ザ・グレート・展開予測ショー

バスト・オブ・ザ・ハート


投稿者名:ザ・ルシオラーズ
投稿日時:(04/ 9/ 6)

『バスト・オブ・ザ・ハート』


 ある晴れた昼下がり。ゆったりした白のワンピースを着て赤い上着を羽織ったボブカットの少女が街を歩いていた。ルシオラである。し

かしその姿は、どういうわけかきょろきょろとあたりを見回して、こそこそと通行人の動向一つ一つに注意を向けており、ありていに言え

ば挙動不審だった。まるで知人に会うのを恐れているかのようである。普段なら、すれ違う男性の何人かは彼女の可愛らしさに引かれて振

り返るのだが、今回ばかりは動向の怪しさのせいで怪訝そうに振り返っていた。しかし彼女はそんなことにも気づかないほど真剣に、魔族

の超知覚をフル稼働させながら(触覚がぴこぴこ動いている)足早に歩いている。
 やがて目的地である、中武百貨店が見えてきた。そそくさとその建物の中に入ったルシオラは、エスカレーターを使って三階に上がった

。婦人服売り場である。そして品物を見ているふりをしながらそのフロアをぐるぐると歩き回り、知人のまったくいないことを確信してか

ら、ようやく目的の品を手に取った。……豊胸パッド入りブラジャーである。

「ふ……ふふふ……これさえあれば、私も……いいえ、違うわ。私は巨乳なんて羨ましくもなんともないのよ、ええ。……羨ましくなんか

ないわ。……これは、そう、好奇心。ちょっとした好奇心、知的探究心! 胸の大きい私がどんな姿をしているか気になって、それでちょ

おっとだけ試してみるだけなのよ!!」

 なにやら怪しく笑いながらぶつぶつと呟いている。かと思うと、急にぐわと頭を上げて、カウンターへ向かった。そして一言。

「……試着してもいいですか?」

「ど、どうぞ……」

 妙な迫力を持ったルシオラに、女性店員はちょっと引いていた。





「こ、これは……!」

 パッドをつけたルシオラは、試着室に備え付けられた鏡を見て感動していた。彼女の体型はもともと、腕や脚はすらっと長く、腰もくび

れていて、胸のサイズ以外は十分以上にモデル並みなのだ。そこへもって、パッド入りブラジャーである。鏡に映ったその姿は、かなりの

プロポーションを見せていた。

「これが……私……っ」

(うーん……これぐらい胸があったら、ヨコシマの腕を挟んでみたりしちゃったりなんかしてっ!! ……やだもう、私ったらっ)

 ルシオラは我知らず、にやけた笑みを顔に浮かべていた。そしてついには、試着室のなかでポージングなんかを始めてしまう。鼻歌を歌

いながら、ご機嫌である。妹達が見たら泣き出すこと間違いなしの姿だ。

「……これ、買うわ!」

 いそいそと服を着込んで会計を済ます。むろん、ブラはつけたままだ。そして足取りも軽く下りのエスカレーターに乗る。ふと目線を下

げると、ふっくらとしたふくらみが見え、「ふふっ」と笑ってしまった。しかし、幸せだったのはここまでである。
 にやにやしながら顔を上げると、知った顔と目が合った。その人は登りのエスカレーターに乗っていて、ちょうどすれ違う寸前だった。

「あ゛」

 ずだだだだだんっ、とものすごい勢いでエスカレーターを逆走して、先回りしてその人を待つ。それほど多く顔を合わせたことがあるわ

けではないが、あれは間違いなく……

「……暮井先生」

「おや。君は確か、編入生の……ルシオラさん? あの横島クンと付き合ってる変人の」

「……変人は余計です」

「自覚が無いの?」

「……」

 そう、腐れ美術教師暮井緑である。

「それはそうと、そんなに慌てて私に何か用があるの?」

「え……あの……気づいてないんですか……?」

「なにが……? ……ああ、なるほど」

 にやりと暮井が笑うのを見て、ルシオラはようやく自分のミスに気がついた。今まで数回しか言葉を交わしたことの無いこの相手が、ち

ょっとすれ違う程度で、普段の彼女と今の彼女の姿の違いに――胸のサイズの違いに気付くわけが無いのだ。そう、自分がパッドを付けた

姿を知人に見られたくないという意識が強すぎて、そのことに過敏になりすぎていた。

(しまったーっ!?)

