ザ・グレート・展開予測ショー

五年目の・・・。


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 9/27)



夢を見た。夫婦揃って、川沿いの道を散歩してる。背中には三歳になる娘がきゃあきゃあと騒いでる。
横で妻が笑う。想像しうる幸せな夫婦像かも知れない。現実とは少し違う点があるが・・・。


「・・・起きて、・・・そろそろ時間ですよ起きて下さい!」
「ふぁ?」


目が覚めるとまた妻の顔がそこにあった。思わず夢心地で寝惚けて抱きしめ・・・ようとしたがスカされる。
こっちを見ながら余裕の笑顔を見せて。ちくしょう。


「朝から何を考えてるんですか?」


ナニをしようとしている。とは言わないけど。
抱きしめるぐらい良いじゃないか。


「全部口に出してます。」


あら、そう。この癖そろそろ直したいなあ・・・。


「そんな気分じゃないです。」


彼女は後ろを振り向くと、居間へと向かって歩いて行った。
結婚して五年経つとこんなものか。別にケンカしてる訳じゃないけど、新婚の時のような甘々さが無い。
子供が中々出来ないのも理由にあるだろう。その事は色々と問題を抱えているし・・・。
どうなるかもわからないのだけど。


「あの頃は初々しくて良かった・・・。いや今もカワイイ事には変わりはないのだが・・・。」


布団の脇にある写真立てを見て思う。新婚当時の写真だ。
妻は照れた顔でこっちを見てる。こんな純粋な目をしてたっけ。


「今は純粋じゃ無いですか?」
「のわっ!?い、いたの?」


また口に出していた。あいたた。
顔は笑顔だが奥底は笑ってないと思う。ちょっと寒気が・・・。


「起きてこないからモウイチド見に来たんですけど・・・。必要無かったですか?」
「い、いや、そんな事は・・・その・・・いつでも愛してるよおキヌさん!」
「じゃあ、その愛の為に働いて来て頂けます?生活もまだまだ大変ですし。」


鋭い目つきが自分を襲った。これが殺意だ。
つーかそれ言われるとキツイんだよなあ・・・。そりゃあんまり稼いで無いけどさ。
ここは機嫌が悪くなる前に逃げた方が良さそうだ。


「わかりましたー!不肖横島忠夫、行って参ります!」


帰ってきたら何とかなるさという曖昧な根拠を元に、勢い良く立ちあがる。


「はい。じゃあコレ。」


すっと横から服が出された。さすがです。
Yシャツとスーツ上下とネクタイと靴下。いつものスタイルだ。手渡された順に瞬時に着替える。


「よしっ!そいじゃあ・・・。」


即座に部屋を飛び出そうとした。と思ったらネクタイを引っ張られた。
飼い犬じゃ無いんだからこれは勘弁して欲しい・・・。


「・・・苦しいのですが、何でしょうおキヌさん。」
「ちなみに今日は何の日だか覚えてます?」
「はっ?」


・・・これは危険な会話だ。今日は何か記念日なのだろうか。全く記憶に無い。


「えーと、結婚記念日・・・では無いな?あれはこの前か・・・。」
「・・・聞いてみただけです。いってらっしゃい。」
「はあ?あっ、そう。それじゃあ・・・行ってきます。」


意地悪・・・かな?さっきの仕返しだろうか。まあ・・・ええけど。


・・・とことこと仕事場へと歩いて行く。










「・・・・・・・・・。」


閉められた扉を見つめながら、怒りをこらえる。結婚から五年も経てば夫の愛情も少しは冷えるものだろうか?
妻の誕生日を忘れてしまっているとは・・・。


「あの頃は良かったなあ・・・。私、何も知らなかったし・・・。」


それは甘い甘ーい生活でした。いや、今も幸せなのは違いないんだけど。
これも世間的にいう倦怠期というものなのだろうか?違うのかな?
視線を右にずらすと靴箱の上に新婚当時の二人の写真がある。非常に仲睦まじい二人。私の笑顔が眩しい。
今の私にこんな顔が出来るかな?


居間に戻り、鏡を持って笑ってみる。・・・にこっ。
・・・どこかひねた笑い。な気がする。最近、心から笑って無いのかも。
こんな事ではいけない。何か変化を与えねば。夫も悪いが私も努力が足りないのかも?
さっきだってアレを拒否したし。でも子供を作るのは少し恐いから。
全てを受け入れたつもりでも、心の奥底でわだかまりがあるのだろう。きっと。


でもそろそろそんな事も言っていられない。大人にならなきゃね。
幸せな夫婦生活の為に頑張ろう。写真の笑顔に戻れるように。


という訳で足をタンスの前に向けて進める。勝負です。










・・・仕事の帰り道。仕事はすんなり終わった。大して辛い事もなかったし。


「四時・・・か。まだ帰るのはちょっと早いなあ・・・。」


朝の事もあるし、出来れば夕飯辺りに帰りたいところだ。
まあちょっと反省もしているが。変な事言っちゃったしなあ。怒ってなきゃいいけど。
自分も軽く考え過ぎていたかも知れない。色々と。


「何かお土産でも買って帰ろうか・・・。」


辺りの商店街を見ながら色々と物色する。
食べ物・・・とかじゃないな。何が良いだろう?指輪とか?でもいきなり買っていったら露骨な気がする。


・・・ふと右手側にある本屋に目が留まった。何か良いアイデアが見つかるかも知れない。
そう思って中に入る。雑誌のコーナーへと一直線だ。


適当に手にした雑誌。パラパラと捲る。そこである事に気付いた。


「あっ・・・、そうか。今日は・・・。」


急いでその場を駆け出した。こんな大事な日を忘れていたとは・・・。開いたページは誕生日占いだった。
こんな事ではいけない。妻の為にもっと何かが出来る筈だ。
そうすればこの淀んだ何かも吹き飛んで行くだろう。朝見た夢の光景が頭に浮かんだ。
あの光景が現実になるように。


・・・彼女の運勢。
今までの壁を乗り越え、思わぬ幸運が舞い込むかも知れません・・・。たまには当ててみるのも悪くない。










「これがいいかな?それとも・・・。」


服をあれこれ着替えながら、彼女は何かを思い出していた。
そういえばこんな時期もあったなあ・・・と。帰りを待つのが楽しい時間。


今、鏡を見れば何かに気付く事だろう。その自然な笑顔に。










そして・・・。


「ただいま!」
「お帰りなさい!」


三人で散歩する日も近いかも知れません。


おしまい。

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