ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第13話


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/10/ 9)




〜appendix.12 『霊波攻撃絶対無効』 

 

「!!」

蛇を思わせる黒い槍。黒い衝撃。
鞭のようにしなる、『それ』の接近を許した瞬間・・・メドーサの視界で光が弾ける。

轟音。
木造のカウンターや床を、次々に撃砕させて・・・彼女の体が、数メートルほど宙を爆ぜる。                           
粉々にされた木片が、砂塵となって音も無く部屋に舞い落ちて・・

「フム・・?」
肩をすくめて目を細めた後、男が壁に寄りかかった。おそらくは店内全体が射程圏であろう、伸縮自在の左腕。
文字通り、『生きた凶器』となった指先を見つめ、彼は小さく笑みを浮かべる。

「まさか・・今ので死ぬようなタマってわけでもないだろう?早く起き上がってこい。」

喜色に彩られた表情から読み取れるのは・・暗い影。背筋に薄ら寒いものを感じながら、魔鈴は男の腕に掴みかかった。

「ま・・待って下さい!今ので、勝負はついたはずでしょう!?これ以上・・一体何を・・!」

震えた声音。前方を塞いではいるものの、顔面を蒼白にする魔鈴を凝視し・・・

「・・・・・。」
男は、無言のまま右腕を彼女の前に突き出した。

「!!」
「まったく・・・本当に育ちが良いんですね、魔鈴さんは・・。よくそれで西条のような男のそばに居られる・・」

・・瞬間。

歪曲した掌から、紫色の閃光がほとばしる。刃のように研ぎ澄まされた光弾が、瞬時に魔鈴の頬をかすめ、後方へ・・・
・・メドーサが埋まっているはずの瓦礫の山へと吸い込まれ・・・

「・・っ!?」

怯える彼女の反応を楽しむかのように、男は間を置かず、光弾を放ち続ける。

マシンガンの斉射にも似た、高速の衝撃波が・・それぞれ、魔鈴の腕を、肩を、足元を・・・触れるか触れないかの、ギリギリの一線で通り過ぎ・・・
・・後方で起こる巨大な爆発。炎上する部屋の中央で、魔鈴は言葉を失い・・へなへなと、力無くその場に座り込んだ。

「・・・・・。」
「・・恐怖で声も出ない、といったところかな?」

小馬鹿にしたように笑いながら、男は彼女を見下ろして・・。パチパチと弾ける火炎の粉が、眼前に陽炎を作り出す。

「好意を寄せるのは個人の勝手だと思うがね・・。それにしても、西条だけは止めておいた方がいい。
 仮面を被ってごまかしちゃいるが・・アイツは、本質的には俺と同種の人間だ。」

吹き抜ける風が男の髪を揺らしてゆく。覆い隠された顔の半面から覗く、刃によって斬り潰された隻眼の瞳。
気圧され、息を飲む魔鈴へと・・男は静かにそう言って・・・・


「・・ちが・・う・・」

「?」


不意に・・かすれた弱々しい声が、男の笑いを押し止める。それはしかし・・強い感情が込められた、意思の光の宿る声音で・・

「・・違います・・!西条先輩は・・あなたなんかとは、全然違う・・!」
「・・・・・。」

深い沈黙が訪れた。わずかに驚いた表情を見せながら、男はしげしげと魔鈴を眺め・・・・・

「やれやれ・・・・」
感心とも呆れともつかない表情で、ただ一度だけため息をつく。

「恋は盲目・・・とはよく言ったものだ・・。」
「・・っ!!」

吐き捨てるようにつぶやく彼は・・異形の腕を、無慈悲に下方へと振り下ろす。
・・・だがそれは・・喰らう者がこの場において隙を見せた、ほぼ唯一といっていい瞬間だった。

「・・無駄話が多すぎるよ!イーター!!!」

「!」

ガラガラと響く瓦礫の崩音。目にも止まらない・・・凄まじい速度を帯びた跳躍。
超加速による突進で、メドーサが瞬時にイーターとの距離をつめる。
投げつけられた刺叉が、男の黒い刃を叩き落とし・・間髪入れず、鋭い手刀が空を薙いだ。

「・・さすが、好判断・・と言いたいところだが・・詰めが甘いな。」
「なっ!?」

致命打を確信した・・・その刹那。
しかし男は肩を竦めて・・一撃を、身を捻ることでかわしてしまう。そしてそのまま・・彼は、メドーサの手首をいとも容易く掴み上げた。

「・・いけない子だ・・。大人しくアシュタロスの犬でもしていれば、俺に出会うこともなかったろうに・・。主君を間違えたな、メドーサ。」

ギシギシときしむ骨の悲鳴。揶揄するような男の言葉。殺気をたたえた紫色の瞳に、それでもメドーサは唇を歪め・・・

「・・・フン。そういう台詞は・・足元をしっかり固めてから吐いた方がいいんじゃないか?」
「何?」

怪訝そうに、疑問符を飛ばす男の耳を・・不意に、小さな音が通り過ぎた。気が付き振り向いた時には・・もう遅い・・!

「・・・っ・・えぇいっ・・!」

宙を揺らぐ実験フラスコ。得体の知れない、緑色の液体を蓄えた容器が・・魔鈴の手を離れ、男の後背に命中する。
ガラス片が四方に飛び散り・・・大気に触れた内容物が・・・・

「くっ・・!」
眩い輝きを放ち、辺りを黄金色に染め上げた。

「・・ナイス!・・ったく・・大人しそうな顔して、いい性格してるよっ!!」

視界を奪われ、後退しようとする男の腕を、メドーサは反射的に振り払う。そして・・・彼女の掌に集中していく、強力な霊気。

「・・くらいなっ!!!」

予備動作抜きの体勢から、蒼白の霊波砲が火を噴いた。
防御するヒマすら与えられず、微動だにすることすらできないまま・・彼は光の中に飲み込まれ・・・・
そして・・・―――――――――――


――――――――・・・。


「・・・・はぁ。」

煙の立ち上る壁面が、戦闘の終わりを告げていた。
腰が抜けたのか、魔鈴が再び崩れ落ち・・・。人心地つくと、嫌でもメチャクチャにされた店内の様相が目に入る。
修理費に頭を抱えつつ、彼女は、同じように隣で息を切らす・・メドーサに軽く視線を送って・・

「やっぱり・・魔族の方も疲れたり焦ったりするんですね・・」
「・・・当たり前だろ。それにしても・・最後に投げたありゃあ、一体なんだい?とんでもない威力だったけど・・」

半眼で口を尖らす邪龍に対して、魔鈴はペロリと舌を出して・・

「調合用に作った精霊石の加熱液体です。純度100パーセントの貴重品ですから・・弁償代は高いかも。」
「・・・・。・・ほんと・・いい性格してるね、あんた・・。」

苦笑して、そばのテーブルへ腰掛けながら、メドーサは大きく息を吐き出した。
そういえば、先ほど手放した刺叉はどこにいったのだろう?長年かけて見つけた愛刀なだけに、あの男と心中・・などというオチはご免こうむりたいのだが・・


――――――・・。


「探し物は・・・これかな?」

はじめに感じたのは悪寒だった。

バリ・・・ボリ・・・・・・・
何か、硬いものを噛み砕くような音があたりに響く。咀嚼音が・・やがて、ゴクリという喉の鳴らす音へと変わり・・・
そして・・・

「悪いな・・。空腹だったもんでね・・一部ではあるが返しておこう。」
「・・・っ!?」

質感を持って、グニャリと歪む漆黒の腕。丁寧な動作で、魔鈴の手の上に刺叉の一部を差し出すと・・・
天井を突き破り、『それ』が2人の前へと降り立った。グシャグシャと・・咀嚼音が鳴り続ける。

「・・ぁ・・・・ぁぁ・・」

言葉を失い、無意識で後退さる魔鈴を見つめ・・《喰らう者》がかすかに、せせら笑い・・・・

「・・だが、驚いた・・。大健闘だな、メドーサ。俺が『この姿』に戻るのは・・バチカンで悪魔を皆殺しにして以来なんだが・・」
うそぶく、しゃがれた声。呆然とその場に凍りつくメドーサへ、彼(・・と呼ぶのが正確かは分からないが)は、慇懃に礼をした。

