春風――If――
投稿者名:veld
投稿日時:(04/ 9/29)
―――before:spring wind
「おキヌちゃんが嫁さんになってくれると最高だろうなぁ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「えへへ・・・照れますね」
遮るものは何もなく。
ただ、二人は微笑み会っている。
いつもは雑然としている彼の部屋は綺麗に整っており、彼の額には汗が浮かんでいる。
彼女の横の青白い火の玉も、心なしかいつもよりも小さく、揺れている。
彼の前にただ一膳だけ置かれた箸。
そして、並べられた食器の上には美味しそうなおかずとご飯。
「頂きます」
と、呟いて。
彼は食事を始める。
それを眺める少女の眼差しには、ただ。
優しさしか含まれてはいない。
―――ごちそうさま。
と、囁いて―――彼は微笑む。
彼女もまた「お粗末様でした」と、微笑んだ。
―――一緒に食べれたら良いのにね。
そう、言う彼に彼女は頭を振って。
―――私は見ているだけで幸せですよ。
と、嬉しそうに言った。
彼は少し寂しそうに。
彼女の手を取ろうとして。
すり抜けてしまった自分の手を眺め。
きょとん、と首をかしげる彼女に、何も出来ない無力な手で自分の頭を掻きながら。
「・・・ありがとうね」と、それだけ言った。
何かしてあげたくても出来ない。
望む事はしてあげたいのに。
彼女は何も望まない―――望む事が出来ない事だと思っているからなのか、それとも、ただ、望まないだけなのか。
「どういたしまして」と、照れくさそうに俯いて。
「それじゃぁ、私、帰りますね」と、言った彼女の手を。
もう一度だけでも手繰り寄せる事をしなかった自分の弱さが。
彼には悲しかった。
―――遮るものは何もなく。
―――ただ、二人の住む世界が違うだけ。
―――報われない、報えない、そんな恋。
「・・・俺って・・・GS失格だよなぁ・・・」
汚れた天井を眺めて、布団も敷かずに横たわる。
つい、口から漏れた言葉の意味のなさに唇を噛んで。
そのまま、意識を落とした。
sleeping:by his pillow
「ありがとうは―――私の台詞です」
貴方に会えてよかった。
―――彼女の声が遠くに響く。
「あなたの笑顔が、あなたの優しさが」
私に春の陽気のような温もりと、たんぽぽのような晴れ晴れとした心をくれる。
―――溶ける様な感覚に、じんわりとしみこむ悲しみが切ない。
「たとえ・・・あなたと一緒の時を過ごせなくても」
あなたに私の全てをあげたくても、出来ない―――それでも。
―――彼女の背中が不意に見えた。それは視覚を通さない、不思議な情景。
「あなたが、好きです―――横島さん」
―――きっと・・・俺もだよ、おキヌちゃん。
after:harukaze
春風に飛ばされたたんぽぽの花びらを眺め、彼女は空をふと眺めた。
隣で、蒼穹を濁す黄色の行方を見ていた彼と目が合った瞬間に。
可笑しくて、笑う。彼は戸惑っていた―――が、すぐに苦笑した。
そして、そっと、その手を取って。
彼女は少しだけ、笑顔を消して、彼を見つめる。
戸惑いは一瞬―――互い、顔を紅潮させて。
顔を、近づける。
―――ずっと忘れていた。
(そうでしたー――思い出しました)
―――私はあなたが好きでした。
―――彼女は強張った頬をそっと緩め。
―――彼を、また、見つめる。
―――彼は照れくさそうにそっぽを向きながら。
―――握った彼女の手にこめる力を強くする。
「横島さん」
「何?」
彼女がそっと、唇を開いた。
「・・・大好きです」
―――maybe:happy end
今までの
コメント:
- 嗚呼麗しの古き良き時代。人魂こそ彼女の最高の装飾品だった、あの時代・・・。
あの頃の『If』はいまや現実で、すぐ傍に感じられる温もりの貴さを、二人はいつしか忘れていたわけで・・・。
まあつまり、決して触れ合うこともなく精々丹精込めたお味噌汁越しくらいでしか愛を伝えられないプラトニックな愛こそがこの二人の醍醐味だったのにあなた人間になっちゃったらなんでもありすぎて逆に萎縮しちゃいますよ少年誌的にぃぃ!!・・・と(滅
ハッピーエンドでした、多分じゃなく、絶対。 (ひさ)
- まだおキヌちゃんが幽霊だたときの…二人の想いがとても切ない…
だからこそ…最後の幸せそうなふたりの雰囲気がもー最高です。 (偽バルタン)
- いや、ホントに文章巧い人って妬ましいですよね(爽やかに駄目挨拶)
大好きな人に、触れられる。
そんな当たり前の幸せを手に入れたおキヌちゃんが健気でもー(滝涙
二人の「これから」が幸せであるよう願わずにはいられません…… (龍鬼)
- いや、そのなんといいましょう
