ザ・グレート・展開予測ショー

すきんしっぷ(後編)


投稿者名:偽バルタン
投稿日時:(04/10/ 7)

しかし…なぜ彼女は、僕なんかに“抱っこ”してもらいたがるのだろうか…
そう思ったとき…ふと…紫穂の会話が途切れた。
僅かな沈黙の後…意を決したように僕を見つめた紫穂の…そのとても真剣な瞳…
あぁ…今、紫穂は何か大事な事を僕に伝えてくれようとしているんだ…
それは、“チカラ”なんか持ってない僕でも、容易に察する事が出来た。



すきんしっぷ(後編)



「…ね…皆本さん…聞いてくれる?」
「うん…」

その独白はとても痛々しいものだった。

「…私ね……こんな風に誰かに“抱っこ”してもらった覚え無いんだ…」
「…うん…」
「赤ちゃんの頃とか…覚えてないから解らないけど…物心ついた時には…もう誰も…私に近づこうとさえしなかった…」
「…うん…」

…接触感応能力…有機物無機物を問わず、触れた物体の思考や記憶を読み取る事が出来る…それが紫穂の持つ“チカラ”。
幼い頃…彼女にその“チカラ”が有ると解ってから…彼女の傍には誰も居なくなった。
距離を置き、見えない壁を作り、必要最低限の接触しか…いや、それすらもしようとはしなかった…
そして…それは、彼女の両親すら例外ではなく…

「お父さんも…お母さんも…絶対に私にさわってくれなかったの…
夜寝る時…私がどんなに『怖い』って言っても一緒に寝てくれなかった…
一緒にお風呂に入った事も…一緒にご飯を食べたことも無い…手を繋いだコトも無いんだよ?
友達もいなかった…最初は優しくしてくれたヒトも…私の“チカラ”を知ったとたんに冷たくなった…
私は……いつもひとりぼっち…」
「…そうか…」

与えられて当たり前の…いや、本来与えられなければならない筈の温もりを…彼女は誰からも与えてもらえなかった。
周りから拒絶され、隔絶され…
…クソ…まだ10歳なんだぞ…この娘は…

ぎゅうぅ…

「皆本さん…痛い…」
「ご、ゴメン…」

我知らず、熱くなり…紫穂を抱く腕に力がこもっていた…
そりゃあ…こうしている僕だって…心を覗かれるのは正直イイ気持ちはしない…触れて欲しくは無い記憶だってある。
…だけど…その“チカラ”は紫穂の所為ではない…彼女の責任ではないのだ…
なのに…

「…嬉しいよ…皆本さんの気持ち…」
「…あ……読まれてた?」
「ん…最初ね…そんなヒトが居るなんて…信じられなかったの…
私の“チカラ”を知って…それなのにこうしてくれるヒト…
本気で叱ってくれて、心配してくれて…ココロから私のこと考えてくれる…
初めてだったの…そんなの…薫ちゃんや葵ちゃんの他では…皆本さんだけだったの…
ねぇ知ってる?…皆本さんに…こーして“抱っこ”してもらえて…
私本当に…スゴク嬉しいんだよ?」
「そっか…光栄だよ」

抱きしめるという事…
愛情表現と一緒に、温もりと安心感というものを齎す…簡単で、そして極当たり前である筈の行為…
だが…そんな当たり前のことですら、彼女は知らずに育ってきた。
その温もりが与えてくれる幸福感とは無縁の中で生きてきたんだ…

「…ごめんなさい…迷惑なのは解ってる…けど…」
「…こらこら子供が遠慮なんてするもんじゃないよ…
確かに…迷惑に思うことはあるけど…でも…まぁ嫌なわけじゃないからね…」

だから、紫穂は“抱っこ”して貰いたがる…

「……ありがとう…」
「どういたしまして…」

そして、それは僕にとっては嬉しくて…そしてちょっとだけ誇らしい事でもある…
彼女が、僕の事を信頼できる相手と認め、そして頼ってくれる…その証でもあると思うから。
…そんな紫穂の顔がとても幸せそうに見えるのは…僕の自惚れなんだろうか?

「…あのねあのね?
…スゴクイイの…皆本さんに抱かれるのって…
ココロも…カラダも…ぽかぽかあったかくなって…
……私…とってもイイキモチになれるの…」
「…う、うん…」(赤)

潤ませた瞳で、頬を上気させ…聞き様によってはとってもキワドイ台詞を口にする紫穂…
僕も、自然と顔が熱くなる…
…あ〜…今僕たちは…ひょっとして物凄〜く恥ずかしい会話をしてるのではないだろーか?
…でも…

「私今…とっても幸せよ…♪」
「…そうか…良かった…」

そう、本当に良かった…
…僕なんかが、君に抱きしめられることの幸せを教えてあげられたのだとしたら…これ以上嬉しいことは無いよ。
………
すーすー…
やがて、静かな寝息が聞こえてくる…寝てしまったらしい。
…いつもならこの時間はまだ布団の中に居る時間だものね…ゆっくりお休み。
あぁ…そうだ…僕も徹夜明けなんだっけ…
そう、意識したら急に睡魔が襲ってきた。
腕の中の紫穂の温もりを感じながら…僕もまたゆるゆると、眠りの世界へと堕ちていった…



…終…

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