ザ・グレート・展開予測ショー

百貨店パーティー番外編 乱破+蜘蛛巣姫


投稿者名:ヴァージニア
投稿日時:(04/10/10)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

     ※原作を未読の方はご注意ください。
      アッパーズ20号の短編、『蜘蛛巣姫』のネタバレ要素を含みます。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


今は現代、ここは喫茶店“蜘蛛之巣”―――

はあ〜〜〜
「 あ〜あ、いい男ってなっかなかいないねえ‥‥! 」

女性週間誌を片手にグチをもらすこの女性は、この店の主人(マスター)、ヤツメ。


「 ‥‥だから待ちかまえてるだけじゃあきませんって‥‥自分から捕まえにいかな! 」

隣にいる布を頭に巻いた女性は、ヤツメの下僕、シジミ。


「 ん〜でも私は自分から捕まえにいく“種類”じゃないからねえ〜 」
「 そりゃそやけど、捕えた男が女付きやったら、また逃がしてしまうことになるでー 」
ピク‥
「 2 度 と その話はするなって言わなかったかい!? 」
「 ああっ すんまへんすんまへん姉さん!! 」

怖い顔して迫るヤツメに、シジミは反射的に謝った。
かつてヤツメが、一度だけ本気で恋したときのこと‥‥
ここ数十年、その件に関して触れてこなかったせいか、禁句になっていたことをシジミは忘れていた。

「 ったく、こうして毎日喫茶店開いてるっていうのにさー 」

こんなふうに、ヤツメがいつものグチを言っていると‥‥



「 待ってるだけでは 殿方はつかまらないですわ 」



ヤツメは、スパゲティを食し終わり、口もとをハンカチで拭いている女性客を見た。

「 男を捕えるには、女といえど自ら行動するべきですわ 」
「 なんだとっ!? 」
「 面妖な気配を感じてきてみましたが、これがなかなか‥‥ 」
「 誰だいあんた!? 」

微笑みながらその女性、コーヒーをひと口飲むと、


「 乱破の氷雅‥‥料理も美味しいしなかなかいい店ですわね、雰囲気も気に入りましたわ 」


「 姉さんこの人‥‥! 」
「 ああ、私らの正体に気づいている‥‥乱破‥‥そうか、忍者がまだいたとはね‥‥ 」

2人とも長い時を生きてきただけあり、“力”はほとんどセーブできるようになっていたのだが‥‥

「 別に今は、あなたたちにどうこうするつもりはありませんわ
  気にかかったのは、恋に対してあなたのその受身的な発言ですわ 」

「 受身だあ〜? これは私の性分なんだよ! 」
( “今は”って、いつかなんかするんやろか‥‥? )

ヤツメとは別の心配をするシジミだが‥‥

「 じゃあなんだ!? あんたはどうだってんだ、好きな男はいるってのかい? 」
「 いますわ。 わたくしならたとえ女がいようと、好きなものは自分の力で手に入れますわ 」
「 で、それで上手くいったのかい? 」
「 ええ、あとひと押しの所ですわ‥‥あっ‥‥ 」

氷雅は窓の外に視線をやった。
ヤツメも見ると、そこには店の前を走っていく少年の姿があった。

「 ‥‥この方向でいくと夏子さんのご自宅、香山さんの喫茶店ですわね 」
「 まさか今のが‥‥ 」
「 そうですわ 」

ヤツメの目には、その少年の顔立ちが、どうにもありふれた顔に映り、

「 見る目がないのかおまえ? 」
「 人は心、外見だけで判断されては困りますわ‥‥あなた、容姿だけで判断する方なのですか? 」
「 なにぃっ!? そ、そんなわけ‥‥! 」

氷雅は立ち上がり、シジミの所に行き会計をすませると、

「 これから彼を落としにかかりますわ、それでは‥‥ 」
「 ありがとーございまいたー 」

シジミは店を出ていく氷雅に一礼した。 するとヤツメは、

「 シジミ、確かあの女“香山さんの喫茶店”って言ってたわよね? 」
「 ええ、たぶん2丁目の“喫茶香山”でしょうなー 」
「 先回りしてあの女の恋がどうなるのか調査してきなさい 」
「 えっ!? 」
「 あんたなら先回りして、こっそり客に成りすましてはっとくことができるだろ! 」
「 ‥‥姉さん蝶使い荒いでホンマに‥‥ 」

