ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(28)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 9/28)

『君ともう一度出会えたら』 −28−



》》Reiko


「ルシオラ……なぜ……なぜなんだ……」

 私の目の前で、横島クンが泣き崩れていた。
 その姿は以前に横島クンの深層精神を垣間見たときに、ルシオラの死に直面して嘆き悲しんだ時と、まったく同じ姿だった。

「俺のせいだ……俺のせいなんだ、チクショウ!」

 横島クンが素手で、大きな瓦礫を殴りつける。
 瓦礫を殴った拳から、血がダラダラと流れ落ちていった。

「今まで、うまくいき過ぎていたんだ。俺は完全に油断していた。
 ヤツが言ったように、前回と今がまったく同じになるとは限らないってのに!
 でも俺は、それに気づかなかった! 俺が……俺が、ルシオラを殺したんだ!」
「横島クン……」
「俺には、あいつを好きになる資格なんてなかったんだ! それなのに、あいつは……」

 マズい。横島クンが冷静さを失っている。
 このままだと、何を喋りだすかわからない。

「ママ……」

 私は隣にいたママに、そっと目配せをした。

「わかったわ、令子」

 ママは、すぐに私の意図に気づいた。
 そういえば、ママは横島クンの正体をわかっていたみたいだったけど、いったい、いつ気づいたんだろう?

「横島クンのことは、令子に任せましょう。皆、この場からを離れて」

 皆は突然のルシオラの死に呆然としていたが、ママの命令で我に返った。
 そしてママの命令に従って、この場を離れていった。




「横島クン、その……元気出してよ」

 私は頭をうなだれてしゃがみこんでいる横島クンに、そっと声をかけた。

「あなただけが悪いんじゃないわ。油断していたのは、私も同じだった」

 私は瓦、礫の上に座っている横島クンの隣に腰を下ろした。

「だけど、ルシオラは違っていたわ。あの娘は、ずっとあなたのことを心配していた。
 だからとっさのアシュタロスの攻撃に、あの娘だけが対処できた。
 それに、きっと生き返らせる方法だって──」
「無いんです、そんな方法は!」

 突然、横島クンが大声で叫んだ。

「コスモ・プロセッサは壊れてしまった。
 ルシオラの霊基だって、べスパの妖蜂がいないから、集めることができない。
 もう、どうにもできないんです……」

 横島クンの表情に、絶望の思いがはっきりと現れていた。

「で、でもさ、考えれば何か方法が見つかるかも……」
「もうダメなんです! いっそのこと、あいつの代わりに俺が死ねばよかったんだ!」
「いい加減にしなさいよっ!」

 パチーーン!

「横島クンが死んで、ルシオラが喜ぶとでも思ってるの!」
「美神さん……」

 横島クンは私が叩いた頬を手で押さえながら、惚けたような表情で私を見返した。

「ルシオラのことだって、今はどうしたらいいかわからないけど、
 皆で考えればきっと手段はあるはずよ!
 それなのに、最初からあきらめていたら、何も進むわけないじゃない!」
「……」
「それに、八方手を尽くしてダメだったとしても、横島クンには最後の手段が残っているわ」
「最後の……手段?」

 不思議そうな目をして、横島クンが私の顔を見つめる。

「やり直すのよ、文珠を使って」
「それって……」
「そう。時間を遡って、もう一度やり直すのよ」

 横島クンの目が、みるみるうちに生気を取り戻した。

「だいたい、あんた一度人生やり直してるんでしょ? 一度が二度になったって、いいじゃない」
「そ、そうですね。でもなんだか、しっくりこない感じがします」
「ま、そんな考え方もあるってことよ。どう、少しは元気が出た?」
「ええ。ちょっとは前向きになれそうです」

 私の横に座っていた横島クンが立ち上がった。その顔には、いくぶん明るさが戻っている。

「ママの所に行きましょう。そろそろ、ヤツが次の行動を起こす頃よ」
「そうッスね」

 ママや皆は、瓦礫の山から少し離れた場所に集まっていた。
 私は、目の前を歩く横島クンに向かって話しかけた。

「横島クン、聞いて」
「なんですか、美神さん?」
「もしあなたが、もう一度過去に戻るとしたら……その時は、私も連れてって」
「えっ!?」

 横島クンがいきなり立ち止まった。そして。背後にいる私に向かって振り向く。

「未来の私が横島クンと分かれる場面を見た時、私はとても寂しそうな表情をしていたわ」
「……」
「その時はよく分からなかったけど、今は痛いほどよく分かる。
 だって、横島クンがいない生活なんて、とても考えられないから」
「でも美神さん、俺は……」
「私なりに、きちんとケジメをつけたいだけよ。
 前にも言ったと思うけど、私は別に横島クンを縛るつもりはないから」
「前って……俺、聞いてないッスよ?」