「パッドを入れたのね。……いいプロポーションじゃない。モデルになれるわよ」

「……あ、あの、ヨコシマには、てゆーか学校のみんなにも、内緒にしておいてくださいね……?」

 じろじろと無遠慮にルシオラの身体を眺めている暮井に、ルシオラは真っ赤になりながらそう言った。声が裏返っており、そうとう焦っ

ている様子である。

「ええ、これでも教師よ。生徒の恥ずかしい秘密をバラして喜んだりしません」

 その言葉を聞いて、とりあえずは安心したのか、ルシオラは逃げるようにその場を去っていった。――その後ろ姿を両手の指で作った四

角いフレームに収め、眺めている暮井は、とても嬉しそうに、妖しく笑っていた。





 翌日。早朝。美神事務所でまず起床するのはキヌである。身支度を整え、台所へ向かう。この事務所では、もはや食事の支度は彼女の役

割として定着してしまっていた。美神もやろうと思えば人並み以上に料理はこなせるはずだが、根がぐうたらなのかキヌにまかせっきりで

ある。ルシオラは駄目だ。料理と化学実験を一緒にしていて、作るのにとんでもなく時間をかけてしまうからだ。
 そして朝食の支度が整ったころ、ルシオラが眠そうに目を擦りながら階段を下りてくる。

「おキヌちゃん、おはよ〜」

「あ、ルシオラさんおはようございます」

 挨拶を交わし、二人で食卓に着く。恋敵だったりする二人だが、キヌの人柄のおかげか、実は意外と仲が良い。ぽつぽつと雑談を交わし

ながら食事を終え、先にキヌが登校する。理由は簡単で、六道女学院が遠いからだ。
 ルシオラは二人が使った食器を洗ってから登校する。ちなみに、そのころになってもまだ美神は起きてこない。ぐうたらである。

