ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代【鉄】其の参後編 1


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(04/10/ 6)



「糞がっ!!」
迫り来る丸太の様な腕を紙一重で避けながら汰壱は悪態を付いた。
糞が!糞が糞が・・馬鹿か俺は!迂闊すぎた!浅はか過ぎた!思慮が足りなかった。
幾つもの叱責と、自分へ悪態の言葉を浮かべながら、汰壱は必死に凶撃をかわした。

自分の持てる全ての反射神経

自分の持てる全ての防御・回避技術

自分の持てる全ての五感・経験

後は勘で・・・・・・

全身全霊・全てを懸けた決死の回避


生き長らえる為の逃避行
無様な逃走劇

当たれば必殺

当たらなければ助かる、否・死ぬのが少し伸びるだけ・・・・

いくら馬鹿げた体力もいつかは尽きる。

このままなら、ジリ貧は明白で

このままなら、食い殺されるのも明白で

だったらすることは?

遺言を考えるか?
命乞いでもしてみるか?
一か八か逃げてみるか?
助けを呼ぶか?
否・否・否・・・・・否!!


諦めてたまるか
命乞いなど死んでもするか
逃げるなんざ論外だ。
自分のことに他人を巻き込むものか。


【古牙家 家訓 自分のケツは自分で拭く】


ここに来たのは誰だ?・・・俺だ
ここを選んだのは誰だ?・・・俺だ
誰の意志で来た?・・・俺の意志だ


何しに来た?・・・戦いに来た。
何で?・・・修行のためだ。
何で修行する?・・・最強になるためだ。

じゃあすることは?
逃げ回る事か?・・・違う
糞の役にも立たない無駄な思考か?・・・違う
過去の恐怖に潰されそうになる事か?・・・違う!!

じゃあどうする?
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする





 
決まっている、簡単、実に簡単な答え。
解り安すぎる簡単な、シンプルな答え。

答えなんざ最初から解りきっている。

「こいつをぶっ斃して、更に強くなる」

そんだけだ。



間合いを取り、斜に構える。いつもと同じ、いつもと同じ、いつもの構え。
体が震える。
でも恐怖じゃない
これは武者震い。
俺は今喜んでいる。


そいつは、馬鹿でかい口を開け、これまた馬鹿でかい声で吼えた。


ぐぅううぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


俺も負けじと吼えた


がぁあぁああああああああアアアアアアア。


さあ戦闘開始!!命を賭けて戦おう。

ここから始まる驚天動地の逆転劇


________________________




数時間前・・・・・
鬱蒼と茂る森林の中、普段は観光客等で賑うハイキングコース。
そのなかで、大よそハイキングとは無関係の轟音が森中に響きわたる。
「令子そっちにいったぞ!」
「判ってるぅ」
【栄光の手】を袈裟懸けになぎ払う。
神通鞭を地を這う蛇の如く奔らせる

初撃をかわしたが、二回目の鞭にかわすことが出来ずに脚部にダメージを与えた。
怒り狂い、腕を振り回すがすぐさま引き下がり間合いを取る。
こちらが押せば押した分だけ引く、こちらが退けば退いた分だけ押す。
余りに見事な連携技。
戦闘の基本であり、同時に奥義
世界最強の名は伊達ではない。
速く重いその連撃を打ち込み始める。
「オオオオノレェェェ人間ンン!!」

「観念しろ、お前は殺りすぎた」
男は怒りをこめた静かな口調で相手に近づいた。
「ダアアアマアアアレエエエ!!」


「すっ・・・すごい」

オカルトGメンの女性隊員は傷ついた腕を庇いながらへたり込み、眼前に広がる光景に息を呑んだ。
自分達は五人小隊での哨戒中に襲われた、他の仲間はあっという間に物言わぬ骸に成り果て、
その内一人は食い殺された。
恐怖と怪我で身動きできずに、かわす事すらできず、何も解ぬままに自分も骸の仲間に入るすんでの所で
二人に助けられた。


ブラックリスト危険指定妖怪【獅子猿】
ランクBクラス
被害者数三十五人
うち三十人死亡
賞金5000千万

自分に回復を施した二人は、自分たちが手も足も出なかった恐るべき魔獣をアッという間に追い詰めている。
横島忠夫と横島令子この二人が最強で最高のGSと言うのはGSならば誰もが知っている。
当たり前のことだ。
だがこれ程までの強さとは思いもよらなかった。


「これで終わりだ!!」
叫び右手に霊気が凄まじい力で収束される。





文珠生成・・・・・・・・・【爆】





投げ付けられた、翠緑に淡くか輝くビー玉程度の玉
魔獣に接触した瞬間凄まじい爆発を起こした。







「グギャアアアアアアアア」

巨体が地に伏した。



令子が近づき霊波を確かめる。・・・・大丈夫の様だ霊気は感じれない・・・仕留めたようだ。

横島は生き残った隊員【癒】の文珠を渡し回復を手伝っていた。
「あっ・・有難う御座いました」
「すまない、俺たちがもう少し早く着いていれば」
沈痛な面持ちで横島が謝罪した。
「そんなこと、ありません貴方達が来てくれなければ・・・わたしだって」
その先を言うのは恐ろしかった。実際の所本当に危うかったから
今更になってその恐怖が体を襲った。
震えが止まらない
止めたいが止まらない、体がおこりの様に震えている。





