ザ・グレート・展開予測ショー

持つべきものは……


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(04/10/16)

  


「………アカン!もー、今回ばかりはカンベンできんっ!!」
「そ、そんなぁ〜……。『ちょっと』飛ばしただけでござるのにぃ………」

 事務所から、そんな声が聞こえる。

「ほぉぉ……なら、後ろの俺のコトはすっかり忘れていたと?」
「…い、いやっ、それはそのっ、でござるっ」

 問題の日のサンポは、特に酷かった。

 シロのスピードに耐えかねた自転車が、部品レベルで完全に分解したのだが、
 シロが嬉しさの余りそれに気付かなかったのだ。

 しかも、横島がナワを自分の手に巻きつけていたのが不運だった。
 結局、数十キロの距離を文字通り「引き摺られた」のである。
 流石の横島ですら、三日間の入院を余儀なくされた。

「とにかくだっ!人の身の危険も省みれんよーな奴を、金輪際サンポには連れていけんっ!!」
「……う…うっ……せんせぇの、せんせぇのばか〜〜〜〜っ!!」

 泣きながら、屋根裏部屋に駆けて行くシロ。


(……言い過ぎたか?いや、いつもこうだからイカンのだ。たまにはガツンと言っといた方が……)

(…慰めてあげたいけど、今度のはちょっとなぁ……)
 いつもならおキヌが慰める所だが、少しは懲りて貰わないとまた同じ事が繰り返される。

「あ〜あ。後で、ちゃんと慰めときなさいよ?」
「……珍しいっスね。美神さんがそんなコト気にするなんて」
「……どーゆう意味よ。第一、シロが使い物にならなかったら稼ぎが減るでしょうが」

「「あぁ、ナルホド」」

「なんかムカツクわね、アンタ達……」





   〜屋根裏部屋〜

「何?アンタ、またやっちゃったの?」
「………だって、だってだって……あの時はすっごく気持ち良かったんでござるっ…!」

 枕を抱きながらぐすぐす言っているシロを、タマモが冷やかしている。

「……このままだと、もうサンポに行けないかもね?」
「………うわ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!!そんなのイヤでござる〜〜〜〜!!!」

(うわ、やかましい……ちょっとからかいすぎたか……)
「………ねぇ、シロ。仲直り、させてあげよっか?」
「……タマモ!それはまことでござるかっ!?」

「ま、仲直りって言うより………」
「言うより?」


「自分が謝るより、傅かせなさいっ!!それが女ってモンよ!!」
 ざっぱーん。(効果音)
「ををっ!!」

 もう、シロは藁ならぬタマモにでも縋りたい心境だった。
「いい?例えばまずは二人きりになって、それで………(ごにょごにょ)」
「ええっ!?いや、でも、せんせぇとそんな………(ぽっ)」

「それぐらいやらないと仲直り、もとい男はオチないわよ………」
「うっ……。でも、どぉやって二人きりになるでござる?」

「ま、私に任せなさい。たまにはバカ犬の為に人肌脱いであげるのもイイしね」
「……犬じゃないもんっ……」

(……意外と落ち込んでるわね……ま、明日はアイツも休みだし……今夜の内に仕込んどくか)


   〜同日の夜、横島宅〜


   コンコンッ


「……んあ、誰だ?」

 横島は、仕事帰りの休息を満喫中であった。
 カップ麺を胃に流し込み、TVを観て笑い転げる。

「は〜い、どちら様で……」

 言葉は、そこで止まった。
 玄関先には、夜の闇に浮き立つ亜麻色の髪。

「……みみみ美神さんっっ!?な、なんでどーして……」
「えぇ、ちょっと用事があってね」

「こんな時間にわざわざ俺の部屋に……美神さはぁ―――んっ!!
 遂に俺への愛を自覚してくれたんスね―――っ!!」

 言うが速いか、飛びついてその場に押し倒す。

………アレ?

