ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『BOOK ぱにっく!!』 上巻 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 9/ 3)




『女豹狩り4 ・淫獄の超魔術特急列車 黎明編』



・・なんて本の見出しが、いきなり視界に飛び込んできて・・・

「・・・・・。」

ストーリーのこんな冒頭部から、タマモは、ふらふらとその場に卒倒した。



〜 『BOOK ぱにっく!』 〜



「横島っ!」

もの凄い勢いでドアが開け放たれた。
ポカポカした陽気。休日の午後を満喫し、事務所のソファーで昼寝をしていた横島は・・・・

「・・・あ〜?」

などという、ちょっと普通では考えられないほどのっぺりした声で・・ゆっくり辺りを見回して・・・
もう彼の気分は『うぜー・・もう夏休みも終わりかよ・・しかも休み明けは期末考査だよ、うぜー』とか2年前に口走っていた作者そのものである。
面倒くさそうにノソノソと起き上がる無気力男に、タマモは肩をいからせて・・・

「な・・・何よあの本は・・!どうしてあんなものテーブルに置くの!?」

「・・?本・・?」
まだ意識が目覚めていないのか、横島の受け答えも適当だった。
緩慢に冷蔵庫まで歩み寄ると、パックのフルーツジュースを手にとって・・・・・

「・・・オレは知ら「そんなわけないでしょ!」

振り向きざまに言おうとしたセリフもこんな風にあっさりさえぎられてしまう。
少女の珍しい大声に、横島はいぶかしむように首をかしげ・・

(・・・・・。)

続いて・・息を荒げ、首まで真っ赤になっているタマモの姿を見つめながら・・・

(・・はは〜ん・・・)

合点したように手を打った。
状況は、相も変わらずいまいち飲み込めないが・・タマモのこの動揺ぶりから見て取ると・・・

「な〜る・・『そっち系』のジャンルってわけだ。その本は・・」
言いながら、横島がニヤニヤする。オヤジみたいな笑みだった。

「そ・・そっちって・・・どっちよ。」
「いいから、いいから。とりあえず軽〜く題名を聞かせてみ。」※セクハラは法律で禁じられています。

「・・・・・。」

「あれ〜〜!?言わなきゃオレのだか分かんないじゃん。ホレホレ恥ずかしがんなってば。」※セクハラは法律で禁(以下略)

「だ・・だから・・その・・め・・・めひょう・・」
「はぁっ!?女豹がどうしたって!?大きな声で言ってごらんよっ!!さぁ、さぁ、さ・・・・ぎゃんっ!!!!!!」

・・そこでタマモの掌底が決まる。見事に水月を捉えたその一撃は横島を大きく宙に跳ね飛ばし・・・
凄まじいきりもみを打った後、彼は、そのまま床に撃沈する。

「・・・。そ・・そんなにタイトルが気になるなら、直接自分で見てきたらいいじゃない・・。」
「・・さ・・左様で・・・」

その言葉を最後に、横島の意識は再び、3分ほど闇に落ちた。


―――――――・・。


「はぁ・・こりゃまた、直球勝負って感じだな〜。誰だよ、こんなもん職場に持ってきた奴は・・」

「・・あんたに決まってるでしょ・・。」
「即答かよ!?いや、そうはっきり言われてもなぁ・・微妙に傷つくし・・」

「・・じゃあ、他に誰がいるのよ。」

「・・・シロとか?」 「それはないでしょ。」

「・・おキヌちゃん?」 「絶対ない。」

「じゃあ美神さ・・って、ありえるかぁああああ!!!」 「ぎゃ・・逆ギレしないでよ」

本の目の前で言い合う2人。
他のメンバーが仕事で出払っていたのは幸いだった。特にこの場に美神などが居合わせようものなら・・・
「・・はいはい。怖い想像は禁止。それこそ、オレの顔にモザイクかけなきゃいけなくなるっつーの・・」
つっこみながら、横島が振り向く。

「まぁ、それはともかく・・こいつはオレの持ち物じゃねえよ。もともと活字系統は苦手でな。」

「・・どうだか。題名だけなら横島の趣味にクリーンヒットって感じだけど?」

「いや〜こういうのはちょっとなぁ・・合意の上じゃないのはやっぱり良くないと思うぞ?」

「・・・。」

・・そんなものだろうか・・と、そんな感じで思わず首をかしげるタマモだったが・・素振りを見るに、横島はウソを言っているようにはどうしても思えない。
そもそも美神相手ならともかく・・・自分に対して、この男が虚勢を張る必要などどこにもないわけで・・・

「・・・じゃあ・・・どうして・・・」
口元に手をやり、真面目に考え始めるタマモ。しかし、もう一方はそんなことなど、まるでお構いなしだった。

「別にいいだろ、気にせんでも。それよりさ、これって一体どんな話なわけ?ざっと流れを教えろよ。」
興味深げにそう言ってくる横島を、何故かタマモは、ビクビクとうろたえた表情で見返して、

「・・・・・。わ・・私が知ってるわけな・・・」
「またまたぁ〜。オレのところに来る前に、パラ読みぐらいはしたんだろ?」

「・・・・。」

・・図星だったらしい。
このままここに留まれば、自分にとって不利益なことが起こる・・・。とっさにそう理解したのか・・
言葉を濁して、タマモがその場を立ち去ろうとする。・・・まぁ、そんな必死の抵抗も、横島に襟首を掴まれ、阻まれてしまうのだが・・・

「逃げても無駄だってば・・。読んだんだよな?YES、NOどっちだ?」

「う・・・そ・・・その・・」

「その?」

「ちょ・・・ちょっとだけ・・・」

観念してうなだれるタマモへと・・・しかし、横島は容赦せずに一言。

「・・このエロ狐め。」 「・・・・・・。」

・・・・。
・・・・・・・・。

ぽか!

