ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第9話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 8/30)



〜appendx. 8 『涙の国』〜




「・・・どうして・・・?」




少女の問いに・・・男は何も答えることができなかった。

雨の中・・彼女を抱きかかえながら・・・

彼は、ただ体を震わすばかりで・・・
目の前の光景が信じられず、ただ涙を零すばかりで・・・

「・・どうして・・」

気づけば、少女と全く同じ言葉を・・無意識のうちに口にしていた。

土のぬかるみに膝をつき、水の内へと身を沈める。

・・・。

抱きしめれば、抱きしめるほど・・・・・

「・・・寒い・・・・よ・・。」

彼女の体が温もりが失われていく・・・それが分かって・・・
自分に出来ることなんて何もない・・・・生まれて初めて、嫌というほどそう思い知らされて・・・




「・・お・・兄・・・ちゃ・・ん?」




不意に、男が目を見開く。
暗い瞳で、ポツポツと独白を繰り返すだけだった少女が・・・今、はじめて彼の存在に気づいたのだ。

彼は無理にでも笑顔を作ろうとした。少女の瞳は、すでにものを映す力を失っている・・それは、分かっていたけれど・・。
そして、一言謝りたかった。

・・・。

いや・・違うか?自分は彼女に・・・・



「お兄・・・ちゃん・・・濡れちゃうよ・・・かさ・・ささなきゃ・・だめだよ・・?」


男が言葉を紡ぐ前に、少女が小さくつぶやいた。
少し呆れたような・・だけど、ひどくこちらを心配した声音で・・・・・




「・・ぬれると・・・・風邪・・・・・・・・・」



・・・。


しかし、言葉はそこで途切れてしまう。
半壊した白い天井を・・・。そこから先・・うっすらと映る灰色の空を・・。
それらを見つめたまま、少女はそのまま動かなくなってしまい・・・・・


男が、力無くその場に崩れ落ちる。




光が消えた森と、光が消えた空。

・・・光が消えた瞳。




何も見えないのは闇のせい?それとも、この頬を伝う涙のせいだろうか?

「・・・・・。」

どうでもいい、と・・そう思った。
今は、全てががどうでもいい。



遠くに続く・・黒い道へと目を移す。
暗い、暗い闇の中。




何度目を凝らそうと、それは絶望にしか見えなかった。




〜 『キツネと羽根と約束と 第9話』 〜



夕刻。午後の校舎。大概の生徒がすでに下校し終えた・・・そんな時間。

横島忠夫は・・・前方に鎮座する氷の彫像に、思いっきり顔を引きつらせていた。
そうかと思えば後方には・・・モクモクと黒煙を立て、爆砕している(元)あかずの部屋があったりして・・・
片側は自分が招いた事態とはいえ・・なかなかにエキセントリックな状況だ。

「・・そ・・それで・・生きてんですか?コイツ・・」

カチンコチンに固まっているピンクの妖魔を一瞥し、そう尋ねてみると・・

「は・・はい。少々頭に血が上って、その・・やりすぎてしまいましたが・・。命の方に別状はないかと・・」

申し訳なさそうに神薙がつぶやく。
虫の息で氷漬けにされる、というなんとも涙を誘う妖魔の姿。
話によれば、彼は少なくとも2週間・・・このままの体勢で過ごさなければならないらしい。

(く・・くそ・・!2週間も下着に触れられないなんて・・!拷問だ!!)

・・いや、全く懲りてないようだが。

・・。

「何はともあれ、これで依頼は完了ですね。横島くん、タマモさん、お疲れ様でした。」
なんてことをニッコリ笑いながら言ってくる神薙に・・

「は・・はぁ・・でも、なんかオレたちって今回は何もしてないっていうか・・やったことといえば・・」
半眼で横島は頭をかいて・・次に背後のガレキの山へと目を向けた。

「単なる器物破損・・。」

身もふたもないないことをタマモがつぶやく。今日は色々なことがありすぎて、正直、彼女は疲れきっていた。
そしてそれ故に機嫌の方も最悪だったりして・・・

(・・・・・。)

タマモの言葉に・・神薙は複雑な面持ちでま眉をひそめる。地面に転がるガレキの一片をつまむと、その表面に軽く触れ・・
すると・・・

「・・・?」

次の瞬間、そのこぶし大のコンクリートの塊は、、砂のようにサラサラと崩れ去ってしまう。
なるほど・・ここまでの威力であれば、確かにクラブ棟一つを破壊することなど容易いかもしれない・・。
・・・だが・・・

「あの・・横島くん・・?」

納得すると同時に心の内に疑問が生まれる。
興味とも不可解さともつかない・・・小さな疑問。神薙が横島に向かってそれを口にしようとした・・・その時だった。


「先生!!タマモっ!!」


―――――?


