていた。

「拙者、妙神山へ行きたいのでござるが、雪之丞殿は妙神山の場所を知ってるでござるか?」

「ん?ああ・・・知ってるぜ・・・なんだ、何かあんのか?」

シロは雪之丞の答えに顔を綻ばせるものの、

「・・・まぁ詳しい事は何処かに入ってゆっくり話すからよ・・・」

食べ放題を謳っている焼肉屋を指差しながら、雪之丞は言った。
雪之丞はシロ頬を伝う滝のような涎が気になって仕方がなかったのだ。







「俺はなにをやってるんだ?」

そう呟いた横島の視線の先には、見渡す限りの砂があった。

砂、砂、砂。

右を向こうが左を向こうが、後を振り返ろうが砂しか目に入らなかった。

見渡す限りの乾いた大地に一人で手ごろな岩に腰掛けて、小竜姫に渡された『モノ』を手にしていた。


「本当にこんな事でなんとかなるのかぁ?」


己の手の中にある物は、一本の釣竿だった。


砂の海に向って釣り糸を垂らす自分が酷く滑稽に思える。

そんな人物が居たら「熱はないか?」と尋ねるか、極力見てみぬ振りをするだろう。

「まぁ仮にも神様の言ったことだし・・・」

独り言と共に、竿を振る。もう何度目になるのか解らない。
愚痴を言ったところでどうにかなる問題でも無いが、有り余る不平をこぼさずにはいられなかった。


しかし、不用意に洩らした言葉はしっかりと彼女の耳に届いていた。

「そうですか・・・横島さんは私の言う事なんて信用できないとおっしゃるのですか・・・」

盆に乗せた急須の蓋がカチャカチャと音を立てている。

何も無い所に浮かび上がったガラス戸をくぐり、彼に食事を持ってきた彼女は、
こみ上げてくる怒りを抑えるのに必死だった。

「あ・・・小竜姫さま・・・」

突然の出現に慌てる横島だった。
そして、普段使ってない頭をフルに活用して、必死で言い訳を考える。

「えーとそれはその・・・・ホラ!小竜姫さまって神様にしておくのが惜しいくらい可愛いじゃぁないですか」

よく考えれば何の言い訳にもなっていない事は明白だが、今の横島はそこまで頭が回らない。

「つまりぃ・・・神様としての威厳も感じられない胸の小さな女の言う事は聞けないと♪」

盆を持つ手に力が込められる。ピシ、ピシと細かいをとが聞こえてくる。たぶん彼女のもつ盆に亀裂が走ったに違いない。
そして、笑顔だが目はは笑っていない・・・そういう表情で横島の言い訳に答える。

「・・・んなっ!?誰もそんな事まではいってないでしょーがっ!!」

「あら?私の胸を指して『小隆起』と言ったのではないんですか?
 それに、その反応だと私の胸のを小さいと思ってるんですね?」

「どーしてそうやって曲解するんですかっ!?
 それに『ちち』の大きさなんて女の人が気にするほど男は気にしないモンなんですよっ!!」

「横島さんがそう言っても全っっっっっっ然!!説得力有りませんよ!!」

売り言葉に買い言葉ではないが、お互いの言葉に触発されて言い合いに発展してしまう。


しばらくの間、広い砂漠の真ん中で罵りあうが、
両方の息が荒くなってくるにつれて、この言い争いが不毛なものだと理解してくる。

「ハァ・・・ハァ・・・こんな口論をしていても・・・フゥ・・・何の解決にもなりませんね・・・」

「ゼー・・・・ゼー・・・そうっすね・・・折角の食事も冷めちまって・・・」

小一時間程問い詰めあった二人は、冷め切った食事をお茶で胃の奥に流し込む。
料理が美味しいと自然と話題が弾むものだが、先ほどまで全力で口論していた事も手伝って、実に静かな食事風景となっていた。

「小竜姫様・・・この修行はいったいどんな意味があるんですか?
 砂漠で砂の中に向って釣り糸を垂らして・・・俺はなにをすればいいんですか?」

最後のオニギリを手に取った横島は、お茶を継ぎ足してくれている小竜姫に向って、
今の修行についての疑問をぶつけてみる事にした。

修行を言いつけられた時は、砂の中に何かいるのではないかと考えて真剣に竿の変化に気を配らせていた。
また、渡された釣具がなにか特別な物ではないかとも考え、いろいろと釣り以外の事に使用してみようとした。

だが、砂のなかに釣具で捕まえられそうな生物は見当たらず、釣竿も何の変哲の無い、普通の釣竿だったのだ。

すでにぬるくなった湯で入れられたお茶を注ぎ終わると、小竜姫は自分の湯のみに口を付けてから一息つくと、

「釣竿を使ってする事といえば一つしかありませんよね?それを行っていればいいのです」

と、キッパリと答える。

余りにもあっさり答えられて、横島は逆に焦ってしまう。

「いやそんな・・・こんな砂漠で・・・何も釣れないんですよ?それって何の意味があるんですか?」

「別に何かを釣り上げる必要はありません。ただ竿を振って、糸を垂らしていればいいのです。
 そして、この修行の意味ですが・・・これは、自分で気がついてもらわないといけない事なので、私の口から言えません」

