ザ・グレート・展開予測ショー

GS美神 EP2 覚醒


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 9/ 2)

黒いスーツに黒いコート姿、黒い帽子と黒い手提げカバンを持った男といえば、
知る人ぞ知る魔装術の使い手、伊達雪之丞その人である。

GS免許を所持しているとは言え、依頼を受けてはその報酬で修行の旅にでるという生活に明け暮れていた。

今も修行兼依頼の為に、荒れ果てた登山道に踏み込もうとしてる。



山の中腹まで進むと、カバンから水の入ったペットボトルと書類を取り出すと切り株に腰掛ける。

(・・・・・B級GS3人、A級1人が返り討ち、内一名は意識不明の重体。
 その他の三名も全治三ヶ月以上の重傷・・・か・・・)

書類に目を通していた雪之丞がニヤリと笑う。

(久しぶりに骨のありそうな獲物だぜ・・・)

バトルマニアの血が騒ぐ。興奮を抑えられない。
熱くなる体を冷ますかのように水をあおると、また歩き出す。



しばらくの間、見鬼くんに誘導されて獣道のような所から、鬱蒼と生い茂るヤブの中まで歩いていた雪之丞の顔に、驚きの色が浮かぶ。
戦いながら移動したのであろうか、所々不自然に破壊された岩や、つい今しがた折れたような樹木が目に入ってきた。

(・・・先客かよ、ツイてねぇな・・・)

考えてみればもっともな事だ。
既にGSにも被害者が出ているこの一件に、オカルトGメンやGS協会が手を打たないはずが無い。

(国内のS級でガチで戦えるって言ったら、美神の旦那の所くらいか・・・
 それなら「報酬は無しでいいから戦わせてくれ」っていったらいけそうだな・・・Gメンだったら・・・諦めるか)

公的機関とは事を構えたくない彼らしい考えだといえる。

その他にも、この依頼を受けた彼のツテがモグリの頃の物だったという事もあるからだろう。
Gメンに探りを入れられると、昔の仲間がワリを食う羽目になる事は容易に想像できた。

いくら表の世界に復帰できたとは言え、世話になった者に迷惑は掛けられない。
伊達雪之丞とはそういう男だった。


(まぁ考えててもしょうがねぇ、行くだけ行ってみるか・・・
 仮にGメンだったとしても、こんだけの奴と戦える奴のツラ拝んどくのも悪くねぇ)

バトルマニアとしての気概が首をもたげてくる。
・・・・・・・・伊達雪之丞とはこういう男でもあった・・・。

そうして彼は、深い山奥に不釣合いな轟音の発信元へと足を進めた。












「なかなかやりますな・・・私の眷属二体をあっという間に切り伏せる剣の腕は大したものです。
 『文珠』を使わずにここまで出来るとなると、私の身も危ないですねぇ。・・・しかし!」

追い詰められたというのに、饒舌な相手をもっと警戒すべきだった。
横島とシロの二人が油断なく見据えていた相手は、空間に溶けるように消えると、二人の後ろにいきなり姿を現したのだ。

「こうなってしまっては、あなたはどうしますか?」

驚きに見開いていたシロの目に恐怖の色が宿る。
喉に何か冷たいものが当たる。

(これは・・・刃物?)

まだ焦点の定まらない目を横目に使うと、黒く生気の感じられない不気味な指が、何かの柄を握り締めているのが見えた。
シロは身体をこわばらせて、顎を上げた。硬く、ひやりとした感触が喉にまとわりついてるようだった。

「死神の鎌というのは本来、肉体と霊体を繋ぐ『魂の緒』を切るためのモノです・・・
 が、決して肉体や霊体を切る事ができないという訳ではありません。
 さて・・・今のこの状態で、お嬢さんの肉体ごと霊体も切り裂いてしまえば・・・どうなるか判りますかな?」

言葉だけは、生徒に語りかける教師のようだ。
だが、そいつは一通りの言葉を言い尽くすと、刃物を動かして見せる。

シロは喉に焼けるような熱さを感じた。
次いで、肌を生暖かい液体が流れるような感触に、自分の喉に一筋の切り傷が出来た事を悟る。

「肉体も霊体も修復不可能なレベルまで傷つく事になります。そうなれば蘇生はもちろん、転生もままなりません。
 お嬢さんが魂から消滅してしまうかどうかは、私の裁量に・・・いえいえ、あなたの裁量一つにかかっているのですよ





     『魔神殺しの横島』さん」

怪しく輝く赤紫のローブの奥に隠れて見えない顔が、いやらしくゆがんだ。

(先生!!拙者のことは構わないで、こいつを切り捨てるでござる!)

シロは叫びたかった。声を振り絞り力一杯叫びたかった。
だが、喉に食い込んでいる刃物に込められた力は、シロに一言も喋るスキを与えなかった。



選択を迫られた横島は黙ってしまった。

(『また』か!?『また』守れないのか俺は!!??)