「じゃ、人工幽霊壱号、適当に美神さんを起こしてあげてね?」

「了解しました」

 玄関で靴を履き、ドアノブに手をかけた。その瞬間。

「――ル、ルシオラさん!? まだいますか!?」

「おキヌちゃん? どうしたの?」

 学校へ向かっているはずのキヌが、顔面蒼白で飛び込んできた。GSにあるまじき表現だが、死んだ人間を見たかのような表情である。

そしてルシオラをまじまじと見つめたあと、唐突にその掌をルシオラの胸に押し当てた。指が蠢いているのは、胸を揉もうとしているのだ

ろうか。

「……よかった、胸が無い」

 ひとしきりルシオラの胸をまさぐったあと、キヌはそんなことを呟いた。

「ど、どういう意味かしら……?」

 こめかみが痙攣している。額にイゲタマークが浮かんでいる。どこからともなく地鳴りが響いている。本人は笑顔のつもりなのだろうが

、表情が崩れて奇妙に歪んだ顔をしている。簡単に言うと、ぶち切れる寸前だった。

「……えーと、その、ですね……さっき、ルシオラさんと……胸の大きいルシオラさんとすれ違ったんですよ」

「……はあ?」

「つまり……平原じゃなくてどういうわけか丘が二つあってあろうことか谷まであって、なんかこーありえないってゆーかこの世に存在し

ちゃいけないルシオラさんが道を歩いてたんですよっ!? ひどいじゃないですかルシオラさんに胸があるんですよ胸がっ! 信じらんな

いですよねっ!? この世の終わりかって感じですよねっ!? てゆーか天変地異の前触れですかっ!? 美神さんがお金を嫌うくらいあ

り得ないじゃないですかっ! べスパのゴスロリ衣装より吃驚しましたよっ! 横島さんとルシオラさんが付き合っているくらいありえな

い話しですよね!? もしかして本人に言っちゃまずかったですか? でもまあいいですよね言っちゃったし周知の事実だし大自然の法則

って奴ですよね。そうだ、知ってます? 実は私、この前2ミリほど育ってたんですよ。ルシオラさんは育ってないみたいでしたけど。あ

、ちなみに私服でした。白いワンピースに赤い上着の」

「……」

 キヌはあまりの衝撃に錯乱しているのか、わけのわからないことを喚いている。それを聞いたルシオラは怒りを通り越して既にへこんで

いた。がくりと膝をつき、両手を床につけ、頭をたれ、打ちひしがれたポーズをとっている。そこはかとなく煤けているようだ。

「なんか、前にもこんなことがあったような気がするんですよね。なんでしたっけ?」

「……」

 キヌはだんだんと落ち着いてきたのか、それなりに建設的な発言をするようになってきた。ルシオラはまだへこんでいる。

「そっくりなんだけどどこか違う……」

「……」

 ルシオラはまだへこんでいる。

「……ドリアン・グレイの絵の具!」

「……あ」

 キヌは正気に戻った。ルシオラは顔を上げた。

「なにか心当たりがあるんですか?」

「……うん……昨日、暮井先生に会ったのよ」

 ルシオラは立ち直った。立ち上がった。そしてキヌに掴みかからんばかりの勢いで叫んだ。

「暮井先生の家に行くわよ!!」





「どーゆーことですかっ!!」

 ドアを蹴破って暮井の自宅に不法侵入を果たしたルシオラは、細い肩をいからせ目を吊り上げ、ものすごい剣幕で暮井に詰め寄った。し

かしとうの暮井は落ち着いたもので、そんなルシオラの様子にもまったく動じていなかった。

「なんだ、もうバレちゃったの?」

「なんだ、じゃありません! なに考えてるんですか、生徒をあの絵の具で描くなんて!!」

「だって、パッドをつけたあなたは、同性の私から見ても良い外面してたのよ? それを絵にしなくて、なんの絵描きよ」

「だーかーらー、それでなんでドリアン・グレイの絵の具を使うんですか!!」

「面白そうだったから」

「あーもーっ!!」

 腐れ教師全開のその答えに、ルシオラはだんだんだんっと子気味良く地団太を踏みながら喚いた。マンションの床が陥没しそうなほど部

屋が揺れる。

「ま、冗談はともかく、もう一度挑戦してみたかったのよ。自分がどれだけ人物の内面を描写できているか」

 暮井は急に真面目な顔になってそう言った。

「……なんでそのモデルが私なんですか!」

「普通の人間の内面よりも、あなたみたいな変人の方が特徴があって描き易そうだったから」

 全然真面目ではなかった。

「……もおいいです。……それで、納得いくものが描けたんですか?」

「さあ? 描き終わった瞬間にどっかに飛んで行っちゃったのよね。今頃どこにいるのやら。……内面描写が上手くいってたなら、横島ク

ンでも探してるかもしれないわね」

 なんで豊胸パッドなんかに興味を持ったのだろうかと、ルシオラは昨日の自分を恨めしく思っていた。





 その頃、横島は学校にいた。仕事のない日はきちんと高校生らしく、朝から学校に行っているのである。大抵は寝ているか桃色の妄想を

しているかで、まったくと言っていいほど授業は聞いていないが。

「あ、駄目よヨコシマ、教室でなんて……いいじゃないかルシオラだってその気なんだろ、ブルマなんか穿いて……フトモモが……それは

、だってヨコシマが……それで俺がルシオラの制服をはだけさせて、白い肩を、鎖骨を……ふへ、ふへへへへ」

 ……どういう妄想をしているのだろうか。この男、果てしなく阿呆である。そんなようにしてだらだらと一時間目を過ごした後の休み時

間に、それは起こった。

「あー、なんでルシオラ来てないんだろ。俺はカノジョと過ごすバラ色の学園生活を楽しみたいのに!!」

「さあ……急な仕事でも入ったんじゃないですか? 朝っぱらから起こる霊障ってのも妙な話ですけど」

「うう、つまらん」

 机にあごを乗せて文句を言っている横島に、ピートが苦笑しながら答えた。いつもの四人が固まって談笑している。と、そこへ教室の扉

ががらりと音を立てて開いた。生徒達は全員、教師が入ってきたのかと教室の入り口に注目した。

「あ、ヨコシマ、お弁当作ってきたわよー」

 しかしそこから現れたのはむさ苦しい教師ではなく、最近編入されてきたモノノケ美少女ルシオラである。なぜか制服ではなくて私服を

着ている。しかしこの場にいる人間のほとんどがそんなことは気にしていなかった。そういうクラスなのである。
 もちろんこのルシオラは本物ではなく、暮井によって描かれたドッペルゲンガーのルシオラであった。

