ザ・グレート・展開予測ショー

皆本はんと一緒(そにょに)葵??歳


投稿者名:DOOR
投稿日時:(04/10/ 2)



 草木の匂いとともに、爽やかな風が吹き抜けた。鳥の声も聞こえる。
「……うん……気持ちええなあ」
 野上葵はフワフワと欠伸をすると、ウンと背伸びをして見せた。
「中々ええトコロやろ?」
「…………」
 皆本光一はそれに沈黙で応じた。椅子から立つ素振りすら見せない。
「皆本はん、そんなに怒らんといてえな」
 沈黙を守り続ける皆本に、葵は笑って見せた。
「これが怒らずにいられるか!」
 皆本はたまらず葵を怒鳴りつけた。
「僕をいきなり訳のわからんトコロに飛ばすなあ!」
 皆本の周りにあるのは、サイドテーブルのみ。

 ここはどこかの山の中。皆本はつい30秒前までバベルのオフィスの住人であった。



皆本はんと一緒 そにょに(葵??歳)−絶対可憐チルドレン



「まったく、少しは僕の立場を考えてくれ」
 一旦葵を叱り付けても、葵がシュンとした素振りをみせると皆本の口調がたちまち柔らかくなった。
 これだから葵を含めたチルドレンが皆、皆本にワガママを言うのだ。皆本なら、どんなワガママでも
笑って許してくれる。本当に自分たちは愛されていると分かるのだ。たとえそれが、妹に対するような
ものであっても構わない。
「勤務時間中にいなくなったりしたら、何言われるか。それにお前だって学校があるだろうが」
「…………」
 葵は嬉しそうに自分の腕時計を皆本に示した。それは12時を指していた。
「おヒルやで!?だったら、ええやろ?それにウチ、おヒルも用意してきたんや」
「…………」
 皆本は長く深い溜め息を吐き出した。もう葵のワガママを受け入れているのは間違いなかった。
「でも、葵。そんな格好したら、パンツ丸見えだぞ」
 それでも、皆本はテーブルに腰を下ろしてこれ見よがしに脚を組んだ葵を叱った。
「ええやん。だって、ここにいるのは皆本はんだけやし」
「あのなあ」
「それとも、皆本はん。ウチのショーツ、見たいん?」
「そんな訳あるかあ!」
「だったら、残念やなあ」
「おい、人の話を聞け!」
「だってウチ、今日ショーツはいてへんもん」
「え゛っ゛!?」
 思わず葵のミニスカートの奥に視線が吸い寄せられる皆本である。これはもうオトコの本能である。
 葵は皆本の視線を感じながら、ワザとらしく脚を組み替えた。
「…………」
 皆本の目に入ったのは、いつもどおりの純白のデルタ。たぶん、三枚一組980円、あるいは特売
で880円のユ○クロのショーツである。
「皆本はん、今すごくヤラしい目ェ、してはったで」
 皆本の視線に、葵はニヤニヤしている。何気に嬉しそうだ。
「…………」
 皆本は言い訳も出来ずに沈黙した。薫はともかく、葵にまでハメられるとは思わなかった。
「そんなにウチのアソコ、見たかったん?」
「………………」
「なら、遠慮せずに言ってくれはったらええのに。皆本はんなら、いつでも見せたるわ」
「……………………」
 皆本は一瞬怒鳴ろうとして、大きく息を吸い込んだ。半ば本気である。
 しかし、葵が一瞬身を縮めるのに気付くと、そのまま息を吐き出した。それでもヤラレっ放しになる
訳にはいかない。
「そう言えば、葵、最近薫に似てきたんじゃないのか?」
 皆本は葵の狼狽を確かめながら、付け加えた。
「言っとくけど、薫はふたりもいらないぞ。ひとりだけで充分だ」
「……し、失礼な。ウチのどこが薫に似てるん?」
 葵もムキになって言い返す。流石にオヤジ体質の薫と一緒に扱われるのはイヤらしい。
「だいたい、さっきの発言、逆セクハラじゃないのか」
「でも、皆本はん、ウチのスカートの中、見ようとしたのは事実やろ?」
「それはお前のことを心配してだな」
「そんなコト分かってるわ。はよ、おヒルにしよ?」
「…………」
 葵の申し出に、皆本に異議のあるハズがなかった。


