ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(30)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/10/ 7)

『君ともう一度出会えたら』 −30−



 最後の戦いが終わって、数日が過ぎた。
 隊長や西条たちは事件の後始末にずっと追われているが、現場検証や政府機関との折衝が主な仕事なので、民間GSメンバーの出番はない。
 俺と美神さんとおキヌちゃんは、とりあえず事務所で待機していた。

「ルシオラがいなくて、寂しい?」

 事務所のソファーに座って、ぼーっと考え事をしていたら、珍しく美神さんがコーヒーを淹れてくれた。
 ちなみにおキヌちゃんは、買い物に出かけている。

「まあ、寂しいと言えば寂しいですけど。でも、なぜそう思ったんです?」
「一人でぼーっとしてたから、ルシオラのことでも考えていたのかと思って」

 美神さんは俺の向かい側に座ると、コーヒーをブラックで飲んだ。
 俺は角砂糖を一つだけ入れて、スプーンでかき混ぜる。

「ルシオラが元に戻るのに、どれくらいかかるの?」
「だいたい、一月くらいかかるそうです」

 小さくなったルシオラが元に戻るには、大量の霊的エネルギーを必要としていた。
 この事務所や、あるいは都庁地下の基地でも環境的に十分でないため、妙神山で療養している。

「まあ、あっちもあっちで、大変そうですけどね」

 二人の最高指導者が帰ったあと、神族・魔族の合同調査団がやってきた。
 彼らは妙神山に駐留して、事件の全容解明に取り組んでいる。

「そういえば横島クン、魔神になって何か変わったことあった?」
「それが全然ないんですよ」

 あの場でアシュタロスの後継者に任命され、俺は魔神になったらしいのだが、俺自身は何も変化がなかった。
 見えないところで何か変わっているのかもしれないが、自覚症状が何もないので、あの場で担がれただけなんじゃないかという疑念さえ、湧いてきてしまう。

「ふーん。まあ、お芝居とも思えないし、そのうち向こうから連絡が来るわよ」
「そうッスね」
「お話し中、すみません」

 人口幽霊壱号が、会話に割り込んできた。

「こちらに向かって、神族と魔族が接近中です。敵意は感じられないので、訪問が目的と思われます」
「噂をすれば、何とやらね」

 しばらくして事務所のベルが鳴り、ヒャクメとワルキューレの二人が入ってきた。
 戦いが終わった直後は、手のひらに乗るくらいの大きさだったが、今は仔猫ほどの大きさにまで戻っている。

「おっ、ヒャクメにワルキューレか。どう調子は?」
「忙しいけど、割と元気なのね〜〜」

 ヒャクメの話す言葉に、いつもの軽い調子が戻っていた。
 事件の途中では一度もくだけた話し方はしなかったから、ヒャクメも重い責任を感じていたのだと思う。

「あ……その、横島殿、ちょっとよろしいか?」
「ん? どうしたんだ、ワルキューレ?」

 ワルキューレが、かしこまった口調で話しかけてきた。
 いつものざっくばらんな話し方とは、ずいぶん違っている。

「今朝、上層部から通達が下りてきて、そこでその横島殿が魔神になったと……
 実はあまりに突然なので、私もどう接したらいいか、よくわからないのだ」

 滅多なことでは冷静な態度を崩さないワルキューレが、珍しく取り乱しながら話していた。
 まあ、気持ちはわからないわけでもない。というか、俺自身、全然実感がないし。
 ただ、魔界正規軍のワルキューレまで通達がきたってことは、少なくともあれは、その場限りの方便ではなかったんだな。

「とりあえず、今までどおりで、かまわないけど?」
「いや、今日は任務できているし、魔界軍の将校が礼儀を失するわけには……」
「それで、今日は何の用?」
「実は、使者として来たのだ。まだ体がこんな状態であるし、私では格が低すぎるのだが、
 横島殿と面識があるのが、私とジークしかいなくてな。
 それで用件だが、私と一緒に妙神山までご足労願いたいのだ」
「妙神山に行けばいいんだな? そっちはわかった。それから、ヒャクメの用事は?」
「私は、ただの付き添いなのね〜〜。横島さんにも、少し興味があったんだけど」

 せっかくヒャクメもいるんだから、少し見てもらおうか。

「自分ではよくわからないんだ。ヒャクメに見てもらったら、何かわかるかな?」

 ヒャクメが全身の感覚器官を開いて、十数秒間俺を見つめた。

「霊基構造が変化しているけど、霊波にはほとんど変化はないのね〜〜」
「ふーん」

 魔神になったといっても、今は人間とほとんど変わらないってことか。

「じゃ、美神さん。ちょっと妙神山に行ってきます」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 妙神山で用事を済ました後、俺はべスパとの面会を求めた。
 一人の魔族に案内されて、べスパが監禁されている建物へと向かう。
 妙神山の元の建物は、逆天号の攻撃で完全に破壊されてしまったので、今は敷地のあちこちに、仮設の建物やテントが設置されていた。

 案内してもらった魔族に部屋のロックを外してもらってから、俺は入り口のドアをノックする。

 コンコン

「入りたければ、勝手に入りな!」

 ガチャ

 俺はドアを開けて、部屋の中に入った。

「ずいぶん荒れているんだな、べスパ」

 べスパはベッドの上で横になっていたが、俺の姿を見て、上半身をベッドから起こした。
 どこか冷めたような目つきで、俺の顔を見返す。

「ポチ……いや、魔神ヨコシマ殿と呼ぶべきなのかな」
「皮肉はよせよ、べスパ。普通にヨコシマでいいよ」

 べスパはアシュタロスとの戦いが終わった後、やってきた神族・魔族たちに拘束された。
 べスパも抵抗せず大人しく捕まり、そのまま妙神山に連れて行かれた。
 べスパは、何と言ってもアシュタロスに一番近かったから、いろいろと尋問されていたらしい。

