ザ・グレート・展開予測ショー

とらぶら〜ず・くろっしんぐ(13)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(04/10/13)




「で、じゃ…
 おぬし、わしとゆかぬか?」

 紫穂をひたと見据えた言葉に、すぐに反応したのは彼女ではなかった。





 とらぶら〜ず・くろっしんぐ   ──その13──





「な…
 あんたロリコンだったのか〜〜!?」

 奇声を上げた横島に、老妖は思わず退いた。 いかな『さとり』とは言え、思考と全く同時に行動されれば不意も突かれる。 ましてやソレが、考えもしない範疇の、であっては。

 紫穂とタマモも、いきなり崩れた雰囲気に つんのめっている。

「い、いや…」

「こんな小さな娘にプロポーズっすか〜?!
 うわぁ〜っ、サイッテ〜〜!!」

「そう言う意味で言っとるんではないわぁっ!」
「がはっ」

 反射的に一撃食らわせて、すぐに我に返る。

「あ… いかん。
 わざわざ敵対する気なぞ、無かったものを…」

「それはそれとして、どう言うつもりよ?」

 身体を二つ折りにして、呻き声を上げている横島の事など知らぬ気に、タマモは老妖へと尋ねる。

「いや、今のは、つい…」

「違うわよ。
 シホになんであんな事言ったのかを聞いてんのよ」

 心配など欠け片も見られぬ様子に、却って戸惑った。 思わぬ横島の発言に思考を乱され、読む事さえしていなかっただけに。
 それに彼女の背後では、紫穂が横島に縋り付く様に心配し介抱していて、その差異で更に何を考えているのか判らなくさせられている。

「ヨコシマなら、いつもの事だし問題ないわ」
「ちょっとは心配せんかっ」

 がばっと起き上がる彼へちらっと視線を遣ると、肩を竦めてすぐに向き直る。

「ま、そう言う事だから。
 で?」

「えっ? あぁ…
 人の世がどの様に移り変わろうとも、さとりを持つモノが安息を得られる事は有るまい。 ただ霊力が強い、破壊の術が使えるなどと言う直接的なチカラも、それはそれで疎まれよう。
 じゃが、石持て追われるのは、わしらの様なさとりの系譜よ」

 再び纏われる、諦め混じりの倦怠の気。

 横島のすぐ脇で、紫穂がぴくりと身を震わせた。

「所詮は人と相容れぬ身。 その娘も、行く先は茨の道だろう。
 同族なればこそ憐れみも慈しみも感じるのは、さほどに自然ならざる事じゃろうかの?」

 紫穂にとって、目を逸らしたい耳に痛い言葉だが、同時に惹かれる甘さのある言葉でもあった。
 自らの親にすら疎まれ、しかもそれを知りたくなくとも知らされてきたのだ。 どこかへ行ってしまいたい。 それは一度ならず思った事。

「私は…」
「ああ、不自然だな。 っつうか、何様だよ、あんた」

 開き掛けた彼女の口を、遮る様な横島の声。
 老妖のこめかみが、一瞬、動いた。

「大体だなぁ、うらぶれ落ちぶれて諦めちまったあんたと、まだまだこれから未来の待ってる紫穂ちゃんだぞ。
 もし相手の事を憐む立場に立つんだとしたら、それはあんたの方じゃなく、この娘の方に決まってるじゃねぇか」

 タマモと紫穂が、彼の顔を覗き込む様に見詰める。

「それに、人と相容れぬもクソも、そもそもこの娘は人だぞ。
 それも10年後の楽しみな、とびきり可愛らしい女の子だ。 人として幸せになれねぇ筈、無いだろうがよ。 エスパーだろうが妖怪だろうが、んなちっちゃな事なんざ、関係有るかっつうんだよ」

 臆面もなく、横島はそう言いきった。

「…まぁ、ヨコシマだし」

 呆れた様な言葉は、しかし暖かな苦笑に彩られている。
 彼の言葉にほっとして……いや、喜んでいる自分に、入れ込み過ぎかなとも思わないでもないが、タマモはそれで良いと自身に納得していた。

「…」

 紫穂はもっと率直に嬉しくて、何も言葉に出来ずに、ただ横島の脇腹にこつんと頭を乗せる様に抱き付いた。

 ただ居るだけで、普通の人を怯えさせてしまう。 そんな自分達が幸せになれるだなんて、本気で言ってくれた人は……たといソレがどんな理由であろうとも……今まで誰一人して居なかった。
 水元にしても桐壷にしても、幸せになるべきだと思ってくれている。 だが同時に、それが難しい事だとも考えていた。 …だからこそ尚更に、彼女達の為にと動いてくれているのだが。

 横島は自分が何を言ったのか、紫穂がどれだけ嬉しかったかを、まるで理解していない。
 自身の発言を、当然の事だと思っているから。 あの繋がった一時を、記憶と思いが……過去と現在が混濁したソレを経て猶、その上で。

 彼は天然だった。

「くっくっくっ…」

「あん?」

 いきなり笑い出した小柄な老体に、拗ねた様な不貞腐れた視線を横島は向けた。

「わしの人としての生涯も、『高々その程度の事』扱いか… くっくっ…
 ほんに言うてくれるわな」

 おかしくて仕方ないとばかりに、だが一層の自嘲を帯びて笑い続ける。

「なるほどな、野にお前の様な者がおるならば、その娘はわしと違う道を歩くやも知れぬ。
 いやさ、世界とは思わぬ様に出来ているものよ」

 認めるしかない。
 さとりがさとりであるが故に必ず他人に厭われる、と言うのが、自身の思い込みに過ぎないのかも知れないと言う事を。
 そして、ほんの少しだけ嘆いた。
 自身が受け入れられるかもしれない時代(とき)に、生まれて来れなかった事を。

