とらぶら〜ず・くろっしんぐ(12)
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(04/ 9/30)
本作は、GS美神と絶対可憐チルドレン(読み切り版)のクロス物です。
とらぶら〜ず・くろっしんぐ ──その12──
「最早、千の年月を経るだろう。 わしがこの地へと封ぜられてから」
その言葉に、タマモは自身の過去に思い馳せ、横島は少ない知識を呼び起こす。
「くだわらの道真だっけかな?」
殺され掛けたとは言え、彼が顔を合わせたのはほんの僅かの出来事。 そもそもからして、男の名前を率先して覚えられる質で無し、それだけ覚えていれば彼にしては上出来な方だ。
「菅原道真公か…」
感慨深げな声は、かの人の晩年がやはり追放だった事と無関係ではあるまい。
「知ってるのか?」
「直接 見知りは出来なんだがな。 公が流された頃、わしはまだ生まれておらなんだ」
問い掛けに頷かれ、しかしそれでも高島とは関係無かったかと、横島はほっと胸を撫で下ろした。 前世とは言え、この封印に自分が関っていたら、気分的に強く出難くなる。
その横で、紫穂は指折り数えていた。
「えっと903年だから、100年くらい足して…
それを今から引いて…」
納得した様に頷く。
道真の没したのは、西暦903年。 その後に生まれたとして、それでも存在を聞き及んでいると言うのなら、没年の少なくとも50年、大きく取って100年くらい後にはここへ閉じ込められた事になるだろう。 確かにだいたい1000年と言ったところになる。 ついでに言えば、更に一世紀ほどズレる為、前世である玉藻前としても両者と会った事はタマモには無い。
それにしても、そうやって数字で納得出来るのが一番年若い彼女だけと言う辺り、横島の一般教養の貧弱さを嘆くべきか、それとも紫穂の歳に合わぬ博識ぶりを誉めるべきか。
「公は、この身に較ぶるばまだましよな。 在らざる咎(とが)に鄙(ひな)の地へ流されたとて、死して怨ずる事も出来た」
そう教えられれば、タマモにも納得が行く。 時の権力紛争の結果、追われ滅せられた記憶が、うっすらとは言え彼女にも有るのだから。 目の前の老妖のその心境は、なんとなく判った。
「わしは、さとりの父と、白拍子の母との間に生まれた合の子よ。
じゃが母を同じくする弟の縁で、公家の端に列なっても居った」
ぽつりと告げる言葉は、自嘲の響きを持っていた。
「白拍子ってなんですか?」
これは紫穂も知らなかったか、問い掛けの言葉が出る。
「流れ巫女とも呼ぶな。 各地を放浪し、卜占を商い、芸を見せ、或いは春をひさいで生きていた者達よ」
「…? ひさぐ?」
「おぬしはまだ知らずともよい」
自嘲が一瞬、苦笑へと変わる。
言葉と態度に、横島はそれと理解して、こちらも苦笑い混じりに口を噤んだ。 最古の職業などとも言われるソレを、小さな子供に説明しよう訳にもいかないし。
「わしが参内出来る様になった頃、春宮に立てられた方は、聡明とは言えぬ方であった」
春宮(とうぐう)……東宮とも書く。
御所の東に建てられた御殿と、その主とを指す言葉だ。 五行においては春も東も木気であり、萌芽と言った若さをも表わす。 つまりは次の御所の主……皇太子の事である。
「対して、弟の父と血筋を同じくする、兄宮は粗暴の気が無くもなかったが大人(たいじん)の器でな。
それが良くなかった」
愚弟賢兄と言う程でなかったとしても、その類いの評価は贔屓を生む。
だが時の今上も春宮も、当時最大の覇を唱えた一族の出であり、その当主の傀儡のような物だったのだ。 不満を持つ者達が御輿上げようとするのも、それはそれで当然な流れと言えた。
「わしを、異能をも含めて、受け入れる程の度量すらも持っていた」
横島の顔に疑問が浮かぶ。
良くなかった、の言葉と、その後とが巧く繋がらなかったからだ。
上げかけた疑問の声を視線で黙らせると、更に言葉を続けた。
「仕えるべき方を見出した。 その感に任せ、宮の為にわしは全身全霊をもって仕えたよ。
わしが異能は、宮だけの為の目じゃった」
「あれ? 確かその頃って、陰陽寮だかの連中しか…」
「無論、一人の皇子の為だけに動く者なぞ、建前とは言え有ってはならなんだ」
言うまでもなく、陰陽寮によらぬ術師は違法の存在。
それが処罰の対象であると、横島はかつて実体験している。 美神に従って検非違使に追われたのは、まだかすかに記憶に残っていた。
それだけに、彼の理解は早い。
「って事は…」
「あんたがこんなトコに封じられてた原因はソコに有ったって事ね」
一時的に高揚していたからか、上を向いていた老妖の肩から、すとんと力が抜け落ちる。
「要らぬ事まで知り過ぎたのじゃ。 それが宮の不利を呼んだ時、わしはあっさりと切り捨てられた。 どうでもよくなったわしは、ただ追われるままにここに封じられた」
その言葉は、少なからず紫穂の心に鞭を打った。
葵と薫が自分を切り捨てるなど考えられない。
知り取った事実が、横島もそんな事をしないと教えてくれている。 異質さでは自分達以上のタマモも、厭い避ける事なぞ有るまい。
でも、BABELと言う『組織』はどうだろう?