(……え?いつもなら、「バキッ」とか「グベシッ」とか……)
「ちょ、ちょっと横島クンっ!?さっさとどきなさいっ!!」
「え、あ……ハイ」

(何か、変だよな………)
「全く……明日、急に仕事が出来たの。それを伝えに来ただけよ」
「明日は休みのハズじゃ……それに、電話の方が早いじゃないスか」

「いやっ、それはそのっ……とにかく、明日この時間にこの場所よ。分かった?」
 あの美神さんが、わざわざ紙に書いてまで教えてくれる。
 すっっっっっごく怪しい。






「………あっ、油揚げ」
「どこっっっ!?」




……………。

 横島、ニヤリ。
 美神、汗タラリ。

「………絶対来るのよっっ!!」
「はいはい、分かりましたよ〜」
 捨てゼリフを残して走り去った「彼女」を見送って、玄関のドアを閉める。

(ま、騙されてみんのも悪くないか)

 取り敢えず、行ってみるコトにした。





   〜翌日の早朝、公園〜

「さ〜て……何が出るんだ……?」

 辺りを見回す。
 指定された場所はこの辺り。

「…鬼が出るか、蛇が出…どわぁっ!?」めしゃっ。
「……いたた……はっ、先生っ!ゴメンナサイでござるっ!!」

 狼が出た。

 真空飛び膝蹴り、後頭部にくりーんひっと。
 倒れた横島の背中の上に、ちょこん、と座り込んで居るシロ。


「……ナゼお前が茂みの中から飛び出して来るっっっ!?」
「え……いやその………」


「ふかこーりょく、でござるっ♪」

 少し、時間を巻き戻してみよう。

   〜茂みの中〜

「さ〜て、来た来た♪」
「……少々、質問があるのでござるが」
「許可します」

「ナゼ、わざわざ近くの茂みで待ち受けるのでござるか……?」

「……女には、ミステリアスさが大事」
「いや、怪しいだけでござろう」

………シロがツッコんだ!?(無礼なっ!!)

「心配しなくても、私の計画は完璧よ。シロ、準備は良い?」
「……準備とか以前に……このカッコ、恥ずかしいでござる……」
「……どーやら、まだ男心がよく分かってないようね……アレを思い出しなさいっ!!」


 それは、昨夜の出来事。

『よくわかる タマモちゃんの のーさつてくにっく そのいち(かみしばいばーぢょん)』

「………はひ………!?」
「ふぅ。中々の力作ね……」

「いや……こんなモノ、いつ作ったでござる?」
「………内緒♪」

(……独りでコレ作ってたんでござるか……?)
 でも、シロちゃんはそれを尋ねちゃイケナイ気がしました。

「はい、タマモちゃん劇場のはじまりはじまり〜〜〜!」
「ぱちぱちぱち〜〜〜、でござる………」

『遅いなぁ、シロの奴………』
『せんせぇ〜〜〜〜!!ゴメンナサイでござる〜〜〜〜っ!!』
『全く、お前って奴は……おおぅっ!?』

 シロ(バカ犬)は、いつもと違う服でオシャレに決めていたのでした。
 横島の目は、もー釘付けです。

『シロ……俺の為に、そんな……』
『てへっ♪オシャレに時間がかかっちゃった、でござるっ♪』
『シロ………!(がしっ)』
『せんせぇ………っ!(ひしっ)』
………てな訳よ」
「イヤ、てな訳と言われても」


余談ではあるが―――。
当然、紙芝居なのでタマモが全てのセリフを独りで、声色を変えつつ読んでいる。
それを独り見つめるシロ。
この日の屋根裏は、中々にイタイ風景であった。

   閑話休題。

「とにかくっっ!男は『新鮮さ』に弱いのよっっ!!」
「な……なるほどっ!!」

 がらがらぴっしゃーん。(しつこく効果音)

「……理に適っているでござる……やはり、前世の記憶と云うのは侮れぬでござるな」
「へ?そんなの思い出してる訳ないぢゃない」
「では、この情報はドコから?」
「雑誌(きっぱし)」

