ザ・グレート・展開予測ショー

秋風


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 9/12)

からっとした日差しと共に騒々しい蝉が鳴き続け、そして地面にポトリと落ちる。
涼しい風がその蝉の死骸を転がしていきます。

薄汚れたあるアパートの一室。部屋の中には女性が一人。
黒髪のかわいらしい女性。長く伸びた髪を後ろで束ね、薄ピンク色のエプロンを身に纏っています。

彼女は部屋の掃除中でした。この部屋の本当の持ち主の男性は今は外出中です。
今夜の夕食の材料を買いに行ったのでした。
いつもは彼女は行くのですが、たまには自分に任せてくれと言ったのです。

彼女は買い物の代わりに掃除をしていました。
ちらかった部屋の中の物をまとめ、ゴミを袋に詰めていきます。そしてふと思う。
ここのところ頻繁に私が掃除している筈なのに・・・。何でこんなに汚れるんだろ?

今、彼女は週三でこの部屋に来ています。半同棲と言ったところでしょうか。
二人の関係はまあ、一応世間的に言う所の恋人同士?・・・です。
少なくとも彼女はそう思っています。彼は少しまだ恥ずかしがっているようですが。


「本当は言って欲しい言葉があるんですけど・・・ね。」


苛立つ気持ちを押さえ、軽く部屋中に掃除機をかけます。音がガーガ―とウルサイ。古い型の掃除機です。
買い換えたらどうですか?と言ってみたんですがまだ使えるからって・・・。
別に以前と比べて貧乏じゃなくなったんだから良いのに・・・。モノを大事にする心は良いんですけど。
・・・こんな事を考えるなんて私も現代に染まっっちゃったのかな?ちょっと口元が緩む。
実は彼は最近、倹約倹約が口癖のようでして。何かあったのかな?

一通り部屋の片付けが終わり、掃除機もかけました。
そこで空気の入れ替えと思って窓を開けます。というか開けておくべきでした。うっかりしてた。
ちょっと暑苦しかったこの部屋に涼しい秋の香りが吹き込んできました。


「涼しー・・・。やっと夏が終わったな。」


雲が少し早く流れて行き、鰯の形をしてる。もくもく雲はどこかへ行ってしまったみたい。


その時・・・ガチャッ・・・という音が後ろでしました。


「お帰りなさい。早かったですね。」


彼は少し笑って、ただいまと返してくれました。手にはビニール袋を持っています。


「何買ってきたんですか?」
「すき焼き。そろそろこんなのも良いかな・・・って思って。」
「・・・珍しいですね。最近はお金使わないのに。」


私は頭を捻る。やっぱり何かある。


「ま、まあたまには贅沢もいーだろ。ほらほら準備準備。」
「あっ、はいはい。」


私は彼からスーパーの袋を受け取ると台所で中身を確認します。狭いんですけどね。
牛肉。豆腐。シラタキ。葱。水菜・・・やっぱり元関西の人だなあ。ごぼう。しいたけ・・・あれっこれ何だろ?

食材の奥から小さなリボンのついた白い箱が出て来ました。ケーキ・・・かな?
それにしては箱が小さい。とりあえず私はリボンを外して中を覗いてみようとしました。すると・・・。


ふわっと。


「・・・あっ、何ですか急に。びっくりするじゃ・・・。」


後ろから急に彼に抱きしめられて思わず動揺します。いや、まあ嬉しいんですけど。


「あっ、あのさ・・・。その。」


彼の身体が熱くなっているのを感じました。その温もりが私に伝わってきます。


「その・・・、箱を開けるなら一つお願いが・・・あるんだけど。」
「何です?」


「・・・い、一緒に暮らさない?いや・・・その今もほとんど同棲に近いけど・・・さ。それだけじゃなくて・・・。」


私は自分の顔が火が出るくらい熱くなっているのを感じました。彼も一緒です。多分。
彼が言いたい事もピンを来ました。そして何となくですが箱の中身も予想出来ます。


「今のままでも充分だと思います。別に何か問題があるとも思いませんけど?」


私は彼に後ろから抱きしめられたまま、少し意地悪をしてみる。
私なりの照れ隠し。というか次いで出てしまったというか・・・。少し舌を出す。


「い、いや、その・・・。その・・・つまり。」
「出来ればはっきりと言って頂けると嬉しいですけど?」


私は身体を彼の方に翻すと、にっこりと笑って俯き加減に彼に見た。
・・・でももう言葉なんて要らないですけどね。返事は決まってます。


「俺と・・・。」


私の耳は全てを捉える事は無かった。彼の前で箱を開ける。それが私の返事。


涼しい風が部屋の中を吹き抜けるが、二人の周りだけは気温が2、3度は違うように見えた・・・。


おしまい。

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