桐壷や朧、そして水元には不安はない。 だけど、それ以外の人間には必ずしも信を持てないと、やはり紫穂は知っていた。 超能力者支援を訴える組織に於いてさえ、彼等の様な人間は稀なのである。
まして、いわく民間にあっては、『普通の人々』の様な集団や、彼等を支援する者達さえ居るのだ。
どうしたって、自分達の未来を重ねずには居られない。
そんな紫穂の屈託をよそに、横島達は話を続ける。
「その分だと、仕返しちゃろうとかそう言うのは…」
「無いな。
時を隔て過ぎた事もあるが、彼の宮はわしの封印の前に廃され、人知れず隠されたと聞く。 それ以外の無象なぞ、今とならずとも気に掛ける気にもならん」
横島達にも見て取れる。
そこにあるのが、恨みや怨讐の念などではなく、敢えて言うなら悔やみや厭世の類いだけなのだと。
「それじゃ、何がしたい訳?」
タマモが尋ねる。
この老妖が、浮遊霊に干渉していたのは間違い無いのだ。
だがその目的はと言えば、まるで判らない。 やった事と言えば、ここまで紫穂を呼び寄せた事。 それと恐らく、なのだが、今回の本来のターゲットであるテレパスの男にも、何らかの干渉はしているだろう。
紫穂の召喚以外、耳目を集める以上の何の役にも立っていない。 綻んでいる結界を崩壊させようとか、幾らでもやる事は有るだろうに。
「呼んでいただけじゃ」
「あん? 紫穂ちゃんをか?」
すっと紫穂の前に入り込む様に聞く。
多分に無意識の行動なのだが、そんな横島に自ら小さな身体を寄り添わせる。 触れてる腕から伝わる暖かさが、ごく自然に出る普通の扱いが、それだけで彼女にはとても嬉しい事だから。
「その娘だけではないがな。
さとりの裔を、その力で苦しむモノ達を呼んでいたのじゃ」
「どうしてなんですか?」
呼ばれた身となれば気になるのも道理で。
横島の影から、顔を出す様にして紫穂は訊いた。
「わしとな、同じ様に苦しむモノが居るならば、共に行こうと思うてな。
わしが創り上げたマヨヒガへとな」
ゆらゆらと揺らめく様な、仄暗い球形の穴。 そうとしか言い様の無い背後の何かを指し示しての、彼の答はどこか満足気だった。
「なんだ、そりゃ?」
「この世に在って、この世に無き地よ」
「異空間を創り出したってぇの?」
頷きを返され、タマモは驚きを浮かべた。
最早、抑え付ける事も出来ず、ただ隔てるだけの綻び掛けた結界の中ではある。 だが、そうで有っても、自らの為の安らげる異界……マヨヒガを創り出すのはけして簡単ではなかった筈だ。
それ程に厭世していたのであろう。
奉じたのは彼の宮のみ、その頸木とて断ち切られ、現世(うつつよ)に縛られるのはもう厭いていた。
「そうして、人の世界との決別を成せる術が完成の目を見た時、不意に思ったのじゃ。
さとりを持つのは、自分だけでは有るまい、とな」
自身はハーフだが、先祖返りなりを起こす者も往時から居たのだ。
それに思い至った時、何かをせずには居られなくなった。
「とは言え、創る事に力を注ぎ過ぎた。
結界を乗り越える力も残っておらぬ以上、この身を粉に捜し回るも望めず、漂うモノ共に思いを託すが精々だったのじゃ」
「なんつぅか、ハタ迷惑な…」
横島にしてみれば、そう思ってしまうのも仕方有るまい。
それが本当なら、そもそもの誘拐事件はともかく、事故を起こしてドライブインへと立て篭った一連の流れは、目の前の老人の気紛れの結果だと言う事になるのだから。
不幸だったのは、最初にメッセージを受け取った男の精神が、少々ままならぬ状態だった事。 浮遊霊に触れ、そこから流し込まれた意識に、ギリギリのバランスで維持されていた彼の心は完全に傾いてしまったのだ。
意図を理解されぬまま、ただ事だけを大きくされてしまったのは失敗だった。
「言うてくれるわ」
それが判ってるだけに、ただ苦笑する。
あまりに率直で正直な感想に、怒る気にもなれなかったと言う事もあったが。
「で、じゃ…
おぬし、わしとゆかぬか?」
真っ直ぐに見据えられ、紫穂は戸惑い黙り込んだ。
【続く】
────────────────────
……ぽすとすくりぷつ……
つまりは、私が開き直る為の時間だったと言う事か(^^;
集中連載の第1話で、次回のと似た遣り取りをされたのが、遅れた要因の一つなのは否めなかったり(苦笑) ベタな展開ではあるんで、それ以前の遅れの所為と言われりゃソレまでですが。
…自分のHP作りの為とか、色々有ってってのも有りますし(苦笑)
それはともかく、半年開いちゃってるんで内容が繋がらない方、ゴメンナサイ(__)
(11)は過去の78の中。 序でに言うと(1)は67の中ですんで、過去展開予想の方で最初から一通り見れます(^^;
今までの
コメント:
- ついに出ましたね、とらくろ最新話!