……………。







「あ〜〜〜、アレのことでござるか………」
「そうよ、それに登場は勢いが大事。アイツが死んでも未練が残るぐらいを意識して逝きなさいっ!!」

「………いや、ダメでござろう」
「………些細なことよ」

 爽やか笑顔、タマモ。
 冷や汗苦笑、シロ。

「取り敢えずさっさと逝って来いっ!!」げしっ。
「うわ、拙者を蹴るな……「どわぁっ!?」

………と。

 うん、確かに「ふかこーりょく」です。
  
 でわ、続きを。



「……その割にはやけに正確に膝が決まったと思うんだが……まぁ、良い。兎に角、どけ」

 下敷きになったまま、というのも気分が悪い。

「………え………あっ!?」

 やっと解放されて、立ち上がる。
(タマモの奴……こーゆう、コトかよ)

 叱ってやる、つもりだった。

(ったく………ん?)

 いつもと、違った。
 シロが着ていたのは、その名を表す白のワンピース。
 銀糸の髪が、その色に溶け込むようで。

(………!!! ヤバイ、新鮮だっっ!? いや、でも俺にそんなシュミは――――!?)

「あのぉ………せんせぇ?」
「ハイッ!?何でせうかっ!?」

 狼狽ってコワイ。
『タマモちゃんのてくにっくそのいち』、大当たりである。


「取り敢えずそこのベンチに……座りましょ、でござる」
「お、おう………」

 その時、茂みの中では。
(チッ………気絶したらしたで、色々と面白くなったものをっ!!)




………あの〜〜、タマモさん。笑顔が怖いデスヨ?





 兎にも角にも、ベンチに二人してちょこん、と座ってみる。
 小さめのベンチの、二人の距離感がもどかしい。

(こ、この後は『そのに』でござったな………)

   〜再び、昨夜の屋根裏〜
「タマモちゃんのかみしばいげきじょー そのに、はじまりはじまりいっ!!」
「……わーわーパチパチ〜〜、でござる……」

ハイ、読んでる方々。
「イタイ」とかツッコまないであげてくださいお願いです………



 小さめのベンチに腰掛ける二人。
 すぐ隣に、あの人が居る。手を伸ばせば、触れられる。
『………先生………』
 横島の膝に、掌を置くシロ。
『シロ………?』
 見つめあう二人。
 どちらからともなく、二人の唇が近づいて―――
「きゃ―――っ!!きゃ―――っでござる―――!!」

「―――ふっ、完璧ね……ドラマを観て研究した甲斐があったわ」


………ゴメンナサイ、やっぱイタイかも。寧ろ、作者が。



(よ〜し……まずは掌を……っ!!)

 羽のように真白なシロの掌が、横島の膝に、ふわり。

「シロ………?」

「せんせぇ………」

 見つめあう二人。燃え上がる雰囲気っ!!

―――ん?燃え―――

「うあっぢいいいぃぃぃっ!?」
「せ、せんせぇっ!?」

「……な…ナゼ炎がっっ!?」
「……え、え〜と……」

 このベンチの後ろには、やっぱり茂みがあったりして。
「う〜ん……特殊効果って、難しいっ♪」




  アナタですか。






(あぁ……来なきゃ良かった……折角の休日が……)
 泣くしかない横島ではあったが。

「あの……せんせぇ?」
「……何だよ。今度のでもう最後だからな」









「ボート……一緒に乗ってください」



 恥じらいながら「ござる」無しでお願いデスカ、シロ様。
 ヤヴァイです、神様。
 僕はこの線を踏み越えて良いものでしょうか?


――横島の中で、本能と理性の決闘が開始された――

「………やはり、ダメ「行きます乗ります漕ぎますともっ!」

……当然というかなんというか。本能、理性を秒殺。

 無論、弟子を泣かせたくない師匠の気持ちもあったのだろうが。


 まぁ、取り敢えず。
 二人はボートで湖上に出たのだった。

 ギィコ、ギィコ―――
 向かい合って漕いでいる横島を見つめて、幸せを感じる。
 でも。

(こ、ここで『そのさん』でござるか………)

   〜三度、昨夜の屋根裏〜

「ここからが重要よ……『おとなのでぇと』の締めくくりだからね」
「はいっ、タマモ先生っ!!」
 何時の間にやら、先生。






「………なんか、一緒に寝れば良いらしいのよね、この雑誌によれば」
「いつもやってるでござるよ?狼の姿で」

「そうよね……きっと、気持ち良い場所で二人でお昼寝することに意義が有るのよっ!!(握拳)」
「そういえば、せんせぇはこの姿の時は絶対一緒に寝てくれないでござるっ………!」

