ザ・グレート・展開予測ショー

CROSS ROAD(後編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 9/ 8)







written by SooMighty


CROSS ROAD(後編)
















「横島さん。」
ようやく彼女は口を開き、その短い言葉を発した。
ただ眼差しは異様な程に覚悟に満ち溢れていた。

「おう。」
その眼差しに俺も短い言葉しか言えなかった。

「死津喪比女の事は憶えてます?」

「え? ああ、忘れるわけないだろ。」
いきなり関連性の無い話題が出てきて俺は内心焦った。
だけどおキヌちゃんがズレた話をしてお茶を濁すとも思えない。
とりあえず黙って聞いていく事に決めた。
あれはおキヌちゃんの生存をかけた戦いだった。
忘れられるはずも無い。

「あの時の時代も私にとってかけがえの無い人、大切にしていた人
 が居たんですよ。」

「うん。」
そりゃあそうだろう。
どんな時代でも、人や物に限らず守りたいものという物は
誰かしら持っているものだと思う。

「でも、はっきりいって平和とはお世辞にも言えない時代でした。
 死津喪比女に限らずそういった人を多く失ってきました。」



・・・ああ、そうか3百年も前の時代だもんな。
今より遥かに物騒なのは容易に想像できる。


「そういった事を目のあたりにする度に、やり場のない怒り
 を感じて、こらえきれない悲しみを抱えてきました。」

「・・・」
俺は口を挟めず、ただ黙っているしかなかった。

「横島さん。」
それまで下を向きながら話していたおキヌちゃんは
急に俺の方を振り向いて、そして俺の目と彼女の目を
合わしてきた。

「世界は・・・悲しいことに、人の数だけ悲しみと涙があります。
 これはどうしようもない現実です。横島さんもわかっている
 と思いますけど。」

「・・・そうだね。」
それは痛いほどわかる。
俺も悲しみを初めて背負った。
だからこそそういった事が理解できる。


「でも・・・その悲しみや涙があるからこそ人は優しくなれる。
 そう思えるんです。」

「涙を勇気に変えて、悲しみを優しさに変えて。」

「本当はそんなのは建前や理屈に過ぎないのかもしれません。
 人には要領が悪過ぎると笑われるかもしれません。」

「・・・でも、私はそうやって歩いていきたいと思ってます。
 何があっても。これからも。」

「今回の戦いは色んなものが犠牲になって、たくさんの涙が
 落とされました。そんな涙も私の勇気にする。
 そんな風にこれから歩いていければいい。
 ・・・それが私の答えです。」


















・・・話を聞いて色んな意味で驚いた。
おキヌちゃんがこんなに大人だったなんて思いもしなかった。
考えてみれば3百年以上生きているんだ。
俺よりも遥かに先輩だ。

と同時に、ああやっぱりおキヌちゃんは強くていい娘だな
と純粋にそう思った。

おキヌちゃんは大切なものを多く失っている。
家族、友人、自分の命ですらも。


だからこそ本当に大事なものがわかるし、
優しさの本質がわかっているのだろう。


「・・・どうです? 少しは参考になりました?」

「え!? ああ、俺なんかにはもったいないぐらいだったよ。
 ありがとう。おキヌちゃん。」

「そうですか、よかった。なんかずっとだんまりでしたから
 不安になりましたよ。」

「いや、そんな事無いって。ただおキヌちゃんは凄いなぁ
 って思ってさぁ。」

「そんな事ないですよ。偉そうに言いましたけど、悲しいって
 感情は何回きても慣れないもんですよ。」

「そうか、そうだよな。」

「・・・私は横島さんが悲しんでいるのを見ていると悲しく
 なります。顔には出さないけど美神さんもきっとそうです。
 確かに私たちは横島さんの悲しみの本質は理解できないです。
 だって私は横島さんじゃあないし、美神さんも横島さんじゃあ
 ないですから。だけど、ちっぽけだけど・・・隣にいて悲しみを
 やわらげてあげる事ぐらいは出来ると思うんです。」

「・・・ありがとう。おキヌちゃん。」
今のは本当に心の底からそう思えた。

「横島さんを必要としている人が、少なくとも2人はいるんです。
 だから、横島さんも私たちを必要だと思って欲しいです。」

「・・・こんな俺にそこまでいってくれてありがとう。
 大丈夫、おキヌちゃんや美神さんが居なかったら今の俺はここに
 は無かったよ。」

本当にそう思う。
2人には感謝してもしきれない想いがある。

「私もそこまでいってくださると嬉しいです。」

さっきまでの緊張した重い空気はいつの間にか消えていた。






と思ったら急におキヌちゃんが思いつめた顔をしていた。

「でも、ルシオラさんを復活させるアイディアは結局・・・」
申し訳なさそうな顔でそんな事を言った。

「・・・いいんだ。もう。ありがとう。」

「でも、最後まであきらめない方が、私頑張っていい方法
 考えますから。」

「いいんだよ。本当は現実を直視する覚悟を決めたかっただけなのかもしれなかったんだ。
 心の奥底ではあいつを復活できないのも、もう薄々感づいていたんだ。
 でも、やれるだけの事はやっておきたいってのも本音でさ。
 はは、なに言ってるかわかんないよね・・・俺。」
本当に自分で何を言ってるのかわからなかった。
説明するのが難しい。でも自分の中である種の踏ん切りがついたのは紛れも
無い事実だ。無理に割り切るでもなく、ただ無力さを感じてあきらめるでもなく、
悲しさにうちひしがれて嘆くだけでもなく、今なら自然に受け入れられそうな気がする。