校舎にいる3人の方へ・・・・

「シロ?」

顔面を蒼白にした、シロが叫びながら駆け寄ってくる。
彼女の姿に、はじめはキョトンとした横島だったが・・・やがて何かを思いついたのか、苦笑しながら手をたたき・・

「あ・・もしかして、時間かかりすぎだって美神さんが怒ってるとか?そういえば、夜にも一つ依頼が入ってたような・・」

しかし、その台詞もかぶりを振るシロによって遮られてしまう。さすがに面を食らったのか、タマモが少し動揺した声で・・・・

「ちょっと・・落ち着いてよ。一体何が・・」
「そんな悠長なヒマなんてないでござる!早くしないとスズノが・・・」


「!?」

瞬間、3人は・・・表情を変えて、互いの顔を見合わせた。


――――――――・・。


「ちょっと、あなたたち!病院で走らないでくだ・・・・」

「・・・・・。」
「すんません看護婦さん!!後でお茶・・・・ってこんなときでも反射的に馬鹿なことを言っちゃう自分がちょっと悲しいかも・・」
「よ・・横島くん・・。静かにしないとスズノさんの傷に障りますよ・・?」
「3人とも落ち着くでござる!まだ重態と決まったわけじゃあ・・」

・・なんてやりとりとドタバタした足取り。
扉の向こうから聞こえてくる、騒がしい声を耳にして・・美神が一つ嘆息した。

「やっと来たみたいね・・。ほんとに分かりやすいんだから。」

「・・令子だって病室に入るまでは凄かったそうじゃない・・。医者を3人張り倒したって聞いたけど・・」

「う゛・・そ・・そうだったかしらねぇ・・」

そう言って、美智恵が彼女をたしなめようとする間にも・・・

「スズノ!?」

4つの人影が、怒涛の勢いで部屋に雪崩込んでくる。
一番手は予想通りタマモ。つづいて横島、シロ・・・最後に、はじめて見る制服の少女が控えめに病室へと足を踏み入れてきた。


「あ・・ねーさま・・」

ベッドの上で、油揚げをパクついていたスズノが、そこでようやく反応する。
病院着に着替え、少しぐったりしている印象は受けたが・・外からは彼女に、コレといった外傷は見当たらず・・・

「「「「・・・・・。」」」」

緊張の糸が切れたのか、4人がヘナヘナと床にへたり込んだ。

「・・スズノ。」

安心したように、タマモがスズノへと抱きついて・・・
一方、スズノの方も、至福の表情でされるがままになっている。・・というか、彼女はタマモに抱きしめてもらえれば、理由は何でもいいらしい。

「・・スズノさん・・少し貧血気味のようですね。大丈夫でしょうか?」

「ま・・まぁ、ほっといていいと思いますよ。ああなったら、あの2人は・・お湯に漬けても離れませんから。」

「・・・それはスッポンですよ、横島くん。」

横島につっこみを入れながら、美冬はあたりを見回した。
・・・思ったよりも人数が多い・・。初対面ということもあり、当然、視線は自分へと集中していて・・

「・・あれ?美冬ちゃん・・君も来てたのかい?」

「どうも。お久しぶりです、西条さん。」

事務所の面々に加え、西条、美智恵・・・そして、何より驚かされたのは・・・

「・・・!・・・」

「え・・?」

ベッドの横に控えていた小竜姫と・・・神薙の視線がぶつかった。
・・・瞬間・・。

「あ・・・れ・・?」

小竜姫は何故か眩暈を覚えて・・・そのまま、反射的に壁へと寄りかかってしまう。
神薙の顔を目にするだけで、何故か眩暈が激しくなっていき・・・

「・・大丈夫、ですか?」

神薙がつぶやく。

「・・え?あ・・はい・・。あの・・」

見覚えのある顔。なのに・・何も思い出せない。
・・もう少しで・・何かが思い出せそうだった。大切な、何か。この少女は・・確か・・・・

・・・。

と・・そこで・・・・・

「小竜姫さまぁああああああ!!!!」

目を血走らせた男がベッドを一直線に横切った。イノシシのように突進してくるその気配を、よもや彼女が見まがうはずもなく・・

「いや〜〜!!やっぱ『生』は写真とは違うわ・・。さぁ神様と人間の禁だ・・・・」

「・・・。」

驚く必要はなかった。
小竜姫は無言のまま、なめらかな動作で刀を水平に抜き放ち・・・・

「え゛?しょ・・小竜姫さま・・?」

スパァアアアアアアン!!!!!