「……こんなお昼もいいな」
 皆本は思わず呟いた。官庁街の暑苦しい空気の中(館内はもちろん空調は完備されているとは言え)
で食べる昼食とは大違いである。
 サイドテーブルに広げられているのはまさしくピクニック用お弁当。サンドイッチにから揚げなどな
どにサラダ、そしてデザートのフルーツである。かなり気合が入っている。葵の料理の腕前は紫穂に次
ぐのだから当然である。ちなみに、残りのひとりは当選圏外である。
「そやろ、皆本はんも気に入ってくれて嬉しいわ」
 葵は嬉しそうに頷いた。
「それに、この場所はウチのお気に入りや。ココに連れてくるのは皆本はんが始めてやで」
「そりゃ、光栄だな。でも、いつまで僕の膝の上に座っているツモリだ?」
「だって、テーブルに座るなって言ったのは皆本はんやで。ほかに座るところなんかあらへん!」
「…………」
「ウチは地べたに座らんといかへんのか?」
 皆本の言葉に従い、テーブルから降りた葵の座った先は皆本の膝の上なのだ。
「それとも立ったままで食えと?ウチ、そんなはしたないマネでけへん」
 皆本の膝に座るのは、はしたなくないらしい。
「それに皆本はんかて、ウチのような美少女とこうしておヒルできるんや。ウチに感謝しても、バチあ
たらんで」
 葵は皆本の両腕を抱え込むと、自分のウェストに巻きつかせた。頑として動く気はないらしい。
「………………」
 皆本は説得を断念した。こんな場合、抵抗は無駄であることを経験上熟知していた。さっさと食べて
さっさと帰るに限る。
「分かった、分かった、早く食べよう。だから、食い終わったら、さっさと帰してくれ」
 鼻をくすぐる甘いシャンプーの香り、そして伝わってくる体温から意識を反らしつつ、皆本は頷いた。
「んなこと分かってるわ。昼休みが終わるまでには帰ればええんやろ」
「当たり前だ、そんなこと。大体、薫や紫穂に知られたら、どう言い訳するツモリだ?」
「ふたりで一緒に謝ったらええやないか。なにしろ、皆本はんも共犯やから」
「おい、僕は純粋な被害者じゃないのか?」
「そんな小さいこと、気にせんでもええやないの?」
「止めてくれよ、もう。ともかく絶対に秘密だぞ」


「……ご馳走様、美味かったよ」
 お世辞抜きの皆本の褒め言葉に、嬉しそうな葵である。
「珈琲もあるで」
 葵は小さな魔法瓶を取り出すと、大ぶりのマグに珈琲を注いだ。
「そりゃどうも」
 広がる珈琲の香りに目を細めながら、皆本は一口啜って唸った。
「美味い!」
 ほとんど淹れたての味と香りである。
「また腕をあげたんじゃないのか?」
「ウチの珈琲には魔法がかかっているからや」
 葵は美味そうに珈琲を啜る皆本を熱心に見詰めている。
「お前は飲まないのか?」
 皆本は不意に顔を上げて、葵に訊ねた。
「ウチも飲んでええの?マグ、それひとつしかあらへんのやけど」
 葵は照れたような表情を浮かべた。
「大体お前が淹れたんだろう?」
 皆本はマグを手渡した。
 葵はマグを両手で包むように抱えると、ふうふうと珈琲を冷ましている。葵は猫舌なのだ。冷めたの
を確かめてから、ゆっくりマグに口を付けた。
「苦いわあ。皆本はん、砂糖なしでよう飲めるなあ?」
 それでも、葵はまた一口、二口とゆっくり珈琲を啜った。それから、マグを皆本に返す。
 葵は皆本がマグに再び口をつけるのを待って、皆本の耳元で囁いた。
「これって間接キスやね?」
 ゲホッ!皆本は思わずむせ返った。
「冗談言うなよ」


