ザ・グレート・展開予測ショー

(元)チルドレンの陰謀(かなあ)(絶チル?)


投稿者名:DOOR
投稿日時:(04/ 9/18)



 内務省勤務、皆本光一。
世間様からはいわゆる勝ち組みと評価されるレベルの人間である。
 しかし、皆本宅の表札には、主人である皆本光一と並んで、葵・薫・紫穂というネームが刻まれていた。


「皆本はん、遅い、遅いで。今日はウチの自信作やのに」
 野上葵はぼやいた。リビングのテーブルには葵の手料理がキレイに並んでいる。今日の食事当番は葵なの
だ。
「うう、いい匂い!」
 明石薫はもう席について、箸を握り締めている。
「そやろ、特に酢豚はウチの自信作や。なんたって、肉は清水の舞台から飛び降りる気で買うた極上の黒豚
やで」
 葵は胸を張った。参考までに言い添えると、お金の出所はすべて皆本の財布である。
「し、し、辛抱たまらん」
「もう少し待ちなさいよ、薫ちゃん」
 三宮紫穂がお預けを食らっているトラのような薫を制止した。
「皆本さんがまだなんだから」
 もちろん、そういう紫穂も不満そうな表情は隠していない。

 三人はそのままでアイドル・ユニットをつくれそうな美少女揃いであった。それも史上最強の!
 なにしろ、素手で機甲師団を殲滅できるアイドル・ユニットなど、空前絶後にして唯一無二だろうから。
 彼女らは日本国政府が契約しているレベル7のエスパー『ザ・チルドレン』なのだ。もう充分に成長した彼
女らに相応しいと思えないが、公式文書ではいまだチルドレンと呼称されていた。もちろん、彼女らに面と向
かってチルドレンと呼ぶ命知らずは、少なくとも内務省には存在しない。
 そして、その三人は皆、皆本宅に住んでいる。
 三人が三人ともその理由は皆本がチルドレンの主任担当官であるからだと主張していた。

「あ、電話!」
「誰か出てえな」
「はい、皆本です」
 受話器を取った紫穂がさりげなく答えた。なぜか照れたように受話器のコードをクルクル弄んでいる。
「あ、皆本さん」
 電話を受けている紫穂の顔に浮かんでいる不満の色が濃くなった。
「はい、はい……分かりました」
「なんだ、紫穂」
「皆本さん、今日は遅くなるって」
「…………」
「はん」
 三人の視線は皆本の席に向かっていた。

 参考までに言うならば、今夜の皆本の割り当ては酢豚ならぬ野菜の甘酢餡かけに化していた。




(元)チルドレンの陰謀(なのかあ?)




