ザ・グレート・展開予測ショー

GS美神 EP2 決断


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 9/27)


妙神山の管理人、小竜姫は驚いていた。

影法師(シャドウ)が成長と共にその姿を変えることは珍しいものではない。

しかし、ここまで劇的な変化を遂げた影法師を見たのは初めてだった。

「まぁ・・・あれだけ情けない影法師もはじめての事でしたけれど・・・」

苦笑いを浮かべつつ、当時の影法師を懐かしむように思い出す。



当時の横島の影法師を一言で表すならば「道化」という言葉が相応しいだろう。

デフォルメされた頭身と、おどけた様な口調。

そして本人の映し身のはずが、セクハラという目的が無い限り、決してシンクロすることも無かったその影法師が、
今では霊能力者として、誰が見ても恥ずかしくない姿になっていた。


右手には大きめの鉄扇が握られており、左手首には瑠璃色に輝く数珠があった。
明るく目立つ緋色の袖口は瑠璃色の紬羽織りを鮮やかに彩り、紺色の縦線の走る袴によく似合っていた。

二股に分かれた頭巾をかぶり、片方の目の下におおきな涙滴の模様が施された面に、かつての道化の面影が感じられた。




法円の中に立つ本人も目を見張り、感嘆の声を上げるばかりだった。

「へぇ〜・・・コレが今の俺の影法師っすか・・・」

「これがヨコシマの影法師でちゅか・・・かっこいいでちゅねぇ」
傍で見ていた魔族の少女、パピリオも目をうっとりとさせる。


しかし、ヒャクメと斉天大聖老師のふたりは険しい表情をしている。
顔を突き合わせ、二言三言話し合い、ヒャクメのトランクに映し出される横島の変身した姿と影法師を見比べる。

咥えていたキセルを煙草盆に戻すと、愛弟子の名前を短く呼び、手招きをする。
小走り気味に駆け寄ってきた小竜姫に、老師は無言でディスプレイを示す。

そこに映る横島の変身と、変身後の戦闘を小竜姫は食い入るように見つめていた。

そして映像が途切れると、小竜姫は老師とヒャクメに向き直る。



「・・・どう思う?」

老師の言葉は酷く短かった。

だが、長い間師弟としての付き合いがある二人の間には、余計な言葉は無用というもの。
小竜姫はすぐさま老師の意図を理解し、自分の感じた事をまとめて言葉にする。

「・・・この姿も横島さんの影法師だと思います・・・」

老師は、慎重に言葉を選びながら口にする弟子を、鋭い目つきのまま無言で見つめて先を促す。

「通常、一人の人が複数の影法師を持つことはありえない事ですが・・・
 横島さんはルシオラさんの霊基構造を受け継いでいますし・・・・・」

「・・・なるほどのう」

小竜姫が言葉を切った所で、老師は一呼吸おいて話し始める。

「大体は見抜いたようじゃの・・・間違いなく両方とも横島の影法師じゃろうて。
 じゃが、ルシオラの霊基構造が関係してはおらんだろうよ・・・」

「・・・というと?」

師匠の意見に、純粋に興味を抱いた小竜姫が尋ねる。

「人というのはうつろい易いものじゃ・・・ホレ、大宰府に祭られておる道真も学問の神の他に怨霊としても有名じゃ。
 心に光と闇を併せ持つ・・・それが人間というものじゃろう?」

そういうと老師は、煙管に新しい煙草を詰めて火をつける。
立ち上る煙草の煙をながめたまま、不意に弟子に問いかける。

「・・・小竜姫、お主横島をどういう人間だとおもっておる?」

突然の事に少しばかり戸惑った小竜姫だが、顎に指を当てて悩みながら答える。

「え〜・・・っと、明るくて、やさしくて・・・女性に対して・・・あの、その・・・」

「ハッキリ言えばスケベなのねー」

けらけらと笑いながら茶々を入れて来たヒャクメを真っ赤な顔で睨む小竜姫。
老師はそんな二人を咎める事無く話を続ける。

「まぁ、素直というか・・・言ってしまえば何処までも己の欲に忠実な奴じゃな。
 その所為で誤解の多い人生を歩んでるようじゃがな・・・・・・。
 じゃが・・・今のあやつが心の赴くままに行動しているかというと・・・違うじゃろう。
 周囲の人間の期待に応えて『かつての自分』を演じているのじゃよ・・・
 そして・・・演じる事で抑えていた部分が『もう一人の自分』として形をなしたんじゃろうて」

