ザ・グレート・展開予測ショー

CROSS ROAD(前編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 9/ 8)

誰もがその道の上で立ち止まる。

誰もがその道の上で振り返る。

誰もがそうして気づかぬ内に大人になっていく。

そしてまた歩き出す。

涙を勇気に変えて。

悲しみを優しさに変えて。









誰もがその道を歩いていく。


様々な想いが交差する道を。





written by SooMighty


CROSS ROAD(前編)





俺は甲板の最先端の部分、つまり景色が1番美しく見える場所に独りで
佇んでいた。


見た目が豪快な軍船に差し掛かる夕日。
これだけなら絵になるかもしれんが、その光が当たっている場所には
狙ったように俺が悶々とした顔で苦悩しているんだから台無しだ。



アシュタロスを倒した俺らは今は軍が支給してくれた巡洋艦で寝泊りしている。
それにはそれなりの理由がある。
美神さんの提案でしばらくは自分たちが苦労して救った世界をゆっくり眺めるのも
風流があっていいでしょう、なんて言い出したからだ。

美神さんらしくない提案だとは思った。
さすがの彼女も世界の命運を賭ける程の戦いは何か思うところがあったのだろうか?

それとも単に疲れたからだろうか?

どれも正しいようで違う気がする。

ともかくらしくない事は間違いない。
なんせこの戦闘はボランティアみたいなもんだ。
俺の勘では美神さんの元には一銭も入らない・・・とまではいくらなんでも
有り得ないとは思うが・・・それでも戦っていた期間、相手を考えたら大赤字だろう。
金の計算には自信がない俺だがそんぐらいは分かる。


色んな邪推が頭の中を飛び交うが、結局は分かるはずもなかった。





とりあえず俺としてはありがたい事に変わりはない。
ようやく失くしてはいけないものが見つかった。
自分の全てを捧げてもいいと思える相手が見つかった。


そんな決心をしてた直後に手放してしまった。


俺の力が足りなかったからあいつを救えなかった。
そんな図々しい事を言うつもりはない。
世界のトップクラスのスイパー達が死に物狂いで、力を合わせて
それでもかなりの運もこちらに向いて、そんなこんなでようやく勝利の女神が微笑んでくれたのだ。


俺一人がどんなに背伸びしたって動かしようのない現実はある。
それぐらい知ってるさ・・・
だからルシオラを失った事で落ち込んでいても俺の為にもあいつの為にもならないから、
前を向いて歩こう。

そうした方が良い事だって分かってるさ。





ここで俺は1つ大きなため息をついた。


「ハァ〜〜〜、んな事いったてなー。
 簡単に割り切る事なんてできねぇよな。」

よくある「理屈では納得しているが、心では納得できない」って感じだ。

まして昨日の今日起きた出来事なんだ。
そりゃあどでかいため息も出るってもんだよ。






「まだまだ苦悩の日々は続きそうだな。」

そう言いながらポケットに手をやり目的のものを取り出した。


あいつが俺の命を救う為にくれた霊基構造の欠片だ。
そして、こいつだけが唯一の望みだった。






それも今となっては望みが薄そうなのだが・・・




ベスパとパピリオ、小竜姫様やワルキューレ達を始めとする神族魔族の
連中が丸二日と欠片を探してくれているものの、復活させれるだけの量には程遠かった。

それでもそれに縋るしか術は無い。


もはや最悪のケースってのを覚悟しておかないといけない段階まできているんだろう。
無論俺はあきらめる気なんかさらさら無いが。



歯がゆい思いを抱いていると、後ろの方から優しい声が聞こえてきた。


「横島さん。昼ご飯ができました。美神さんも待ってますよ。」
おキヌちゃんだった。
風に吹かれる青い髪はいつもより綺麗に見え、
柔和な顔つきは相変わらずだな、なんて多少場違いな上、不謹慎な事を一瞬考えてしまった。
あれだけの事件があった直後でも笑顔を絶やさず周りの人間に安心感を
与える。
おキヌちゃん特有の雰囲気は損なわれてなかった。