「……あれ? ルシオラさん……なんかいつもと違うような……てゆーか胸……?」

 愛子だけは異変に気づいたらしく、ぶつぶつと小さく呟いていたが、それは誰にも聞かれていなかった。

「あんな美人がなんで……横島なんかと……世の中間違ってる………」

「チクショー、チクショー、チクショー……」

「この世に神なんて……存在しないんだ……」

 そしてルシオラが編入されてきてから――正確にはルシオラと横島が付き合っているとこのクラスに知れ渡ってから恒例となっている光

景が展開されている。いつもの彼女なら、この十人ほどの男子学生が虚ろな瞳でぶつぶつと呪いの言葉を吐くという光景を目にして冷や汗

を流していたものだが、この日は少し様子が違っていた。顔色も変えずにすたすたと横島のそばまで歩いてくると、手に持っていた弁当箱

を机に置いた。そしてあろうことか横島の首にその細い腕を絡ませて、耳元に口を寄せて囁いた。

「ね、ヨコシマ、屋上行かない?」

「よし行こうすぐ行こう今すぐ行こうーっ!!」

「ちょっと二人とも、授業はっ!?」

「これも青春だーっ!!」

「いってらっしゃーいっ!!」

 ルシオラの手を引っつかみ、走り去っていく横島に向かって愛子が叫んだ。しかし青春の一言であっさりと態度を変え、手を振って見送

った。





 日の当たる屋上。そこはまさにカップルにとってのメッカであり、かつての横島を始めとする大多数の男子生徒はここを忌み嫌い、特に

休み時間には近寄ろうともしていなかった。――しかし、二人は今ここにいる。

「はい! あーん」

「あ、あーん……」

「簡単なものしか作れなかったけどタコさんウインナーに挑戦してみたの。ヨコシマが喜んでくれるか分からないけど……」

 背後から、すこーん、すこーん、となにやら聞き覚えのある、藁人形に五寸釘を打ち込むような音が聞こえてくるが、もちろん気にしな

い。

「美味しかった? ふふっ、嬉しいっ! お腹いっぱいになったみたいだし、膝枕なんて……ヨコシマが恥ずかしかったら別にいいんだけ

ど………」

 明らかにルシオラの様子がおかしいのだが、横島はぐでんぐでんになっていてそれどころではないようだ。そう、これこそが横島の言う

カノジョと過ごすバラ色の学園生活なのだ。多少正気を失っていたとしても、誰が彼を責めることができようか。
 どうやら暮井はルシオラを描くにあたって、どこまでも男に都合の良い女として描いてしまったらしい。ただ、横島に惚れているという

