ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と 第10話』 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 9/11)



「う〜ん・・今日は空が暗いわね・・どうしたのかしら?」

窓から見える景色に星はなかった。

一人ごちて・・残念そうに身を引いた後、美智恵がチラリとうしろを振り向く。
そこは夜の・・静かな病室。閑散とした静かな部屋。
横島たちが去り、少し前までの、あの騒がしい状況が・・今ではまるでウソのようだ。


「・・・雲。」

布団の上で、コロコロと転がっていたスズノが不意に、小さく顔を上げて・・・

何をするでもなく、ただ彼女は外の風景を眺めている。
・・横島たちはまだ店に着いていないだろう。歩いていくと言っていたから、ひょっとして開けない視界に難儀しているかもしれない。




数分後、夜闇に霧が立ちこめ始めた。





「美智恵・・西条は・・どうかしたのか?」

ポツリ、とスズノがつぶやいた。

「・・・なに?突然・・」

「横島たちの前では、普段通りにふるまっていたけど・・今日の西条は、少し変だった。」

記憶をたぐり・・・うつむく西条の表情を思い浮かべる。
もう何日も寝ていなかったのかもしれない。あそこまで憔悴しきった顔は、そうそう作れるものではない。

(・・・・・。)

そして・・・何より・・・・・


――――そうそう・・生きて帰れたら、西条のヤツにこう伝えてくれないか?


「私を襲った男の・・・あの伝言を教えたとき・・・・」


「・・・・あんな恐い顔をする西条・・・初めて見た・・・・」



〜 『キツネと羽根と混沌と 第10話』 〜



・・・そのころ。

「お・・・美味そう・・一つくれよ、タマモ。」
「ちょ・・横島!それ私の北京ダック・・・・」

「まぁまぁ、オレとお前の中じゃないか〜ユア マイ フレ〜ンド。」

「・・・。そ・・その心無い発言がどれだけ人を傷つけてるか分かって言って・・・・」
「・・なんだ?よく分からんけど、とりあえずもらうぞ。」

・・・。
場所は・・予定通り都内の高級中華料理店だったりして・・・
大きな丸テーブルを囲みながら、面々は思い思いに、料理に箸をつけていた。その中央には、ワナワナと震える西条が一人。

「いやね・・金額のことを気にしてるわけじゃないんだよ・・ただね・・」
「あ〜ウェイトレスさん。この元宝小蹄膀ってやつ、も一つ追加ね。」

「・・・・。」

こちらを尻目に、料理を追加し続ける横島を見つめ・・・さらには、遠慮無用で次々に料理を平らげていくメンバーを見つめ・・・

「・・・・・。」

やっぱり西条は震えまくっていて・・・・

「その・・・ごめんなさい、西条さん・・」
「あとで、パピリオにはきつく言っておきますから・・・」
「あ・・あの。私自分の分はなんとか費用を出せると思います・・。」

上から順におキヌ、小竜姫、神薙。
この場で唯一良識を保っている3人に、西条は本気で両手を合わせて拝みたい気分になって・・・
・・いや、そんなことはどうでもいいのだが。

「・・ごほん。それで皆、そろそろ仕事の話を始めたいんだが・・構わないかい?」

疑問形だが、有無を言わせぬ西条の口調。すると、それに反応するかのように神薙が振り向き・・・
「・・・・。」
他の面々を食事を止める。
彼は内心、ようやく胸を撫で下ろしていたりして・・・まぁそんな話はさておき(汗)、


・・・ようやく、西条が口を開いた。


――――――・・。


「スズノちゃんの件もあったからね・・。都内に爆弾魔が現れたことは、すでに皆知っているだろう?
 それで今日の6時・・事件が起きたのとほぼ同時刻なんだが・・Gメンあてにちょっとした文書が送られてきた。」

「文書?」

「差出人は不明。まぁ・・内容を見れば一目瞭然なんだけどね・・」
苦笑しながら肩をすくめて・・西条は、横島へと、一通の封筒を投げてよこした。
その内容は・・・粗悪な筆跡で、こう・・。


【次の会場はこちらから指定させていただきます。気が向いた際は貴方がたも、是非、お立ち寄りください。
 本日より大きなイベントを用意して、心より歓迎させていただきます。
 
