ザ・グレート・展開予測ショー

残るのは君の優しい香りだけ


投稿者名:えび団子
投稿日時:(04/10/ 7)









――――――――残るのは君の優しい香りだけ




いつまでも、続くと思っていた。


風が吹く日も――――ほら、雲が流れてるのが見えますよ。
太陽が眩しい日も――――温かい・・・。
雨が降る日も――――傘、持ってってあげますね!
雪が舞い落ちる日も――――雪だるま、雪合戦、炬燵で蜜柑。


ずっと一緒だと思っていた。




変わることなく・・・。








――――――――彼女が、消える日








「おキヌちゃん、お茶淹れてくれる?」


美神除霊事務所の、所長椅子に腰掛ける美神は酷く疲れていた。
初秋の匂いがし、落ち葉で地面は覆われていた。夏の暑さは何処にいってし
まったのか、少し肌寒い。


「はい、ちょっと待っててくださいね?」


奥の部屋に入っていく彼女を横島は、ずっと見つめていた。
ドアが開き、閉まる――カチャカチャと無機質な金属音がゆっくり響く。
どうやらコップを棚から二つ程出したらしい。・・・二人分。




『美神さん、このままでいいんですか・・・?』

誰にも聞こえないくらい静かに話す横島、美神は苦虫を噛み潰したような表
情になってこう答えた。

『分かってるわ、私だって出来ることはやってみるつもりよ!』




――――っ?


彼女はティーパックをお徳用袋から一つ取り出す手を止めた。
向こうの部屋から僅かに声が漏れ、美神の荒ぶった怒鳴りが聞こえたからだ
。しかし、それ以上何も聞こえてこない。彼女は首をドアから向き直し手元
にある綺麗な曲線を描いたティーカップを眺め微笑んだ。

『大声出したら聞こえちゃいますって、静かに・・・』


『・・・っ』


横島は後ろをチラチラ見ながら、美神の口元に人指し指を立て『しっ』と鎮
めた。

「横島さんは紅茶にしますか、こーひーにしますか〜〜〜〜?」

あくまで物静かな調子で彼女は喋っていた。
それが全くいつもの感じで横島は胸に込み上げる痛みを堪えて言った。

「じゃあ・・・コーヒーで」

ポットからお湯が注がれる――――トポポポポポポ




湯気がゆらゆらと宙を舞う、ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら








所長室のテレビは臨時ニュースを報道していた。
あまりに残酷で無情な現実、どうすることも出来ない己。








――――只今GS協会本部から正式に発表がありました――――




『時間は・・・ありますか?』


『分からないの』




――――浮遊霊及びに未成仏霊数の臨界点突破による――――


スプーンに混ぜられて黒色と茶色が溶け合い、カップの中で回るコーヒーの
中央に、クリープの白色が薄っすらと現れる。

紅茶からもコーヒーからも芳ばしい匂いが漂う。
楕円形のお盆に盛られた色鮮やかなクッキーにも目を奪われる。



だが、その時は砂時計が一杯になるように速度を落とさず速めず、それでも
確実に近づいていた。

緑で生い茂っていた、木の葉も散った。







――――突然消滅――――








カラン、乾いた音がキッチンで木霊した。




彼女が消えた日。




「おキヌちゃんっっ!!?」


美神と横島は同時に叫んだ、駆け出した。


ドアノブを掴み、力一杯回して引いた。































































――――そこには誰もいなかった




あるのは、テーブルの上にあるお盆に、淹れたての紅茶とホットコーヒー。脇
にはハート型やダイヤ型のクッキーがひっそりと置かれてあるだけだった。
遮光カーテンが波を立てて風を受け止めている。
そこから漏れる光りが僅かな空気中の塵を映し出す、湯気が泳ぐ。

時が止まっていた。




「いつ来るか、分からなかったの。予測すら・・・だって、世界には無数の
浮遊霊や未成仏霊がいるのよ?!刻々と、こうしている間にも誰かが死に霊
となって・・何処かの霊が消えていってるの!!こんなことってないわっ、
次がおキヌちゃんだなんて誰が分かるっていうのよぉ・・・・」


美神の瞳は潤んでいた、赤く。




――――GS協会は全力を挙げて原因究明を・・・――――


「もう、いいわ!・・・消して」


――――現世には霊数の限りが・・・プツッ――


液晶は真っ黒に染まった。


「くっ・・・・うっ・・」


彼は泣いていた。
大粒の涙を拭おうともせずに。








――――彼女が消えた日




こうして彼女が、いなくなってから一ヶ月が経とうとしている。
もう、すっかり秋も深まってきて紅葉の季節だな。
まあ俺は給料日前な訳で、ここ三日間ロクなもん食ってないけど。
ところで、心配事って言うとどうせ整理整頓きちんと出来てるか、だろ?
勿論やってるさ、俺と美神さんの二人で。どーにか、こーにかな。
でさ、いつ帰ってくるのか教えてくれないんだけど・・・
『屋根裏部屋』は、空けてあるから。いつでも戻って来いよ!?
とまあ、積もる話は沢山あるけど上手く言葉に出来ないよ。
だけど最後に言っとく・・・さよならはナシだっ!!
また逢えるから・・・。




――――ジリリリリリリリリ




目覚ましの五月蠅い音に横島は目を覚ます。
寝ぼけ眼には鬱陶しい朝の光りに目を擦りながらカーテンと窓を開けた。
心地よい風と太陽光が迎えてくれる、食べかけのパンを半分かじり、服を着替え、賞味期限の危うい牛乳を飲み干しボロアパートを後にする。




「さてっ、今日も稼いで稼いで稼ぎまくるわよーーっ!!」


「はいっ!」






――――俺さ、気付いたんだ。


大袈裟すぎる荷物を背中に背負い横島は、




――――彼女が最期に去った、あのキッチンには。


美神が愛車に座り、早くしなさいと叫びながら、






――――いや、彼女がいた場所全てに・・・


「はーいっ、今行きますって!!」







――――おキヌちゃんがいたんだなって分かるんだ。


事務所には彼女がいる。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、しょんぼりしたり。

とびっきりの笑顔で挨拶して―――


優しすぎて泣いちゃったり――――


人のことなのに怒ったり――――


喜ばせたくて、だけど出来なくてしょんぼりして――――







朝早く澄みきった空気の中で、お昼のぽかぽかと温かい陽光の中で、夕方に沈みかけた夕日の中で、月明かりが綺麗な中で『そっと』撫でる風の中に彼女はいる。

そう・・・








――――残るのは君の優しい香りだけ







FIN

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