ザ・グレート・展開予測ショー

波音が気になって


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 9/ 9)

「うーん・・眠れないなぁ」
何度も寝返りを打つおキヌちゃんである。
ざーざーと外から聞こえる波音が気になってしょうがない。
さる海辺の依頼が有り、何時も通りに終ったは良いが。
「ささ、皆さんささやかなお礼です。お食事をどうぞ」
依頼主が何かと料金値引きをしてきたので、美神も食事つきで手を打った。
秋の幸が大量に並んだ食事に加え。
「ささ、貴方は呑める口と聞きました。どうぞ」
ここぞとばかりにビールを勧めるので、帰る事が出来なくなってしまった。
「参ったなぁ。明日授業あるのにぃ」
そう零しても、ここから始発で帰ったとして学校に間に合うかどうか。
「大丈夫よ、ワタシから仕事だったって学校に伝えとくわ。あービール追加ね」
「どうぞ、どうぞ!」
それもあって、風呂に入り部屋も宛がわれた。
元々日帰りを予定していたので、寝巻きは用意していなかったが、
「こちらをどうぞ」
旅館に多く見られる浴衣を皆着ていた。
この浴衣。着慣れたものならさして問題は無いのだろうが、
おキヌちゃんにはどうも合わなかったのか、
むずむずとした気分も多少はあった。それ故。
「・・・眠れないわ」
であったのかもしれない。
純粋な山育ちのおキヌちゃんにはわだつみの音は安心出来ないようだ。
「うー」
半身を起こし、同行してきた三人を見ると。
「スピー、にくー」
「あぶらあげー、すぴーー」
「給料さげるわよぉーー」
獣娘は特攻を勤めるので、疲労による心地よい睡眠、
美神令子はアルコールで夢見心地。
「はぁ、しょうがないな」
秋も違いというのに布団を跳ね除けたシロを見て、母親の如くかけ直した。
完全に立ったが故、眠れないのに布団に戻る気も無い。
「ちょっとだけ、外見てきますね」
誰も聞いて無いだろうが、皆に伝え、こっそり音を立てずに廊下に出た。
最低限の明かりしか灯してない廊下を抜け、
フロントに向かう。というより明るい場所は其処しかない。
因みに風呂は閉まっている。
夜の仕事を受け持つフロント業務の人もうつらうつらとしているようだが。
「あれ?誰かいる?」
比較的明るいソファー周りに人影が。
「おキヌちゃん!どうしたの??」
横島がいましがた読んでいた新聞を手から離してこちらを見ている。
浴衣の彼女に対して横島は持参していたのか洋服を着ていた。
「え、ちょっと眠れなくて」
「そっか。俺と一緒だね」
「はい」
にこりと笑ってから、
「でもどーして横島さん洋服着てるんです?」
「あぁ、俺は仕事でどーしても汚れるからね、一応持ってきてたんだ、ま座りなよ」
二人用のソファーの中央に座していた横島が片方に寄った。
「お言葉に甘えて」
すとんと腰を下ろした際、軽い風が浴衣の裾部分を開かせた。
「おっ!」
仕事着である巫女姿や普段も長いスカートを好むおキヌの生脚がちらりと。
「もう!止めてください!」
あわてて開いた部分を手で閉じる。
「うー、だから嫌なんですよぉ。浴衣ってぇ」
「あは、わりぃ。わりぃ」
ぽりぽりと、頭を掻いた横島が隣にいた。
くどいが彼女は寝巻きとして浴衣を着ていた。フロントに来たのも目的は無い。
誰かと話そうとか、そういう目的でも無い。
つまり、
おキヌちゃんが、ぎゅっと胸元を掴むのも当然である。
「どったの?」
座ったは良いが、何か赤らめてうつむくおキヌちゃん。
「うぅー、だってブラしてないんですもん」
人それぞれだろうが、おキヌちゃんは就寝時、ブラを外しているようだ。
一瞬ぽかんとした、横島であったが。
「うっ!」
不意に鼻を押さえ俯いてしまう」
「ど、どうしたんですか?横島さん」
「は、鼻血が」
興奮でつんと鼻腔の刺激が始まっていた。
「も、もう、大丈夫ですか?」
うつむく横島の首をかるく、とんとんと叩いたおキヌちゃんである。
ふとフロントを見ると、ポケットティッシュがある。
どうやらこの旅館の宣伝をかねたものになっていた。
「あ、いいものみっけ、ちょっと待っててくださいね」
すっと、立ち上がり、
「すいません。ティッシュもらいますね」
うつらうつらしていたフロント従業員も。
「はっ!・・はい、どうぞ〜」
誰でも取れる位置にあるのに、手渡しで貰った。
「はい、鼻に詰めて」
態々こよりを作って横島に渡した。
「あ、ありがと」
そういって振り向いた横島の顔はどうだろう。
「ぷっ!」
「わ、笑うなよぉ」
であった。
そういった横島も最初の苦笑が、笑顔に変わっていった。
その様子をほほえましく見ていたフロント従業員であったが、
「ふわぁ!」
思わず大きなあくびをしてしまい、
急いで口を隠したが後の祭り。
あくびは移るとはよく言ったもので。
「ふあぁーー!」
伸びをした横島があくびを見せると、
「ふぁーあ」
おキヌちゃんもあくびを一つ見せた。
「・・なんか急に眠くなったな、俺部屋に戻るわ」
「そうですね。じゃあ私も戻ります」
「じゃ、部屋までお送りしますよ、ってか」
鼻にティッシュがあったが、芝居がかった仕草でおキヌちゃんを促した。
ふ、若くていいわねぇ、
と、頬杖を付いていたフロント従業員がそう零していた。
部屋割りは横島の部屋の方が奥にある。
「じゃ、おやすみ、おキヌちゃん」
美神たちのいる部屋の前でそう言うった横島である。
「あの、横島さん」
「ん?何?」
数秒の空白があったが。
「なんでもないわ。おやすみなさい、あとゴメンナサイね。その鼻血」
はは、と横島は笑って返した。
「あーあ、いえなかったな。『横島さんの部屋にいっていい』って」
横島に聞こえないように言った。
暗い部屋に戻ると、三人とも何事もなかったかのように寝ていた。
先ほどせっかく直したシロの布団であるが、跳ね除けていた。
それを直してから。
「おやすみなさい」
誰に言うでもなくつぶやいた。

FIN

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