「どうだ・・?魔族の常識と限界を超える存在に出会った気分は・・?説明せずとも、コレを見れば本能的に理解できるだろう?」

周囲のものを叩き潰し・・『それ』が大きく足を踏み出す。巣の上で獲物を捕らえる蜘蛛のようにも見える、その動き。

「察しの通りだよ・・。貴様らが絶対の信頼を置く・・霊波攻撃。俺にはその一切が・・・・」


「通用しない。」


                     
                          ◇


「霊波に依存した攻撃手段では・・・全く歯が立たない・・?」

おそらくは横島が初めて目にした・・・・神薙が、心の底から動揺する表情。
デスクの上で頷くと、美智恵が小さく頭を抱えて・・彼女自身も半信半疑といった様子で、身長に話を続けていく。

「私も鵜呑みにするつもりはなかったんだけど・・・こんなものを見せられたらね。」
言いながら、彼女が懐から取り出したのは・・一握りの、黒光りする奇妙な欠片。
セラミックの感触に似た、硬度を持ったそのカケラは・・ドクドクと、脈打つように、未だ律動を続けている。

「?・・これは?」
「3年前、西条くんがジャスティスで斬り飛ばした・・イーターの表皮。」

弄ぶように手の平で転がし・・彼女はそれを、3人のそれぞれ手渡した。

「鑑識に回して調べさせたら・・もう驚くことの連続よ。どんな霊圧をかけたって、ヒビ一つ入らないんだもの・・」
顔をしかめる美智恵に向かって、タマモは不思議そうに小首をかしげて・・

「・・霊気への耐性が・・異常に高い、ってこと?」
「高いというより、計算上ならほぼ無制限ね・・。それどころか、本体の精神とリンクすることで、吸収することも、反射することも、思うがまま。」

「・・・・。」

狐につままれたような顔をする、横島とタマモの2人をよそに・・神薙が一人、唇を噛んだ。
・・・耳鳴りがする。
彼女は静かに・・湧き上がる疑問に胸を押さえて・・・そして・・

「・・・何故・・・・?」

「神薙さん?」
意識せずつぶやいた言葉に、横島たちが目を丸くした。声の途絶えた部屋の中央。顔色を変えた神薙は、そのまま・・消え入るようにのどを震わす。

「何故・・そんな危険な存在を、神界と魔界は野放しに・・?本来ならば、2界の正規軍に追われていても、全くおかしくないはずです。」

ある意味で、自分よりも遥かに災いの火種となる可能性を秘めた魔族。いや、もはやそれは魔族ですらないのかもしれない。
神魔の天敵とさえ言える能力を備えた、全く別個の生命体。

「ワルキューレ姉弟を通して、データと一緒にイーターのことは伝えてあるんだけどね〜・・上はまるで取り合ってくれないみたい。妙な話しよねぇ・・」

やれやれとばかりに、美智恵が机へ突っ伏した。心労がたまっているのか・・何故かいきなりその場で寝息が聞こえてきたりして・・
慌てて、彼女を起こし始めるタマモの姿を見つめながら・・神薙はわずかに目を伏せる。

「・・まるで取り合わない・・・?そんなことが・・・」

信じられないことを目の当たりにした・・・そう語るかのように反すうされる言葉。
・・いや、疑う必要もなく答えは出ている。水面下だけで動いているはずの自分が・・容赦なく包囲網を狭められていることも含めて・・すべては・・

(所詮、イーターはモルモット・・私はそのスケープゴートというわけですか・・。思った以上に踊らされている・・主神の2人は・・)

素肌に触れた指先から伝わる・・・冷たい感触。自分が平静さを欠いていることが・・すぐに分かる・・。

・・・。


「・・え〜と、神薙先輩?」

「・・・・・・え?」

突然かけられる気遣わしげな声に、彼女は弾かれたように顔を上げた。
神薙美冬・・・・それは・・・人界で呼ばれる自分の名前。

「あ・・す、すいません・・。少し、取り乱しました・・。何ですか?横島くん」
取り繕う笑顔を浮かべると、その後輩は珍しく、気難しげに腕を組むような格好をして・・・・