俺が憂鬱を抱えているからか、今日の笑顔は特に眩しく見えた。


「どうしたんですか? 横島さん?」

ボッーっとしている俺を不思議に思ったのか、手を
目の前で振るお約束な事をしていた。

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていてね。」
俺も笑顔を作って、余計な心配をかけないようになるべく優しい
声で取り繕った。

「そうですか。じゃあすぐに食堂まで来てください。
 皆待ってるんで。」

「あいよ。」
軽く相槌を打ち、おキヌちゃんの後をついていった。

軍船の中は銀色の鉄一色という無骨な作りになっている。
最初は落ち着かなかったが、もはや今では慣れっこだ。
むしろこういうのも悪くないと思える自分すらいる。
食堂の道は下に降りて一本道というわかりやすい造りになっている。








その食堂に向かう際にふと思った事があった。
おキヌちゃんは今回の戦いを終えて何か思うところは
あったのだろうか?
この先に見つめるものがあるのだろうか?


そんな事が漠然と浮かんでくる。


俺はこの先どうなるのか、どうやって生きていこうかという問題が
付きまとっているせいか、他の人の生き方まで気にしてしまう。





考え事をしていると目的地に着くのも速かった。

「あんた人をどれだけ待たせれば気が済むの?」
食堂に入った瞬間に怒声が聞こえた。
美神さんの声だった。

「まあまあ美神さん。」
すぐにおキヌちゃんがフォローを入れる。

「いやーすんまへん。外の景色が綺麗だったもんでつい・・・」
俺も適当に言い訳しておく。
殴れるのは痛いし怖い。

「まあ、反省してるならいいけど。せっかくおキヌちゃんが
 作ってくれたんだから、冷めたらもったいないでしょ。」

今この巡洋艦にはいつものメンバー、つまり美神除霊事務所の
面々しかいなかった。たった3人でこのどでかい船を貸しきっているのだ。
当然コックなんかも出払っている。というより追い出したって感じだが。

やはり美神さんも料理は食べ慣れてるものの方がいいのか、おキヌちゃんが
作った方がいいって事で、追い出したのだ。


俺は飯なんか誰が作ってもいいと思っていた。
どちらにせよ今は切羽詰ってて味なんか分かりやしないから。

「じゃあ食べましょうか?」
おキヌちゃんがそう言うのを聞いて俺も適当な席に座った。



昔のような3人のノリが既に戻ってきている。

その事実に安心している自分もいるし、やはり罪悪感ってのは大げさ
だが、後ろめたい気持ちを感じている自分もいる。



これが世にいう「情緒不安定」ってやつなんだろうか?
単純で明るい俺がこんな状態になるなんて昔なら少しも思いもしなかった。


どうやらあいつと出会った事により、
そしてそいつを失っちまった事により、自分が激しく変わってしまっているのを思い知った。



それがいい事か悪い事かはわかりゃあしないが、これが大人になるって事なんだろうか?








見た目はうまそうな飯だったが味を噛み締める余裕はない。
色んな事を考えながら食べてたせいだろう。
そりゃあこんな事やさらにルシオラは助かるのか、これから自分はどうすべきなのか
なんて無節操に考えながら食ってたら当然だ。


「ごちそうさん。今日もうまかったよ。」
早々に食べ終えた俺はおキヌちゃんにお礼を言った。
本当は味なんかわからなかったけど、感謝ぐらいはしておくべきだ。

「どういたしまして。今お茶作るんでちょっと待っててくださいね。」

「あ、俺の分はいいよ。ちょっと眠いから、自分の個室に戻るわ。」

「・・・そうですか。それなら仕方ないですね。」
やや残念そうな顔をするおキヌちゃん。

少しバツが悪かったが、寝転んでいたい気分なのだ。

























自分の割り当てられた個室に着いた俺はベッドで適当に寝そべっていた。
無骨な軍船のベッドなんてどうせ寝心地悪いだろうなんて見くびっていたが、案外そうでも
なく、むしろかなり気持ちよかった。