 私の言葉を聞いた横島クンが、きょとんとした表情を見せた。
 そう言えば、前に話した時って、たしか……

「ま、前に話したのは、宇宙のタマゴの中だったわね。今の横島クンが知るわけないか」

 私は心の中で、ちょっと冷や汗をかいた。

「私もここまで関わった以上、今さら首を引っ込めるつもりはないわ。
 もう横島クン一人で、何もかも背負わなくてもいいのよ」
「美神さん……」

 横島クンがうながれながら、両腕で私の左手と左の手首をぎゅっと掴んだ。

「その……ありがとうございます……」
「横島クン……」

 私は空いていた右手で、そっと横島クンの背中をなでた。
 少しだけ、役得かなと思いながら。




 ママや他のメンバーたちは、コスモ・プロセッサが倒壊してできた瓦礫の山から、少し離れた場所に集まっていた。
 私と横島クンは皆と合流するため、そこまで歩いていった。

「グスッ……ルシオラちゃんまで……なんで……」

 皆が集まっている場所の一角で、パピリオがうずくまって泣いていた。

「美神さん。今の俺では、パピリオの世話までは……お願いしていいですか?」
「わかったわ」

 ルシオラの死を引きずっている横島クンでは、今のパピリオには言葉をかけることもできないだろう。

「令子ちゃん、聞きたいことがあるんだ」

 私は慰めの言葉を考えながら、パピリオに近づいていったとき、突然、西条さんが話しかけてきた。

「アシュタロスを倒す直前、横島クンとアシュタロスが会話を交わしていたね。
 僕にはその意味がよくわからなかったが、隊長と令子ちゃんだけはわかっていたようだ。
 よければ、教えてくれないかな。横島クンの秘密とは、いったい何なんだい?」
「ママは、なんて言ってました?」
「隊長は自分の口からは話せないから、令子ちゃんか横島クンに聞けとしか言わなかったよ」

 西条さんには、秘密を話した方がいいんだろうか?
 いや、今は説明する時間がない。

「ごめんなさい。今は話せないわ……」
「そうか。でも、いつかは教えてくれるね?」
「ええ。たぶん……」

 事件が無事解決したら、全てを話すときが来るかもしれない。
 でも、もしうまくいかなかったら、私はたぶん横島クンと一緒に皆と別れることになると思う。
 今はとても、そのことを話すことはできなかった。


 私は西条さんと別れると、歩きながらパピリオに話す言葉を考えた。
 実はさっきから、頭の中にあるアイデアが浮かんできている。
 うまくいけば、パピリオも元気づけられるかもしれない。

「パピリオ、ちょっと話があるんだけど……」

 私は慎重に言葉を選びながら、泣きじゃくっていたパピリオに、慰めの言葉をかけた。




》》Yokoshima

 皆と合流してまもなく、箒に乗った魔鈴さんが俺たちを呼びにきた。
 意識を取り戻したヒャクメが、小笠原諸島付近で重大な脅威を発見したとのこと。
 隊長の指示で、俺たちは急いでGメンの基地に戻る。

 Gメンの基地のスクリーンに映し出されたその姿は、やはり究極の魔体だった。

「な、何あれ!? 何メートルあるワケ!?」

 エミさんが、スクリーンに映ったその姿をみて、思わず叫んだ。
 他のメンバーも、驚きの色を隠せずにいる。
 冷静に見ていたのは、俺と美神さんぐらいだった。

「推定全長180メートルってとこかしら」
「あれがヤツの分身か!? ほとんど怪獣じゃねーか!」
「……もともと本体にするつもりで造ったのよ。
 でも千年前の事件をきっかけに、アシュタロスはコスモ・プロセッサに乗り換えたらしいの。
 あれが完全なら、神・魔族の誰も対抗できない火力をもっているはず……」

 ヒャクメが、皆に究極の魔体について説明した。

「しかし、結晶はもうないんだろう? エネルギーがなけりゃ、あんなの屁でもないんじゃ……」

 雪之丞が、疑問の声をあげる。

「それが、しばらくは予備エネルギーで動きそうよ。見たとこ、最低でも二・三日ぐらい……」

 その時、究極の魔体の背中にある大砲の筒先が光りを発した。
 エネルギーが集中し、見る見るうちにその発光が強くなっていく。

 ドガアァッ!

