ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(29)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/10/ 3)

『君ともう一度出会えたら』 −29−



 俺は一瞬、我が目を疑ってしまう。だがそれは、まぎれもなく現実だった。
 ルシオラの姿が、俺の目の前にある。
 体はずいぶん小さくなってしまったが、そんなことはどうでもよかった。

「生きて……生きていたんだな……ルシオラ……」

 俺は心の中で、大粒の涙を流していた。
 もし俺が表に出ていたら、本当に大泣きしていたに違いない。

「パピリオがうまくやってくれたのね。本当によかったわ」

 美神さんのその言葉に、俺は何か引っかかるものを感じた。

「それって……美神さん、知ってたんですか!?」
「美神がわたちの眷属で、ルシオラちゃんの霊基を集めたらって、教えてくれたんでちゅ!」
「黙っていてごめんなさい、横島クン」

 美神さんが、すまなそうな表情を浮かべた。

「アシュタロスを倒してから、ママたちと合流する間にアイデアが閃いたけれど、
 自信が無かったから、パピリオにしか話さなかったのよ。
 もしうまくいかなかったら、横島クンをもっと傷つけてしまうんじゃないかと思って……」

 そうっだったのか……。
 美神さんは俺が落ち込んでいる間にも、いろいろと動いていたんだ。
 落ち込むばかりで何もしなかった自分が、本当に情けない。

「ヨコシマ、美神さんを責めないで。それに今は、そんなことをしている時間はないわ。
 もうすぐ東京が射程に入る。急いで、アシュ様を止めないと!」
「そ、そうだな。べスパ、弱点を教えてくれないか。俺の記憶と違っているみたいなんだ」

 その場にいた四人──俺と美神さんとルシオラとパピリオ──の視線が、べスパに集まった。

「あんたの正体に気づいたアシュ様は、幾つか手を打ったんだ。
 究極の魔体も、バリアの穴の位置を急いで変更した。
 本当は穴をふさぎたかったんだけど、そこまでしている余裕はなかったからね」
「それで場所は?」
「首の背後。そこから究極の魔体に接近できる。あとの説明は不要だね?」
「ああ、それで十分だよ」

 俺は精神を集中して、霊力を溜め込み始めた。

 キイイィィ−−−−ン!

「ちょ……な、何、このパワーは!?」

 ルシオラ……美神さん……いよいよ最後の詰めだ……俺に……俺に力を貸してくれ!

「いきますっ!」

 俺は溜め込んだ霊力を、一気に開放にした。

 ブォン!

「えっ……オーバーフローして、キャラクターが入れ替わった!?」

 よし、成功だ。俺が表に出てきた。ついでにここで……

「さらに、いくぜっ! 煩悩全開っ!」

 ルシオラ、美神さん、おキヌちゃん、冥子さん、マリア、愛子、エミさん、小竜姫さま、ワルキューレ、べスパ、小鳩ちゃん、魔鈴さん、美衣、迦具夜姫、朧、神無、シロ、この時はまだいないけどタマモ。
 ありったけの知り合いの女性の裸の姿を、強く妄想する。

「コラッ! こんなところまで、前回と同じにしなくてもいいでしょっ!」

 そうしたら、なぜか美神さんに怒られた。

「南極の時と比べると、パワーが落ちてるって前回に美神さんが……」
「状況が違うでしょうが! 今の横島クンは、十分パワーが出ているわよ。
 それに霊波がシンクロしているから、強いイメージはこっちにも伝わってくるんだからね!」

 ハハハ……そ、そうだったのか。

「なんだか、夫の浮気を叱る奥さんみたいですよ、美神さん」

 傍にいたヒャクメが、クスクスと笑う。
 一方、横でその会話を聞いていたルシオラは、少しムッとした表情をしていた。




 まもなく、小竜姫さまとワルキューレも合流してきた。
 面子がすべて揃ったところで、究極の魔体への攻撃を再開する。

「散開して敵の注意を引き付けます!
 ヒャクメとパピリオは敵の正面へ。私とワルキューレは、斜め前方に展開します。
 横島さんと美神さんは、その隙に後方から突入してください!」

 小竜姫さまがの立てた作戦に、異議は出なかった。
 もう時間の余裕はない。すぐにも攻撃を開始する必要があった。

「行きましょう、美神さん!」
「待って、ヨコシマ。私も一緒に行くわ!」
「わかったわ。三人で突入するわよ!」

 俺はルシオラを右の肩に乗せた。
 そして、相手に気づかれないよう距離を保ちながら、究極の魔体の後方に移動する。

「ルシオラ、美神さん。ちょっとだけ、俺の話を聞いてください」
「どうしたの、ヨコシマ?」
「まだ二人に言っていないことがあるんだ。俺は、アシュタロスも助けようと思っている」
「なんですって! ここまできて、究極の魔体を倒さないって言うの!?」
「今、アシュ様を止めないと、世界中が壊滅するわ!」