「復活させる事だけがあいつにとっての恩返しって言い方も変だけど
 俺のやるべき事だとずっと思ってたけど・・・でもおキヌちゃんの
 話を聞いてさ、あいつを失った悲しみを抱いて、この悲しみを決して
 忘れない様にしながら生きていく事も大事な気がしてきたんだ。」

「横島さん。」
少し彼女は涙目だった。

「いや、もちろん、生き返らせてやりたい気持ちも当然まだあるんだけど
 でも、いつまでもただそれに捕らわれてるだけじゃあ、あいつを本当に
 悲しませちまう気がするんだ。」
あいつは気が強いながらも優しい性格をしていた。
もしも死後の世界なんてものがあったら、今でも自分より俺の身を
案じているはずだ。いや間違いなくそうに決まっている。


これは自信を持っていえる。
だからこそ心の底まで惚れたのだ。
だからこそここまでこだわってしまったのだ。


「・・・横島さんもやっぱり強いです。
 でもそれでこそ横島さんです。」

「はは、自分らしさなんて正直わからないんだけどね。
 でも、これから先もルシオラが見守っていてくれる。
 支えてくれる人が隣に居る。
 そう思ったらなんとかやっていけそうな気がしてきたよ。」

この時間で、いやここ最近では初めて100%の笑顔を出せた。

「私も横島さんの力になれて本当に嬉しいです。」
彼女も本当に嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれた。



「あ、もうこんな時間! 私そろそろ戻りますね。
美神さんも心配してるだろうし。」
自分の腕時計に目をやりながら慌しく動き始めた。

「そうだね。あ、覚えてるとは思うけど、明日は
 隊長見送る日だよ。寝坊しないようにな。」
一応念を押しておこう。

「大丈夫ですよ。それは横島さんの方が心配です。
 なんなら迎えに来ましょうか?」

うーん、確かに俺のほうが起きれるか心配だ。

「お願いできるなら頼むわ。なんか寝坊しそう・・・」

「ふふ、わかりました。じゃあお休みなさい。また明日。」

「おう、お休み。」




















はぁ、今日は色んな事があったせいか異様に疲れた。
だけど、胸のつかえがとれた気がする。
とりあえず明日に備えてもう寝る事にした。











そして翌日。



案の定グースカ寝てた俺はおキヌちゃんに起こされた。
そして彼女と一緒に待ち合わせの事務所に足を運んだ。



既にみんな集まっていた。
来るのは俺たちが最後の面子だろう。

集まったメンバーは、小竜姫様にワルキューレ、ジークやヒャクメもいる。
そして俺ら事務所の3人だ。


小竜姫様が隊長に時間移動の事で注意を促していた。
どうやらもう時間移動はしてはいけないらしい。
つまりもう隊長とは今生の別れって事か。
あれ?でもそういえば・・・なんか見落としているような?
まあ、今考えてもわかりそうもないのですぐに思考を中断した。

もう会えないのは寂しいがそれも仕方が無い。
隊長は本当に色々よくやってくれたと思う。
わざわざ時空を超えてまで。


小竜姫たちの挨拶も終えて、隊長が俺たち3人の方へやってきた。

「令子、これから先もまた同じ様な事が起きるかもしれない。
 その時はあなたが引っ張っていくのよ。」
優しさと厳しさが同居した声でそう告げる。

「金になれば喜んでやるわよ。あくまで私の重点してる
 所はそこなんだから、それを忘れて欲しくないわね。」
美神さんは全く変わってなかった。
まあ半分本音で半分は強がりなんだろうけど。

「この子は・・・」
呆れつつも変わらない娘に頼もしさを感じているようにも見えた。

「横島君、おキヌちゃん。こんな子だけど、支えてやってね。
 あなたたちがいないと何もできない子だからよろしくね。」
笑いながらそういい、俺とおキヌちゃんに軽く頭を下げた。