ブツブツ言いながらエプロンを脱ぎ、店を出て行くシジミ。
店内にはヤツメだけが残った。

「 ‥‥‥‥追いかけて男をとらえられるのでしたら、苦労はしないわよ‥‥ 」

手をあごに当ててため息をもらしていると、背広を着た男性の客がひとり入ってきた。

「 いらっしゃいませー‥‥!? 」

ヤツメは、その男をひと目見ただけで瞬時に感じとった。
魂の色を感じたと言うべきか‥‥
その男が、自分の本当の姿を見て『 美しい 』と言ってくれた唯一の男だということ、
そして心の底から愛しながら、先約の恋敵相手の想いを感じ、自ら身を引いた男だということを‥‥

( 八郎太どの‥‥!? )

シジミに氷雅の調査に向かわせたのも、彼女が自分とは逆の考え方で恋に生きてることを感じたから、
巣を張り待っているだけが本当に正しいことなのか、知りたかったから‥‥

「 い いらっしゃいませ、ご注文は――― 」
「 カルボナーラとコーヒーひとつ、お願いします 」
「 か かしこまりました! 」

窓際の席についた男に、幾分緊張しながらオーダーを受けるヤツメ。
注文を受けたあとも、しばらくその場に立って、じっと彼の顔を見ていた。

「 ‥‥ 」
「 ‥‥ 」
「 ‥‥あのー なにか? 」
「 あ いえ すぐにご用意させていただきますわ! 」

慌ててカウンターへ戻るヤツメ。

( やっぱり八郎太どのの生まれかわりだわ‥‥でも彼は普通の人間‥‥前世の記憶はすべて失っている‥‥ )

男はどこからかかかってきた携帯電話を取り、誰かと話している。

( しかしこれもなにかの縁、アミにかかった獲物をみすみす逃す私ではなくてよ )

彼女は本能的に獲物を狙うかのように、やっつの目をキラリと光らせていた‥‥



カチャ‥
「 ‥‥お待たせしました 」
「 ああ 」

彼の前に料理を置いたあと、ヤツメが話しかけようとしたそのとき、入口のドアが開く音がした。
話しかけるタイミングを失ったヤツメは、心の中で軽く舌打ちをして、少し不機嫌そうにお客をむかえるが、

「 いらっしゃいま‥‥ぃっ!? 」

入ってきた女子高生を見て、声が止まった。
長い黒髪で賢そうなその女性の魂には、なにか感じる部分があったのだ。

「 八郎! 」
「 早かったな蜜姫(みつき)! 」

蜜姫(みつき)と呼ばれたその女性は、うれしそうに八郎のもとへかけより、テーブルの向かい側の席へついた。

「 ええ、ちょうど学校の部活が終わったところなの
  八郎ったらこうでもしないと、仕事仕事で全然ウチに寄ってくれないんだもん 」
「 悪かったってば、ホントに最近忙しくて‥‥! 」
「 じゃあ今夜ウチに泊まってくれる? 」
「 ああ 明日まで休みとれたから、今日はこのまま蜜姫といっしょにいられるよ 」
「 ホント! うれしいっ!! 」

テーブルをはさんで反対側に座る八郎に、身を乗りだして抱きつく蜜姫。
そんな2人のやりとりを、ヤツメは口をパクパクさせており、動揺を隠せずにいた。

( この女の魂は間違いない、八郎太の女・蜜姫(みつひめ)のもの!
  しかもなんだこいつは! 現世までも八郎太どのと縁があるなんて‥‥! )

コーヒーを運んできたおぼんを胸に抱え、ワナワナと震える店員を見た蜜姫は、


「 あ おばさん、チョコパフェひとつお願いしまーす! 」
プチッ
((( あんだってこのアマ〜〜〜毒でも入れたろか〜〜〜!!!!! )))


―――と、心の中でキレるヤツメだったが、やっと出会えた八郎に悪い印象を与えたくないと考え、

「 かしこまりました〜 」

と、ていねいに頭を下げ、かつての(今でも)恋敵にもお客としての対応を見せた。
長年の喫茶店経営による対応能力が、効果を発揮しているのかもしれない‥‥



‥‥その後、八郎と蜜姫は小1時間ほどの間、普通に食事をしながら会話を楽しんでいた。
ヤツメはカウンターで、雑務をしながら2人の様子をうかがうことしかできない。
時折聞こえる彼らの笑い声が、ヤツメの胸を苦しめていた‥‥

( なんでここに来たんだよ‥‥巣にかかってもこれじゃ‥‥ )

再び火がついた恋心、かすかな期待がもろくも崩れ去った瞬間だった‥‥



‥‥そして2人は席を立ち、八郎が会計をすませる最後のチャンス―――

「 1260円になります 」

八郎は千円札を2枚渡す。

「 おつり740円になります  ありがとうございましたー 」

おつりを渡した瞬間わずかに手が触れたが、よくあることとして、お互い気にしないそぶりを見せた。
そして2人は店を出ていき、ヤツメは最後までお客として八郎に対応する。
窓ガラスの向こうでは、蜜姫が腕を組もうとして 八郎がテレてる様子がうかがえた。