 ルシオラと美神さんが、反対意見を述べた。

「いや、究極の魔体は倒す。あれはもう、破壊するしかない」
「でも、どうやってアシュ様を助けるの?」
「人間業じゃ無理だな。だから、確実に助けられるかどうかわからないけど……」

 具体的な方法については、口を濁した。

「もう一つわからないことがあるわ。なぜ、アシュ様を助けようとするの?
 アシュ様は、本音では死を願っているはずなのに……」
「それは、わかる気がするわ。たぶん、ルシオラのためね」
「私のため……ですか、美神さん?」
「詳しく話したいけど、時間がないわ。パピリオたちが、配置についたわよ」

 パピリオとヒャクメ、そして小竜姫さまとワルキューレが究極の魔体の前方に展開し、相手の注意を誘った。

「ルシオラ、美神さん。説明は後でします! 今だけ、俺を信じてください!」
「わかったわ、横島クン」
「信じてるわ、ヨコシマ」
「いきますっ!」

 ガアアァァッ!

 究極の魔体が、前方にエネルギー弾の弾幕を斉射した。

「今だ!」

 究極の魔体が前方に向かって攻撃している隙に、背後から一気に接近する。

「ヨコシマ! バリアの穴を探すから、軽く霊波砲を撃って!」
「了解!」

 ドドドッ!

 俺はバリアの穴の正確な位置を知るため、弱い威力で霊波砲を数発放った。
 霊波砲がバリアに吸収されなかった場所を見つけると、そこからバリアの内側に突入する。
 そして急所を狙える位置に移動し、両腕で構えて大砲の付け根に狙いを定めた。

「横島クン、今よ!」
「ヨコシマ!」
「これでも、くらえっ!」

 俺は急所のエネルギーパイプ目掛けて、全力の一撃を放った。

 ズガガガーーン!

 俺の撃った渾身の一撃は、エネルギーパイプを貫通した。

 ドーン! ドーン! ドーーン!

 エネルギーパイプからエネルギーが漏れ出し、周囲で爆発を引き起こす。

「究極の魔体が爆発するわ。今のうちに離れて!」

 ドドドーーーーン!

 俺は急いで、究極の魔体と距離をとった。
 目の前でその巨大な体が爆発し、倒れこむようにして海面に叩きつけられた。

 オ……オ……オオオオッ!

 海面に倒れた究極の魔体が、体をわずかに持ち上げた。
 大砲にエネルギーが集中し、あとわずかに迫った東京目掛けて、最後の攻撃を試みる。

 カッ!

 最後の一発が発射された。
 だがそのエネルギー弾が、アクアラインの線を越えようとした時、突如現れた二つの光に遮られた。
 俺はその光を確認すると、すぐさま『転』『移』の文珠を使った。




「間に合ったようですね……」
「いや、こら正味のハナシ、出力が落ちてへんかったら、わしらでも防ぎきれんかったで……」

 俺の目の前に、背中からまぶしい光を発する二人の姿があった。
 二人とも裾の長さが足元まであるゆったりとした服を着ている。
 一人は人間と同じ姿に見えるが、もう一人は頭に二つの角を生やし、背中に十二枚の羽を背負っていた。
 はじめて見るが、神族と魔族の最高指導者に違いない。

「待った! あんたたちに話があるんだ」
「やっと会えましたね、時間遡行者よ」

 ……俺の正体、既にバレてる!?

「アシュタロスの封鎖が解けた直後、情報調査官のヒャクメからの緊急の報告書に、
 あなたについて詳しい報告がありました。
 時間逆行までして果たそうという、あなたの願いは何ですか?」
「アシュタロスを……助けてやってください」
「しかしなー兄さん、アシュタロスは三界の秩序を根本から覆そうとしたヤツや。
 ワイらの立場としては、そないなヤツ放っとくちゅうわけにはイカンのや」

 魔族の最高指導者らしき人物が、会話に割り込んできた。なぜか、大阪弁を使っている。

「兄さんの目的は、いったいなんや?」
「俺の目的はルシオラです。
 俺の経験した未来では、アシュタロスは滅びましたが、ルシオラも命を落としました。
 前回と同じように、アシュタロスが死んでしまうと、ルシオラはおそらく……」
「時間の復元力で彼女も排除されてしまうことを、恐れとるちゅうわけや?」
「はい」

 魔族の最高指導者が、神族の最高指導者に話しかけた。

「どない思う、キーやん?」
「難しいですね。この事件で一番の功労者の願いを、無下にするのも心苦しいのですが……」
「そこでや、キーやん。ワイに考えがあるんやが、聞いてくれるか?」
「いいですよ」
「そこの兄さんに、アシュタロスの使命を引き継がせるちゅうのはどうや?」

 えっ!? なんか、とんでもない方向に会話が進んでいないか!?