ふわっ





いきなり、体に暖かい温もりが感じられた。
抱き締められれている事に気付くまでに数秒掛かった。
「震えが止まるまでこうしてていいかい?」
「・・・・・・・っっっはっぅい」
仲間が全滅して自分が生き残った。助かったと言う安堵と仲間への悲しみがゴチャ混ぜになって感情を支配する。
彼女は震えながら静かに泣き始めた。








しばらくして、平静を取り戻したのか彼女は落ち着いたようだった。
冷静になって考えると今自分が、かなり恥ずかしい状態になっている事に彼女は今更ながらに気付いた。

「あっ・あのー」
まさか命の恩人を突き飛ばすわけにもいかずアタフタしている。







「ええにおいじゃー」







ハイこの一っ言で全部台無しです。



三秒後には妻の令子に疾風怒濤の猛ラッシュで血達磨になって地面に落ちていた。
「久・・々の出・・番でこれ・・・か・・よ」
自業自得だと思うが・・・・・・
「あんた、女房の前でナンパするなんて本当にいい根性してるわねー」
「すぅ・・びばぜん」



ズルゥ



「しかし、結構梃子摺ったわね、Bクラスなんで舐めてたわ」
「いやこいつは強かったよ、なんでBなのか不思議なくらいさ」
いつの間にやら回復して当然の様に喋っている。
ここらへんも、世界最強に関係あるのでは無いだろうか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや関係ないか

ズルゥズルゥ



「早く蛍花に会いたいよ」
「私も・・・汰壱とひのめがまた喧嘩してたわ」
「まっ喧嘩する程仲が良いってことさ」
「ねぇ・・・・汰壱の事だけど・・・・知ってるよね」
「当然だ息子の事だぞ・・・いつかは・・・辞めさせないと」




ズルゥズルゥズルゥ・・・・・・・・





「判ってる・・・でもあの子を見てると・・なんだか昔の貴方を思い出すわ・・・
必死になって力を求める所が」
「いや違うよ・・・あいつが力を求めるのは俺とは違う理由さ・・でも・・・
あのまま進めば近い内に自分を壊す・・・だから・・」
「だから?私達が助けてやろうって?」
「そいうこと」




ズルゥズルゥズルゥズルゥズルゥ・・・・・・・・・ガバッ





その瞬間まで気付く事できなかった。
死んでいた筈のそれは、少しづつ少しづつ芋虫の如く這いずり距離をとる。
人間相手に此処までしなければならないなど、屈辱の極みであるが獣としての生きる本能がプライドを棄てさせた。
仮死状態まで身体機能を落として相手の目を欺き、霊気まで探知不可能ほどまで落として欺いた。
ギリギリの賭けであったが、距離を離すことができた。

慌てて止めを刺そうとするが時既に遅く、崖から飛び降り下にある森林を突っ切りどこまでも逃げる。
逃げて、逃げて、逃げて力を蓄えて傷を癒さなければならない。
そのためには更なる餌が必要だ自分は捕食者だ。必ずあの人間を殺してヤル。


「くそっやられた」
横島は悪態をついた
「まさか死んだふりを使うなんてね」
「畜生、昔シロが同じ事をしてたんだ。充分に考えられたはずなのに」
「悔やんでも仕方ないでしょ、やる事やらないとね」 
「そりゃそうだ・・・・追えるか?」
「だめね、隠行を使われてる雑霊と混じって位置がわからない」
その時であった

「あのぉ本部まで戻れば解ると思います衛星探査を使用すれば細かい位置が解ります。」
「了解すぐに行くわよ」
この切り替えの早さはやはり特筆すべき物が有る。
三人は大急ぎで本部まで帰った。
結局相手の位置が解ったのはそれから一時間後のことだった。


「此処から百キロ先の廃工場K35地区ね・・・」
「よしすぐ向かうぞ」
「ええ」


少し前に除霊依頼のあった場所だ。大した仕事でもないのでキャンセルしたが場所は大体頭に入っている。
何か嫌な予感がしたがそれを振り払うかの様に彼女はアクセルを踏み込んだ。
エンジンが唸りをあげ、獰猛な紅いコブラが夕焼けの中を奔り抜けた。





____________________________________

冒頭から少し前

夜の闇が世界を包む、熱き太陽は沈み、儚き月が昇る。
銀に輝く月の光を浴びながら、黒いジャージに身を包んだ汰壱が町を駆け抜けていく。
いつもの夜のトレーニングと違い唯走るのではなく、明確にどこかを目指している。