「いや、別に用はないんすけど・・なんか顔色が悪いような気が・・・・あ。」
「?」

何かを合点したかのように、手を叩いた後、彼はコソコソと妖狐の少女に耳打ちを始める。

(「も・・もしかして、あれか?いわゆる月のモノってやつかな?オレとしたことがデリカシーが無かったぜ・・」)
(「・・・・・。」)

・・いや、その後、タマモの肘が横島の額にめり込んだのは言うまでもないが・・・そんな2人のしぐさに、神薙は可笑しそうに吹き出した。

「・・大丈夫ですよ。心配してくれて・・ありがとうございます・・。」
「へ?そ・・・そうですか?う、う〜ん・・まあ、それならいいんですけど・・・・」

いまいち納得していない横島の顔。逃げるように目を逸らしながら、彼女はもう一度だけ微笑んで・・・

「・・はい。大丈夫・・・・ですから。」

しかし・・
肩を抱くようにたたずむ神薙の姿が・・その時の横島には、何故かひどく小さいものに見えた。


                     ◇

〜appendix.13 『エンカウンター』


「・・あぁ、もう・・な〜んで私が魔鈴の店なんかで朝食を摂らなきゃなんないのよ・・」

空を仰いで・・美神令子が、憂鬱そうにそんなことをぼやいていた。
彼女が不機嫌な理由は2つある。1つは台詞の通り。ひねりも何もなく、ただ店の店主と顔を合わせるのが嫌なこと。
そしてもう1つは・・・・

「横島の奴・・・こんな朝っぱらから、タマモと2人で出かけるなんて・・一体、何企んでるのかしら・・?」
「ま・・まぁまぁ、美神殿。せっかくおキヌ殿が病院に残ってくれたんでござるから・・そう恐い顔せず、純粋に食事を楽しんだほうが・・」
「つまらないでち〜・・。スズノは絶対安静。ヨコシマは不在。小竜姫は用があるからって別行動。隣にいるのは犬と暴君でち・・」
『・・・・。』

・・・こう言ってはなんだが、ガタガタだった。

「・・・それにしても中が騒がしいでちね。改装工事でもしてるんじゃないでちか?」
怪訝そうに眉をひそめるパピリオに向かって、

「おかしいでござるなぁ・・。営業中って札に書いてあるでござるよ?」
シロが小さく首をひねって・・・・

「・・どうでもいいでしょ。スズノたちのテイクアウト分もあるんだから、無理やりにでも作らせてやるわよ。」

そして・・憮然とした調子で、美神は勢いよく扉を開け放ったのだった。


『あとがき』

『不死王編』の途中から、タマモとドゥルジさま、各ヒロインの分岐シナリオにしたいんですが・・どうすればいいのやら・・(汗

まぁ、作者は生粋のタマモスキーなのでタマモシナリオは最優先なんですが(笑)問題はドゥルジシナリオをどこまで書けるかだったりします。
・・でもなぁ・・彼女のシナリオだと、当然『ドゥルジ編』がかなりドラマティックになるんですよねぇ・・。書きたいなぁ・・。
どっちのヒロインでも『不死王編』の最後の方で告白イベントがありますので、こうご期待。

と、いうわけで・・ここまで読んでくださりありがとうございます〜
しかし・・よりにもよって、霊波抜きでは、全く役に立たないメンバーが助っ人に・・(シロは身体能力は高いんですがメイン武器が『霊波』刀ですし)
イーターさん・・霊波が全く効かないということになっていますが、それは理論上の値でして・・

実は『スズノや魔神さんたちをも遥かに凌ぐ、とんでもなく強大な出力だと負荷が生じて、防御を突き抜けます』
・・という、後々の伏線をあとがきで引いてみたり・・(爆)
それでは、今回はこのあたりで・・また次回お会いしましょう。

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