ザ・グレート・展開予測ショー

I am her child, I am her brother


投稿者名:veld
投稿日時:(04/ 9/30)

 僕と彼女の出会いと。
 僕と先生の出会いは一緒だった。





 初めて出会った時。全てを見透かしているような眼差しが気に食わなかった。自分が子供だと思われることが嫌だった。
 今でもそれが子供の背伸びゆえのものであったとは思っていない。冷めた視線に映る彼女の姿は、落ち着いた大人そのものだった。自分の好きであるとは言えない、大人の。

 彼らは子供を見下した。正当な評価をしてはくれなかった。
 子供だから、それだけで、認めない。
 子供だから、それだけで、受け入れない。

 従順であったのは、反抗が無意味であることを知っていたからだった。
 反抗をすることで、馬鹿な子供、と思われるのは屈辱だった。
 反抗をすることで、得られるであろう、経験をフイにしてしまうのは嫌だった。

 僕は彼女に学び、そして、腕を磨き、そして、強くなった。
 謙遜も、驕りもしない。僕は強くなった。
 ただ、それは、彼女の力になれるほどのものではなかったのだと、僕は気付いていた。



 いつからだろう。
 視線の中に含まれていた、『優しさ』に気付いてしまったのは。
 いつからだろう。
 頑なだった、僕の心がゆっくりと解けていったのは。
 いつからだろう。
 僕は、彼女が好きになっていた。
 いつからだろう。
 初めて、自分の幼さが、憎らしく感じたのは。



 大人だったら。
 彼女は僕を受け入れてくれたろうか。
 そんなはずはない、ってことは分かっていた。
 だから、僕は子供でありつづけた。
 彼女の子供で、ありつづけた。








 彼女には子供がいた。
 初め、僕はその子供に何の感情も抱いてはいなかった。
 敬意も、何も、抱いてはいない彼女の子供。
 僕には無関係だ。そう、思っていたから。
 でも、彼女は僕に言葉をくれた。
 彼女は僕にふれあいを求めた。
 わずらわしい思いと共に。
 僕はゆっくりと彼女を受け入れていけた。









 どちらが先だったろう。
 僕が認めることは出来たのは。
 どちらが先だったろう。
 先生か、それとも、彼女か。
 どちらかは分からない。ただ。

 僕は、子供だった。
 僕は、お兄さんだった。

 僕は―――













 目を開ければ。
 ぼんやりと窓の外が見える。まだ、朝が明けきらない、闇の中の空模様。
 固い机の感触と、毛布の温もり。―――そうか、また、僕は机を枕にしてしまったのか。
 最近、家に帰ってない・・・仕事は探せば幾らでもある。僕が出来る事は、幾らでも。
 伸びをすると、全身の骨が鳴った。最近身体を動かしていないから―――灰皿に溜まった煙草の吸殻を見つめながら、苦笑する。
 たまには外に出てみるのもイイかもしれない。気分転換にもなるだろうし。
 と、顎をさすると、ちくちくとした。



 手の中の毛布を机に置いた。
 誰が掛けてくれたのかはわかってる。きっと、彼女だろう。
 僕を心配して、見に来てくれていたのかもしれない。
 もう、子供じゃないんだから。心配なんてしてくれなくても良いのに。



 外套を羽織ってビルを出る。隣に立っている令子ちゃんの事務所は、いまだ朝の気配の見えない空を塞ぐように高々と見えた。
 冷たい風が吹いた。そっと、襟を寄せる。行き過ぎていくのを待ってから、僕は足を進めた。
 変わっていく街。人も、そう、変わっていく。
 僕が子供の頃、彼女もまた、子供だった。
 彼女は僕を好きだった、と言った。あの頃とは変わってしまった笑顔を向けて。
 僕も彼女が好きだった。―――彼女とは違う、『好き』だったけど。
 そして、帰ってきた時、彼女の心は、僕には向いてなかった。
 それは、時間のせいじゃない。
 運命、ってものなのだと、思う。



 もしも、もしも、もしも―――。
 何度思ってみても。
 それは仮定でしかなく。
 現実にはなりえない事ばかりで。

 もしも、僕が彼女と同じ時を生きることが出来ていたら。
 もしも、彼女が僕と同じ時を生きていたなら。
 もしも。そう、もしも。
 僕の心が、彼女ではない人に、向けられていなかったなら。



 涼やかな風の中に爽やかに透き通る空気は、妙に痛かった。
 泣き出しそうな空の下で、僕はベンチに座って欠伸をしてる。
 背もたれに縋って、まどろむように。
 たまには、こんな朝も悪くはない。
 そう、思いながら。






 僕の頬を撫でる風は優しく。

 一人取り残された僕は、微笑みながら。

 祝福、の意味を考えていた。





 僕は君を祝福してる。
 僕は君の幸せを願ってる。
 僕は先生の子供だった。
 僕は君のお兄さんだった。
 僕は君の幸せを信じてる。
 僕は君を祝福してる。



 そう、時間が過ぎ去っていた。
 僕がそれに気付いたのは、つい最近だった。
 彼女の素直じゃない心が向いているのは彼である、そう、気付いていたはずなのに。

 祝福なんて、出来ない。
 と、思ってた。
 でも、どうしてだろう。
 時経つ内に僕は、不思議なくらいに。
 彼を認め、彼女を認め、そして、そんな僕自身を認め始めた。





 僕に、そんな権利はない。
 そんな、悟りをしたわけじゃなくて。
 僕は、きっと、分かったんだと思う。

 彼女の幸せ。
 それが、僕の幸せなんだと。



 うつらうつらと船を漕ぐ。
 僕の傍に近づく影。
 大丈夫ですよ。僕は。
 遅れませんから。
 ちゃんと仕事に行きますから。
 だから、もう少しだけ眠らせてください。
 もう少しだけ、夢を見させてください。
 幼い頃の夢を。



 僕が、まだ、幼かった頃の夢を。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa