ザ・グレート・展開予測ショー

雨(6)


投稿者名:NATO
投稿日時:(04/ 8/28)

14
「それじゃあ、タマモ君を、よろしく頼むよ」
西条。
「……ああ。美神さんには、よろしく言っといてくれ」
美神に今頃かかっているはずの圧力は、あえて消さなかった。
何も知らずに暴れまわられても、事態を不利にするだけだ。それに。
「そろそろ爆発するんじゃないかな。「私は美神令子よっ!」てな」
西条の心内を察したか、横島がおどけて言う。
「ああ、時期が来れば、存分に暴れてもらうさ。令子ちゃんにも、先生にも。ね」
苦笑。
横島は眠ったままのタマモを肩に掛け、歩き出す。
「……横島君を行かせるのは、彼を戦わせたくないからだろう?」
後ろから、唐巣が声を掛けた。
「……気付いていましたか。ええ、その通りです」
「なぜだい?対人との戦いなら、彼はいたほうがいいだろうに」
「神父は、彼の戦い方を……?」
唐巣は軽く首を振る。
「……ひどいものですよ。危ないとか、未熟とかじゃなく。ただ「死に突っ込んでいく」んです。そのくせ、自分が死のうとは思っていない。体中を痛めつけながら「生きる」事を前提に戦う。はじめてみた時は、殴ってでもやめさせようと思いました。ですが……」
「「自分にその権利はない」だろう?」
唐巣の言葉。西条は一つ息を吐いた。
「ええ。彼がそれほどまでに自分を憎むのは僕たちのせいでもあります。あの時、一番幼かった彼に、あの決断をさせてしまった、ね。他のだれでもいい。少なくともあの時結晶を破壊するのは「彼だけではあって成らなかった」」
「もし、その戦い方、いや「罰し方」か。をやめさせられるものがいるとしたら……」
「……あの時あの場にいなかった者のなかで、彼の傷をえぐるだけの勇気を持つ……」
「彼女。というわけか」
「……ええ」
降りしきる雨の中、体を冷えた水にさらしながら。
二人は、小さくなっていく影を、ただ、見つめていた。
「……やっとおきたか。タマモ」
「ん?んー」
「お前、話聞いてなくてよかったのか?一応自分のことだろうに」
「んー?」
いつの間に外にいるのだろう。
確か、横島の膝の上で、手が、暖かくて、ふわーとなって……。
「ん。あ゛……」
「おい……」
「あんたのせい」
「はあ?何の話だ?」
「うるさいっ!いいからあんたのせいなのっ!」
15
「私は美神令子よっ!!」
鬱陶しい雨が降る事務所。
彼女の雄叫びは辺りの空気を振るわせた。
「協会がなにっ!?政府がなにっ!?なんだって言うのよ!?神も悪魔も恐れないこの私が、なんでそんなものに縛られないといけないのよっ!?」
彼女のフラストレーションは、臨界点に達していたといっていい。
大口の仕事はすり抜け、横島に任せるような小口の仕事さえ減り、来るのは口コミでやってくる仕事ともいえないようなレベルのものばかり。
丁稚は消え、保護の名目で「所有」していたはずの従業員が消え、さらに仕事が消え。
四日。しおらしくしていただけでも奇跡と言っていい。
「もう我慢できないわ。何が何でも全て調べて、全部取り返してやるんだから!まってなさい!どこのだれだか知らないけどこの「美神令子」を敵に回したこと、後悔させてやるっ!!」
激昂している雇い主に呼応して、いままで葬儀場のようだった事務所が、突然活気を取り戻す。
「それでこそでござるっ!!」
「その意気です!美神さんっ!!」
シロと氷室も同調し、声を上げる。
事務所までもが、苦笑いを浮かべながら、久方ぶりの彼女の復活を喜んでいるようだった。
雨は、依然激しく振り続けている。
16
「また……か」
三人。どうやら、四人単位で動いているらしい。
さっき出会った奴等も、物陰に一人潜んでいたことから、まず間違いないと見ていいだろう。
会話が成立しないのは、国籍が違うから。
考えてみれば、当たり前の話だ。
ICPOへの要請は西条が握りつぶしているし、GS連への命令は唐巣が圧力を掛けている。
つまり。
「俺等を狙いに来るのは、今のところ殺しに慣れたプロだけってわけか」
それもチームでな。横島は心の中で付け足す。
厄介だった。
やつらは別に横島を殺す必要はないのだ。
標的を庇っている。横島を狙う理由などそれだけだ。
「!?ちいっ!」
いきなり放たれた霊波を慌てて体で受ける。
もはやそうすることが当たり前に成っていた。
後ろで、タマモが息を飲む。
霊気を使えるとは思っていなかった。
油断。
タマモが指先に霊気を集める。
「やめろっ!」
横島が叫ぶ。
何故!?
殺気。憎悪。閃光。歓喜。恐怖。
いきなり奥底から吹き上がる記憶の奔流に、叫びそうになるのを必死でこらえる。
「俺の、後ろにいるんだ」
横島は目の前の男たちから目をそらさずに、声だけを飛ばす。
こくり
頷いていた。
霊波が、続けざまに放たれる。
三人が同時に撃ち放つそれは、容赦なく横島にぶち当たる。
こいつさえ。
タマモが戦えないことを見て取った三人の攻撃は、容赦のないものだった。
タマモは、飛び出そうと――。
ぎゅうっ。
いつの間にか振り返った横島に、抱きしめられていた。
敵に後ろを向ける。
許されることではない。
それを見て取った男の一人が刃物を持って飛び掛る。
霊波が止む。
一瞬で、十分だった。
「爆」
後ろ手に投げたそれは三人の中心で発動。
横島の背中ごと、飛び掛ってきた男ごと、周囲の光景を吹き飛ばした。
コンクリートが、粉々に砕けている。
潜んでいただろう一人も、もはや跡形もない。
「横、島?」
恐る恐る声を掛けたタマモに横島は「微笑んだ」。
ぞくり。
ゆっくりと、横島の体は、傾いていく。
慌てて抱きとめようとするタマモ。
これは……もう―――。
そのときだった。
「修/理」
横島の「体の中」から文殊が発動し、彼の体を直していく。
文殊とはイメージを霊気によって発現させる力。
彼の「イメージ」した効果が彼に発動していく。
そしてそれは、文字通り「修理」だった。
流れる血液に構わず、飛び散った肉片に構わず、痛ましい傷口に構わず。
このままでは生命維持に関わる「部品」だけを増やし、つなぎ、動かし。
強制的に「生」だけを成させようとする其れは。
とてつもなく、邪悪なものに見えた。
「修理」。「回復」でも、「治癒」でもなく。
そして、おそらくは連鎖的に発動するようになっていたのだろう。
命だけを取り留めさせた体に、さらに注ぐ「イメージ」に、タマモは発狂しそうになった。
「起/動」
それは修羅。起きて、動け。
それは拷問。動いて、守れ。
それは罰。守って、笑え。
それは悪夢。笑って、生きろ。
そうして、自分で吹き飛ばした身体を「修理」、「起動」した横島は「笑った」
「大丈夫だったか……?タマモ」
タマモは自分の意識が、底なしに暗い闇の中へと、沈んでいくのを感じていた。
それは後悔。あの時、お前が、死ね。

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