・・・・・

あいつの顔はどんな表情でもすぐに思い出せる。

むしろ嫌でも頭が勝手に思い出してしまう。

笑ってる顔、泣いてる顔、怒っている顔。




ふと考えてみれば結構不思議な女だった。

蛍のような儚さを漂わせてると思ったらいやに激情家だったり。

恋する乙女のような面もあれば、いやにリアリストな面も見せたり。



美点も欠点すらも愛していた。
恋をしたりするのは多かったが、こんな気持ちになる女はあいつ以外はいなかった。
そして、ようやくこんな風に言えるようになってきたのに。

「クソ、なんか手があるはずだ。考えろ、横島忠生!」
はっきりいってルシオラが復活しそうな気配はほとんど見られなかった。
隊長や小竜姫様達が別の手段も色々考えてくれたりしてるが、どれも決定打に欠ける。
やはり霊基破片の絶対量が不足しているのが致命的らしい。
自分の中にある大量の霊基破片もワケありで使えない。
時間移動も既に禁止されていてダメ。
それより時間移動じゃおそらく戻っても修正がかけられるからどちらにせよ無理。
ベスパやパピリオの霊基破片なら・・・と思ったがそれも無理らしい。
同じ物質から作られたとはいえ、やっぱり全く同じというわけにはいかないのだ。



もはやルシオラ復活は客観的に見たら絶望的だろう。
だけどそんなに簡単に諦められるわけが無い。




まだなんか残された手段があるはずなんだ!



昨日からずっとこんな調子だ。
無い脳みそを必死に回しても解決策は出てこなかった。







そんな平行線な状態が1時間ぐらい続いただろうか。

コンコン

控えめなノックの音が聞こえてきた。
誰だろう?つってもおキヌちゃんか美神さんしかいないか。

「あのキヌですけど・・・」

おキヌちゃんの方だったか。

「あー開いてるから入っていいよ。」

間もなくドアが開き、なんつうか申し訳なさそうな、でもやや笑顔って感じの
おキヌちゃんが入ってきた。

「いいよ。どうした? 何か用かな?」
俺もできるだけ優しい(つもり)の表情を作って彼女を迎えた。

「・・・私も一緒に考えます。ルシオラさんが生き返る方法を。」


突然の言葉に俺は少し冷静さを失った。
が同時にやっぱり気づいていたかって気持ちもあった。
なるべく表には出さないようにしていたけど、事の直後じゃあ
隠しきれてないのも無理はない。

俺はそこまで感情を押さえるのがうまいって程演技にも自信はないしな。

「はは、ありがとう。」
とりあえずおキヌちゃんの気持ちは嬉しかったので素直にお礼を言った。

「あまり無理はしないでくださいね。横島さんが今一番辛いのは私も美神さん
 もわかってるんですから。」

「ん、そうか、ごめん。なんかかえって心配かけちゃったみたいだね。」
おキヌちゃんの優しさが少しだけ心に染みた。
そして俺の心も多少は気が楽になった。

「じゃあ2人で考えようか? 1人で考えるよりは2人で考えたほうが
 いいだろうしね。」
そう言うとおキヌちゃんは嬉しそうに

「はい!」
といい返事を返してくれた。



































・・・とは言え現状がなんら変わった訳では無い。
絶望的な状況なのは相変わらずだ。
神や悪魔ですら苦しむ難題を俺らが考えてもどうにもならないのは当然か。
色んな発想が言葉になり出てきたがどれも可能性は無さそうな話ばかりだ。


