ザ・グレート・展開予測ショー

雨(11)


投稿者名:NATO
投稿日時:(04/ 9/13)

32
蛇。
そう形容されるのが、一番適当だろう。
最初に会ったときの熟女でも、次の少女でもなく。
二十歳前後の女。それも、美人の部類に入る。
見た者を捕らえるというなら、その容姿だけでも十分に。
そして。
その瞳は相手に絡みつき、その口調は相手の神経を逆撫でし。
まさしく彼女は、蛇だった。
「メドーサ!!」
いっせいに窓に視線が移る。
「人工幽霊一号!」
美神が怒声を飛ばす。
「申し訳ありません。結界に反応しませんでした」
無機質な、声。
それがいっそう美神の神経を撫でる。
その様子を見て、メドーサが笑う。
「まあ、当然さね。世界最高の霊能者が捕らえられないのに、どうして木偶の坊にわかるかね」
世界最高の霊能者。
美神は唇をかむ。
そう、悪いのは、自分。
いまここでこれほどまでに霊圧を放つ者を、声がかかるまで気がつかなかった、自分。
「……死んだと、思ってたけどね」
「死んださ。二度とも、あんたの弟子にねぇ」
「くっ!」
弟子。
「あーら。気に障ったかい?弟子に劣る師匠さん?」
「っ!ふざけんじゃないわよ!!」
「令子ちゃん!」
西条の言葉もむなしく、激昂した令子はメドーサに飛び掛る。
途端。
ぶしゅっ。
小さな「何か」が彼女の足を貫いた。
「くっ!」
「俺を、忘れてもらっちゃこまるぜぇ」
小さな、蝿。
一匹なら捕らえられなくとも、大事にいたることはないだろう。
だが。
蝿が、笑う。
窓の外にびっしりと。
窓の外を黒く染めたそれが、いっせいに「笑った」
33
「あんた、まだその格好なのかい」
メドーサはその冷たい顔を少しゆがめ、はき捨てるように問う。
「これはこれで、楽なのさ。あんただって「そのまま」じゃねえか」
「ふん」
「大丈夫かい?令子ちゃん」
西条は駆け寄り、問う。
「ええ、問題ないわ。それより……」
窓の外。
「どうしてこれだけの数、察知できなかったのかしら」
美智恵は、焦燥の中で言う。
「前より明らかに霊格が上がっている。ただの悪霊ならともかく、このレベルの神魔なら、結界の無力化なんて容易いだろう」
一匹一匹の力を図りながら、唐巣が答える。
「そう殺気だつでないよ。今日は、挨拶に来ただけさね」
笑いながら、メドーサ。
「挨拶?ずいぶん律儀なのね。外道魔族が聞いて呆れるわ」
令子の、挑発。
「そっちも、似たようなもんじゃないかい?何の用意も無いあんたじゃ、叩く気も起きないってだけさね」
圧倒的優位に立つものを前に、むなしく響くだけだった。
「ケケケッ。もういいじゃねえか。雑魚はほっといて、帰ろうぜ。必要なことは、わかったしよ」
蝿が、言う。
「……そうさね」
メドーサは、軽く頷くと、手を軽く一つ振った。
「火角結界!」
緊張が走る。
これを破るのは、このメンバーでは不可能。
過去の経験が、それを示していた。
が。
「……どうやら、復活してもやることは同じらしいね」
柔らかな、それでいて激しい、光。
矛盾する両者。ただ、そのどちらも、それが「力」であると。
唐巣が、メドーサと蝿を見つめていた。
「……ほう。少しは骨があるのがいるようじゃないか」
光が収まる。
結界は、消滅していた。
「引くか、来るか。好きな方を選びたまえ。僕も、この件で手を抜くつもりはない」
唐巣。
冴えない顔に、柔和な笑顔。
今は、そんな部分は鳴りを潜め、圧倒的な冷たさだけが宿っていた。
「てめぇ。人間風情が……」
「やめな!!」
メドーサが、遮る。
「なにをしたんだか知らないけど、とんだ隠し玉がいたもんだねぇ。前のときは、どうして使わなかったんだい?」
この結界は、神属とて容易く破れるものではない。あっさりと「消滅」させた唐巣の危険性を察したメドーサ。
「彼らに任せておけると思ったからさ。それに、あまり良い思い出がない技でね。……それで、どうするつもりだい?」
「……最初から、挨拶のつもりさ。行くよ」
蝿に声をかける。
「……覚えときな。あんたは、俺の獲物だ」
引き際の殺意の声。
唐巣は、顔色一つ変えず、それを聞いていた。
34
しばらくして。
「……とりあえず、何とか成ったわね。それにしても、あいつらが関わっているって話は、聞いてないけど?」
令子。
「ああ、僕も知らなかった。そんな話は、出てこなかったんだがな」
「……それに、何か隠しているようだった。しきりに横島君を気にしていたのも引っかかるわね」
美智恵。
「まあ、なんにせよ事はいっそう複雑になった。というわけか」
「……ええ、作者が頭抱えている様子が、目に見えるわ」
「何の話です?」
「いえ、こっちの話よ。それより、まず、どう動くの?」
「いまの話を聞かれていたとすると、横島君達が危ないな。彼らがこの国を離れるまで、援護が必要だろう」
「……どこにいるかも分からないのに?」
「それは、やつらだって同じだ。でも、彼らがこれから必ず行く場所は知られてしまった」
「……空港ね」
「ああ。待ち伏せの可能性が高い」
「ま、それはその時に考えましょ。……さて、ところで神父?さっきなにをしたのか、説明してくれるわよね?」
「……笑顔が怖いよ。令子ちゃん」
唐巣は、いつもの柔和な顔に冷や汗を浮かべ、後ずさる。
「私も、神父がそんな力を持っていたなんて知らなかったわ。弟子にくらい、教えてくれてもいいんじゃないかしら?」
美智恵。
「あ、あはは」
結局、神父は冷や汗を流しながらごまかすだけだった。
35
次の日。
「……なあ、おい。もうやめないか?」
横島の声は、疲れきっていた。
「なに言ってるのよ!まだ十回目でしょ!まだまだこれからじゃない!」
「あのなあ、いくらなんでも限度があるっての。今までの騒動で余裕ないし……」
「いいから、早く!」
対してタマモの声は明るい。
「……タマモが、これほど好きだとは思わなかったよ」
「なにをいまさら。私を誰だと思ってるの?」
「まあ、そうなんだけどな……」
「だったらほら、早くしなさいよ!」
最早、罵声。
「……」
「いまさら何を言っても無駄よ。もう始めてしまったんだから……」
愁いを帯びた、タマモの声。
彼女もまた、本心から望むわけではあるまい。
だが。
体が、止めることを許さないのだ。
……いや、実は心の底から望んでいるかもしれない。
「……女将さん……。もう一杯お願いします」
横島の声を聞き、にやりと笑う少女。
注文を受けた女将の顔は、引きつっていた。
先日の、食事処。
迷惑かけたお詫びに、いくらでも食べていいぞとのたまった横島。
自業自得だろう。
前にあれほど食べたのだから、今回はそんなに入らないだろうという計算は成り立たなかった。
好きなものは、好きなものなのだ。
前回と合わせると50杯を超えていそうな量であろうとも、どう考えてもタマモの体積より多い麺の量も。
好きなものならば、入るのだ。
「なあ、ほんとにもう……」
「次っ!」

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa