ザ・グレート・展開予測ショー

雨(10)


投稿者名:NATO
投稿日時:(04/ 9/ 9)

29
朝。
二日間降り続けていた雨も、霧のように弱いものへと。
どちらも、何も言わない。
「……ルシオラが、聞いたんだ。それで、いいのか?って」
「……」
ぽつり
不意に、横島が呟いた。
「命令だったら、無視したかもしれない。哀願でも、あのときの俺は、多分無視した。でも、問いだったんだ。あなたは、それでいいの?って」
「……うん」
「うまくいえないけど……。やっぱり俺にとってお前は、みんなは大切な仲間で。あの瞬間、どうにもならない体の奥で、やれって声をかける自分と、それを必死で止めようとする自分がいた」
「俺の、願望なのか、それとも体内の因子なのかは分からない。でも、やっぱり俺は、お前を守りたいんだ。あんなことがあったから、なおさらに」
「……うん」
「俺は、一人じゃない。少なくとも、タマモはあそこまでしてくれた。代償じゃないけど、いや、代償だとしても、俺は「お前」を守ることにするよ。ルシオラへの誓い。しばらく忘れる」
「……できるの?」
「できるか、じゃない。本当なら、もっと早くに気がついてなきゃいけなかったんだ。俺は、ルシオラを隠れ蓑に、全てから目をそむけてただけだった。目を向けながら、生きていく自身がなかったから。けど、もしタマモが助けてくれるなら……。俺は、変われると思う。ほかのだれでもない。俺のためにあそこまでしてくれた、タマモとなら」
ずきり
横島の胸を指す記憶。
ルシオラ
彼女もまた、彼を変えた。
今の彼の強さも、悲しさも、全ては彼女が与えた物だ。
守れなかった彼女。
二度とは、繰り返さない。
そして。
タマモの心を刺す記憶。
ルシオラ
彼は、あの時、そう言った。
最後の瞬間まで、彼は、ルシオラしか見ていなかった。
たとえあの時死んでいても、彼の心には彼女しかいなかったろう。
変えられなかった、彼。
塗り替えてみせる。
自分の、全てに賭けて。
「……ついてきて、くれるか?」
「……もちろん。そのために、あれだけやったんだからね」
「……そうだな」
霧濃き森の中、二人は手を、つなぐ。
それは、新たな誓い。
「……それにしても、ずいぶん仲間思いなんだな。知らなかったよ」
「……へ?」
「まさか、命賭けてまで俺を気にかけてくれるとは思わなかった。タマモ。シロにもちゃんとおまえのそういうとこ見せれば、冷血女狐なんていわれなくてすむのに」
「……」
殺意。
「本当に、死んでもいいと思ったのに……」
「だから、それだけ「仲間」を思えるなら……。うわっ、なんだその馬鹿でかい狐火。お、おい、ちょっと……タマモさん?」
横島の断末魔が響き渡る。
本当に、死んでもいいと。そう思った。
いや、むしろ殺してやると。
30
「さて、「例の彼」でも拝んでくるかね」
男。青年と呼んでもいいくらいの外見。
ただ、目だけは違った。
同年代の人間が、いや、どれほどの物を見てきた者でも、こうはなるまいといえるような。
そういう意味では「例の彼」の圧倒的な負の瞳と似通っていたかもしれない。
彼の眼は、獣のようで。
それでいて、驚くほど静かだった。
31
「……いままで黙っていたことは、後でじっっくりはなしを聞くとして、今は、どう動くかね」
「同感だわ。いままで隠していたことはじっっくり話を聞くとして、ね」
「同感でござるな」
「同感ですね」
蚊帳の外の四人。
「あ、あはは」
西条は乾いた笑いを浮かべる。
本来なら、彼女たちを巻き込むつもりはなかったのだ。
ほっといても首を突っ込んで来るとは思っていたし、それを止めることは不可能と分かっていたが。
少なくとも、まだ、早すぎる。
それが。
たまたまデスクに置きっぱなしにしていた一枚の書類が。
想像を絶する速さで破裂した彼女の堪忍袋が。
西条の完璧な予定を粉々に吹き飛ばしていた。
彼らにとって、ある意味最も難敵である。
「それにしても、その陰陽連?そんなに気にしなくちゃいけないわけ?ただの霊能者集団でしょ?」
「……まあ、ね。本来なら政治にかかわりを持たない組織なんて、力を持ち続けられるわけがないんだけど……」
「簡単なことさ。彼らの持つ力が、政治力ではなく、軍事力ということだ」
唐巣。
「……強い霊能者集団なんて、いくらでもあるじゃない」
「「強い」の桁が違うのさ。ある意味、反則的ですらある」
「……どういうことかしら?」
「彼らは名前の通り「陰陽五行」に通じた集団だ。それがなにを意味すると思う?」
「……世界の理。ですか?」
おきぬがおずおずと口を出す。
「流石だね。その通りだ。つまり、彼らは世界の改変さえ可能な集団だ。その気になれば彼ら一人一人が狭域ではあれど、原始風水盤と同じことができる」
「……信じられないわね」
「そうかい?そもそも原始風水盤だって、人が作り出した者だろう?その理屈を知っているなら、人に同じことが出来ないわけがない」
「だって、あれ作るのに何人術者が死んだのよ?そんなものを一人で?」
「可能さ。そもそも、原始風水盤を動かすのにそんなに自分の力はいらないんだ」
「だって……」
「いってるだろう?桁が違うのさ。彼らは、神や魔物と変わらず、いや、それ以上の効率で、地脈や宇宙意思から力を持ってこられる」
「……」
「……驚いたかい?」
「すごいじゃないの!なんとしてもとっ捕まえて、拷問してでも聞き出してやる!」
「……娘の教育。どこで間違えてしまったのかしら」
美智恵はため息をつく。
「……出来るだけ、刺激しないで欲しいのに……」
西条も、目から滝涙が。
「ほう。威勢だけなのは相変わらずだねぇ」
いつもの、事務所。
美神の暴走と、それを止めようとするおきぬ。
ここに、苦笑しながらそれをなだめる横島が居れば、それは、何も変わらぬ事務所であったろう。
だが。
あらゆる場面で災厄をこの事務所にもたらす者の。
聞き慣れた、声がした。

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