「いて!何すん・・」

ぽか!ぽか!

「いて!いて!」

「あ・・あんたにだけは言われたくない・・!」

「わ・・わかったよ。悪かった。もう言わないから泣くのはよせって・・。いや、泣いてもいいけど、同時にこっちを睨むのはやめて。ざ・・罪悪感が・・。」

ぽか!ぽか!ぽか!ぽか!ぽか!ぽか!

「・・だぁああああああ!!!だから何なんだよチクショオオオオオオ!!!!」


・・・ノーコメント。

        
                        ◇


で、数分後。

「・・。別に・・流れなんて大層なものはないと思うわ。ページの9割方がこんな内容で埋め尽くされてるから」

憮然とした表情でタマモがつぶやく。
・・・機嫌は最悪。まだ怒っているのか・・ソッポを向きながら本を開き、それをぶしつけに突き出してくる。
タマモの差し出すページを、横島は首を動かすだけで覗き込み・・・

「ふ〜ん・・どれどれ・・」

そこには次のようなことが書かれていた。

《・・するとどうだ!!ジョニーの猛々しい××××××××××××××で×××××××××××××!!
 ××××××キャサリンが××××××××××××××××××××××××激××××××××××××××××××。
 ××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××しかしジョニーは!!?》

・・・。
・・・・・・・・。

「って、誰だよっこのジョニーってのはっ!?ネーミングが安直すぎんだろーが!!
 いや、それより何より『黎明編』なのに洋モノかよっ!?どんな作品だよっ!?」

耐え切れず横島がつっこんだ。どうでもいいが、伏字の量なら今回の話は展開予測ショー内でも、ブッチギリの歴代最強だ。
するとタマモが頭を抱えて・・・
「誰だも何も・・黒幕よ。これ・・ヒロインのキャサリンと犯罪者のジョニーしか出てこないの。」
「・・弁解の余地もなく破綻したストーリーだな・・。」

何て作者だ・・・。
半眼で横島がそう思い・・ハードカバーの表紙に手を触れようとした・・・その直後だった。

「?」

突然、部屋に軽快なメロディーが鳴り響く。
携帯の着信音。ふところから流れる音色を確認し、横島がポケットへと手を入れて・・・

「・・誰から?」
「ん〜美神さんみたいだ・・。依頼が片付いたのかな・・?」

珍しいこともあるものだ。
首をかしげつつ通話ボタンを押すと、耳元に・・・聞きなれた声が届いてくる。

『あ・・あら?横島くん、もう起きてたの?』
「?目が覚めたのはついさっきで・・あ、いや、それよりどうしたんですか?美神さん。なんかトラブルでも?」
気を利かせるたつもりで横島がそう言うと・・何故か、美神が微妙に申し訳なさそうな声で・・

『別にそういうわけじゃなくて・・ただね・・』
「ただ?」

『一つ聞くんだけど、リビングに妙な本が置いてなかった?』

―――――!?

漏れた声が聞こえたのか・・そこでタマモも顔を上げる。2人は、同時に目を見合わせると、嫌な予感とともに眉をひそめて・・

『ちょ・・ちょっとちょっと横島くん、あんたまさか「もう読んじゃいました〜」とか言うんじゃないでしょうね?シャレになんないわよ、それ』
「い・・いや、オレは読んでないんですけどね・・」

思いっきり顔を引きつらせる横島に、美神の方はため息をつき・・・

『もう・・驚かさないでよ。でも安心したわ。予定では一週間後に届くはずだったんだけど・・
 手違いで人工幽霊壱号が中に上げちゃったって・・今さっき連絡が入ってきてね。肝が冷えたわよ。』

「・・え〜と・・話が見えないんですけど・・もしかして、その本ってそんなにヤバイもんなんですか?」

歯切れの悪い質問だった・・。すると、美神が声を落として・・・
『ヤバイなんてもんじゃないわよ。何せ、表紙に触れた人間をことごとく本の世界に引き込んじゃう呪いの本って話なんだから。
 時間をかけてゆっくり除霊しようと思って・・・・・?どうしたの横島くん』

・・・瞬間だった。

そこまで聞いたタマモは思いっきり手から本を取り落として・・・

「・・・・・〜〜〜」

パタ。
ブッ倒れた。

「お・・おい!気ぃ失ってる場合じゃないっつーの!タマモ、ほら、油揚げだぞ〜目を覚ませ〜!」

・・・それからしばらく、部屋にはワタワタと騒ぐ横島の声だけが響いたという話で・・
とりあえず、この時点で2人は貴重な時間を無駄にしていたりする。

       

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