ザ・グレート・展開予測ショー

雨(7)


投稿者名:NATO
投稿日時:(04/ 9/ 3)

17
ぱちぱち
火。
火が燃えていた。
森。
今朝と、同じ場所のようだ。
「目、覚めたみたいだな」
横島。慌てて姿を探す。
いた。
よかった。申し訳なさそうに笑う横島が「そこにいる」ことに、タマモはひどく安堵した。
なぜだろうか。
「すまない。気持ち悪いもの、見せちまった」
「どうして?」
「ん、ああ。「もしものときのために」文殊、飲んでるんだ。体内にある分には霊力は補給され続けるから、使ってもなくなることはないみたいだし」
聞きたいこととは違ったが、それはそれで知りたかった。
「何回も、使ってるの?」
「そうだな……月に、2、3回」
一ヶ月に二、三回「死んでいる」ということだ。横島は。
「前に、お前に会ったとき、あの時も発動した後だった」
それが、彼の「微笑み」を見たときであるのは明らかだ。霊力使い果たしてちゃんと直せなくてな。そういって笑う彼に、タマモは問う。
「なんで「修理」なの?」
「ん?」
「普通は……「回復」とか「治癒」じゃないの?」
タマモの言葉に少し頷くと、横島は言った。
「なんでだろうな。最初に思いついたのがそれだったし、俺は、「回復」とか「治癒」だと死に掛けたときは発動しないんだ。他人には効くのにな。俺だけが死に掛けると、それじゃ治せなくなる」
「「起動」も?」
「ん、ああ。「覚醒」とか「起床」は駄目だった。こっちは最初それで試してみたんだけどな。ちゃんと効いたのは「起動」だったんだ」
静かに笑う横島。
「……どうして?」
タマモの声は、震えていた。
「さあ……なんでだろうな。どう思う?」
違う!そうじゃない!どうして「分からない」の!?
文殊の効果、意味、能力。
たまたま横島に触れていたことで自分にまで及ぼしてきた圧倒的な「イメージ」。
もし、もしもこの「問い」に対する横島の答えが自分の思っている通りなら……。
「ねえ、一つ聞いていい?」
聞くのが、怖かった。
「ん、何でも聞いてみろ。おにーさんが答えて進ぜよう」
おどける横島。
きっと大丈夫。
くだらない思い違いに過ぎない。
ただの偶然だ。
聞くまでもない。
聞いたって、きっと当たり前の答えが返ってくる。
でも。
でも。
「……横島が言う、「もしものとき」って、一体どんな時の事?」
横島は少し驚いたように体を動かす。
当たり前の質問だった。
発動しているところを見ているわけだし、どんな「状態」で発動するかなんて事はわかりきっている。
でも。
戸惑いがちに、それでも笑顔のまま。帰ってきた答えは、「想像通り」だった。
「ん?決まってるだろ?俺が「壊れた」時だけど……」
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叫んでいた。
涙も流していたように思う。
絶対的な「狂気」。
冗談でも、笑い話でもなんでもない。
「自分」という人間が「壊れる」?
一体どういう状態なら、そんな表現を使うのだろう。
そして、発動者の「イメージ」を顕現させる文殊は、それを肯定していた。
「修理」、「起動」、「壊れる」。
横島は、「自分」をモノとしてしか見ていない。
それも、当たり前のように。
「な!?おい!大丈夫か?タマモ?」
横島の声が遠くで聞こえる。
全てが分かった気がする。
笑顔も、優しさも、強さも。
わざわざ自分を傷つける戦い方も。
全ては自分を罰するために。
自分を……「壊す」ために―――。
雨が降り続いていた。
優しさに浮かれ、暖かさに包まれ、彼の戦いに守られ……。
「死に掛ける」事を望み、体を「修理」してまた……。
「起動」によって罪の意識を常に表面化させ、ただ、動く。
「癒し」も安らぎも死においてしかなく、生きることが彼の「死」で。
自分をずたずたにしながら笑い続ける彼に、当たり前のようにすがっていた自分が、とてつもなく醜いものに見えた。
雨が、降り続いている。
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「十二人。全員か」
壮年の男。玖珂は電話口の向こうからの報告を、信じられない思いで聞いていた。
正式な中国との協力体制の前に、挨拶代わりに送り込んできた十二人。
おそらく「こいつらで十分」と判断された者達であるはずった。
二日で全滅?
「少年が一人守っているだけだと聞いたが?軍隊でも絡んでいるのか?」
いくらわけの分からない力を行使する「化け物」といったところで所詮餓鬼と獣。
銃弾が体を通り抜ければ死ぬはずだし、送り込まれたものたちはそういうことに関する「プロ」だったはずだ。
しきりに頭を下げる気配。
「それで、その後の動きは?」
「なるほど、少年の上司と、ICPO?放っておけ。どうせ何も出来はせん。美神?知らんな。君に任せる。いいか、早く「九尾」とやらをもってこい。出来れば生け捕りと思ったがこの際だ、もう生死は問わん。……ああ、そうだ」
相手がまた何事かつぶやき、電話が切れた。
「どうやら、楽には行かないようだな」
玖珂は障子の奥に目をやる。
「出番だ。メドーサとやら」
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「薬、ですか。それだけなら俺らの動くことじゃないでしょう?」
「ええ。ですが「九尾の狐」が関わっている上、「あの男」ですから。……それに、今は「例の彼」が九尾を守っています」
「……っ!分かりました。調査と、監視ですね。」
「ええ、よろしくお願いします」
「御意」
「もしもの場合、六道家か唐巣には協力が要請できるはずです。唐巣はもう動いているようですが」
「あの男、何者なんですか?」
「GS連盟の上部組織、「教会」から降りてきたものです。ですから、GS連本部設置後の騒動のとき、我々とは顔を合わせています。六道家の交渉によって、こちらに有利な約束を取り付けた張本人でもありますし、少なくとも敵にはならないはずです」
「なるほど。六道と唐巣、ですか。分かりました」
「この件に関してこちらから出せるのはあなた一人です。くれぐれも慎重に――」
「御意」

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