「ちょっとママ、何言ってるのよ!」
美神さんは凄く恥ずかしそうにしている。

「あら違うの? 事実じゃない。」

「やめてよ、ママ。」

なんか2人でじゃれあっていた。

「やっぱ美神さんをからかえるのってこの人しかいないよな。」

「はは、そうですね。」
俺たちは苦笑いするしかなかった。




「横島君。」
美神さんから解放された隊長に声をかけられた。

「はい、何でしょう?」
この人と話す時はいつもある種の緊張感が漂う。

「ふふ、そんなに固くならなくてもいいわよ。
 もうあなたの上司でもなんでもないんだから。」
ニッコリと綺麗な笑顔を浮かべそう言ってくれた。

「あ、そうですか。で、なんですか?」
俺もその言葉と笑顔で一気に楽にする事ができた。

「あなたには辛い結末になってしまってごめんなさい。」
深く頭を下げる隊長。

「いや、もういいんです。それに隊長が来てくれなかったら
 今この世界は無かったですよ。だからそんなに気にしないでください。」
むしろ俺のほうが頭を下げる立場だろう。

「ありがとう。横島君。ふふ最初タイムスリップしてきた時よりも
 かなりいい顔になったわね。」

「いやー隊長ほどの人に言ってもらえると自信がつくなぁ。」
何気に隊長に面と向かって褒められたの初めてかも。
それだけにかなり嬉しかった。

「これから先もおキヌちゃんと2人で令子をよろしくね。
 さっきもいったけどあの子あれで結構寂しがりやだからさ。」
美神さんには聞こえないような小声で話してくれた。

「はは、それはもうよくわかってます。でも隊長の期待にこたえられる
 様にがんばります。」
俺も小声で話す。
聞こえたらなにされるかわからん。

「ふふ、ありがとう。これから先もまだまだ辛い事はあるだろうけど
 負けないようにね。」

その言葉を最後に、隊長は振り向き、全員が見える位置で別れの挨拶をした。


「じゃあ、皆さん。私はこれで元の時代に戻ります。
 どうも大変お世話になりました。」


そういって文殊を使い、時間移動の準備を始める隊長。

その時、美神さんが

「あれ、そう言えば・・・」





この後は非常にもめた。
簡単にいうと実は隊長はこの時代でも生きたいたという話だ。

ああ、あん時見落としてたのはこれか、そういやベスパの毒は
解毒したんだもんな。
つまり隊長がこの時代にいてもなんもおかしくないわけだ。



しかも驚く事に、隊長のお腹が偉いふくらんでいた。
出産までしているとの事だ。

いきなり20歳年下の妹ができて彼女も嬉しいやら複雑やらという表情を
していた。



でその美神さんが何やら隊長のお腹をじっと見つめながら考え事を
していた。


そして・・・



「あーー! 横島君!! ひとつだけルシオラを復活させる方法が
 あったわ!」

「え!?」
正直、驚いた。
そしてその方法を聞いた時はもっと驚いた。





あくまで完全なルシオラとしての復活ではない。
俺の体内に大量にあるルシオラの霊基構造を使って俺の子供に
転生させるという方法だ。


「どうする? 横島君。もうそれしか方法はないけど。」

「そ、それって!? ・・・すいません。少し考えさせてください。」






















長かった戦いにもようやく終結の時がきているみたいだ。




俺たち3人はまた巡洋艦に戻った。
あと腰掛け1週間はこうしているつもりらしい。
俺もおキヌちゃんももちろん賛成だったので問題は無い。






俺はまた甲板の最先端の部分で夕日を浴びながら考えていた。
いや、あまり思考は働いていない。

どんな現実でも受け入れる覚悟は既に出来ていたつもりだけど
今の事実にはさすがに複雑な思いになる。


なんせ、つい最近恋人だった人が、実娘に変わってしまうというのだから。


だけど、また1つの希望が生まれた事に胸が震えているのも確かだ。


俺らの恋は叶わなかったけど、あいつは俺に色んなものをくれた。
それは決して甘くて幸せなものばかりとはいえないけど、それでも
あいつがくれた全てを俺は忘れない。


そしてあいつにまた会えたら、今度は俺がそれを教えてやればいい。
それが今の俺の目指すべき道だと思う。


それが正しいか間違っているかなんてどうでもいいんだ。
俺がただそうしたいだけなんだ。




後ろを振り向くと美神さんとおキヌちゃんがいた。


「横島君。その顔を見るともうルシオラの事は蹴りつけたみたいね。」

「ええ、心配かけました。少し寂しさは残ってますけど、もうあいつの
 事で悲しむ事はやめにします。そしてまたいつかあいつに会えるよう
 その日まで頑張って俺の道を歩いていきます。」

「そうそう、その意気よ。」

「それでこそ横島さんですよ。」
2人とも俺を健気に励ましてくれた。

ん? これはもしかしてチャンスかも?

「んで、その事についてなんですが・・・差し支えなければ今すぐに!」
そう言いながら俺は美神さんに服を脱ぎながら飛び込んだ。

「結局そのオチかい!!」

無論カウンターを喰らって終わりだったけど。














この先、道を歩いている時にまた立ち止まったり、振り返ったりして
しまうかもしれない。

それでも俺はこの思いと希望を抱いて歩いていく。

お前に会えるまで。



俺はこの道を歩いていく。


人が・・・

想いが・・・

希望が・・・

絶望が・・・





交差する道を歩いていく。






END

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