ザ・グレート・展開予測ショー

幸せを願う深く温かい心


投稿者名:veld
投稿日時:(04/ 9/28)



 ありがとうがいえなくて。
 何回も何回も言おうとして言えなくて。

 何故、言おうとしていたのか忘れて。
 それでいい、と思える生き方をしてきた。



 可愛くない。
 可愛くない。

 ―――何度、自分に向けて言った事だろう。






















 「美神さん、好きっす」

 何故か、はっきりと夢だと分かった。

 「・・・美神さんは・・・俺の事なんて、好きじゃないと思いますけど」

 『彼』の顔、所作―――らしくない、と言えばらしくない。
 でも、やっぱり『彼』なのに、夢だと分かった。
 ふわり、と、まるで浮き輪で夏の海をさまようような。
 そんな心地になりながら、私は『彼』を見ている。
 だからかもしれない。
 私はこんなんじゃないから。

 「私も好きよ」

 と、なんて、言えるはずがないから。



 だから、夢と分かった。
 世界が砕け散る音が聞こえても、私は怯まない。
 極彩色の世界に取り込まれるような、溶け合うような、気持ちのよさは遠くへ消えた。
 まどろみが現実に誘う。優しくない現実に。

 それでも、私は悔しくはない。
 ただ、彼の頬を手で撫ぜた。
 怯む彼に、泣き出しそうな笑顔を浮かべる。

 砕け散る寸前の、崩壊する寸前の大地に爪先立ちして。
 頭一つ分だけ高い彼の唇に自分の唇を合わせる。



 夢なのだ。
 夢だから。
 この『私』は私ではないし。
 この『彼』は彼ではない。



 



 いつもどおりの朝は過ぎていく。蒼い空にぽつんと漂った白い雲が流れるように。
 私は少し汚れた窓枠を眺めながら、意識せず、ぼやけた空をふと垣間見てうめいた。

 自室の机は壁側で、椅子は窓を向いている。
 そこでぼんやりとするのが好きになったのは、少しの間、時間が開いた時だった。
 忙しない日々の中に、急に開いた時間は、幾つもの偶然と必然が招いたものだった。
 私一人が幸せになった―――そんな、後ろめたさと引き換えにした、時。

 アシュタロスの願いが叶い、一つの悲劇が生まれ。
 私は呆然としながらも、台風一過の時を図らずも、生きている。

 ―――謝る資格などはないし。
 ―――謝るべきでさえ、ない私は。

 ―――お礼を言うべきではないのに。
 ―――ありがとうを言わなければならない、と思ってしまう私は。



 ―――私は。



 「きっと、私は思うんですよ」

 ティーカップから漂う湯気からは、柑橘系の香りがした。
 少し入れすぎたのかもしれない。砂糖のないレモンティーは少し苦く、すっぱかった。

 「私は私のやり方で、彼を愛せば良いって」

 ―――部屋に招いた彼女の言葉は、簡潔で。
 それを解する事が出来る私も恐らくは彼女と同じ気持ちなんだと思う。

 茶化すことなんて、出来ない。
 それほど、彼女も私も本気なのだ。きっと。

 「・・・おキヌちゃんのやり方って、どんな?」

 軽い口調で尋ねたつもりで、私の顔は真剣だった。
 微笑を浮かべようとして、出来なかった―――と言った方が正解かもしれない。

 「内緒です」

 私の浮かべたかった悪戯な笑顔のままで、人差し指を前に突き出して、彼女は片方の手でティーカップを掴み、そして手を戻して、両手で啜った。
 私は「そう」と、そっけない返事をして、レモンティーを再び口に含む。―――熱めであることとは関係のない、舌にひりつくような痺れが残る。
 目を閉じて、呟く。

 「・・・苦いわね」

 彼女は応える。

 「甘いです」

 私は目を開き、彼女を見つめ、言った。

 「横島くんは・・・私にくれない?」

 ―――レモンティーの湯気から匂いが消えた。

 彼女はふっ、と目を細め。
 先ほどとまるで変わらない声音で、返す。

 「横島さんは、渡しません」

 おキヌちゃんは笑っていた。

 「絶対に、誰にも・・・たとえ、美神さんでも、渡しません」

 それは、全ての後ろ暗さのない、綺麗な笑顔だった。
 私の問いにも、勿論、そんな意図はない。でも、そんな風に感じてくれたら、と言う暗い思いは含まれていたかもしれない。
 たとえ、微細でも。

 「そっか」

 私は微笑んだ。

 「そうだよね」

 ―――啜る。
 今度は味がなかった。
 いや、少し、ほんの少しだけ。

 甘くなった、ような気がした。









 「好き」とか「嫌い」とか、それ以上で。
 必要とする、というよりも、もう、自分の一部で。
 離れる事が考えられないから、一緒にいたい。ってのは我侭で。
 だから、気持ちを伝えたい、と思う。
 でも、相手が受け入れてくれるかわからなくて。
 別の言葉に変えてしまうかもしれない―――でも、それは卑怯だから。

 伝えよう。
 私の思いを。


 ―――永遠に、あんたと私は一心同体・・・裏切ったら、地獄に突き落とすわよ!


 彼の苦笑いが眩しく揺れる。
 口を開く瞬間まで、私の強気な笑顔は、崩れない。
 私が彼を見つめる瞳に迷いなんて、ない。
 ある筈がない。



 ―――彼が口を開いた。













 返事はどうだったかって?

 ―――つまらないこと、聞くんじゃないわよ。








 ―――fin.

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