そう言うと、小竜姫の顔が厳しく引き締まる。妙神山の管理人としての顔がそこにはあった。

「あまり難しく考えないで、ゆっくり考えてください。時間はたっぷりとありますから」

最後に少しだけ表情を綻ばせ、手際よく後片付けを済ませると、ぽっかりと浮かぶガラス戸をくぐって砂漠から出て行ってしまう。

「そうは言ってもなぁ・・・」

小竜姫を見送った横島はまだ納得しきっていなかった。
いくらこの砂漠のある異空間と現実の空間で時間の流れ方が違い、異空間の方が早く時がすぎると解っていても、
ここでロスした時間は、確実に現実世界にも影響を及ぼす。

事務所も長い事留守にはできないし、学校にいたっては無断欠席にもなりかねない。

「・・・釣れないって解ってる釣りも退屈だし・・・
 ハァ・・・『元に戻れるならどんな辛い事もする』って言ったけど・・・これは予想外だったなぁ・・・」

愚痴が多くなるのも仕方なの無い事だった。










テーブルの上には皿が塔を作り上げていた。
そのテーブルを見た客は、どんな人物がこの偉業を成し遂げているのか一様に興味をそそられて、
白亜の塔の奥の光景を見ようと目を凝らす。

そうして、この偉業がたった二人で成し遂げられたということに驚くのだった。


「あ〜・・・そろそろ妙神山について話たいんだが・・・オマエ、聞いてるか?」

釣り目の黒ずくめの男が尋ねると、赤いメッシュのワンポイントの栄える銀髪の少女が応える。

「はいじょーぶでごあるよ、ふひのぉーどお(大丈夫でござるよ、雪之丞殿)」

口いっぱいに肉を頬張ったままなので、何を言ってるのか全く解らない。

が、

「そうか、なら聞け。あそこは口で説明するのは難しい。
 俺もちょっと用事があったから案内がてらに一緒に行ってやるよ」

男はまったく気にせず話しをする。
 
少女は肉の焼け具合を匂いで確かめ、箸を持つ手と咀嚼する口を休めずに、男の話に耳を傾けている。

「ほんほーでごあるか?・・・ははひへない(本当でござるか?・・・かたじけない)」

相変わらず食べるのを辞めない少女。

男の方も食べながら話しているが、流石に咀嚼しながら喋るということはしなかった。
だが、少女に負けていない速さで肉を胃袋へと収めていく。



そんな二人は注目の的だった。

お客達からは好奇と尊敬、畏怖の混じった視線を。
店側からは恐怖におののく視線を・・・・。



他人の視線に頓着しない二人が店を後にしたのは、しばらくたってから店の責任者が頭を下げに来てからだった。



「よし、それじゃいくか・・・迷子になるなよ!」

咥えていた楊枝を吐き捨て、帽子を目深にかぶり直す。

「いつでもいいでござるよ!」

気合も体力も十分なシロは、すでに足踏みを始めている。


「まずは西へ行ってだな「西でござるな!」・・・・・・・・テメェが先に行ってどーするよ・・・」
雪之丞の言葉に反応して、全速力で駆け出すシロ。

まさか走り出すと思わなかった雪之丞が、あっけに取られてしばらく固まってしまったのは当然の事かもしれない。


しばらくして土煙が引き返してきた。

そして、

「雪之丞殿・・・道案内が後からくるとはどういうことでござるか?
 まさか、拙者をからかってる訳では・・・」

彼女のあまりな天然っぷりに、怒る気も失せたのか、雪之丞は静かに答える。

「俺をオマエの師匠と一緒にするな、俺は人間だぞ?
 解ったらおれの後について『歩いて』こい・・・いいな?」

シロはこの言葉に不服そうな声をあげる。早く横島に会いたいという思いで一杯なのだ。

だが膨れっ面をするシロを苦笑交じりの表情で眺めた後、雪之丞は黙って歩きはじめる。
シロはまだ納得行かない様子だったが、迷子になるのはもっと嫌だったので、雪之丞の隣を黙って歩く事にした。



雪之丞は、そんな様子を見て、先ほど妙神山に向う理由を尋ねたときの彼女の様子を思い出す。

(随分と切羽詰ったような顔してやがったな・・・横島に何かあったのは間違いなさそうだな)

声に出さずそういうと、あの事件を自然と思い返す。

(そいうや、あの時もこの嬢ちゃんがいたっけか・・・)

数少ない友人の、いや、親友とも呼べる存在に降りかかった『異常事態』
あの時は深く考えるのを止めてしまったが、何故ああなったのかずっと心の奥で引っかかっていた。


それはライバルの不調だっから心に残ったのかもしれない。


事件以来ずっとそう思っていた。
だが、彼女の口から聞いた「霊力と霊基構造が変化しつつある」「今までの霊力とは違う霊力が見つかったらしい」
という事は彼に一つの大きな事件を思い起こさせた。


彼も体験したあの事件で、横島は心に深い傷を負った。ともすれば、ずっと背負う事になるかもしれないような傷だ。

雪之丞は横島の気持ちがよく理解できた。

なぜなら彼もまた同じ傷を抱えていた時期があったからだ・・・・・・・


(こればっかりはテメェで決着つけるしかねぇぜ、横島・・・
 だがよ・・・先輩として何か力になってやれるかもしれねぇんなら、俺は手をかすぜ!)


かつて、最愛の人を失ったがゆえに歪んだ心を持ってしまった雪之丞は、
横島を通じて己の弱さを克服するきっかけを見つける事が出来た。

今度は自分がそうするべく、彼は力強い足取りで進むのだった。

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