ザ・グレート・展開予測ショー

イルカの歌 1. 伊-九号


投稿者名:黒衣の僧
投稿日時:(04/ 9/23)



「私ノ予知ガナゼ必ズ当タルカ分カルカネ、オ嬢チャン?」

“お嬢ちゃん”という呼び掛けは気に入らない。
あたしは、少し嫌味を込めてこう返事した。

「3年前は外れたじゃないか、じーちゃん。」


―――――  イルカの歌 1. 伊-九号


あの南の島での「普通の人々」による襲撃から3年近く経っていた。
超能力排斥の気運はますます露骨になり、あたしたちの単独行動は厳しく制限されていた。
特に戦闘力も逃走力も持たない紫穂には、必ずあたしか葵が張り付くことになっている。
今日は、じーちゃんとあたしの“単独会見”のため、葵が紫穂に付いている。

「デハ“ナゼホトンド当タルノカ”ト言イ直ソウ。」

じーちゃんは大して気にした風もなく、話を続けた。

「私ノモウヒトツノ超能力ニツイテハ知ッテイルネ。」

「テレパシーだろ?」

「ソウ、ソレガきーわーどダ。実ハ私ハ予知ナド一度モシテイナイノダヨ。」

あたしがその言葉を理解する前に、じーちゃんはこう言った。

「私ハ未来カラノ情報ヲてれぱしーデ受信シテイルニ過ギナイ。」

「…」

「ツマリ私ノ予知ハ“実際ニ起コッテシマッタコト”ナノダ。」

それは、未来を変えることはできないということだろうか。

でも、皆本は部分的にせよ未来を変えたじゃないか!
だからじーちゃんもこうして生きている。

「起コッテシマッタ未来ヲ変エルコトハデキナイガ、
 コレカラ起コル未来ヲ変エルコトハデキル。」

未来を過去完了形で語る奇妙な言葉が続く。
あたしがついていけないのを察したのか、じ−ちゃんは話を先に進めず、
前の言葉を補足した。

「時間ハ…ソウ、川ノ流レノヨウナモノダ。
 川ガ上流カラ下流ニ流レルヨウニ、時間モ過去カラ未来ヘ流レル。
 我々ハ、川ノ流レノ中ノ一滴ノ水ダ。
 水ガ流レ去ッテシマッテモ、上流カラ常ニ新シイ水ガ供給サレ、
 川ハソノ形ヲ保チ続ケル。」

「川ノ流レヲ変エルコトハ容易デハナイ。
 ダガ一滴ノ水ガ進ムこーすヲ変エルノハ、不可能デハナイノダ。」

あたしはこういう難しい話は苦手だ。
でも、じーちゃんが送り込んでくるイメージのおかげでなんとなく分かったような気になる。
きっと後でゆっくり考えれば、山のような疑問が湧くんだろうけど。

「私ニハソノちゃんすガ与エラレタ。
 未来カラ発信サレタ情報ヲ受ケ取ル能力ダ。
 シカシ制約ハ余リニモ多イ。
 私ハ未来ニ向ケテてれぱしーヲ送信スルコトハデキナイ。
 受身デ待ツシカナイノダ。
 発信者モてれぱすトハ限ラナイシ、私ニ向ケテ情報ヲ送信シテイル意識モナイ。
 タマタマ私ノ所ニ届クダケダ。
 ソノ情報ノ多クハ曖昧デ、混乱シテイテ、
 意味アル断片ヲ取リ出スコトスラ難シイ。」

じーちゃんは、ここでしばらく間を置いた。
ここからが本題だということをはっきり示すために。

「シカシ、アルてれぱすカラ、私ハ極メテ詳細ナ、
 明確ナ目的ヲ持ッタめっせーじヲ受信スルヨウニナッタ。
 18歳ノ君カラ13歳ノ君ニ送ルヨウ、私ニ託サレタめっせーじダ。
 今後、君タチノ身ニ訪レル悲劇ヲ防グタメニナ…
 君ハコレヲ受ケ取ルカネ?」

“悲劇”という言葉があたしを怯ませた。
怖い。
きっとそれを知ると心が引き裂かれる。
今までの自分でいられなくなる。

でも…

知らなければならない。

未来の“あたし”がこうまでして伝えようとしているのだから。

あたしが肯定の意思を固めたとき、ふとした疑問が頭に浮かぶ。

 … あたしにはテレパシーの能力なんかないはず。

「ソレニツイテハ、スグニ分カル。サア聴ケ!」

じーちゃんは18歳の“あたし”から託されたというメッセージをあたしの心に送り込んだ。
頭の中で奇妙な音が響く。調子はずれの歌のようにも聞こえる。
イルカは超音波を使って会話をするという。
それが聞こえたらこんな感じなのだろうか。

その音はやがて意識から消えて行き、代わって知らない記憶と感情があたしの心を支配した。


―― そしてあたしは18歳の“あたし”になった。




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