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

断末魔のような悲鳴を上げてはいるが、横島はしっかり小竜姫の居合いをかわしていて・・
それを見て、小竜姫が感心したように頷いた。

「・・この間、妙神山に来た時より、大分腕を上げたようですね。今・・私ちょっと本気だったんですけど・・。」

「ほ・・本気?本気ってなに?お・・オレってば、もしかして危うく三途の川を渡りかけてたの?」

ブルブル震える横島へ・・さらに、小さい影が飛び掛っていく。

「ヨコシマ〜〜〜!!ひさしぶりでち〜〜〜!!」

「ぱ・・パピリオ・・!?お前まで来てたの・・・って・・ちょ・・ちょっと。
 文章だけじゃちょっと分からないと思うけど、今オレ・・床に倒れてて受身とれな・・・・
 そんな状態でプロレス技なんてかけられても困・・・」

「シャイニングウィザードぉぉ!!!!」

「ぐぎゃあああああああああああああああ!!!」

・・・どうでもいいが、みんなここが病室だということを忘れていたりして・・・・・







『そうかい・・じゃあ、しばらくは人間たちと捜査を続けるんだね?』

「ええ。その方が何かと都合がいいいようですから・・。貴方は引き続き、情報の収集に専念してください。」

ほの暗い病院の廊下。
人気のないロビーの中央。

公衆電話のランプを見つめながら、神薙が小さくつぶやいた。
同フロアの右奥・・・・スズノの病室から漏れ出る、光と声。なんとはなしにそれらを見つめ・・・そのまま、彼女は受話器へと耳を傾ける。

『だけど、大丈夫かねぇ・・。あんた、小竜姫に顔を見られてるんだろ?』

言いつつも、どこか間のびしたメドーサの声。すると、神薙は薄く笑い・・・・

「・・私が、顔を見られた相手を・・何の処置もせず放っておくと思いますか?」


―――分かっているのでしょう?―――

少女の台詞には、そんな言外の声が含まれていて・・・
メドーサは軽くため息をつく。

『もうとっくの昔に手は打ってある・・ってことか。恐いね、うちの大将は。アシュ様よりもよっぽど手回しが早いよ。』

「少し細工をしましたからね。彼女が記憶から私の正体を探り当てることはできません・・。むしろ、今警戒すべきは美神美智恵の方でしょう・・。」

「・・・。」

そこまで聞いて・・
メドーサは参ったとばかりに肩をすくめた。どうやら、彼女に対して、心配などというものは無用らしい・・。
自分が考えつくであろう、ありとあらゆる事。ドゥルジの思索は常に、それら全ての上をいくのだ。

友人というひいき目を抜きにしても・・・
メドーサにとって、魔神ドゥルジは理想的と言っていい主君だった。
強さと知性に裏打ちされた、絶対的なカリスマ。それに加え、さらに完璧とさえ容姿ときている。
実力、魅力・・そして気品に至るまで・・彼女はまさに王者と呼ぶべき存在で・・・。

・・・・。

まぁ、そんな彼女にも唯一の弱点があることを・・・・実は、自分だけは知っているのだが・・・

「・・・・。」

『どうしました?黙り込むなんて珍しいですね、メドーサ。』

怪訝そうな神薙の声。それを聞きメドーサは宙に視線を泳がせた。
そして・・・

「ねぇ・・ドゥルジ・・」

メドーサがそう口を開こうとした・・・・・その瞬間。


・・・・。

『?神薙先輩?どうしたんですか・・こんなところで。』

『へあっ!?よ・・・よよよよよよよ横島くんっ!?い・・いえ、これは・・』

「お・・おい・・ちょっと?ドゥルジ?」

『電話・・・一体誰に・・・・』

『こ・・これは・・な・・何でもないのです。今切りますので・・!(・・メドーサ・・そういうわけなのでまた後で・・)』

・・・なんてことを神薙が一方的に告げてきた後・・。

・・ガチャン!

ツーツーツー。
いきなり前触れもなく、電話は切られてしまい・・・

・・・。
・・・・・・。

・・・・・・・・・。

それに、メドーサは吹き出した。

「ぷっ・・・くくくく・・。ほんと・・これさえなけりゃね

携帯を懐にしまいながら、彼女は楽しげに空を仰いだのだった。


――――――――・・。

「・・自分でも・・よく覚えていないんだ・・」

そう言って、スズノがうつむいた。
病室のベッドにちょこんと座り・・事件の現場へと向き直りながら・・・

「あのときは・・・正直、私も自分が助かるとは思わなかった・・頭がクラクラして・・そのまま意識が無くなって・・」

考えるように、スズノは自らのわき腹へと目を移す。

・・そう、そこから記憶が途絶えてしまうのだ。
気づいたときには、自分は焼け野原の真ん中に倒れていて・・・

「それに・・おなかの傷も消えていた・・・」

淡々と語った後、かすかに、パピリオに対して首を傾ける。

「パピリオが駆けつけた時には、もうスズノは復活してたでちよね?」

「・・・うん。」

うなづきながら、今度は2人そろっておキヌを見つめ・・・・・

「じゃあ、誰かが助けてくれたのかもしれないね・・。心あたりは・・ないのかな?」

「・・・・あるといえば・・あるんだけど。」

そんな問いかけに、スズノは言葉を濁らせる。先ほどから、彼女が食していた油揚げを包んだ・・青い、簡素なラッピング。
それは・・自分が目を覚ましたとき、何故かすぐそばに置かれていたもので・・・・

(前にもらった包みと・・・同じ色・・)

事務所で開かれた、歓迎会の夜・・・あの蒼い髪の少年が持ってきてくれたというプレゼント。
ラッピングも同じなら、中の揚げ物の味も同じだった。それはマニア(爆)であるスズノも一目置くほどの・・・相当に美味な部類に属する一品で・・・

(・・。今度会ったら・・・お礼といっしょに、どこで買ったのかも聞いておこー・・・)

・・・色々な意味で再会が楽しみだった。

・・。

・・・・と。不意に、廊下側のドアが開く。
同時にあっけらかんとした横島の声が部屋に響き・・・・・

「隊長。神薙先輩、見つけてきましたけど・・それで、これからオレらはどうするんです?」

後ろから、ひょこっと顔を出した神薙を目にして・・タマモが少し不安そうな表情を見せるが・・・当然、横島がそんなことには気づく筈もなく・・
・・知ってか知らずか、何故か美智恵が微笑んだ。

「時間も時間みたいだし・・。皆、外で何か食べてきたら?スズノは私が看てるから。」

「ちょっとママ・・。今はそんな話をしてるわけじゃ・・」
口をはさむ美神に、彼女は軽く首を振り・・・・

「もちろん、ただ夕食に行けってわけじゃなくてね・・。その時に西条くんから事情を聞けばいいじゃない。・・神薙さんはどうする?」
窺うような視線。・・しかし、神薙は即答した。

「もともと私も捜査にお力添えするつもりでしたから・・。ご迷惑でなければ、ぜひ。」

すると・・・・

「ひぃ・・ふぅ・・みぃ・・スズノと隊長が抜けて9人か。進め、中年。なるべく高級な店を頼むぞ。」

「ロン毛。パピリオたちを店に案内するでち。」

「ぼ・・僕が奢ることはすでに決定事項なのか・・。いや、それよりなにより君たち・・それが人にものを頼む態・・」

「今夜は中華でち〜〜〜〜!!!!!」

「「「「お〜〜〜!!」」」」(←おキヌ、小竜姫、神薙を除く計4人)

西条の発言などまるで無視するかのように掛け声が飛び・・それに彼は・・・・彼は・・・・

「・・・・。」

・・・もう・・・言葉もなかった。

           
                            ◇



『途中なのですがあとがき(汗)』

うおお・・・横タマのところまで打ち出したかったのに時間が・・
ご・・ごめんなさい・・。
インターネットカフェで文を打ち込んでたのですが、お金の都合上、ここまでしか送れなくなってしまいました(泣)
途中で大変歯切れは悪いと思うのですが・・今回はここでご勘弁くださいませ・・・。本当に申し訳ありません。

とりあえず、appendix.8の彼は西条さんです。少女の方は当然・・・。
しかし・・この人がこんなに暗い過去を持ってたなんて作者もビックリです(爆 
まだ断片的に過去しか描写していませんがまとまった回想話はまた後々・・・。

そ・・それでは今回はこのあたりで・・(汗)本当にごめんなさい〜

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