                      追伸 あの世への道程も大勢ならきっと楽しいものになることでしょう】


・・・。

「・・ベタだな、おい」
読み終えた瞬間、半眼で思いっきり横島がうめく。それを制するように、タマモが横から口を挟んで・・・・・・

「でも・・妙じゃない?これ。話に聞いた犯人の手口って、虚をついた爆発がないと成功しないものでしょ?
 だったら予告なんかしても・・誰も現場になんか近づかないだろうし・・・」

言いながら、小さく腕を組んだ。
・・かと言って、悪戯の可能性は薄いというのが泣きどころだ。
郵送で届いたのなら、投函されたのは当然、3、4日前。数時間前の凶行をほのめかす内容が・・犯人以外に書けるとも思えない。

「封筒からわずかに霊気が検出されたからね。無関係という線は消えてるよ。」

茶をすすりつつ、事も無げに口にする西条へ、タマモは小さく小首をかしげて・・・

「・・つまり、予告後の避難も敵にとっては計算ずくってことだろう。なにを企んでるのかは見当もつかないが・・」
ため息をつくと、彼はそのまま言葉を濁した。タバコを灰皿に押し込んだ後、苦虫を噛みつぶしたように顔をしかめ・・・・


・・・。



「・・そう・・でしょうか?」


抑揚のない声が沈黙を破る。
その瞬間・・目を細めてつぶやく神薙に、全員の視線が集中して・・・

「爆発の起こる場所も、日時もすでに分かっている・・。その気になれば、絶対に安全な場所から事件の一部始終を見物できる・・。
 それも、一般人にとっては普段全く縁のない・・非現実ともいえるオカルト事件を・・」

「神薙先輩?」

「もしもスイーパーでなかったら・・横島くんはそんな時、自分がどういう行動を取ると思いますか?」

横島に限らず、驚いた様子でこちらを見つめる全員を見返し・・・神薙は薄く微笑んだ。

「・・私だったら・・そうですね。本当に見物にいってしまうかもしれません。言い方は悪いですが、俗に言う野次馬・・ですね」
慣れた手つきでお茶を汲み・・さらに、続ける。
「今のは仮の話ですが・・こういった心理は、性別、年齢に関係なく・・人間に共通して存在するものでしょう?
 ・・例え、指定の場所にはネズミ一匹いなかったとしても・・結果としてその周囲には、考えられない数の人間が集まる・・」

「・・そこに落とし穴が存在する・・・そう言いたいのかい?」

「私が敵の立場なら、まず間違いなくそうします。
 1度安全を確認し、安堵したその瞬間ほど・・崩れやすく脆い状況は他にありませんから。」

そうこぼしながら、神薙は穏やかな瞳で西条に対して振り向いた。
どう思いますか?・・まるでそう問いかけてでもいるかのように彼女はその目を細めたままで・・・・


『・・・・・・。』


一同はあっけにとられ、思わず言葉を飲み込んでいた。

(「・・なんか、お前・・今回は完全に先輩にお株を奪われてないか?」)
(「そ・・そんなこと言ったって。向こうが普通じゃないのよ・・推理がどうこうとかいう域を完全に超えてるし・・」)

つられたようにヒソヒソと話す横島とタマモをよそに・・神薙は真剣みをおびた声で、尋ねる。

「・・それで、西条さん。妖魔が指定してきた場所と日時というのは・・」
「え・・・?あ、ああ・・予告日は3日後・・場所は都内中央のセントラルビルだよ。」

慌てた調子で西条が答え・・・

「・・・・。」
彼からは・・そして、その場にいる誰からも見えない位置まで顔を背け・・・神薙は、薄く、冷たい笑みを浮かべた。

「都内中央・・・3日後・・・なるほど、そういうことですか・・」

普段の彼女からはまるで想像できない・・どこか深淵を思わせ、それでいて酷薄な表情。
・・・少女は、音もなく椅子から立ち上がった。

(さて・・人間たちにバラ撒く情報は、このあたりでいいでしょう・・。思いの外、有意義な時間が過ごせましたね)

・・まだまだ仕掛けはありそうだが・・・
ユミールが何を考えているのか、おおよそのことは把握できた。あとは・・・・・

・・・・。
・・・・・・・・・。


「あれ?神薙先輩、もう帰っちゃうんですか?なんなら店の入り口まで送りますけど?」


「「・・・え゛?」」


のっぺりした横島の声がそんな提案を持ち出してきて・・・
我に返った神薙と、その隣に座っていたタマモが・・同時に、間抜けな声を上げた。
立ち位置は違えど、2人はそろって、うろたえた表情で横島の顔を見つめていて・・・