逢川さんのHPも随時チェックしとりますが、GTYに先行公開とは、うれしいかぎりです。
サンデーに絶チル連載されそうで楽しみですけど、こっちも楽しみにしてました。
今話の感想
>そんな横島に自ら小さな身体を寄り添わせる。
紫穂ちゃん萌えですw (Gすぴーど)
- とらくろ・・・最近読み直したばかりですので、大丈夫ですじょ。
がんばってくださいな。 (karin)
- 始めまして。
横島のナチュラルなやさしさ。いいですね。
それにしても、紫穂ちゃん日本史が得意科目ですか。
(ms112)
- 一番最初から読んでおりますが、レスをつけるのは初めてです(スイマセン…
またどんな悪事を企んでいる大妖怪かと思いきや…実は悪いヤツでは無かったのですね…
平和的解決を迎えられそうで何より……
…でもあと一つか二つくらいはナニか起こりそーな気も… (偽バルタン)
- 祝・活動再開(^^
いや〜、待っていました、HPを開設されたようですのでそちらにもうかがわせてもらいます。
要するのに、今回のごたごたは隠れ里を作ったけれど一人で引きこもるのが嫌だから仲間を見つけたかった孤独老人のお茶目な我が侭が原因だったんですか〜
>「白拍子ってなんですか?」
>これは紫穂も知らなかったか、問い掛けの言葉が出る。
>「流れ巫女とも呼ぶな。 各地を放浪し、卜占を商い、芸を見せ、或いは春をひさいで生きていた者達よ」
一時期、美神さんもやってましたね〜 白拍子
色々な物の続きを楽しみにしています(^^ (黒川)
- Gすぴーどさん
先行って言うか、こちらで始めた事ですし、まずはこちらで形にすべきだと思ってますんで(笑)
週刊誌上での連載は終わり、そう違いも多くなかったけど、水元の名が変わっちゃったのが(^^; …なので、読み切り版との注釈が必要だったり。
紫穂は、ほら、本作のヒロインの一人ですし……まだ10歳ですけど(^^;
karinさん
毎度繰り返すばかりですが、今度こそ完結への定期掲載を果したいと思ってます。 もう結末まですぐですが、お付き合い下さいませ(笑) (逢川 桐至)
- ms112さん
はじめまして。 日本史って言うか、イメージ的に薫=保険・体育系、葵=経済・理工系、紫穂=語学・文化系じゃないかなぁと(笑) 何にせよ、薫はちょっと何とも言い難いけど、葵・紫穂は年齢より高い学力を保持してると思うんです。
偽バルタンさん
あまり気になされずに(笑)
本人の悪意なく、ただ能力故に不幸になった存在の方が、身につまされて彼女達には強く響くだろうなぁと。 ソレを歴史に合わせようとして、四苦八苦した揚げ句に細いトコは省略したんで、中途半端な蘊蓄モノになっちゃってますが、今回も(爆) (逢川 桐至)
- 待ちますとも待ちますとも・・いくらでも待ちますとも!!(激爆)
復活おめでとうございます〜
GS美神とチルドレンのクロス長期連載って本当に少ないので大変楽しみにしてます〜それが横島×タマモの神である逢川さん(←神格化)の作品とくればもう・・私は辛抱たまりません(笑)
なんとも次回が気になる引きでのラスト・・・あぁ・・早く続きが読みたいですね。紫穂が可愛い、可愛い・・・あぁ失血死してしまいそうで(以下略)
老妖と紫穂の意外な接点・・次回も目が離せませんね。がんばってください〜 (かぜあめ)
- 黒川さん
そう言う要約は……はっきり言って、7割方 合ってですけど(苦笑) 同族に対する親近感ってのもそれはそれで有るから、経験から来る近親への憐憫みたいなのも大きいんで。
美神がやってたのは、巫覡ですね(^^; …あの時代における、モグリのGSの。 売笑の類いが出来るほど、彼女スレてませんし(苦笑)
かぜあめさん
神ってのは、ちょっちカンベンください(^^; 取り敢えず、先はもう見えちゃってるんで、ぼちぼちと公開していきます(__)
私的に絶チルのヒロインは薫ですが、同時に一番可愛いと思ってるのは紫穂なので(笑) (逢川 桐至)
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