 究極の魔体が大砲を発射した。
 その大砲から発射されたエネルギーは目の前にあった島にぶつかり、その大半を吹き飛ばした。

「し、島が!」
「冗談じゃねえっ! あんなのが三日も暴れたら、地球が吹っ飛ぶぞ!」

 大砲から発射されたエネルギービームは、島一つ吹き飛ばしても勢いが弱らなかった。
 そしてそのまま、真っ直ぐに進んでいく。

「この方向……ひょっとして」

 隊長がスクリーンの映像を地図に切り替え、ビームの進行方向を確認した。

「やはり、東京!」
「まっすぐ私たちを狙っている……つもりらしいわね」

 だが小笠原と東京では、距離がありすぎた。
 地球の丸みを考えずに発射されたそのエネルギービームは、空高く飛んでいき、やがて宇宙空間へと消えていった。

「これではっきりしたわ。あれは知性を失った、パワーだけの残骸ってとこかしら。
 令子と横島クンで迎撃。空を飛べるメンバーは、援護につきます。いいわね!」
「はいっ!」
「了解・です」
「ちっ!」
「くっそおおっ! クライマックスなのに!」

 魔鈴さんとピートとマリア、それに冥子ちゃんが返答した。
 一方、飛べないエミさんや雪之丞が不満の声をあげるが、こればかりはどうしようもない。

「全員、ヘリポートで待機! それから令子と横島クン、それにヒャクメは残って」

 皆が退出したあと、俺と美神さん、それにヒャクメと隊長が部屋に残った。

「単刀直入に聞くわ。横島クン、あれは倒せるのね!?」

 隊長がそのままずばりの疑問を、俺にぶつけてきた。

「美神隊長。令子さんがいますけど、大丈夫ですか?」

 ヒャクメが、美神さんにチラリと視線を向けた。
 まだ目覚めたばかりで、俺たちの事情まで知らないのかもしれない。

「令子も横島クンの秘密は知ってるわ。問題ありません」
「そうですか。それでは横島さん、敵の情報について詳しく教えてください」

 俺は隊長とヒャクメに、究極の魔体について説明を始めた。

「あれは、究極の魔体といいます。
 だいたいヒャクメが話したとおりですが、あと無限大に攻撃を無力化できるバリアをもってます。
 ただ弱点があって、前と変わってなければ、そこを攻撃すれば勝てるはずです」
「そんな……レベルの差に関係なく、効果が無限なんて考えられないわ」

 ヒャクメが、疑問の声をあげた。

「本当に無限大かどうかはわかりません。
 ただ俺と美神さんが合体した状態で攻撃しても、ヤツにはまったく通じませんでした。
 前の時には、一方通行に空間を歪めて攻撃を別の宇宙に逃すという推論を、美神さんが
 立てていましたが……」
「どちらにしても、正面からの攻撃が通じないのであれば、弱点を突いていくしかないわね。
 横島クン、覚えてる?」

 三人の視線が、一斉に俺に集まった。

「ええっと、たしか腰の後ろにあるバリアの穴から侵入して、大砲の付け根を攻撃します」
「それで、確実に敵を倒せるのね!?」
「前回は間違いなくそうでした。しかし前回と今を比べると、歴史に微妙なずれが生じています。
 俺の知っている弱点がそのままかどうか、確実にはわかりません」
「失敗は許されないのよ。アシュタロスの迎撃に失敗すれば、世界中の大都市が火の海に包まれる
 可能性が極めて高いのよ。最低でも、東京が壊滅するわ」

 隊長の顔が、険しくなった。

「もし敵の弱点が俺の記憶と違っていたら、あとはべスパの情報提供に期待するしかありません。
 前回も、べスパが究極の魔体の弱点を教えてくれたんです」
「信用……できるのかしら?」

 ヒャクメが、不安そうな表情を浮かべた。

「べスパにも事情があります。それに、状況的に信じるしかないでしょう。
 そろそろ復活すると思いますから、パピリオを迎えに出してください」
「迷っているヒマはないわね」