「決まりね。人間形態のまま、二人で気持ちよくお昼寝すれば良いのよ!!(ずびしぃ)」
「らぢゃー、でござるっ!!(敬礼)」


……………。

 気にしないでクダサイ、色々と。





 そこでシロが考えたのが、ボートの上。
 気持ち良いし、何より二人っきりである。
 ただ、シロは悩んでいた。どうすれば先生と一緒にお昼寝出来るのか。

(かといって、「せんせぇ♪一緒に寝よ♪」などと言っても失敗するでござる……ならばっ!!)

「ん?どーした、シロ?」
「先生………御免!!」

 シロは、横島の襟首掴んで思いっきり引っ張った。
 実力行使である。

「え!?ちょ…ちょと待………」
























………え゛。










 横島は、確かに湖面が起き上がってくるのを見た。
 いや、そう「見えた」。

















【巴投げ】
柔道の技。自分の体をあおむけに倒し、足裏を相手の下腹にあて、相手の体にかけていた両手を
下に引きながらまげていた足をまっすぐに伸ばして、相手を投げる捨て身の技。

注:決してボートの上でやるモノではありません。




「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
 しかも、人狼の力によって掛けられた技である。
 当然、かなりの距離をスッ飛んで「落ちた」。

「ああっ!?せんせぇっ!?」
 急いでオールを引っ掴むと、波紋の中心に向かって漕ぎ出す。


「せ、せんせぇ〜〜……生きてるでござるか〜〜……」

―――ザバッ!!

―――海坊主!?  いや、間違いなく違うんですが。

「ウワウッ!?」
「…なぁ、シロ。知ってるか?水ってな、高い所から落ちるとコンクリ並の硬さになるんだぞ」
「…あははは、横島せんせぇが丈夫で良かったでござる……」
「……そう云う問題か?」

「え〜〜〜〜と………」

 ジト目で睨む横島。


「………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいでござるっ!!」

 下を向いた顔から、涙が落ちる。

「……拙者、せんせぇに許して欲しかったんでござるっ……だって、だってせんせぇっ……」


―――拙者のコト、キライに―――


    くしゃ。

「……………?」


「……バカ。最初から、そんなに怒ってねぇよ」
「えっ?」

 ぐずる子供を、あやすように。
 大きな掌は、真っ赤な前髪を撫でた。

「怒ってない。怒ってはないんだけどな………ただ」
「ただ?」





「ヘアピンを全速力で曲がるのは勘弁してくれるか?」
「はいっ」
「オフロードは出来るだけ避けてもらえるか?」
「はいっ」

「もう少しだけ、俺のコト、気にしててくれるか?」
「らぢゃ、でござるっ!!」


――いつも、気にしてるでござるよ――

 しょげていたシッポが、踊り始める。



「よしっ。それとだな……お前にこんな入れ知恵したのは、タマモか?」
「……タマモでござる」

「……もう、絶対アイツにきつねうどん奢ってやらねぇ」
「あの……出来れば、タマモも許してやって……」

――ギロリ。

「ギャウッ!?」

「……ま、いいか。ただ、これからアイツの言葉鵜呑みにするのは禁止」
「……は、はいでござる……」



「じゃ、仲直りの記念だ。服着替えたら、サンポ行くか」
「まことでござるかっ!?」


――今度は、『一緒に』走ろうな――


 そう言った後、照れた顔が可愛かった。



 湖岸には、双眼鏡を持った少女。
「………結果オーライって、大事よね。うん」

 悪女の素質、充分。


 そして、翌日―――

「お前には学習能力とゆーモノが備わっとらんのかっ!?」
「だってっ、せんせぇからサンポに誘ってくれるなんて嬉しくて嬉しくて……」
「そんなヤツをまたサンポに連れてけるか―――ッ!!」
「そ、そんなぁ………」







―――最初に戻る(マテ)


 

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