「やっぱり簡単にはいいアイディアが浮かばないですね。」
おキヌちゃんが来て2時間が過ぎただろうか。
それでも彼女の言葉通りの今現在。

「・・・そうだね。ちょっと休憩しようか。
疲れた頭で考えてもいい案なんか出てこないだろうし。」
本音はおキヌちゃんを休めたいだけだが。

俺は考える事をやめちゃあいけないんだ。
大した知識なんかありはしない。
でも今だけは必死にもがかないといけない。
そんな気がしている。



俺の言葉に納得してくれたのか、

「そうですね。横島さんの言うとおりですね。
 じゃあ、なんか飲み物でも持ってきますね。」
俺も喉は渇いていたので快く甘えることにした。

「何がいいですか? といってもお茶かスポーツドリンクぐらいしか
 ないですけど・・・」

「ん〜じゃあスポーツドリンクの方でいいよ。」
疲れた頭と体ならお茶よりもこっちの方がいいだろ。
単純にそう思ったからそっちを選んだ。
おキヌちゃんが食堂に行き、また少しの間独りの時間になった。


漠然と窓の外を眺めて見ると、既に赤い景色はなりを潜め、暗くなっていた。
もうこんな時間か。
だけど特にこれといった報告があったりするわけじゃあなかった。


・・・そういや明日は隊長が元の時代に帰るんだったな。
色々とお世話になったので見送りに行くつもりだ。
あの人がいなければ間違いなく世界はアシュタロスの手に渡っていただろう。

隊長だけじゃなく神族や魔族も今後の事について考えなければいけない事が山ほどあるらしい。
悲しいがいつまでもルシオラ復活に力を注いではいられないのだ。
薄情だなんていうつもりはこれっぽちも無い。
むしろ無理してここまで付き合ってくれて感謝しているぐらいだ。


みんなだってそれぞれ自分の道を歩いていかなければいけないのだ。


俺だってそうだ。そろそろ現実を受け入れなくてはいけない段階に入ってる。
これから先もルシオラがいなくても歩いていかなければいけない。
どうやって歩いていけばいいかなんてわからないがそれでも背中は押されちまう。
もちろんあいつが俺の隣にまた居てくれたら他に望むものなんてない。
でもそれが叶わないからっといって俺も死ぬなんてわけにはいかない。
それこそあいつに対する侮辱だ。
あいつが身を犠牲にしてまでくれた命と優しさだ。
決して無駄にはしたくない。
俺のちっぽけで唯一のプライドだ。


そんな事を考えてるとさっきおキヌちゃんは今後どうするんだろうなんて
気になっていた事を思い出した。


戻ってきたら思い切って聞いてみるか。













そう決心した矢先に扉が開いた。




「お待たせしました。」
そう言いながら笑顔で俺にスポーツドリンクを渡してくれた。
おキヌちゃんは冷たいお茶を飲むみたいだ。

「ありがとう。」
俺も笑顔を作りそう返した。


お互いドリンクを飲んでいるせいか、しばらく無言だった。
ただ、おキヌちゃんの性格上、頭の中では一生懸命考えてくれてる
とは思う。そういう娘だ。


ドリンクを速くも飲み干した俺は意を決して聞いてみる事にした。

「おキヌちゃんさぁ・・・」

「え? どうかしましたか横島さん?」
何気に今日は俺から話しかけたのはこれが初めてだったせいか
やや動揺しているようにも見えた。

「これからどうするの?」
単刀直入に聞いてみた。

「ええと、それって・・・どういう意味ですか?」

単刀直入過ぎたみたいだ。
確かに今の質問は唐突過ぎるし漠然とし過ぎる内容だ。

「あっとゴメン。つまり今回の戦いは、かなり色んな事が起きたじゃん?
 多分、多かれ少なかれ戦った人達・・・いや全世界の人といっても大げさ
 じゃないかもな・・・ともかく色んな人に色んな影響を与えたと思うんだよ。」

「あ、はい。それは私もそう思います。」
急にふられた真面目な話でもおキヌちゃんはちゃんとついてきてくれた。

「そんな中でおキヌちゃんはこの先どうするのかなぁなんて気になっちゃんたん
 だよね。」

「・・・」
おキヌちゃんは真面目な顔をして考えてくれた。
これでも無いって程に。























また結構な時間が過ぎた。
いや実はそんなに大した時間じゃあないのかもしれない。
俺にだけ長く感じているだけなのかもしれない。




そして・・・







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