 隊長はその場で決断すると、迎撃のため皆でヘリポートへと移動した。




 ヘリで海ほたるまで移動したあと、俺と美神さんは合体して出撃した。
 ヒャクメ・ピート・魔鈴さん・冥子ちゃん・マリアが援護に加わる。前回と同じ顔ぶれだ。
 西条は、アクアラインに防御結界を設置する作業を指揮している。残ったメンバーは海ほたるで待機となった。

「見えたわ!」

 前方の視界に、究極の魔体が海面すれすれに飛行してくる姿が目に入った。

「相手の後ろに回りこんで攻撃します! 皆は前方で敵を引き付けてちょうだい。
 危なくなったら海に潜れば、敵の目をやり過ごせるはずよ!」

 事情を知ってるヒャクメ、そして熱血漢のピートが、率先して囮役を引き受けてくれた。
 他のメンバーも、囮厄の背後で援護の構えをとる。

 グオオォォッ!

 囮に気づいた究極の魔体が、前方の広い範囲にわたって、エネルギー弾の弾幕をばらまいた。
 皆は攻撃をかわしつつ、霊波砲で反撃するが、バリアに阻まれて一発も敵に届かなかった。

「今のうちよ!」

 合体した俺と美神さんは、敵に気づかれないよう距離を保ちながら、高速で迂回して敵の背後に回りこんだ。

「美神さん、もう少し下です」

 俺は前回の記憶を思い出しながら、合体した美神さんをバリアの隙間へと誘導した。

「この辺りのはずです。ここから、大砲の根元を狙ってください!」
「わかったわ!」

 俺は霊力を限界まで引き上げた。
 共振効果によって増幅された莫大な霊力が、合体した美神さんの手のひらに集中する。

「くらえっ!」

 ズバアァッ!

 超特大の霊波砲が、大砲の根元に向かって発射される。
 しかしその攻撃は、敵に届く前に、バリアによって阻まれてしまった。

「横島クン! 弱点はここで間違いないの!?」
「間違いないです! やはり、ヤツの弱点が変わっています!」

 美神さんはもう一度攻撃しようとしたが、その前に究極の魔体が俺たちに気づいてしまった。

「グ……グオオ……メ……フィスト……」

 反転した究極の魔体が、片手を突き出して俺たちにエネルギー弾の一斉射撃を浴びせかける。

「美神さん、このままだとマズいです! 海中に退避を!」
「わかったわ!」

 美神さんは攻撃をやり過ごすため、海の中に飛び込んでいった。





「ぷっはぁー!」

 究極の魔体が去ったのを確認してから、美神さんが海面に顔を出した。

 ザバーツ

 海中に隠れていた他のメンバーも、相次いで海面に顔を上げる。
 マリアが緊急用の救命ボートを取り出し、それを膨らませた。

「面目ない。僕らは、ここまでのようです」

 ピートはすまなさそうな顔をしていたが、冥子ちゃんや魔鈴さんはもう限界だった。
 冥子ちゃんはボートの上でぐったりしているし、魔鈴さんも息がかなり荒くなっている。

「あとは私たちに任せて」
「やはり……違ってましたか?」

 言葉をうまく濁しながら、ヒャクメが尋ねてきた。
 美神さんが、軽くうなづいて答える。

「どちらにしても、あなたたちが最後の頼みの綱です。頑張ってください」

 ピートが激励の言葉をかけてきた。




「さっきは途中までしか聞けませんでしたが、敵の様子はどうだったんですか?」

 究極の魔体を追いかける途中、ヒャクメが俺に話しかけてきた。

「俺の覚えていた場所にはバリアの穴はなかった。
 アシュタロスも俺の秘密には気づいていたから、急いで対策を施したのかもしれない」
「そうなると、べスパの情報提供に期待するしかないですね」

 その時、前方からこちらに向かって、誰かが飛んでくるのが見えた。
 たぶんパピリオだと思うが……

「ヨコシマーーッ!」

 やって来たのは、やはりパピリオだった。
 手の上にルシオラの姿をした、ミニサイズのべスパが乗っている。

「ヨコシマーーッ!」

 ああ、また俺に気をきかせてくれたんだな。
 何だか化け方もうまくなっている。
 前に見た時は、一目ですぐにわかったのに、今度はルシオラに本当にそっくりだ。

「ヨコシマーーッ!」

 えっ!?
 パピリオの頭の後ろから、もう一人出てきたぞ。
 こっちはミニサイズのべスパだ。ということは……ひょっとして……

「ヨコシマ!!!」
「ルシオラ! 本当にルシオラなのか!?」


(続く)

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