「へえ、仲のいいことだな」
「…………」
「「え゛っ゛!?」」
 聞きなれた声に振り返った皆本と葵が見たものは、怒りに髪を逆立てた明石薫に、歯を食いしばって
ふたりを睨んでいる三宮紫穂である。なまじ美少女だけに迫力は凄まじい。ふたりを見つけるため、よ
ほど猛スピードで飛び回ったらしい。いつもきちんとしたスタイルを崩さない紫穂でさえ、髪は乱れ、
制服はヨレヨレの状態。薫にいたっては言うまでもない。
「抜駆けなしって言ったのは葵ちゃんなのに、汚いわ!」
「ウ、ウチ、用を思い出したから一足先に帰るわ」
 葵は立ち上がると、素早く後ずさりした。
「オ、オイ!」
「逃げるな、葵!」
 慌てる皆本に、怒鳴る薫である。
「待て、葵!逃げるんだったら、僕も連れてけ!」
 慌てて葵を捕まえようとする皆本の手は空を切った。
「かんにんや、皆本はん。ふたりじゃ逃げ切れんさかい。後は頼んだで」
 葵は片手で皆本を拝むと、そのままテレポーテーションで消えた。
「に、逃げた……」
 取り残されて呆然とする皆本の腕を薫と紫穂が掴んだ。その目はまったく笑っていない。
「皆本、どう言うことだ、これは?」
「随分と楽しかったみたいね」
「……い、いつからいたんだ、お前たち」
「皆本さんが葵ちゃんとマグを渡したところから」
「べ、べつにワザとじゃないぞ。それに、お前らに誤解されるようなことはしてないぞ」
 皆本は冷や汗を浮かべながら、言い切った。
「誤解?わたしたちが一体どんな誤解をしているっていうの?教えて!?」
「…………」
「皆本さんがわたしたちに隠れて、葵ちゃんとふたりっきりで食事していたことを誤解というの?それ
も葵ちゃんを膝の上に座らせて!皆本さんがそんな人だと思わなかったわ!!」
「違うぞ、それは!葵が座ってきたんだ!」
「葵ちゃんのせいにする気!放り出すこともできたのに!」
 紫穂の怒りがますますふくらんだ。
「…………」
「それに葵ちゃんのスカートの中まで覗いてたクセに」
「ご、誤解だあ!」
「そう?でも、葵ちゃんのショーツに興奮したんじゃないの」
「…………」
「な、なんだとォ。あたしの特注品には欲情しないのに、葵の特売品には萌えるのか!?」
 薫は傷つけられたように叫んだ。
「違う!!」
 


 その夜、皆本家のリビング……。

「……ズルい、ズルいで、紫穂。ウチかて、そこまでしてへんのに」
 葵は目の前の光景に血涙を振り絞って、ハンカチを噛み締める。
「当たり前じゃないの、これは罰なんだから」
 紫穂は葵を冷たく一瞥すると、皆本に向かった。
「はい、あーんして」
 紫穂は料理を皆本に差し出した。
「…………」
 皆本は一瞬イヤそうな表情を浮かべた。
「いやならいいのよ、いやなら。バベルの食堂でやるから」
 紫穂の最後通告である。
「いえ、食べます。いえ、食べさせてください」
 固まった皆本はそのまま紫穂が差し出す料理を頬張った。味はまったく感じない。紫穂の手料理は美
味しいハズだが、今はまったくそう思えないのはなぜだろう?
 なにしろ、紫穂がいるのは皆本の膝の上。そして、紫穂は嬉しそうに自慢の手料理を箸で摘んで、皆
本の口に運んでいるのだ。こんなことを人前でやられたら、皆本は再起不能である。あるいはオホーツ
ク支部に転属間違いなしだ。
「……ところで、薫はドコに行ってるんだ?」
 砂を噛むような夕食をしながら、その場にいない三人目の行動に不審を覚えた皆本は訊ねた。
「薫ちゃんは浴室で皆本さんを待ってるわ」
「「…………」」

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