大好きです、ツボでしたっ/・∀・)/ (BB)
- …うふふふふふ。(あまりにも幸せな気分すぎてハルカさんは壊れたようです。)
ん――――――っ!もうっ!!って感じのおキヌちゃんの優しさと温かさ。
そして普段何気ない幸せな日常が暖かいタッチで描かれて………ごちそうさまでした(´▽`) (ハルカ)
- ありがとうございました(笑)。いえ、まずそれを申し上げたかったんです(おい)。ココも久しいのですが、流石に、「見てみようか」とか思って1ヶ月ぶりに見た1作目でこんなヒットが出ようとは…。ふふふ、おキヌ者の愛の勝利です(謎爆)。いいですね、最高です。物理的には触れられる、けれど、心は決してそれ以上に触れ合えないことを理解している、それど大切な思いは抑えられない。心に染み入ります。あう、涙が。 (マサ)
- 復活してみれば、veldさんの投稿が3本に・・・コメントが遅れて申し訳ありません。
・・おぉ・・・これちょっと・・凄すぎです(感)こんな作品をまさに待っていたという感じで・・
ど・・どうして、veldさんの作品はこうまで涙腺を刺激してくるんでしょう。
切ない・・そして優しい(爆)ああああああぁ・・うまく感想を書けない自分がもどかしいです〜やっぱり恋っていいものなんですね・・傷が癒えたらまたしてみよう・・(爆)
>>「あなたが、好きです―――横島さん」
>>―――きっと・・・俺もだよ、おキヌちゃん。
ミラクルヒットでした。切ないです・・。
本当に素敵な作品をありがとうございます〜うぅ・・veldさんの才能がうらやましいです〜 (かぜあめ)
- どれほど互いに思い合っていても、二人の間に存在していた絶対的な隔たり。
それを前に諦観を抱きながらも、思い合う事を止めたりはしなかった日々。
そして、隔たりの不意に無くなった時、その日々の思いが忘れられがちになって――
春風の中であの日あれ程望んだ手触りと共に思い出す。
過去と未来を交えた中に、大事なものを揃える事への難しさともどかしさが
思われます。
状況と心、共に移ろい易く、故にハッピーエンドにはmaybeが付く。
そんなもどかしさが。
しかしそれが、二人が望んで得た幸福だと言う証でもあるでしょう。 (フル・サークル)
- ・・・思わずにんまりと。口元が緩む。
そんな光景を読む事が出来た事を幸せと思います。
シンバルでした。 (cymbal)
- コメントを頂いたにも関わらず、お礼を言うのが遅れてしまいました。なんと言う不義理なことであろう、と自己嫌悪しつつ、反面、改めて喜びに浸りながら、コメントを返させていただきたい、と思う所存です。
・ひささん
人間になったらなんでもアリです。というひささんの言葉が私に齎したのは、本当にもう何て言っていいのか、って言うか、言ったら発禁になっちゃうね、的なものでした。
との一言を添えさせていただきつつ、読んでくださってありがとうございます。
あれです。幽霊から人間になったと言うのに、キャラが弱くなった、だの、幽霊のおキヌちゃんの方が良かった・・・だの―――。
貴様ら・・・○×△◇ッ!!と、思っていた私でございます。
ので、書きました。ええ、自己満足ですとも。 (veld)
- ・偽バルタン
重なり合うことに、肉体も魂も関係ないのかも。
と、そんな考えも浮かびましたが、実際のところ、触れ合えない、という現実は重いと思うのです。いえ、ひささんの言う『ぷらとにっくの真逆すぎて発禁』などということではないのですが。
前半と後半、で、二人の間の幸せ、というものがどういう違いをもつか、と問われれば漠然としか答えられませんが、しかし、私も後半の幸せの方が良い、と思います。思いました。自分の書いたものなのに・・・(コラ
読んでくださってありがとうございました! (veld)
- ・龍鬼さん
おはようございます!文章を書くのが巧い龍鬼さん!ねたましくて泣きそうです。喰らえ嫉妬の炎!(『オッス、オラ鈴奴』とタメ張るくらいに駄目すぎる挨拶)
>大好きな人に触れられる
(ほけー、としながら鈴奴はよだれをたらしている・・・と、不意に我に返り、口元を無造作に拭いつつ)・・・あっ、いえ、違うんですよ。あれです。得ろ意意味は皆無ですよ。あくまでぷらとにっくですし、このSS!ええ、ぷーらとにーくーらヴ(略
そうですね、当たり前の幸せ―――なんですよね。なぜか新鮮に感じるこの言葉。そうですね、当たり前なんだ―――。だから、こんなにも大切にしたいと思うのでしょうか。
読んでくださってありがとうございます。・・・やるぜ!(何を? (veld)
- ・BBさん
突きました!ツボを!(倒置法
あれですな、大好きです、とか照れますな(間違った反応
とにかく。
読んでくれてありがとうございます!