その一点のみが強調されてしまったようだ。

「うう……嬉しい! 嬉しい………がっ! がっ、しかしっ!!」

「……? なあに?」

 意外なことに、横島は割りと早めに正気を取り戻したようだ。ばっと立ち上がると、そしてそれはもうすんごい可愛らしく微笑んでいる

ルシオラを見下ろして叫んだ。

「た、谷間が見えるっ!! ……じゃなくて。おおおおお前は誰だっ!? ルシオラはあーんなことやそーんなことは決してしてくれない

し、キスの一つくらい……って思っても焦った男の心理を理解しないで『時間はあるんだから…』とか言うし、それに……それに胸がそん

なに大きくな――」

「こんなに人がいる前でそれ以上叫んだら………ねっ」

 額に青筋を浮かべたルシオラが、にっこり笑って掌に霊波を溜め込み、それを横島の頭に押し付けていた。オリジナルの登場である。

「あなた……ドッペルゲンガーのくせに私のヨコシマになにやってるのかしら……?」

「ふふん、偽者でも、ドッペルゲンガーでもいいじゃない。だって、あなたにはこんなマネできないでしょう?」

 ドッペルゲンガーのルシオラ(以下ルシヲラと表記)が両腕を組み、二の腕で胸を寄せて上げるようなポーズをとってルシオラを挑発す

る。横島に向かって喋っていたのとは正反対の、嘲るような口調である。

「ふう……肩がこるなあ」

 さらにはそんなことを言いながら肩をぽんぽんと叩く。すると、その動作一つでルシヲラにはあってルシオラには無い物がぽよんと揺れ

る。もちろん、気持ち良さそうな顔をしているわけではなく、その視線はルシオラに向けられて、どこかにやけている。目は口ほどに物を

言うというが、そのルシヲラの視線曰く「良いわねぇ。貴女は肩が凝らなくて。同じ顔してるのに不公平だわ」とのこと。

「………んなっ!? ななな、なによそんなことができたって何の意味も、なっ、ないわよ!!」

 ルシオラはそう言ったが、言葉とは裏腹にまったく動揺を隠せていない。握りこぶしを戦慄かせ、顔を真っ赤にしている。ちょっと涙目

になっていた。

「ねえ、ヨコシマもそう思うで――」

「む、む、うむむむむ……ああ! もう、分からんっ!! ……ど、どっちだ!? どっちが本物なんだ!?」

 しかし、そのルシオラの叫びに対して横島はと言えば、もはや完全に色香に狂っていた。はっきり言って一目瞭然のその違いに、自らの

犯罪的な願望を重ね合わせて現実を無視している。周知の事実であるが、彼は若い女性の、形の良くて大きな胸が大好きなのである。

「ヨ、コ、シ、マー?」

 そのあまりといえばあまりの横島の発言に、一文字一文字区切るようにしてルシオラが凄んだ。顔は笑っている。誰がどう見ても笑顔で

はないと断言するような表情だが、逆に言えばどのような表情であるとも言いにくい歪みきった表情である。まあ、本人は笑顔のつもりな

のだから笑っていると言って良いだろう。笑って、激怒していた。

「じょ、冗談だって……! お、俺がルシオラの姿ををみ、見間違えるわけないだろー?」

 はたしてルシオラのその怒りのオーラが、もとい恋人に対する絶対の信頼が通じたのか、横島はなんとか正気を取り戻した。暑くもない

のに汗を流し、声が震えて語尾がかすれていたが。

「そんな……あなたまで私のことを……偽者と呼ぶの? それじゃあ私……私……っ!」

「うっ……あ、いやその、えーと……そ、そんなことは……」

 瞳に涙を溜めたルシヲラがよよと泣き崩れる。白いうなじが横島に見えるように、さりげなく谷間を強調するように。絶妙の動作である

。それを目にした横島は、案の定狼狽していた。

「そうよねっ! ヨコシマはそんなこと言わないわよね!! ……ごめんなさい、でも私、ちょっとだけあなたに裏切られたって思っちゃ

った……私って、嫌な女ね……」

 畳み掛けるように、ルシヲラはうなだれたままこんな台詞を言ってみせる。そしてそっと横島の腕を抱き寄せ、抱え込む。つまりはその

やわらかくふくよかな胸を横島の腕に押し付けた。ルシオラが豊胸ブラ試着中に妄想していたあれである。下心などまったくありませんと

言わんばかりの、ごく自然な動きだった。

「……そ、そうだ!! こっちのルシオラが本物だったような気がする! てゆーか本物だったらいいなあ!! ……ぐふ、うふふははは

はははっ!!」

 この男、どこまで堕ちれば気が済むのか。

「――ヨコシマの……ヨコシマの、馬鹿ーっ!!」

 捨て台詞と、特大の霊波球をその場に残し、ルシオラは怒りと悔しさの涙をその目いっぱいにたたえてどこかへ飛び去っていった。

(なによなによなんなのよ!! ヨコシマったらちょーっと胸が大きいだけの偽者に、あんなに腑抜けちゃって!!)

 直後、屋上は大爆発に包まれた。

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