ザ・グレート・展開予測ショー

GS美神 EP2 予兆


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 8/27)


進級を賭けた補習を終え、久々に学生らしいプレッシャーから解放されて、横島は机に突っ伏して大きくため息をつく。

この後バイトが有るとはいえ、一息つく時間はありそうだった。

(チクショ〜・・・学校にバイト、俺に休息はないのかぁっ!?たまには年相応の怠惰な生活を送ってみてーぞ・・・)

机に突っ伏したまま視線を泳がせると、窓から西日が差してきている事に気が付く。

彼にとって夕焼けは特別なものだった。
夕焼けを見るたびに思う。

(俺の選択は間違って無かったよな?)

いつもの様に答えの出ない自問自答。そう思っていた。

【だが、アイツは居ない】

頭の中に響く声に愕然とする。

(お前はだれだ?人の思考にわりこむんじゃねぇーよ)

【そう邪険にするな・・・】

姿も見えなければ誰かも解らない声の主だが、横島はなんとなくその声の主が笑っているように思えた。

(美人のお姉ちゃん意外は却下するぞ)

【・・・そうやって周りだけではなく、自分も誤魔化すのか?】

(いいんだ、それがアイツの望んだ事だからな・・・)

【『俺は俺らしく』ってか?】

(ああ、そうだ。美神さん達もそれを望んでいる)

【・・・自分をも誤魔化さねばならない世界に、意味は無いと思わないか?】

(・・・・・・・・)

【そんな世界を破壊する事が出来るというのに何をためらう?力も知識もあるじゃないか・・・】

(・・・・・・・・黙れ)

【あとは決意するだけだ、そうすれば『俺』も協力してやるよ】

(・・・黙れ!!」

頭に響く声に感情を高ぶらせてしまい、思わず声に出してしまう。

教室には自分一人しか居ないと思っていたが、か細い声が横島の耳に飛び込んできた。

「・・・横島君、どうしたの?急に叫んだりして・・・」

横島の補習が終わるまでクラスメイトと図書館にいって、時間をつぶしていた愛子がもどってきていたのだ。

「いたのか愛子。・・・なんでもないよ」

「なんでもないように見えなかったわよ?ぶつぶつ独り言を呟いていたかと思ったら、急に叫ぶんだもん」
机を担ぎながら横島に近寄ると横島の隣に座る。

「なんでもないったら・・・俺が変な行動するのはいつもの事だろ?」
笑顔で否定する横島だが、いつものような明るさがない。

「・・・・・・放課後の教室で悩む男子生徒と陰ながら見守る女子生徒・・・これも青春よねー」

「それのどこが青春なんだよ?・・・・・いけね、バイトに遅刻しちまう、またな愛子」

慌しく教室を出て行った横島だが、深い詮索をしないでくれた愛子に感謝していた。
愛子も、横島が人に言えない悩みを抱えている事を察し、バイトに向うといって出て行った横島をただ手を振って見送った。











一旦家に帰り、制服からいつものGパンGジャン姿に着替え終わるとバイト先に向って歩き出す。
教室を出る時は『遅刻する』といったものの、仕事の時間まではまだ余裕があるし
何より電車の中で正体不明のアノ声に話しかけられる事になったら
自分は間違いなく警察の厄介になるだろうという考えから、電車を使わずに移動する事にしたのだ。

・・・・・・決して電車代が勿体ないからという訳ではない。たぶん・・・


しかし、例の声はあれ以来聞こえてこず。横島はさっきの声を『疲れていたから』とさほど気に留める事はなかった。

事務所まであと少しという所に差し掛かると、砂煙をあげて向ってくるシロが目に入った。

(やれやれ・・・いつも元気だな)

苦笑すると、人狼の全力タックルに備え腰を落として身構える。


「せんせぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜会いたかったでござる〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

全速力で走ってきたシロが横島に飛びつくと、そのままの勢いで横島を押し倒し、顔を舐めまわす。

「おいコラッ!人前ではやめろっちゅーとろーがっ!」

顔中涎だらけにしながら、のしかかっているシロを怒鳴る。

「・・・・申し訳ないでござる、先生。拙者、嬉しさの余りにやり過ぎたでござるよ♪」

尻尾を振りながら、押し倒した横島の手を取り助け起こす。

「それで?どうしてお前がここにいるんだ?」

普段の散歩なら、コースが違うという事に横島が気が付いた。

「拙者はタマモを迎えに来たのでござるよ。その途中で先生を見つけたので御一緒に、と思って・・・」
少し赤らめた顔と、もじもじと動かす指が可愛らしかった。

「まぁそれは構わないけどな・・・で?タマモはどこに居るんだ?」

「わからんでござる!」

横島の言葉に元気よく答えるが、答えを聞いた横島が頭を抱えてしまう。

「あんのなぁ〜・・・・居場所もしらないで『迎えに来た』とは言わんだろうがっ!!」

弟子の見事なボケっぷりに、周囲の視線も気にせず突っ込みを入れる横島。大阪人の血の成せる業だろうか。

「キャイン・・・痛いでござる。先生は最近せっかちでござるよ・・・
 拙者とタマモは『けいたいでんわ』で連絡を取っているので大丈夫でござるよ♪」

頭に出来たタンコブを涙目でさすりながら反論する。

「はぁ、携帯電話だぁ?お前等『遠吠え』があるじゃねーか・・・なにもムダに金をつかわんでも・・・」

以前、二人で協力して事件を解決した時の事を思い出す。

「あれは体力と霊力を使うのでござる・・・それに雑多な音がひしめいてる都会では余り有効ではないのでござるし・・・」

そこまで聞いて横島は思い出した。
雑音が常に鳴り響いてる都会では、二人の遠吠えは上手く伝わらない為に、下水道を利用して遠吠えを行ったのだ。

(うん・・・いくらなんでも『マンホール空けて下水道に首を突っ込むシロタマ』なんぞ見た日には
 一般人なら間違いなく『退く』な!)

一人で納得して頷く横島。

「しかしなぁ・・・タマモはともかく、お前が携帯電話使ってる姿なんて想像できないなぁ」

『今時の、ちょっと背伸びしてる女の子なタマモ』と、『元気ハツラツな田舎っ娘のシロ』という印象の二人であるから、
これは正直な感想だろう。

そんな横島の感想を、シロはさらりと受け流す。

「ふふ〜ん♪世は『あいてぃ』の時代でござるよ。
 『けいたいでんわ』で『めぇる』の一つも使えなければ、時代に乗り遅れるでござる!」

そう言って携帯電話を取り出そうと、片方が大胆にカットされたジーンズのポケットを探る。

だが、シロはいつまでたっても携帯電話を取り出さない。
それどころか、笑顔だった表情に少しづつ焦りの色が見えてくる。

「・・・・・?アレ?アレアレ?」

「・・・・・・・・・・・なぁシロ。まさか『持って来て無い』訳じゃぁないよな?」

ポケットをひっくり返して確認していたシロに、横島の鋭い突っ込みが再び入る。

「・・・・うぅう゛ぅ゛ぅ゛〜〜ぜん゛ぜぇ゛〜〜・・・・」

滝の様に目の幅の涙を流すシロを見て流石に可哀相になったのか、ヨシヨシと頭を撫でてやる横島。

「ほらほら、泣いてちゃタマモを探せないだろ?」

優しく頭を撫でられて落ち着いたのか、すでにシロの目から涙は流れていなかった。

「・・・・・・先生はやっぱり優しいでござるよ・・・」
嬉しそうに目を細めていたシロが呟く。
そのまま横島に身体を預けようとしたその時。


「ハイハイ、漫才は余所でやってね。お二人さん!」


棘を含んだ、聞きなれた声が二人の耳に飛び込んできた。

「まったく・・・いくらメール送っても返信がないと思ったら、何やってんのよバカ犬!」

ついさっきまで操作していた携帯電話をしまいながらタマモが歩み寄ってくる。

「拙者は狼でござるっ!!何度も言わせるな女狐ぇっ!」
「だぁー!!ケンカは止めんかぁっ!!」

今にも霊波刀を振り回して暴れそうなシロを羽交い絞めにする横島。

そんな中でもタマモは一人淡々と話を進める。

「・・・・・時間はいいの?私は油揚げ抜きなんて嫌だから先に行ってるわよ」
そっけなく、告げると一人で歩き出す。
「逃げるなー女狐ー!」「だからケンカはやめろー」等という叫び声を右から左へ流して、一人でズンズンと歩みを進める。
だが、彼女は決して薄情という訳ではない。

彼女と暴れそうな少女とそれをなだめる青年の『日常』の光景だから。



しかし、この『日常』を脅かす者が、すぐそこに迫っている事に気付く者はいなかった。

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