「その『もう一人の横島さん』の影法師がコレなのねー」

ディスプレイに映る黒衣の影法師を指差す。

「まさか・・・二重人格?それぞれの人格が影法師を持っていると言うのですか?」

老師とヒャクメの説明に驚きを隠せない小竜姫は、複雑な表情でパピリオと戯れる横島を見つめる。

「まだそこまでおおごとにはなってないのねー。精々本音と建前みたいな段階なのねー」
不安げな表情をする小竜姫を見て、ヒャクメがフォローする。

「横島もようやく人並みになったという所かのう」

「・・・そういう問題ではないと思いますけど・・・」

呵呵大笑する老師と対象的に、まだ難しい顔をしている小竜姫。

「ま、横島の不調の理由は見当がついたじゃろう?ココから先はおぬしの仕事じゃ、ワシは戻らせてもらうぞ」
そう言うと、修行場と異空間を結ぶガラス戸を開けて出て行ってしまった。


残された形になってしまった小竜姫は、横島にどのように説明しようか頭を悩ませ、眉間にしわを寄せていたが、

「あんまり深く考えないで、そのまま説明するしかないのね。嘘をついてどうにかなる問題でもないし・・・
 どーせ嘘ついても、小竜姫ってば嘘つくのが下手だからすぐにバレるのねー」

ヒャクメのこの言葉でふんぎりをつけたようだ。小竜姫の横島を呼ぶ声に迷いは感じられなかった。









令子達は静かな時間を送っていた。

依頼を片付けて返ってきた時に、当然居るはずの人物が居なかったことに驚き、取り乱して騒動になりかける所だった。
だが、人工幽霊一号の伝言を聞いて令子とおキヌが落ち着いたのだ。

ただ一人納得がいかない表情をしているのは、シロだった。
横島が居ない事にも納得できて居ないが、令子とおキヌがあっさりと横島の不在を受け入れた事が意外な気がしたのだ。


今、二人は紅茶を飲みながら、流行りのファッションだの、最近出てきたタレントなどの話をしている。


そんな二人に聞こえないように小声で、稲荷寿司を幸せそうに頬張る喧嘩友達に話しかける。

「なぁタマモ、先生も変でござったが・・・美神殿もおキヌ殿も何か変ではないでござろうか?」

無視しようと思っていたタマモだが、シロの真剣な眼差しに口に含んだ稲荷寿司を飲み込み、熱いお茶で唇を湿らせて、真剣に話をする準備をするタマモ。

手にした湯のみをジッと見つめながらしばしの逡巡のあと、思ったままの言葉を口に出す。

「そうね・・・横島が夕食をたからないのはちょっと変よね・・・。
 それに美神さんもおキヌちゃんも、何かワザとらしいわね・・・
 いつもなら横島の事で盛り上がってるっていうのに、今日は随分とくだらない話してるじゃない・・・」

盗み見るように、雑誌広げてTV画面と見比べたりしている二人を見る。

彼女らのような年頃の女性ならば、流行のファッションや新進のタレントなどが話題に上がることは珍しくはない。
むしろ、積極的に取り上げられるような話題だ。だが、それは二人には余りにも似合わなかった。

令子が横島の事を罵詈雑言を用いて面白おかしく罵っては、おキヌが苦笑いを浮かべながらもフォローする。

それが二人にとっては、何時もの、当たり前の話題だった。
横島が目の前に居ても居なくて同じで、ごく自然に横島のことが話題になるのだ。

「三人に何か隠し事があるのは確かな様ね・・・
 ま、隠し事の一つや二つ有って当たり前なんだから、アンタが無い知恵絞って考えてたってどうにもならないわよ。
 私はアンタが考えすぎで知恵熱出して寝込まれる方が問題だわ。天狗の所に薬をとりに行くなんてゴメンよ」

少々キツイ物言いだが、それが彼女の本心ではない事を知っているシロは、黙って考え込んでしまう。

(先生や美神殿たちが隠し事・・・拙者は信用されてないのでござろうか?
 確かに、無理を言って居候させてもらっている身でござるが・・・
 拙者は皆にとって・・・いや、先生にとってそれだけの存在なのでござろうか?)

考え込んでしまったシロを横目で見つめ、タマモは深いため息をつく。

「ほら・・・考えたって仕方ないって。こういうのは時間が解決してくれるものよ」

友人の言葉に苦笑するシロ。
ついさっき、皮肉交じりだが自分を気遣ってもらった事を思い出した。

「・・・・・・そうなのでござろうな・・・。なんだかタマモは随分と大人びた考え方するでござるな」

「別に?似たようなことTVドラマでやってたから、ちょっと言ってみたかっただけよ」

お礼も兼ねて友人の事を褒めようとしたが、その友人はあっさりと自分をからかった事を吐露する。




「・・・女狐なんぞに相談した拙者がバカだった」

「あら、ようやく自分が馬鹿犬だって自覚したのね♪」

「なんだと!」
「何よ!」

ふつふつとこみ上げる怒りに、お互いが牙をむき出しにして威嚇しあう。

だが喧嘩までには行けなった。

人狼と妖狐の一触即発の睨みあいに割って入れる人物は滅多に居ないが、割って入れる数少ない人物がすぐ側に居る事を二人は忘れていた。

「喧嘩するなら表でやんなさいっ!!!!」

開け放った窓から二人を蹴り出すと、さらに二人に死刑宣告とも取れる言葉を投げつける。

「二人とも当分肉と油揚げ抜きにするからね!」

そう言うと乱暴に窓を閉める。



蹴り出された二人は仰向けに倒れながら、暮れる西日の光を浴びていた。

「・・・なんでこれっぽっちの事で蹴り飛ばされなきゃいけないのかしら?」
 ・・・ったく・・・おキヌちゃんも止めてくれればいいのに」

「美神殿のムシの居所が悪かったのでござろう」

「ストレス発散の八つ当たりの相手は横島でしょう?なんでアタシ達なのよ・・・」

「居ない人を相手に八つ当たりは出来んでござるよ・・・」

「じゃぁ何で返ってきた時横島が居ない事に文句言わなかったのかしら?」

「確かに・・・二人は先生に何か遠慮しているような気がするでござるよ」

「横島に遠慮してアタシたちにとばっちりが来るわけ?やってらんないわよ!」

しばらく無言で夕日を眺めていたふたりだが、不意にシロが身体を起こす。
そしてまだふて腐れて仰向けに寝たままのタマモの顔を見つめる。

「タマモ・・・拙者、先生の後を追うでござる。美神殿たちによろしく言って置いてくだされ」

「・・・そっちの方が考え事してるよりかはアンタらしいわね・・・いいわ、美神さんには上手く言っておいてあげる、
 気の済むまで行ってきなさいよ」

タマモは唇の端を僅かにほころばせて笑う。

「かたじけない」

タマモの言葉に少々引っかかるものを感じたが、味方をしてくれる友人に目礼と共に感謝を表す。

「で・・・あてはあるの?無闇に追い掛け回しても時間の無駄よ」

「・・・『妙神山』に行ってみるでござる・・・美神殿が先生が何処に行ったのか人工幽霊一号殿に聞いたときに
 『あそこに行ったならしょうがない』と言っていたでござるから・・・」

「あ、そ・・・頑張んなさいよ」

立ち上がったシロにぶっきらぼうながらも励ましの言葉を送る。

西日を背負い、逆光で見えなかったものの、シロの目には決意の光が見て取れた。


「では!いってくるでござる!」

事務所に背を向け、己の心のままに動くことを決めたシロの足取りは力強かった。










「つまり・・・『もう一人の俺』が『俺』の中に居るってことですか?」

小竜姫とヒャクメの説明を黙って聞いていた横島が尋ね返す。
自分でなんとなくそうではないかと思っていたが、ハッキリと第三者の口から告げられると少なからずショックを受けてしまう。

「まだそこまでは行っていないようですが・・・このまま放置しておくと、そうなる可能性は否定できません」

小竜姫の言葉は、横島にとってありがたいものだった。

(俺はまだ俺で居られる・・・アイツの好きだった俺で居られるんだ・・・)

そんな事を考えていたので、ヒャクメの二重人格についての薀蓄や、自分が何故変身してしまったのかは、上の空で聞き流してしまっていた。

「どうすれば元の俺に戻れるんですか?元に戻れるならどんな辛い事でもします!!」

まだ続いていたヒャクメの薀蓄を大声で遮る。
話を聞いて貰えていなかったヒャクメが、ちょっと睨むように横島を見つめた後、ため息をついて『元に戻る』を方法を説明した。

「そんなに辛くもないし、結構簡単なのねー。
 横島さんが、もう一人の横島さんを取り込んで自分なりに消化してしまえばいいのねー」

ヒャクメから返ってきた言葉は、横島の想像していたものは大きく違っていた。

「え・・・?その、封じ込めたり、消したりする事はできないんですか?」

「それをやっても治るのは一時的な事ですね・・・横島さん自身が創り上げた存在ですから、
 例え私たちの力で封じても、直ぐに解かれるでしょうし、消したとしてもまた生まれてくるでしょう・・・
 それでは意味が無いんです・・・
 
 それに、横島さんの不調の原因は『もう一人の横島さん』の存在を認めない事に原因があるようです。
 肉体が覚えている為、技や術の使い方に問題はありません。
 ですが、霊力というものは本人の心のあり方に、非常に影響を受け易い物なのです。
 今、横島さんは『もう一人の横島さん』を否定していますが、
 それは自分の霊能力も無意識のうちに否定している事でもあるのです」

小竜姫とヒャクメの言葉に横島ショックを隠せないでいる。



横島は先ほど「元に戻れるならどんな辛い事でもします!!」と言った。



(アイツの好きだった『俺』じゃいけないのか?・・・『俺』は『俺』のままでは駄目なのか?)



横島は、ある意味で最も辛い事にたち向うことになった自分の運命を、呪わざるおえなかった。

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