「いい考えですね。彼に使命を引き継がせれば、アシュタロスは魂の牢獄から解放されますし、
 彼女も時間の復元力で排除されずに済むということですか」
「そや。神・魔のバランスは一時的に崩れてしまうが、時間をかければ元に戻るっちゅうのも
 大きなメリットや」
「私の立場としては、人間に運命を強制はすることはできません。彼に選択の機会を、与える
 必要があるのですが」
「それはワイも同じや。手続きだけはきちんとせな、あかんやろ」
「あ……あの……すみませんが、話がさっぱり見えないのですが?」

 俺はおそるおそる、二人の最高指導者に話しかけた。

「つまりやな、兄さんがアシュタロスの代わりに魔神になることを承諾すれば、すべて丸く
 収まるっちゅうことや」
「あの、それって……俺がアシュタロスのようになると?」
「そや。人間出身ってことで、ブーブー文句を言うヤツがぎょうさん出てくるやろうけど、
 ワイが責任もったるさかい、大船に乗ったつもりで安心したらいいで」
「す、すみません。何だか話が大きくなりすぎて……少し、考える時間をください」
「急いでください。アシュタロスの命は、尽きかけています。彼が死ねば、すべての機会は
 失われてしまうのですよ」
「わかりました」

 俺はルシオラと美神さんに相談するために、いったん後ろを振り向いた。

「ルシオラ、美神さん。俺……どうしたら、いいんでしょう?」
「横島クン、この事態は、何も想定していなかったの?」
「無理ッスよ。ただの人間が最上級の魔族になるなんて、普通は夢にも思いませんって」
「どのみち、選択肢は一つしかないじゃない。
 ルシオラを確実に助けるには、承諾するしか道はないのよ」
「そうなんですけど、心の準備ってものが……ルシオラはどう思う?」
「ヨコシマ、無理しないで。私のために、人としての生を捨てることはないわ」
「で、でも、そうしたらルシオラの運命は……」

 わかっているんだ。ルシオラを助けるには、それしか道がないってことは。
 しかし、あと一歩を踏み出す勇気が……

「ああ、もう! こんなところは、昔の横島クンと変わってないわね!
 横島クンは、せっかく助かったルシオラを、また死なせたいの?」
「とんでもないッス!」
「じゃあ、決まりね。アシュタロスの使命を引き継ぐことを、承諾しなさい。わかった!?」
「はいっ!」

 話がまとまったところで、俺は二人の最高指導者のいる方を、振り返った。

「あの、そういうことで、アシュタロスの使命を引き継ぐことを承諾します」
「よっしゃ! これで話がすべてまとまったわけやな。ところで、兄さんの名前は?」
「横島……忠夫です」
「横島はん。急いで任命式を行なうさかい、こっちに来てや。それから姉ちゃんたちは、
 ちーとばかし待っててな」

 魔族の指導者が手を伸ばすと、ポンと音をたてて俺と美神さんの合体が解けた。
 俺はルシオラを美神さんにあずけると、地上を歩くようにして空中を数歩前に進む。

「横島忠夫。汝をアシュタロスの後継者として認定し、その使命を引き継がせるものとする。
 汝、これを承諾せるや?」
「はい」
「このことを、神族の最高指導者の立会いのもとに、魔族の最高指導者の名において宣言する」

 魔族の最高指導者の体が、一瞬強く発光する。その光が俺の全身を通過していった。

「私からも祝福しましょう」

 神族の最高指導者が近寄り、俺の頭の上に手を置いた。
 こちらもその手が一瞬強く光り、俺の全身がその光に覆われた。

「これで任命式は終わりや。事件の後始末は部下に任せるさかい、協力してやってや。
 頼むで、横島はん」
「それでは横島さん、後日また会いましょう」

 俺とルシオラと美神さんが見守る中、神族と魔族の最高指導者は一瞬で姿を消して、その場を去っていった。


(続く)

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