・・・ちょいと短めで(笑 (veld)
- ・ハルカさん
何気ない幸せ、ささやかだけど、当たり前の幸せ―――。
それが一番、難しいものなのでしょう。得がたいものなのでしょう。
と、結構使い古されていそうな事を言ってみたりしつつ―――。
でも、実際、そうなんだろうな。とも思うわけで。
だから、おキヌちゃんはいとおしいのだと、思います。
もう、大好き!
読んでくださってありがとうございます・・・勿論はるかさんも大好きー! (veld)
- ・かぜあめさん
年甲斐もなく三本も投稿してしまいました。槍でも降るんじゃないか、と思いましたが、代わり、台風がきました。私のせいです。多分。
まだ若いはずなのですが、涙腺が死ぬほど弱い私ですから、書くものにも涙腺を刺激する成分とかが多分にしみこんでいたりするのではないだろうか―――と、心底真面目に考えたりもしましたが、そんな恐ろしい事があったら恐ろしいので―――きっと、描いたキャラのおかげだと思うわけです。
>「あなたが―――
私的、私も好きな部分です。書きながらにやにやしました。困ったものです。
ちなみに、私は痛切にかぜあめさんの才能を欲しているわけで―――だって(以下六千五十行にもわたる嫉妬交じりの呟きを省略) ぜぇはぁ・・・読んでくださって、あ、ありがとうございました(土下座 (veld)
- ・マサさん
ふふふっ、一つ飛ばしたのはなぜか、と問われるかもしれません。
その問いには敢えて答えるような無粋なまねはしません。
その代わりに一言だけ―――ごめんなさい(駄目
>おキヌ者の愛の勝利
まさにです。いえ、誰に勝ったのかは分かりませんが―――とりあえず、私は勝った気がしております。
>心に触れ合えない
そういう見方もあるんだな、と気づかされました。そういう意味では、前者と後者の幸せの形の幅、感じ方も大きな違いがあるんですね。もしかすれば、前者の方が幸せであったのかもしれません。見方の違いですが―――。
でも、やっぱ、幸せなんだろーなー、と嫉妬の炎が・・・(ぇ
読んで下さってありがとうございました! (veld)
- ・フルさん
maybeとしたのは、未来に対する絶対的なものをつけたくはなかったからです。でも、私は必ず、くっつく・・・(超無粋な言葉)と思っているわけですが(笑
好き、嫌いとか、そんなものでもないのかも。と、今、ふと思いました。前者の場合の二人の関係はもっと深いのだと―――書いた人間がこんなこと言ってたら駄目なんでしょうけど(笑 口に出して言わせちゃってますし(駄目
でも、具体的な形、というものはやはり後者なんでしょうね。と思うわけで。漠然と、でも、深くピュアな、ぷらとにっくなもの。素敵です。(だから書いた人間が以下略
読んでくださってありがとうございます! (veld)
- ・cymbalさん
にやりんぐ―――(ぇ
ささやかなれど、微笑みが浮かぶ・・・
そんな話が描ければ・・・。
幸せです。
読んでくださってありがとうございました! (veld)
- 追記、っていうか何ていうか。
世界が違う二人だから、歩ける道もまた違うのでした。
一概にそう言い切れるものでもないでしょうが、恐らくは、行き先はそうであったはずです。
―――if:もしも、おキヌちゃんが生き返ることのない世界だったら―――。
魅力的な想像ではあると思います。が、それが必ずしも、望ましいとも思えません。原作の流れがベストであるか、と問われれば、やはり私の中で幾分の戸惑い、惑いも生まれるのですが―――。しかし、生き返る、というただそれだけで、未来は拓けるように思えたのです。なぜか、と問われればそりゃ―――あなた。
死ぬまで一緒にいられるから―――。(矛盾 (veld)
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