「ん?なんでそこでタマモが驚くんだ?それに先輩・・なんだか少し顔が赤・・・」
「わ・・私は・・その、急用を思い出したので・・これで失礼します・・!」

なんてことを裏返った声音で叫んだあと・・神薙はあっという間に踵を返して・・・
追うように、タマモも席を立つ。

「・・だからなんでお前がそこで立ち上がるんだよ?オレが送っ・・・・」
「い・・いいから・・!私が送るから。横島はちゃんとそこに座ってて・・!」
「ちゃんとも何もお前・・」

「い・・・いいの・・!」

それだけ言って、タマモはその場を走り去ってしまう。・・後にはポカンとして固まる横島と・・・
「・・・・。」
〈何でこいつはこんなに鈍感なんだよ〉といった感じで彼を睨む、余りのメンバーだけが取り残されて・・

(ふむ・・まぁ、タマモくんはともかく・・あのお堅い美冬ちゃんがね・・)
すでに点のようになっている神薙を、西条は嘆息しながら見送った・・。


「しかし・・参ったな・・。あの2人には、少々話があったんだが・・・」

言いつつも、彼は楽しげに苦笑して・・・

「あの2人に話?何だよそりゃあ・・」
「君にもさ、横島君。・・・大したことじゃないんだが・・3人に手伝ってほしいことが・・ちょっとね。」

「・・・・・?」
それは本当に事も無げに・・・野暮用でも頼むかのような軽い口調で・・・・
特に気にする風でもなくめいめいが食事を再開する。・・・・しかし、横島だけが眉をひそめた。
見逃さなかった・・というほうが正確かもしれない。

微笑の中に一瞬だけ見え隠れした・・・昏い光・・・

(・・・・。)

それは・・まるで・・・・――――――――



                      ◇




夜の帳を・・うっすらと霧が覆い隠していた。


病院までの帰り道。
先を歩き、ワイワイと騒いでいる女性陣たちを見つめながら、西条が穏やかに目を細める。

「それで・・妙神山から来た2人は?今日はとりあえず事務所に一泊するのかい?」

あたりを包む濃色の闇。
その夜は月が出ていなかった。道を照らすのは街頭から漏れ出る、蒼ざめた鈍色の光だけで・・

「ああ。詳しいことはまだ聞いてないけど、小竜姫さまたちも、なんだか大事に巻き込まれてるらしくてな。しばらくはこっちで暮らすんじゃないか?」

大きく、横島がのびをする。
湿気を含んだ空気。濡れることにも構わず、そのまま彼は、夜闇に沈む坂道を歩き・・・

・・・・。

行き場なく彷徨う霧が・・黒ずんだアスファルトを濡らしていた。




「・・さっきからおかしいとは思ってたけど・・急に死人みてぇな顔色になってんなぁ・・お前・・。」




独り言のように横島が言う。

何かあったのかよ?
そう、つぶやいた後・・・
わずかに距離を置く西条を、いつもの・・気だるげな瞳で一瞥して・・
・・そんな瞳に西条は笑った。

「・・なんだい、それは?皮肉か・・それとも、気遣いでもしてくれてるのかな?」
「・・言ってろ。」

言いながら、互いに苦笑して・・同時に、のしかかるような静寂が訪れる。

途絶えた会話。
空を覆う傘雲。

・・先に口を開いたのは・・・西条だった。




「別に・・・・・」



・・表情は見えない。
ただそれは・・・実と無の間を漂うような、冷たい声音で・・




「ただ、今日みたいな空は嫌いなんだ・・・・それだけさ。」

彼は・・・弱々しく・・闇を見つめたのだった。



〜appendix.9 『暗い空の下で』


夜の帳を・・うっすらと霧が覆い隠していた。


閉ざされた視界と暗闇の匂い。
路地裏を歩き、親しげに話しかけてくる青年を前にして・・・『男』は屈託ない笑顔を彼に返した。
長身に、コートを着込んだ黒髪の男・・・。

「・・しかし、悪かったね。丁度、残業の帰りだったんだろう?」
「いえ、気にしてませんよ。それにイギリス暮らしが長かったんですよね?道に迷うのも仕方ない・・」

人の良さそうな青年の言葉に、『男』は小さく頷いた。
あたりを包む濃色の闇。そこには街灯から漏れ出る光すら無い。

「本当に・・な。日本も大分、様変わりしたもんだ・・。
 今日なんて少しブラブラするつもりが・・いつの間にか見知らぬ公園に辿り着いてね。あれにはさすがに参ったよ。」

つぶやくと、何を思い出したのか・・『男』が笑う。それはひどく・・渇いた笑みで・・・
青年もつられて頬を緩めた。

「最近、こっちのGメンも忙しいそうじゃないか・・。夕刊を賑わす爆弾魔事件・・・それに加えて・・・」

「《喰らう者(イーター)》・・・ですか。3週間前、ラプラスを除く、ヴァチカン牢獄の全魔物を皆殺しにした・・」

「世界を賑わす大事件だからな・・。それで俺まで本国から捜査に駆り出されたわけなんだが・・」

『男』は一つ肩をすくめて・・・懐から煙草を取り出した。
火を貸してほしいと・・そう伝えると、青年は緊張した面持ちのまま、ライターを取り出す。

「全く・・厄介な化け物だよ、その上ずる賢い・・。ただの魔物が野生に生きる獣だとしたら・・ありゃ、毒沼に潜む蛇みたいなもんだな。」
「・・・。」

紫煙を吹かし、やれやれとばかりにそうつぶやく『男』。
そんな彼の様子に青年は・・職場の、ある上司の面影を見た。女に関して浮いた噂も数多いが・・それでも、彼の憧れである上司の口調。
・・シニカルな物言いがどことなく似ている。

「しかし・・・西条さんも喜ぶだろうな・・もとの所属から助っ人が駆けつけてくれたんですからね・・」
なるだけ、明るいトーンを心がけながら、青年は軽くそう付け加えて・・・・。『男』は・・静かに瞳を細めた・・。

「おや?西条を・・知っているのかい?」
「そりゃまぁ・・一応、直付きですからね。あなたの方こそ、ご同輩だとさっきお聞きしましたけど?」

不思議そうに尋ねる。『男』の表情が・・何故か見えない。
そして・・・

「ああ・・そうだな・・・」
実と無の間を漂うような、空ろな声音で・・・・

「アイツとは・・・トモダチだった。」
男は、愉快そうに・・ただ小刻みに肩を震わせ・・・・・


・・・行き場なく彷徨う霧が・・黒ずんだアスファルトを濡らしていた・・。


「ああ・・もうここでいいよ。すまなかったな・・・ようやく、道順を思い出したみたいだ。」
「え?ここ・・ですか?こりゃまた偉く中途半端なところで・・・」

狭い路地を見回しながら、青年は・・足を止めた『男』に頭をかいて・・・。かまわず、『男』がつぶやいた。

「・・あぁ、本当にありがとう。礼を言うよ。それと・・最後に一つ、野暮用を頼まれてくれないかな?」

屈託の無い笑顔。
しかしその声は・・・先ほどのような、よく通るものではなく・・・・

「は・・はぁ・・・」

「《喰らう者》の特徴・・・復唱してみてくれ。」

・・・・。

言われて・・・・・・
青年は、話に聞いただけの・・その怪物の風体を思い浮かべた。確認するように・・一つ、一つ、口に出して繰り返してみる。

「・・髪は黒・・・東洋系の顔立ちに、どちらかと言えば、やせ型の体型・・・」

「・・・・・。」

「長身・・・紫色の、珍しい瞳・・・・そして、何より・・片目が・・・」

「・・・・・。」

・・・・。

正解だ。

そんな賛辞とともに、『男』は髪をかき上げる。そこから覗く、潰れた右目を・・・青年は、驚愕とそして恐怖を込めた表情で見つめ続け・・


「ぁ・・・ぁぁ・・・・・」

「死ね。」

鋭い斬音が・・・・闇に響いた――――――――・・。


――――・・。

静寂が黒を支配する。液体のように流動する・・歪曲した腕に触れながら・・・『男』は小さく空を見上げた。

「せっかくの再会なんだ・・ここは一つ、劇的にいこうじゃないか・・。なぁ?西条・・・」

・・答える者は何処にも居ない。



〜あとがき〜

ヴァチカンの牢獄も静かになったのか・・・(爆)
と、いうわけでご無沙汰してしまい申し訳ありません〜予定より4日も遅れてしまいました・・。
インターミッションが今回で終了して、次回からようやく後半戦ですね。
まだバトルは少し先になりそうですが、違った意味で緊迫した展開になるかもしれません。
え〜と・・あとは・・・・・・。あ・・しばらくコメントをつけられず、すみませんでした。これはら色々読ませていただきます〜
それでは〜

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