「ねえ、ふたりはこれからのこと、どう考えてる?例えば五年後とか?」
 ベッドに腰を下ろした紫穂は薫と葵に向かった。
 ここは皆本の部屋。皆本家でサーモ・センサーが配置されていないのは皆本の部屋だけなのだ。
 盗聴・盗視の可能性はなく、自らの安全のためとはといえ、自分らの所在はバベルに明らかである。この
ため、チルドレンたちはここに群れるようになっていた。自室がチルドレンたちの寄り合い場所になってい
ることに、皆本は不満を覚えない訳はないのだが、もう諦観していた。そうでなければ、とてもチルドレン
たちとの同居はできない。
「どうって?」
 皆本のパソコンでエロサイトを閲覧していた薫は振り返った。薫のパソコンでもネットにアクセスできる
のだが、皆本によりアダルト・サイトへのアクセス権限は禁止されていた。流石の薫もそれに不満を言うツ
モリはないし、権限を勝手に変更するツモリもない。それでも、皆本のパソコンからアクセスするのは構わ
ないらしい。
「ずうっと、このまんまやないのかなァ?」
 ベッドに寝転がったまま、葵はポテチを摘んでいる。読んでいるのは、金持ちになるためのハウツー本だ。
「こうして皆と一緒に」
「…………」
 紫穂は呆れたように首を振って見せた。
「甘いわね、ふたりとも。皆本さんだって、もう結婚しておかしくない年よ」
 そう、皆本はもう二十六になろうとしていた。
「結婚、あの頼りない皆本がかあ?」
 薫が鼻を鳴らした。野生のトラに等しいレベル7のサイコキノを叱れる皆本はそれだけで尊敬に値するの
だが、薫自身はそう考えていないらしい。
「せやせや、もそっと金勘定に細かくならんとあかん。嫁はんが苦労するで」
 葵も薫に唱和した。しかし、皆本も自分の給料を食いつぶしているひとりである葵にだけは言われたくな
いだろう。
「皆本さんは高学歴・高収入・高身長。それに実家はかなりの資産家なのよ」
「「…………」」
「客観的に見れば、皆本さんは旦那さん候補としてかなり有望株。皆本さんを狙う性悪女は結構いるはずだ
わ。今日だって、本当に残業なのか疑わしいわ」
「紫穂は何を言いたいんだ?」
 婉曲な物言いを好まない薫が訊ねた。
「せやせや」
「だから、この生活も皆本さんが結婚すれば終わりになるのよ」
 紫穂はイライラと告げた。親友ふたりが近視眼的思考の持ち主であることは分かっていた。それでも、こ
の能天気さは許せない。
「考えてもみて、未婚の男性が血のつながりのない美少女と同居しているのは世間的に充分異常よ」
 自ら美少女というあたり、紫穂も中々のものだ。
「だって、皆本はあたしらの担当官だし」
「せや、担当官が部下の面倒を見るのは当たり前や」
「ふう。だから、それが例外だって言ってるの!」
 紫穂は溜め息を付いてみせた。
「それに皆本さんが結婚すればどうなると思う?」
「はあ?」
「幾ら皆本さんがお人よしでも、わたしたちと同居すると思う?」
 さりげなく失礼な発言をする紫穂である。
「たとえ皆本さんが認めても、皆本さんの奥さんが絶対認めないわ」
 紫穂は自分の言葉がふたりの胸に沁みこむのを待った。
「「…………」」
「だから、わたしにいい考えがあるの」
「なに?」
「なんや?」
 薫と葵は異口同音に訊ねた。
「………………」
 紫穂は幾分モジモジと躊躇った末、顔を赤らめながらふたりに告げた。
「わたしが皆本さんと結婚すればいいのよ」
「「……」」
「もう少しすれば結婚できる年齢になるし」
「「…………」」
「薫ちゃんも葵ちゃんも親友だから……月イチぐらいならお泊まりだって構わないわ」
「「………………」」
「だから、ふたりには皆本さんにまとわりつくお邪魔虫を排除して欲しいの」
「「……………………」」
「もちろん、わたしのアプローチにも協力して」
「ち、ちょっと待ったあ!!」
 薫が吠えた。
「何言ってんだよ、皆本の相手はあたししかいないだろ!」
「どういう意味?」
 紫穂の冷たい視線を浴びながら、薫はエヘンと胸を張った。
「だから、皆の居場所を作るのはリーダーであるあたしの役割ってことだよ」
「…………」
「それに皆本には皆本を引っ張るぐらい強引なのがいいんだ、丁度あたしみたいな。それにプロポーション
はあたしが一番いいしな、なんたって女の魅力はカラダだからな、カ・ラ・ダ!」
「だったら、その役目、ウチが引き受けたるわ。ウチのカラダかて薫に負けてへん!バストはともかく、ウ
ェストはウチのほうがずっと細いで」
「…………」
「だいいち薫のようなランボーもん相手じゃ、皆本はんの命が幾つあっても足らへん!」
「どういう意味だよ!」
 薫は吠え返した。自覚がないというのは恐ろしいことだ。
「…………」
 紫穂は沈黙している。紫穂の成長振りはほかのふたりに比べると……幾分控えめなのだ。バストはふたり
に完璧に負けているにも関わらず、ウェストは薫に勝っているという悲惨さである。
「大体、皆本はんとの同居はウチが一番長いんやで!まずウチに優先権あることを覚えてて欲しいわ」
「長いったって、精々一ヶ月しか違わないじゃないの」
 紫穂も流石にこれには反論した。葵と皆本の同居が判明した後のふたりの恫喝と泣き落としには皆本は当
然、桐壺局長でさえ逆らうことができなかったのだ。
「それにウチは紫穂とちごうて、毎日泊まっても構わへん。一泊3万でどうや?」
「どこの高級ホテルを経営してるツモリよ!?」
「それにしても、ウチの親を説得した時の皆本はんのせりふ、ふたりに聞かせてやりたかったわ。ウチのこと、
『責任を持って面倒を見る』って皆本はんは言ってはったんやで。ホンマにカッコよかったわ。ウチはジンと
来たで」
 葵は紫穂の揶揄はどこ吹く風である。両手を胸の辺りで組んで回想モードに入っている。
「それはバベルが面倒を見るって言っただけでしょ。皆本さんにまったく責任はないわ」
 紫穂はむきになって反論する。腹黒さはともかく、プロポーションでは紫穂はふたりにまったく歯が立たな
いのだ。それに紫穂の「力」では力ずくで皆本をモノにすることはできない。このままではどっちかに力ずく
で皆本を押し倒されてしまうだろう。
「とにかく、わたしが皆本さんのことを一番よく分かってるんだから。だから、わたしが一番ふさわしいの!」
 紫穂は理屈にならない反論を繰り返した。
「ふふん、そんな水掛け論、皆本に確かめれば一発だろ。もちろんあたしを選ぶに決まってるけどな!」
 薫は自信タップリに断言した。その根拠は何処から出てくるのはまったくの謎だ。
「そうかあ?後で吠え面かかんといてえ。なあ、紫穂?」
「…………」
 紫穂は沈黙で応じた。


 まだまだ続くかもしれないなあ……。

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