「ルシオラは一緒じゃないのか」
「さっき部屋に行ってみたら、ちょうど寝ていたんだ。
 よく眠っていたから、起こすのも悪いかなと思って」

 べスパのいる部屋は、四畳半くらいの小さな部屋だった。
 部屋の中は殺風景で、ベッドと椅子以外に、めぼしい家具はない。
 ワルキューレと同じくらいの大きさのべスパが、その部屋のベッドの上にいた。

「それで、私に何の用だい?」
「いろいろと話しておきたいことがあってさ」

 俺はベッドの横にある、パイプ椅子に腰を下ろした。

「べスパは、俺が未来から逆行したってことは知っているよな?」
「アシュ様からそう聞いた。
 最初に聞いた時には信じられなかったが、今はもう疑う余地がないよ」
「ちょっとだけ、思い出話につきあってくれ。前回、ルシオラは復活できなかったんだ」

 俺の話を聞いていたべスパが、驚きの表情を見せた。

「姉さんが……!?」
「今から話すのは、俺が戻ってくる前の出来事だ。
 東京タワーでルシオラとべスパが戦ったとき、べスパはルシオラをあと一歩のところまで
 追い詰めた。そして最後の一撃を放った時、俺が間に割って入った」
「……」
「俺がべスパの攻撃を防いでいる間に、ルシオラがべスパを倒したんだが、べスパの攻撃を
 まともに受けたもんだから俺の霊基が壊れちまって、それをルシオラが補填したんだ」
「それじゃあ、姉さんは……?」
「俺に大量の霊基を与えたせいで、ルシオラは死んだ。
 べスパの妖蜂が、べスパと一緒にルシオラの霊破片も集めてくれたんだが、あとほんの
 少しのところで足りなかったんだ」
「そう……そんなことが、あったんだね」

 俺を見るべスパの目つきが、少し変わった。
 愛するものを失った苦しみは、俺とべスパにしかわからないのかもしれない。

「俺が過去に戻ってこんな面倒なことをしてきたのも、ルシオラを助けたいという思いから
 なんだけど、実はただ助ければいいというわけじゃないんだ。
 べスパは、時空の復元力という言葉を、聞いたことは?」
「いや、はじめて聞いた」
「時空には変更を加えようとすると、元に戻ろうとする力が働くんだ。
 前回、最終的に命を失ったのは、ルシオラとアシュタロスだった。
 結果的に世界は、ルシオラとアシュタロスが命を失うことで、安定した状態となった。
 だから、仮にルシオラだけを助けたとしても、時空の復元力がバランスを保つ方向に働き、
 ルシオラを排除してしまう危険性がどうしても残ってしまう。
 だから、ルシオラを確実に助けるには、アシュタロスも何とかする必要があった」
「まさか、アシュ様がまだ……?」
「一つずつ、順番に話すからな。
 俺はアシュタロスの野望を食い止めなければいけなかったが、その一方で死なずにすむ方法も
 模索する必要があった。
 しかし、人間業で解決する道は、どうしても見出せなかった。それで俺は、最後に神族と魔族の
 最高指導者が出てきた時に、アシュタロスの助命を願い出たんだ」
「それで、結果は……?」
「残念ながら、彼らの答えはノーだった。
 俺は落胆しかけたが、彼らは別の解決策を示してくれた。それが、俺の魔神化ってわけさ」
「なぜ、あんたが魔神になることが、解決策になるのさ?」
「アシュタロスが魂の牢獄から抜け出すことができなかったのは、魔神としての使命をもっていた
 からなんだ。もし、魔神の使命さえ無くなれば、魂の牢獄からも解放される。
 だから、俺が魔神になる必要があったんだ。アシュタロスの代わりにね」
「ヨコシマが魔神となることで、アシュ様は自らの運命から解放されるということ!?
 それじゃあ、アシュ様はいったいどうなったの?」
「魔神としてのアシュタロスは死んだ。これは、まぎれもない事実だ。
 だが人間の俺が魔神の使命を受け継いだから、アシュタロスは人としての運命を背負うように
 なった。だから時期はまだわからないけど、必ず人間に生まれかわるよ。
 もちろん、前世の記憶なんてやっかいなものは、何一つもっていない」

 べスパの瞳に、希望の光が宿っていった。

「アシュ様に、また会えるのね!」
「人間に生まれかわっても魂は同じだから、会えばすぐにわかると思うよ。
 もっとも向こうは、べスパのことを何も覚えてないと思うけど」
「でも、ルシオラの件は大丈夫?」
「ああ、それも問題ないみたいだ。結局、今の俺が、アシュタロスの代役なんだ。
 宇宙的なバランスもそれで保てるから、問題ないってさ」

 べスパの表情に、明るさが戻っていた。
 部屋に入った時に感じられた荒れた雰囲気は、完全に陰を潜めている。

「そういうわけだから、元気出して頑張れよ。また、様子を見にくるから」
「あんたもずいぶん変わったね! それとも逆天号にいた頃は、ずっと演技してたのかい?」

 べスパが軽い口調で、俺をからかった。

「ま、半分演技ってとこかな。人使いは荒かったけど、あそこの生活もそれなりに楽しかったよ」

 俺は椅子から立ち上がると、べスパに軽く手を振りながら部屋を出ていった。


(続く)

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