「娘…」

「…はい?」

 いきなり声を掛けられて、横島の影で身構えつつ紫穂は首を傾げた。

「少なくともおぬしに関しては、流され者の要らぬ節介であったな。 許せよ」

「つまり、もう誘う気は無いってコト?」

 タマモが念の為とばかりに尋ねる。

「無論。
 居場所の有る者を、そこから引き離してまでとは、わしとて思わぬよ。 世界から疎まれて居るだろうと思えばこそ。
 じゃが、その娘は、そうではあるまい」

 口の端で自嘲の笑みを零すと、そう言って僅かの間に更に小さくなった様にみえる身体を振り返らせた。

「あんたはこれからどうすんだ?」

「わしは疾うに世界へ足を向けた。
 これ以上、ここにおる理由は無いな。 わし自身が在るべきだと思う処へ行くだけじゃ」

 背中越しに答えて、マヨヒガと呼んだソコへと老妖は足を進める。

「そう。 そこがあなたに向いてるといいわね」

 足を踏み入れ掛けて、タマモの言葉に振り向いた。

「おぬしらも、重畳にな。
 そうじゃ… わしが入りきれば、これはここより閉じ、消える。 さすれば、この結界を支えている力の流れも閉ざされるじゃろう。 おぬしらならば、その後に封を削るも容易かろうて。
 では、な」

「あんたも達者でな」
「その… さようなら」

 別れを交わすと、老妖はソレの中へと消えて行った。
 それからほんの数秒ほどか。 その球体の穴は、目に見えて黒く小さくなって行く。
 やがて、それも点になって消えた。

「なんつうか…」

「ちょっと遣る瀬ないわね」

 横島の言いたい事を読み取って、タマモがそう返す。
 この一件は、最初の誘拐騒ぎはまだしも、その後は善意で構成されていたのだ。 揚げ句、やった事と言えば、その手を払っただけ。
 自分が間違った事を言ったとは思わないが、横島にしても後味は悪い。

「何だか、減ってきてますね」

 沈んだ空気に話題を変えようと、紫穂がそう切り出す。

「そう言えば、そうね」

 浮遊霊達を呼び寄せていたのも、アレだったのか。 3人の周囲を埋め尽くしていた彼等は、どんどん数を減らしていた。

「あいつが言ってた通りなら、何とか出来る筈だし、そろそろ外に向かうか?」

「そうね」
「はい」

 横に立つタマモと、変わらず抱き付いたままの紫穂が頷く。
 二人と共に、横島が出口へと足を向けた、その時だ。 何かが壊れる様な異音がしたのは。

「なんだ!?」

 紫穂を後ろに回し、身構える。 タマモも、彼女を庇える位置について、耳を澄ませた。
 その破壊音は、どんどん近付いて来る。

 と…

「先生〜〜〜っっっ!!!」

 横島にぶち当たる様に飛び込んで来る白い影。
 床に荷物を引き摺った様な一直線の跡を付け、彼の体は反対側の壁に突き刺さって止まった。

「…バカ犬…」

 タマモの声に、苦い物が混じる。
 それがシロの行動に対してなのか、3人で居る今の状況が壊されたからなのかは定かでないが。

「ええ加減にせんかぁ、コラぁ〜っ!」

「きゃうん?!
 うぅ、ひどいでござる…」

 弾かれて、シロが拗ねて床にしゃがむと、『の』の字を書き始める。 そんな所まで師事しなくてもと、端で見たら思う様なポーズで。

 その正面で、横島は壁から抜け出そうと苦労していた。
 苦笑してタマモと紫穂は、手伝おうと彼の腕をとって引く。

「ったく、シロは…」

 壁の土が崩れて、解放されると同時に、横島は前へとつんのめった。 …手を引いていた二人を捲き込む様に。

「っとと。 大丈夫か?」

「あ〜っ!?」

 状況に気付いて、シロが叫ぶ。
 ちょうど横島が二人を抱きすくめて 押し倒してる様にも見えるのだ。 彼女の反応は当然だろう。

 対して、抱えられているタマモと紫穂は、そう満更でもない表情をしている。

 と、いきなり横島の背中に冷たいモノが走った。
 自身の危機感知能力に従って、警戒する様に周囲を見回す。 

 居た。

 入り口に仁王立ちで立つ、短い丈のワンピースの美女。 …醸し出す雰囲気は、どちらかと言うと『鬼女』だったが。
 その脇には、巫女姿の少女も見える。

「横島クン?」

「は、はひっ」

 声に含まれる暖かくない響きに、タマモ達を抱きしめたまま身構えた。

「取り敢えず、揃って無事だったみたいね」

 一歩々々近付いて来る度に、彼の中の何かが警鐘を鳴らす。
 だが、逃げ場など有りはしない。

 予定調和は目の前だった。





 【続く】



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……ぽすとすくりぷつ……

 結局の所、皆本の「…なんにでもなれるんだ…」の一連のセリフに、どうすべかと悩んでた訳です。
 当所予定では、横島のセリフは、ソレにもっと近いカタチだったので(^^;
 …つまり、もう1回を含め計14話・16ヶ月ほど掛ったコレは、短期連載第1話とほぼ同じテーマだったって事か(苦笑)
 まったくもって、んなコトならも少し早く書き終われってなもんですね(爆)

 後はえぴろーぐを残すのみ。
 書き上がってないんで、また少し間隔開きますけど(^^;

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