悔しさに、己の不甲斐無さに顔をゆがませる。握った拳がわなわなと震える。








静寂は唐突に破られた。

突如として『そいつ』の死角から飛んできた霊気の盾は、寸分の狂いもなく死神の鎌を持つ手に当たった。

「クソッ・・・もう一人居たのか・・・」

落とした鎌を拾おうとしたその時、

「うおぉぉっ!!」

横島の霊波刀が赤紫のローブを斜めに薙ぎ払う。
だが、思ったよりは手ごたえが感じられなかった。


横島の攻撃で吹き飛ばされた赤紫のローブに、今度は霊波砲の雨が浴びせられる。
霊気の鎧を纏った雪之丞が、相手を牽制しながら横島とシロの元に駆け寄よってきた。

「そっちの嬢ちゃんは大丈夫か?」

膝をついて肩で息をしているシロを気にかけながらも、牽制の為に霊波砲を撃つ手を休めない。

「・・・傷は、たいしたこと無い。緊張のし過ぎでちょっとな・・・」

過度の緊張で神経が高ぶっていたのか、過呼吸に陥ってるようだ。
苦しそうに胸を押さえるシロの口からは、荒い息遣いだけが聞こえる。

横島は、時折激しくむせ返るシロを優しく寝かせてやると、「癒」と念を込めた文珠その手に握らせる。

徐々に規則正しい息遣いになるのを見て、横島の心のに安堵と共に敵に対しての怒りがこみ上げてくる。


(アノヤロウ・・・ふざけた真似しやがって・・・)

【奴が『憎い』か?】

(・・・・・・ああ)

頭に響く声に一瞬戸惑ったものの、横島はハッキリと答えた。

【ならば『憎しみ』に身を委ねろ。『俺』が奴を打ち倒す『力』をくれてやる】

(力が欲しい・・・奴を倒して・・・いや、敵を倒して皆を守れる『力』が欲しい!)

【・・・ようやく素直になったな】

嬉しそうな声が頭の中一杯に響く。

この一言を最後に横島の意識は途切れてしまった。









横島が意識を取り戻したのは、奴の断末魔が山にこだました時だった。

赤紫のローブが塵になって、風に舞い上げられていくのを目にしても、横島は自分の身に何が起こったのか、そして自分が何をしたのか理解できなかった。

黒を基調として袖口に赤をあしらった紬羽織りに、濃紺の縦線模様が入った袴姿、
そして目と、その下に涙の様に走る赤い筋が描かれた面に、
白銀に、晴天の空を思わせる、蒼の横線の入った鉢金をした男が漏らした。

「なぁ雪之丞・・・俺は何をやったんだ?」















「そうか・・・俺が奴を倒したんだな」
雪之丞の口から奴を倒した時の詳細を聞いているうちに、おぼろげながら戦っていた時の記憶が甦ってきた。

(そうだ・・・俺は言われるままに力を振るって、奴を倒したんだ・・・)

思い出して、自分自身を抱きすくめる。
そして、精神的な疲労が原因で眠っているシロに目をやる。

(今度は守れた・・・けど、一歩間違ったらまた・・・)

険しい顔つきをしている横島を、雪之丞は黙って見守っていた。





「・・・それにしても横島、何時の間に魔装術覚えたんだ?」
半分くらいになった水入りのペットボトルを横島に投げ渡しながら、雪之丞はあえて聞いてみた。

ペットボトルを受け取るとカラカラに乾いた喉に水を流し込む。
そして一息つくと、こう答えた。


「いや、俺は魔装術なんて習ってねぇよ」


横島の口から返ってきた、予想通りの答えに雪之丞の目つきが険しくなる。

(だろうな・・・横島のアレは魔装術とは決定的に違う。霊波を物質化して纏うのが魔装術だ。
 横島は確かに霊波を出していたけれど、それを纏った訳じゃない。
 しかし、あの雰囲気は勘九郎が魔装術を使った時みたいだったな・・・・・・
 まさか影法師(シャドウ)に変身でもしたのか?・・・ハッ・・・まさかな・・・・)

自分の想像が余りにも突拍子も無い事に気が付き、雪之丞は思考するのを止めた。

目に映るのは、いつもどおりのくたびれたGパンGジャン姿に、トレードマークのバンダナを締めた姿だ。

(俺が悩んでもしょうがねぇ、こういう事はもっと頭のいい奴がやるもんだ)

そう結論付けると雪之丞は話題を変える事にした。
他にもまだ気になることはあったからだ。

「そういやぁ、なんでお前と犬の嬢ちゃんだけなんだ?美神の旦那達はどうした?」

「あー・・・この依頼は、もともと俺一人でやって来いって言われたんだ。だけど無理やりシロが着いて来てなぁ・・・
 因みに美神さんは気が乗らないからって言って休み、おキヌちゃんは戦闘向きじゃないから最初ッから別件、
 タマモはおキヌちゃんのサポートに着いて行った。こんな感じかな」

自分が貧乏くじを引かされたにもかかわらず、横島はおどけて報告する。

「・・・そうか、一つ聞かせてくれ。旦那はお前がスランプだって知ってて、この依頼をやらせたのか?」

「さぁな。文珠で片が着くと思ったんだろう」

横島はあっさりと答えたが、雪之丞が指摘した不調の事は否定しなかった。

「まぁ今ここに居ない人を話題にしてもしょうがねぇ。今後どうするかは、帰って依頼達成の報告してからだな」
雪之丞もあっさりと横島の答えを受け止める。


「そうだな。早く帰って飯にしたい気分だ。・・・ワリィ雪之丞、荷物半分持ってくれ。シロも背負って帰らなきゃな・・・」

「何を奢ってくれるんだ?吉○家はもう飽きたからな」

「てめぇっ!よりにもよって俺にたかる気か?」

「この一件をお前に取られたんでな、すぐに金が入ってくるアテはねぇ。それに、俺がいて助かったんだろう?」

「・・・・あー、クソッ!わぁったよ、何でも好きな物食いやがれ!」

ニヤニヤと笑う雪之丞と半ばやけくその様に奢る事を約束した横島だった。

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