ひのめと蛍花には、黙って出かけてきた。無論、人工幽霊壱号(壱ちゃん)の眼までは誤魔化せず。
夜のトレーニングとだけ言って出てきたが、あまり時間は掛けられ無い、いいとこ三時間と言う所だ。
一時間程走り続け、着いた先は、・・・・・廃工場跡
「着いた・・・ここが、K35地区か・・・」
何十年か前のバブルと呼ばれた時代があった。
先読みできない無能な経営者達が工場を乱立し、利潤を貪ろうと画策しようが、やがてバブルは弾け不況の嵐を受け
あえなく全てが倒産した。
ここはその名残、所謂負の遺産というやつだ。

忠夫の部屋にあった依頼書の中からキャンセルしたものを選び取り、場所を覚えここまで来のだ。
理由は簡単だ修行の為だ。
学校や自主トレでは限界が有る。最近そう思うようになった、自分のような者には有りと有らゆる訓練が必要だ。
他の者と同じ訓練では、高が知れている。
強くなるのだ・・・そのためには手段を選ぶ気は無い。
別段、誰に迷惑を掛ける気も無い、これは全て偶然だ。自分はたまたま此処に来て、たまたま悪霊に襲われる。
自分にはたまたま戦う力が有って、生き延びる為に正当防衛をするだけだ。
「うんこれで大丈夫だ」
滅茶苦茶な論法を考え(言い訳ともいう)工場の中に入っていく。


どうやら玩具などを作っていた工場の様だ。子供向けのプラスチックで作られた綺麗なアクセサリーが埃を被って積んであった。
あまりそういう物には、興味の無い年で尚且つ男なので、あまり気にせずに奥へと入っていった。
しばらく進むと随分と開けた場所に出た。その時になって汰壱は妙な違和感を覚えた。

悪霊がいない・・・・・なぜだ?
他のGSにすでに除霊されたか?・・・違う祓われた跡なら清浄な気がするはずだ、
それがしない・・・なぜだ?
神経を尖らし気配を探ってみる・・・いることはイル、だがイナイ
・・・・なぜだ・・・・・なぜだ・・・なぜ・・・




ヤバイッ!!!





考えるより早く体が動いた。
次の瞬間、汰壱はそこから飛びのいた、一瞬遅れて頭上からドデカイ何かが降って来た。
ズゥン!!
衝撃の強さに激しく土埃を巻き上げる。
誇りが晴れた・・・元汰壱がいた場所は陥没しており、そこには・・・・一匹の魔獣がいた。


「こいつの仕業かよ・・・・」


「ギュオオオオオオオオオ!!」


それは天に向かって吼えた



_________________________________



現在


ようやく闇に眼が慣れてきた。
相手の形状が見えてくる。
全長は約3メートルほど、全身を白い体毛が覆い、眼は赤く血走っている。
口はその巨体と同じく巨大である、人間なんざ齧られたら半分ほどになるだろう。
雰囲気は・・・・これが和やかなんて言うのならば、まっすぐ精神科に行くことをお勧めする。
唯で殺す気ではないらしい・・・・
どうやら食い殺す気満々である。

よくみれば、あちらこちらに怪我をしているがそれを見て汰壱は余計に気を引き締めた。
手負いの獣がいかに危険か話には聞いているが、聞いた話以上の殺気を放つ悪鬼がいた。

戦う意思は固めたが恐怖が未だに消えていない。
対峙しているだけなのに、汗が止まらない
口がカラカラに乾いていく・・・
こうして立っているだけなのに激しく体力を消耗する。

やることは決めた・・・
あとは・・・勇気だけだ。

「うぁああああああ!!」
声上げ獅子猿に突進する。声を上げなければその場にへたり込みそうだった。大地を蹴り、顔面目掛けて霊攻拳を叩き込むが
あっさり受け止められ代りにドキつい一撃を見舞われた。
吹き飛ばされるように後方のダンボールの山に叩き付けられる。
「ぐふっ」
肺から空気が漏れ出した。ぎりぎりで後方に自分から跳び、叩き付けられたのがダンボールだった御陰でたいした怪我はしていない。
「くそっ」
悪態をつくながら起き上がるが、次の瞬間頭上から獅子猿が踏みつける、地面を転がり寸でで交わすがすぐに追撃が入る。隙を見て反撃したいがそんな暇は無い。
必死に間合いを取ろうとするが向こうが奔い。
「くそったれ、さっきと同じじゃねえか」

何度も訓練した。どんな状況下でも冷静に動くように意識した。式神相手の練習ならば出来たのに・・・
思考が追いつかない、頭が熱い、考えが纏まらない、体がうまく動かない。
なにが武者震いだ!何が驚天動地の反撃だ!何が・・・・最強のGSだ。
畜生!畜生!畜生!畜生!!畜生!!畜生!!!・・・・・・・・
何も出来ない 何も出来ない 何も出来ない 何も出来ない
アノ時と同じ・・・・・・

「ちっくしょおおおおおおおお!!」
叫びながら再度突進、完全にパニック陥っていた。再度攻撃・・・
当たるはずも無く今度は直撃を受け何も無い壁に叩き付けられた。
意識が途切れる。

















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