「 ‥‥ 」

ヤツメは目をそらし、レジの前で少しの間立ちすくんでいた‥‥




しばらくして‥‥‥‥

「 準備中? おかしいなーこの時間はまだ店やってるはずなんやけど‥‥姉さんおらへんのかなー? 」

シジミが店の入り口のドアにかかっていた札を見て、疑問に思いながらドアを開けると‥‥

「 ただいまー‥‥おわっ!!?? 」

店の真ん中に、直径2メートル近い、糸でできていた繭状のものが置かれていた。
シジミの声に反応して、繭の中からゆったりとヤツメが顔を出してきた。

「 おかえり〜シジミ〜 」
「 な なんやねんその陰気臭い暗さは!?  」
「 もういいんだ〜 あたしなんて‥‥もう男を好きにならねえ‥‥ 」
「 ね 姉さんいったいなにがあったん!? 」

再び繭の中にもぐりこもうとするヤツメだったが、シジミに頼んだ調査のことを思いだすと、

「 そうだ、あの女どうなった? 成功したのか? 」
「 それが――― 」




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




夕方  十数メートルある煙突の上  そこには沈む夕日を眺めている、氷雅と妖岩の姿があった。


「 ‥‥‥‥ 」
「 ‥‥‥‥ 」
「 ‥‥‥‥ 」
「 ‥‥なにか用? 」

氷雅は後ろを振り向かないまま、背後に立っているヤツメに声をかけた。

「 聞いたわ、フラれたんだってね 」
「 あんなのは暇つぶしにすぎませんわ 」
「 うそ、私には充分本気に見えたけど 」
「 ‥‥ 」

ヤツメはしゃがみこみ、氷雅の横に座った。

「 私もさっき失恋したんだ、同じ男に2度も‥‥ね 」
「 アタックはしたの? 」

ヤツメは首を横に振り、

「 また女付きだったわ、結局なにも言うことができなかった‥‥ 」
「 ‥‥ 」
「 待ってるだけでもダメ、自分から捕まえにいくのもダメ‥‥
  どうしたらいい男を捕まえることができるんだろうねえ‥‥ 」

すると氷雅は、クスッと笑い、

「 ふふ‥‥ 」
「 な なに笑ってるんだよ! 」
「 いえ‥‥あなたなかなか、イイですわ 」
「 ‥‥どーいう意味よ 」
「 どうやらあなたと、恋愛について徹底的に語りあったほうがいいかもしれませんわね 」
「 ‥‥私は物の怪だぞ 」
「 けっこう、もののけでも妖怪でもあなた‥‥女でしょ? 」

ヤツメも氷雅の発言に、クスッと笑うと、

ふふっ‥
「 あんたとは気が会いそうだわ、ねえ、これから飲みに行かない? 」
うふふ‥
「 よろしくてよ、今宵は楽しい夜になりそうですわ 」



現代で生まれた、妖怪と忍者の奇妙な友情―――

妖岩は、ある意味最凶コンビの誕生に、不安を隠せなかったりもしたのだが‥‥‥‥




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



時は少し遡り、店を出た直後の八郎と蜜姫の会話―――

「 旨かったなーあの店の料理、また行ってみようか? 」
「 ふ〜〜〜ん 」
「 なんだその意味ありげな返事は? 」
「 ‥‥八郎、気づいてた? 」
「 なにを? 」
「 あの店員、あなたのことずっと見てたわよ、もしかして気があるんじゃない? 」
「 ば ばか言え、そんなことあるわけないだろ! 」

首をさすりながら思いっきり動揺する八郎。

「 あのひと美人だし、八郎のおもいっきり好みのタイプだし‥‥ 」
「 人の好みを勝手に決めるな! ‥‥ったく、“兄”をからかうんじゃないよ‥‥ 」
「 怒った? ごめんなさいお兄さま! 」
「 きゅ 急にヘンな呼び方するんじゃない! いつもは名前で読んでるくせに‥‥ 」

八郎は照れながらまた首をさすっていた。 それを見た蜜姫は、

「 ねえ? さっきからなんで首をさすってるの? どこか痛むの? 」
「 いや、首がうずくんだよ‥‥なにかで繋ぎとめられている感じがして‥‥ 」


八郎は足を止めて振り返り、遠くに見える喫茶店を見た。
心の中でなにか引っかかりつつも、そのなにかがどうしてもわからずにいた。



( ‥‥‥‥また‥‥行ってみよう、あの喫茶店に‥‥ )



今は現代

物の怪が人に本気で愛され、人に変われるときがくる日も、そう遠くないのかもしれない‥‥


 

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa