ザ・グレート・展開予測ショー

皆本はんと一緒(By葵11歳)


投稿者名:DOOR
投稿日時:(04/ 9/23)


(はじまりのまえ)

『ねえ、アンタ。国がお金まで出して、あの子を引き取ってくれるというのに何ゴネとるん?』
『…………』
『渡りに船やないか?あの子のせいで、どんだけウチらが迷惑しとるか』
『ああ、でも葵は金ヅルやからなあ』
『金ヅル?あないけったいな子がかあ?ウチはそばに寄られるだけで怖くなるわ!』
『…………』
『なんか無うなったら、疑われるのは皆ウチらやで!?』
『いや、国があんだけ金を出すちゅうことは、あの子にそんだけの価値があるっちゅうことや』
『…………』
『それをムザムザ言い値で手放すのは』
『ふうん、それでゴネてる訳か?』
『そや、これはゴネたモンの勝ちや』
 ガタン!
『コラ、葵!お前、そこで何してはる!?』
『…………』
『盗み聞きかいな!まったく油断も隙もあらへん!ホントにどうしようもない子や』
『…………』



皆本はんと一緒(絶対可憐チルドレン)



(そのいちにちめ……)

 JR京都駅。新幹線の発車ベルが鳴り響いている。
「…………」
 皆本はイヤフォーンから聞こえる護衛官の報告に耳を傾けると、硬い表情で辺りを見回した。とうとう、来なかった
か。視線を落すと、表情を凍らせた葵が目に映る。皆本は葵の肩に手を伸ばすと、葵を引き寄せた。
「そろそろ、行こうか?」
 皆本はそのまま葵を抱えるように新幹線のグリーン車に乗り込んだ。
「…………」
 皆本は新幹線の発車の振動を感じながら、半ば生き人形と化した葵に目を向けた。自分は何を言えばいいのだろう?
葵の両親は葵に関心がない。正確には葵のもたらす国からの金にしか関心がないのだろう。内務省からの依頼に対する
内輪の相談の内容はおおよそ想像がついた。そして、その場に葵がテレポートで割り込んだことも……。そうでなけれ
ば、この状況の説明が付かない。
「……葵」
 皆本は葵に呼びかけた。
「…………」
 当然ながら、葵の答えはない。
「悲しい時は泣いていいんだぞ」
 皆本は言葉を選んだ。
「それが子供の特権なんだから」
「……ウ、ウチは子供やあらへん」
 皆本の言葉に、座席にキチンと座った葵が肩を震わせた。俯いたまま、皆本に反論する。
「そうだな」
 皆本は葵の言葉に頷くと、言葉を続けた。
「でも、子供でいる方がずっと気楽だぞ」
「…………」
「大人に甘えるのもワガママ言うのも……子供の、子供だけの特権なんだから」
「…………」
「だから、お前は泣いてもいいし、甘えてもいいんだ……もっとも僕じゃ」
「うッ、うッ……うわあああん!」
 葵は『頼りないかもしれないけど』と言いかけた皆本に抱きつくと堰を切ったように泣き出した。

「…………」
 泣きじゃくる葵を抱きとめた皆本であるが、流石に名古屋を過ぎても泣き止まない葵、そして、奇異の視線を向けて
くる乗客たちに閉口したのは言うまでもない。


(そのいちにちめ……おわり)


「おい、もうそろそろ寝るぞ」
 コンビニの弁当を食べ終わった皆本は葵に声を掛けた。ここは皆本の自宅である。ホテルでもバベルの施設でもよか
ったが、この状態の葵を放置するのは問題だろう。
「あの……その……」
 俯いた葵は傍らに「の」の字を書いている。
「どうした、葵?」
 いつもはクールな葵の様子を見かねた皆本は声を掛けた。
「……あの、その……ウチはずっとココにいてもええのん?」
 葵は上目遣いに皆本を窺っている。
「…………」
 皆本は一瞬躊躇った。葵の引き取り先はまだ正式に通知されていない。果たして、レベル7のエスパーを同居させて
くれる家庭がいるだろうか?しかも、皆本は葵のステイ先の選定には直接関与していないのだ。彼女らにここまで深く
関わっていなければ、自分だってイヤだ。しかし、今ここで葵は見捨てることは出来ない。桐壺局長、まさか貴方はこ
こまで予想して、僕に説明役を命じた訳じゃないでしょうね?
「ここでいいのか?」
 皆本は葵に訊ね返した。
「…………」
 葵が小さく頷くのを見ると、皆本は言葉を続けた。
「じゃあ、決まりだな。局長には僕から言っとくから。それと明日は買い物だぞ。幾らなんでもずっとマットで寝るわ
けに行かないだろ」
「……あの……それと一緒に寝てもええ?」
「…………」
 皆本は反応に苦慮した。皆本はロリでもないし、当然ペドでもないのだ。
「……今夜、今夜だけでええから……」
 葵はそこまで言うと、再び口を噤んだ。
「ああ、分かったよ。でも、ちゃんと歯を磨くんだぞ」
 皆本は葵にそこまで言わせたことを反省しつつ、葵に笑いかけた。
「うん!」

 その夜、葵にヒシとしがみつかれた皆本はひたすら悪夢にうなされていた。


(そのふつかめ……)


「…………」
 葵は夢うつつの状態で温もりを探していた。あるべきはずの位置に体を摺り寄せるが、温もりはない。ついさっきま
であったのに、今は……見つからない。
「……皆本はん!?」
 答えはない。葵は泣き出しそうな顔で再び叫んだ。
「皆本はん!」
「起こしてしまったか?」
 葵の叫びに、皆本が廊下から顔を覗かせた。片手にコーヒーマグ、片手に新聞の姿である。
「まだ早いんだから、寝てていいんだぞ」
「なら、ウチも起きる!」
 葵は首を振ると、ベッドからもぞもぞ這い出した。
「顔を洗ってこい。それから、朝ごはんにしよう」


「まずベッドに机と椅子、それに衣装ケースがいるな。それから身の回りのモノも。細かいものは葵、お前が考えて
おくんだぞ」
 朝食の片付けを終えて、座り直した皆本は腕組みした。
「お金はええの?」
「まあ、それなりの給料をもらってるしな。だから、お前がそんな心配をする必要はないぞ」
 皆本はそこまで言ってから、慌てて付け加えた。
「もちろん、あんまり高いのはダメだけどな」
「皆本はんが買うてくれはるの?」
「ああ」
 葵は皆本の答えに一瞬目を丸くする。
「どうしたんだ?」 
「なんでもあらへん」
 俯いた葵の顔は綻んでいた。


 葵は店員と話している皆本をボンヤリ眺めていた。葵が選んだベッドはかなり高かったらしい。皆本は渋い顔をし
ながらもOKを出した。そして、配送の打ち合わせをしているのだ。
「じゃあ、今日の夜でいいですか」
「ええ、なんとかします」
「すみません、ムリ言って。なにしろ、突然同居することになったもんですから」
 皆本は溜め息をついてみせた。
「優しそうなお兄さんでいいわね」
 葵に女性店員が話し掛ける。
「おニイやあらへん」
 葵は言下に切り捨てた。そして、その店員を一瞥すると、付け加えた。
「赤の他人や、今はな」
 話の接ぎ穂を失って困惑する店員を他所に、葵は皆本の元に駆け寄った。
 ちなみに、葵は行く先々で同じ答えを返したらしい。
 そのため、葵の下着を買うために立ち寄った店では皆本が好奇の視線に悩まされることになった。



(そのあと……)



「あーあ、疲れた」
 時計を見ながら、薫が不機嫌さを隠さずぼやいた。
「うん」
 紫穂もそれに唱和する。
「ま、まあ、あと少しですし」
 バベル局長付きの秘書官である柏木がふたりを宥めるように口添えした。顔が僅かに引きつっているのは、彼女ら
が国内に三人しかいないレベル7のエスパーゆえであろう。
 救いのようなチャイムに、柏木がホッと安堵の笑みを浮かべた。
「さっさと帰ろうぜ!」
「うん」
 口調とはウラハラにダラダラと帰り支度を始める薫に紫穂である。残りのチルドレンである葵はなんの動きを見せ
ていない。
「皆本はん、まだ終わらんの?」
 葵は彼女らの担当官である皆本に向かった。
「もう少し待ってくれ」
 皆本はキーボードを叩きながら、葵に告げた。
「「??」」
 顔を見合わせる薫に紫穂である。
「しゃあないな」
 葵は皆本のデスクに当たり前のように腰を下ろすと、小さなこぶしで皆本の頭をグリグリ抉り始めた。
「ウチがこうしておとなしゅうしてる間にさっさと済ますんやで」
「わあってる。だからジャマするな」
 皆本は葵を追い払う仕草を見せた。
 しかも、それに素直に従う葵である。
「「葵(ちゃん)?」」
 薫と紫穂が目を丸くしながら、なかば不機嫌そうに葵に向かった。
「なんや、ふたりして?」
「……あの、その……」
「なんで、葵が皆本を待ってるんだァ?」
「ああ、それかあ?だって、ウチ、皆本はんと一緒に暮らしてるんやもん、しゃあないやないか」
「「はあ!?」」
「うん?」
 皆本は身の危険を感じて、顔を上げた。
「……み、皆本ォ!!!」
 薫が絶叫した。


「葵が皆本と同居だと!!」
「皆本さん、どうゆうこと!?」
「ど、どうして、お前らが怒るんだ!?」
 ようやく薫のテレキネシスから解放された皆本が叫んだ。
「大丈夫かいな、皆本はん?」
 葵は皆本の体を気遣って見せた。
「なんで葵だけなんだよ。ヒイキだ、ヒイキ!」
「だったら、わたしも!」
 手足をばたつかせて抗議する薫、そして、それに賛成するように頷く紫穂である。
「だから、さっきから説明してるだろ。葵がいちいち京都から通うのは時間も金もかかるんだ。それを省くために仕
方がないだろ?」
「あたしだって!」
「だ・か・ら、お前たちはこっち(東京)に家があるだろが」
 皆本はホトホト閉口しながら、同じ説明を繰り返していた。
「うう〜〜ッ。それとも何か?皆本は葵のような貧乳がスキなのか?」
「…………」
「そんな変態性欲者がいることは知ってたけど、皆本もまさかそうなのか!?」
 薫は涙ぐんだ目で皆本を睨みつけた。
「薫、ヒトの人格を壊すような発言は止めろ!」
 思わず皆本も怒鳴り返した。
「……そうなの?」
「紫穂も真に受けるんじゃない!」
「失礼な。ウチかてちゃんと大きくなっとるわ。なあ、皆本はん?」
「そんなこと、僕に同意を求めるな!」
 皆本も我知らずエスカレートしていた。
「ストだ、デモだ、イジめてやるう!」
「もう、ワガママいうなよ。大体、僕んちは3LDKなんだ。あと二人も住める訳ないだろ」
「「…………」」
 薫と紫穂は一瞬顔を見合わせた。
「「じゃあ、あたし(わたし)が一緒に」」
「「…………」」
「「紫穂(薫ちゃん)はこれまで通り」」
 堅い同盟は一瞬で崩れ、薫と紫穂は睨みあった。
「薫ちゃんのような乱暴者と一緒に暮らすのは皆本さんの健康に悪いと思うの」
 しゃあしゃあと告げる紫穂である。
「それにわたしなら、少しは家事ができるから皆本さんの負担にならないわ。皆本さんだって、きっとわたしの方がい
いと思うの」
「ううううう〜〜ッ」
 流石に薫は紫穂に反論できず、唸るばかりである。だから、皆本にトラと言われるのだ。
「困ったなあ。ふたりとも大事やし」
 ニヤニヤとふたりを見ていた葵はポンと手を打った。
「そうや、ウチの部屋を薫か紫穂が使えばええ。ほなら、部屋の問題はないやろ?」
「だったら、葵ちゃんはどうするの?」
「ウチはこれまでどおり皆本はんと一緒に寝るから」
「……こ、これまでどおり?」
「皆本と一緒!?」
「こ、こらッ、葵!!」
「そやった、皆本はん。これはウチらふたりの秘密やったな!」
 皆本に笑いかける葵の表情はワルガキそのものである。
「……大人にワガママ言うのは子供の特権……」
 皆本の腕を掴んだ紫穂がボソッと呟いた。
「葵ちゃんはいいケド、わたしたちはダメなの?」
「…………」
 皆本はそのまま凍りついた。これで薫・紫穂の合流も確定したのは間違いなかった。


















 


 




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