ザ・グレート・展開予測ショー

いいコってどんなコ?(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:偽バルタン
投稿日時:(04/ 9/30)

「皆本はん…そっち…行ってもええ?」

少女の長いストレートの黒髪は背中まで伸びている…
フチの無い眼鏡の奥に輝くのは、ネコを思わせるつり上った瞳…
僕…皆本光一の担当する“ザ・チルドレン”のひとり、超度7の瞬間移動能力者“野上 葵”が、僕にそう話しかけてきたのは…任務終了後、本部へ帰還途中のヘリの中での事だった。



いいコってどんなコ?



“ザ・チルドレン“専用の移動ヘリの後部デッキには僕と子供等の4人だけ…局長と柏木さんは居ない、ふたりとも今日は本部だ。
葵の申し出を受け、僕と彼女は並んで座っている…僕達の間は肩が触れ合う位の距離…
向かいの席には、薫と紫穂がふたりで寄り添うようにして、くーくー可愛らしい寝息をたてている。
如何な最高レベルの超能力者とはいえ、“ザ・チルドレン”の3人はまだ10歳の少女だ。
任務からの帰りは、疲れからの睡魔に負け…こうしてヘリの振動に身を任せ、ローター音を子守唄に寝てしまう事が多い。
…いつもなら、葵もその中に入っているのだが…

「なぁ…皆本はん…“いいコ”って…どんなコやと思う?」
「…は?」

僕にはその質問の意味が解りかねた…そして、それを問う葵の真意も…
“いいコ”だなんて…何故今になってそんな事を?
普段から葵は…それにあとのふたりだって、周囲の事等お構いなし…我が侭意のまま傍若無人に振舞っているくせに…
でも…僕を見つめる彼女の表情はとても真剣なもので……何だか凄く痛々しい感じがした。
…それは10歳の女の子がしていい貌(かお)じゃない…そう思った…

「…絶対 泣かないのが“いいコ“なんかな?
ウチ…泣かん方がええのん?
…何があっても…どんなコトされても…」
「バカ言うな。泣いたっていいんだ…
でもな…葵や…薫、紫穂達が泣いてると何だか僕まで悲しくなってくるかな…」

慎重に慎重に言葉を選び、そして出来るだけ優しく話しかける…
面には出さなかったが僕は内心とても緊張していた…何故ならこの会話は、失敗が許されない…
僕の何気無い台詞が、心無い一言が、下手をすれば、取返しの付かない程に葵のコトを傷つけるコトになる…例え僕にその意志が無くとも…そう思ったからだ。

「じゃあ…“いいコ”って強いコのコト?
薫みたく、怖いモンなんもないよーな強いコがええんかな?」
「…葵、怖いモノが無いヒトなんて本当にこの世界にいると思うか?」

おどおどとした…何かを怖がってるかの様な…それでいてとても必死な…普段のクールな彼女らしからぬ顔。
でも…僕は段々と…葵が何を言っているのか…いや…何を求めているのかが解ってきた。

「…怒りんぼは“いいコ”とちゃうよね?
皆本はん……怒ってるウチなんかキライやろ?」
「とんでもない…
怒ってる時も…笑ってる時も…僕は葵の事が大好きだぞ?」

葵には…いや、葵だけで無く、薫にも紫穂にも…“ザ・チルドレン”の彼女等には『居なかった』んだ…

「でも…でも…
ウチがバカなコトばっかしてると…皆本はんも…イヤになっちゃう……よね?」
「どんなにバカなコトしても…葵は…
いや、葵だけでなく、薫も、紫穂も…君たちは僕の宝物さ。」

見返りを求めず、利害も損得も関係なく…ただ傍に居て見守っていてくれる…ありのままの彼女達をまるごと全部受け入れてくれる様な…そんなヒトが。
なぜなら彼女達は、他人は勿論、血の繋がった両親や兄弟姉妹たちからも疎まれて育ってきたのだから。
…持って生まれた超度7という“チカラ”の為…それは、本人が望んだものでは無いというのに。
そして…彼女等はそれを心の何所かで自分の所為だと思っている…
自分たちに悪い所があるから…だから自分たちは受け入れてもらえないのだと…

