ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第11話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 9/15)



・・そして、翌日。

誰もがまだ寝静まっているような・・そんな朝早く。

中庭の階段に座ったまま、タマモが小さくあくびをしていた。
夏に入ったばかりのこの季節にしては、稀に見るほど激しい冷え込み。両手に息を吐きかけながら、彼女がかすかに振り向くと・・・

「・・うぅ・・眠みぃ・・。オレらは犯行に備えて休養とるんじゃなかったのかよ・・これじゃ、普段の方がよっぽどマシだろ?」

そう言って・・ノソノソと横島が、玄関の奥から這い出てくる。
お世辞にも・・いや、お世辞じゃなくてもやる気があるとは思えないその表情を、タマモは呆れたように見返して・・

「だらしないわね・・」    

「・・いや、平然としてるお前の方がありえないから。ってか、その前に・・昨日あの後2次会とか、もっとありえないから。
 西条は途中で逃げ帰るわ、美神さんは酒グセ悪いわ、パピリオはオレをボコボコにしてくるわ・・・・・オレってつくづく不幸の星のもとに生まれてるよなぁ・・」

うめいた後、横島もタマモのとなりに腰かける。
時間はA.M 6:05。あと5分もすれば、西条が直接事務所まで迎えにくる、という手はずなのだが・・・・

「それにしても・・西条さんが私たちを頼ってくるなんて珍しいんじゃない?いつもなら完全に立場が逆だと思うけど。」
「・・・まぁな」

「そもそも、あの人が一人で手に負えない状況ってなんだと思う?」
「・・・さぁな」

「・・・・ねぇ・・ちゃんと・・聞いてる?」
「・・・まぁな」

・・・・。メキャ!!
横島の顔に、タマモのヒジがめり込んだ。

「って〜な!!何しやがる!この貧乳狐!!」 「どう考えても今、非があるのはあんたでしょうが!!」
・・まぁ、待機中だろうが、休養中だろうが・・結局、彼らのやることは、いつもとそうそう変わらな、ということだろうか?

白く靄のかかった並木道。見慣れた風景。思いのほか静かな街の様子を、なんとはなしに半眼で見据えて・・・

「・・・・。」
不意に・・・横島は曇り空を見上げると、肩ごしに一つため息をついた。

「な・・なに?急にマジメな顔して・・」
戸惑うように、口ごもるタマモ。それに横島は苦笑する。

「いや・・なんかさ、よく考えたら全然知らねぇんだな〜と思ってな・・」
「?何を?」
「あの野郎の昔のことを・・だよ。」

・・あんまり知りたくもないけどな・・・
付け加えるように口にしながら、横島が壁に寄りかかる。・・あの野郎。横島がそう呼ぶ相手は一人しかいない。

「・・西条さんの・・こと?」
「どうせまた、ロクでもねぇ歴史に彩られてんだろ。ムカつくぐらい何も話さないからな・・」

ガシガシと・・不機嫌そうに頭をかいて・・それきり横島は押し黙る。相変わらずの眠たげな表情。
しかし、その端にうかがえるのは・・・・
・・・・。

「ふ〜ん・・・」 

「ん?なんだよ?」
からかうような笑みを浮かべて、タマモが顔をのぞきこむ。たじろぐ横島にはかまわず、そのまま彼女は・・

「心配なんだ・・・友達だもんね。」
・・・なんてこと小さくつぶやいてきて・・・・その瞬間。

「って、はぁあああああああああああっ!?なんでオレがあのロン毛の心配なんかしなきゃなんねぇんだよ!?
 いや、それより友達!?誰と誰の話をしてるの!?もしかしてその『友達』は密かに闇討ちしたい奴を暗に示す隠喩かなにかかよ!?」

血相をかいて横島が怒鳴る。勘弁してくれと言わんばかりの声音。
しかし、タマモはまたもや、そんなことお構いなしで・・・・

「なんだかんだ言ってけっこう仲良いじゃない。それに少しだけ似てるし・・」
「よ・・よせ!本気で鳥肌が立ってきたから。大体、似てるってどのあたりが・・・」

マンガで言うなら、顔に縦線が何本か入ったような・・そんな引きつった笑いを浮かべながら、横島がその場を後ずさった。
よほど嫌なのか・・耳をふさいで、彼はどんどんとタマモから遠ざかっていき・・・・・
・・と。そこで・・・・

「おはよう、2人とも。昨夜はよく眠れたかい?」

・・何ともタイミングよく、聞きなれた陽気な声が響いてくる。
門の前に止まる西条の車。会話をどうにか切り上げようと、珍しく今日は横島の方からそちらへと近づいていって・・・
・・で、数秒後。

「て・・てめぇ、ブ殺したらぁあああああああああ!!!」 「死ぬのは君だよ横島くん!!!」

なんて、いつも通り血なまぐさい台詞が宙を飛び交う。・・タマモは静かに嘆息した。

「・・・どこが似てるか・・か。」
遠くに見える横島の背中を見つめて、つぶやく。そのまま・・彼女は少し寂しそうに顔をしかめ・・・

「何も・・話してくれないところ。」

―――――――・・。

「お〜〜い。どうした〜〜?早く来いよ、タマモ」

・・・。
・・・・・・。

「・・うん。分かってる。」
一つ頷くと、タマモはゆっくり階段を立ち上がった。 

                        
                          ◇


「へ?お前これから出勤なわけ?・・じゃあこれからオレたちが向かう場所って・・」
「無論、Gメンの施設だよ。今日は本部の方だがね。」

そこは・・車の中。頓興な声に西条が答える。
フカフカした後部座席と、高級感ただようBGM。不条理なものを感じながら、横島が疲れたように息をもらした。
似たような仕事をしているのに、この生活水準の差は、一体なんなんだろう?半眼で首をひねっている横島に代わり、タマモが会話を引き継いで・・・・

「・・本部って・・・」
「ん?」
「・・スズノが前に閉じ込められてた場所よね・・。」

うつむいたまま複雑な表情を見せるタマモ。その瞳を鏡越しに認めると、西条はおどけた調子で話しかけてきて・・

「・・まぁ、手に負えない魔物の幽閉場所でもあるからね。気にすることはないさ、君のことは協力者だと伝えてある。」
笑いつつ、デッキのCDを取り替える。
『クラシックやめろ』という横島の注文など、当然のごとく無視すると、彼は席から首だけをこちらに向けて・・・

「幽閉・・ね。頼みってのはひょっとしてそれがらみかよ?」

「・・・・。」

肩をすくめる横島に返って来たのは・・やはり苦笑。話題を避けるように、西条は懐から何かを取り出した。

「・・追々話すさ・・。それより君に、一つ聞きたいことがる。」
そのまま放り投げると、野球ボールほどのガレキが大した速さもなく宙を舞い・・・・

「・・・・。」
それが、すっぽりと横島の手の内に収まって・・・・

「あ。」
そして、タマモの驚く声とともに、あっという間に砕け散ってしまう。

「聞いたよ。昨日は学校で大層な暴れぶりだったそうじゃないか・・。何気に他人の器物を壊しすぎだぞ、君」
「・・?もしかして・・コレ・・」
「ああ・・。僕が直接、あかずの間とやらから拾ってきたものだ。」

明らかにジト目でこちらを睨みつけ・・西条はさらに言葉を続ける。

「君たちが依頼で訪れた屋敷にも似たようなものが転がっていたそうだな。ここまで言えば、質問が何かわかるだろう?」

「・・・・。4日前と・・それに昨日。オレが一体なにをしたのか・・・ってか?」


そう言うと・・タマモも興味深げに顔上げてくる。彼女にしても、昨晩体験したあの不可解な出来事が気になっていたのだろう。
・・・。左右から思いっきり突き刺さる視線。耐え切れず、横島は頭を抱えた。

「・・・・まぁ・・・いっか。ボチボチ教えとこうとは思ってたしな・・。」
ため息をつき、文珠を呼び出す。その中から1つを選び取り、突然それを、タマモの目の前にかざしてきて・・
「ちょ・・ちょっと何・・」

瞬間。

パヒュッ!という奇妙な音を立て、透き通った緑色の球体がヒビ割れた。
文珠の表面から、次々に紫電がほとばしり、そうして・・―――――――――

「!?・・きゃっ!?」

ポンッ!!!
クラッカーが弾けたように、小さな爆発が起きる。白煙に咳き込み、目を白黒させるタマモを見て、意地悪そうに横島が・・
「・・さっきのお返しってことで。」 「ま・・まだ根に持ってたの!?そ・・そんことよりこれ・・けほっけほっ」
手品ような芸当を見せられ、タマモが不満そうに眉をひそめた。すると横島が、手動で窓を開けながら・・

「もちろん、今のは力を抑えたぞ?ほんとなら、1個でもこんな車、木っ端微塵だし。」
「・・おいおい」

半眼で西条がつっこんだ。やめてくてよ、といった感じで彼はこちらを見据えてきて・・・
だが・・
「・・スティグマーターのときに、攻撃がほとんど通用しなかったのがちょっと堪えてな。ずっと研究してたんだよ。」
フヨフヨと浮かぶ文珠をつつき、横島が笑う。いまいち状況が掴めていない2人に振り向き・・

「複数の文珠を同時に制御することが難しいってのは・・お前らも知ってるだろ?オレの場合は今のところ3つが限界。
 それを超えると、力が全部、術者に対して跳ね返ってくる。」

「・・?でも昨日は4つ・・」

「あせんなってば。あれは別に制御してたわけじゃないよ。」
間髪入れずつっかかってくるタマモを、横島は教師さながら、なだめつけて・・・・

「そもそも、なんで操作が難しいかっていうとさ。その理由は文珠の特性にあるんだよな。」
「特性?」
・・多少、可愛げは欠乏しているが、こちらの方もまるで生徒のようだったりして・・
この2人にしては珍しく、小難しげな会話が続いて行く。

「文珠ってのは言ってみりゃ、莫大なエネルギーのかたまりみたいなもんだろ?
 んで、オレらはそいつに「炎」だの「雷」だののキーワードを与えて力を引き出すわけなんだけど・・実際、しんどいのはそこの行程なわけよ。」

台詞と反して、何故か横島は一人ノリノリで・・・

「キーワードにそって力の流れを操作するんだから、文珠が増えれば難度も効果も増大するのは当たり前。
 扱える量が増えれば増えるほど強力な武器になるけど・・・正攻法じゃあ数に限度がある・・」

そこまで話すと、不意に彼は話をやめてしまう。
それならどうすればいいか・・大体、見当はついただろ?最後にそう付け加えた後、2人を見つめ・・・

「・・逆転の発想か・・。制御できなものなら、最初からしない。あえて力に方向性を与えず、無字のまま・・・」

「・・・エネルギーだけを暴走させる。」
事もなげに横島がつぶやいた。
その響きにどこか危険なものを感じたのか・・タマモが表情を強張らせ・・・

「後先考えなくていいからな。その気になればいくらでも文珠を連結できるし、威力も際限なく伸び続ける。
 4日前使ったのは6つだけど・・それだけであんな状況だ。」

「・・デメリットは?」
おずおずと尋ねる少女に対して、横島は少し答えづらそうに・・・・
「・・・破壊が無差別に巻き起こることかな。術者が近くにいようがなんだろうが・・関係なしで。」

・・ピクリ、と・・タマモの体が一瞬震えて・・・

際限がないとは言っても、実行が可能だというだけの話だ。威力を高くなればなるほど・・それは横島の首を絞めることになる。
敵よりも術者を危険にさらすその力は・・・
「・・両刃・・どころか、ほとんど自爆技に近いな。本当に使って大丈夫なのか?」

「そうか?オレは割りと気に入ってるんだけどな・・。2回使って実用的なことは分かったし・・それに・・
「・・それに・・?」

首をかしげるタマモを一瞥して、横島は何故か小さく笑う。
力を抜き、シートに体を預けると・・・

「命と引き換えなら、倒せない奴はいない・・ってところとかが・・特にな」

・・そう言った。・・・言った瞬間・・・・

「!?・・横島・・!?」
「な・・なんだよ。冗談に決まってんだろ?オレがそんな戦隊モノのヒーローみたいなことするわけねえだろーが・・」

必死。といった印象の顔色で・・こちらを見つめてくるタマモの前で、横島は思わず頬をかいた。
恐い顔すんなよ〜・・なんて、安心させるように笑う横島に・・・

「・・・・。」
西条は・・・何も言えず、ただ、ため息をつくことしか出来なかった。

       
                           ◇


〜appendix.10 『メメント・モリ』


「・・?なんだ?」

数分後。目的地に辿り着き、車を降りた横島たちを待っていたのは・・・何故か人ごみ。
本部ということもあり、その建物は確かに大きい。だが、その広さを覆い尽くしていたのは・・・

「・・・!」
異様な空気が辺りを包む。気圧される2人を尻目に、西条は急にその場から走り出し・・・

「あ・・おい!」
「・・・・。」

呼び止める声も聞き流し、彼は・・近場の同僚に掴みかかった。・・怒りの表情を浮かべて・・口を開く。

「・・今度は・・・誰がやられたんだ・・・?」
「・・・・。」
「誰がやられたんだ!?答えろっ!!」

人の数だけ在るようにも見える・・どよめきと混乱。そして彼は・・・・・・

「西条・・・」

「?」

「落ち着いて・・・聞くんだぞ?・・・―――――――――――


――――――――・・。

入り口のベルが軽快に鳴った。
開店すぐのこの時間帯に、お客が来ることなどめったにないはずなのに・・。
そう思い、ひとしきり、いぶかしんだ後・・魔鈴めぐみは肩を回した。まだ店内掃除は途中だったが、来てしまったものはしょうがない。

「いらっしゃいませ〜」

笑顔で応じる魔鈴を目にして、その客も愛想よく笑みを浮かべる。
紫の瞳を黒髪で隠した・・長身の男。

「・・道に・・迷ってしまいましてね・・。せっかくですから、コーヒーを一杯いただけないかな?」

陽光が部屋に影を落とした。

『あとがき』 

ここまで読んでくださった皆さん、どうもありがとうございます〜
魔鈴さん大ピンチで次号に続きます(汗)ちなみにメメント・モリはラテン語で「死を忘れるな」という意味だったりします。
それにしても横島の技解説で半分以上取られたような・・うぅ・・申し訳ありません(泣)
横島くんのフィニッシュブローは『不死王編』の最後にならないと出てこないんですが、
とりあえず今回の『文珠暴走』も今後の闘いのカギになります。アドバイザーが「メガンテだメガンテ!」と叫んおりましたが(爆

あ・・あと、これはあとがきとは関係ないのですが、作者は最近、失恋を経験してしまい、ヘロヘロな毎日を送っております(汗
なにかいい気分転換法を知っている方がいらっしゃれば、お教えください〜
それでは、また次回にお会いしましょう。

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