「……ビックリする程のおバカでも?」
「どんなに呆れ返るほどのおバカさんでもさ…」

バベルに来て…同じ境遇の仲間や、局長に柏木さん…そして僕に出会うまで…葵達はどれだけの孤独感と疎外感の中で生きてきたのだろうか…それはきっと僕なんかの想像を絶する物に違いない。

「皆本はん…」
「…でも一寸安心したよ…普段バカなことやってるって、ちゃ〜んと自覚はあったんだな。」(笑)
「も、もぅっ!そんなん知らんわ!!茶化さんといてや…」(赤)
「ははは…」

良かった…葵の顔に…ほんの少し余裕が戻ってきた…
…こう思うのは、もしかしたら僕の自惚れかもしれないけれど…
葵は不安だったんだと思う…そして怖かったんだと思う。
今までと同じ様に…僕等もいつか自分たちから離れていくんじゃないかって…だから…“いいコ”だなんていいだしたんだ…
葵の…この縋る様な、必死な表情…それは、周りに嫌われない様に本当の自分を殺して “いいコ“になろうとする…或は”いいコ“を演じようとする子供のものだったんだ…

「そ、それじゃあ…ウチが…ウチがもっと素直でカワイイコやったら…
…皆本はん……嬉しかった?」
「はは…まさか…葵は…今のまんまでいいんだよ…」

…でも大丈夫…傍にいるよ。
最も…頼りない僕なんかじゃあ他には何もしてあげられないだろうけど。
君たちが望む限り…僕は…いや、きっと局長や柏木さんだって、君達の全てを受け入れ、傍で見守り続ける。

「じゃ、じゃあ…皆本はんは…ウチがどんなコやったら…一番嬉しいのん?」
「葵は…葵らしくしてくれてるのが一番だよ…今のままね?
だって僕は、今の…“そのまんま”の葵が大好きなんだからね…」

…だから…無理に“いいコ”になんかならなくていい…そのまんま…今のままの葵でいいんだよ。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」

がばっ…
いきなり…葵はボクの身体にしがみ付いた。
僕の胸に顔を埋めて…ふるふると身体が震わせて…
…彼女は泣いていた。


「…葵…」
「も、も少しだけ…ぅ…このまま…ぁ…
本部に…グス…着くまででええから…ひぐ…」
「……ああ…解った…」

漏れ聞こえる小さな嗚咽…
僕は、震える葵の小さな背中に手を回し優しくなでつづけた…
いつまでも、いつまでも…





……と……ココで終ればいい話だったんだけどな…

「あ、あぁ〜ッ!!テメこの葵!何してやがる!!」
「…ひ、ヒドイ…葵ちゃんまで抜駆けするなんて…!」
「………」

…あぁ…薫達がおきてしまった…
僕と葵は抱き合ったまま…言い訳できない体勢のままだ……いや、断っとくが、決してやましい事は何も無いぞ!
…最も…こんな時は何をいっても無駄だって事は、コレまでの経験からよぉく解っているんだが…
ぎゅうッ…
…無言のまま…僕にしがみ付く葵の手に力がこもる…
あぁ…そんな、火に油を注ぐようなコトを…(汗)

「む、ムキーッ!はーなーれーろーッ!!」(怒)
「葵ちゃん…離れて!皆本さんも…いつまでそーやってるつもり?」(怒)
「イヤや!皆本はん、ず〜っとこーしててもええって、ゆーてくれたもん!」

な、待て葵!本部に着くまでじゃあなかったのか!?

「なッ……んじゃあたしも!あたしも抱っこだ!皆本!!」
「わ、わたしも!皆本さん!!」
「いやーっ!やめぇや!ココはウチの特等席や〜!!」

そういって、僕にしがみ付いてくる薫と紫穂に、ますます腕に力をこめる葵…
ま、まて…落ち着けみんな…グハッ!?…く、首はよせ…絞ま…苦…グェ…

……

本部に到着後…僕を向かえた柏木さん…
首に、背中に、身体にと…ぺたっと3人を張り付かせた僕を見て目が点になっていた…
…ったく…コイツラときたら…はぁぁ…



…終…

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