ザ・グレート・展開予測ショー

雨(4)


投稿者名:NATO
投稿日時:(04/ 8/25)


「一応、言われたとおりのことはさせてもらったが……。これで大丈夫なのかね?」
教会。ステンドグラスの聖母が、二つの頭を見下ろしていた。神は信じる者を救うというのは嘘だろう。間違いなく主より客のほうが富める者だ。そろそろ危険水域に入る毛髪量。もちろん、渇水のほうで。
唐巣は西条の長髪を羨ましげに見つめる。
「ええ、GSとして我々が動けるのは、せいぜいこの程度のことでしょう。ご協力、感謝します」
「まあ、それは構わないんだが、この書類を取りに行ってもらうのを、ピート君に頼んだら、どうやら向こうが派手にやったらしくてね。最近私を見る目が変わってきてしまったよ」
困ったような口調で、唐巣は言った。
「それは……。それにしても、任せてくれといわれたのでお任せしましたが、一体どうやって……?」
「うん、まあ……。人には過去の一つや二つはあるものなのだよ。いかに平凡に生きてきた僕といえど、ね」
「平凡?英国にも聞こえて来ていましたよ。日本人エクソシスト、唐巣の御名前は」
「……破門された身さ」
「そのことにも……。いえ、失礼しました」
唐巣の纏う空気が変わったのを感じ取り、西条は口をつぐむ。
「それにしても、君もずいぶんあっちでいろいろやってきたみたいだね。かなり厳重に緘口令がしかれていたはずだよ」
「それこそ、ちょっとした過去、ですよ」
「君はいまも大して変わってない気がするけどね」
「……ノーコメントです」
二人は少し笑う。
「このお礼は、横島君にでもつけて置いてください。ま、支払いは当分先になるでしょうが」
「……残念だ。ぜひとも君の断髪式が見てみたかったのだけれど、ね」
「……あ、あはは」
西条が冷や汗を流しながら唐巣の視線をそらす。
こっちの仕事を頼んでから、唐巣の性格が変わってきた気がする。いや、地を見せ始めたのだろうか。
「さて、横島君が来るのを待たねばならないわけだが、お茶でも飲むかね?協会がお土産に持たせてきた、いいのがあるんだ」
「ええ、いただきます」
「……横島君の分も、淹れておくべきかね?」
「彼は、こういうときに場所を誤るほど、愚かではありません。外も内も危険なら、来る場所がここだということは分かるはずです。タマモ君とうまく運びすぎて、時間に遅れるということはあるでしょうが」
「……ふむ、彼の分だけ氷でも入れておくことにしようか」

「ん……ふう。もうだめぇ……」
タマモは悩ましげに吐息を漏らす。
心なしか苦しそうな表情と下腹部を撫でる仕草は、妙に色っぽい。
「……そりゃ、そうだろうな。そんだけ、なぁ……」
横島は積極的ではなかったが、まあ、これに付き合ったのだから、疲れる、というより呆れ果てるのも仕方ないだろう。
「だって……」
タマモは惨状を見渡す。
こぼれた汁で、あたりはびちゃびちゃになってしまっている。
「一体、何回すれば気が済むんだ?ねだられたって、限度ってものが……」
「だから、もうお腹いっぱいだってば。ご馳走様」
「……はあ。金、多めに入れてきて正解だったな」
横島はため息をつきながら財布を眺める。
タマモのおねだりに断りきれず、ずるずると……。
たまたま入ったその店のきつねうどんをいたく気に入ったタマモは、財布がなくて自分が払えないのをいいことに杯を重ね、いつの間にか横島の頼んだカツ丼がちっぽけに見えるほど、うどんのどんぶりがテーブルを支配していた。
「……お勘定」
横島が、悲痛な声で告げる。
先ほどから心配そうな顔でこちらを見守っていた女将が飛んでくる。
「○○○○○円になります」
普通に、五桁。
泣きそうになりながら財布から諭吉を取り出す横島を尻目に、タマモは御満悦だった。
「ほら、さっさと行くわよ」
「……ああ。そうだな……」
「何時までもいじけないでよ」
「……なあ、これ朝食なんだよな。いや、カツ丼頼んだ俺も俺だけど……」
「気にしないっ!」

教会。ステンドグラスの聖母が、迷える人々を見下す。
ちなみに変換は「みくだす」だったりする。
「やあ、待っていたよ……って。なんでそんなに暗いんだい?横島君」
それが、やってきた横島への第一声だった。
「ああ、西条。いや、女の浅ましさについて、ちょっとな」
「君はいま、全国の女性を敵に回したと考えていいだろうな。それに、仲良く手をつないで教会にやってくる男女の台詞じゃない」
「ブーケならあるが……。いっそどうだい?相手の醜いところも良いところも知り合っている男女というのは、そうそう簡単に壊れるものじゃないらしいよ。僕はまだ独身だからなんともいえないが」
「でも、結婚した人の行く末とか、知らないんですか?」
「……ここで式を挙げたひとで、葬式のときに同じ女性がそばに居た男性はいないな。まあ、まだそういうのは三例ほどだけどね」
「じゅ、十分多いんじゃないかしら」
タマモが、数歩引きながら突っ込んだ。
「こほん。まあ、それはともかく、どうも厄介なことになっているらしいね」
唐巣は、咳払いと共に、強引に話題を変える。
「ええ、ここで式挙げた人のその後の人生模様とどっちが複雑か。ときかれると、微妙なところでしょうがね」
西条が答える。
「……君は、ここぞとばかりに仕返ししていないか?」
「いえ。別にどう見ても神父の飲んでいるお茶のほうが色も香りもいいとか、そんなことは一切関係ありません」
「そ、そうかね。同じ物を淹れたはずなのだが……」
「ええ、氷で薄まってなければ、ね」
ぎくっ
「さて、冗談はここまでにして。横島君、掛けたまえ。いろいろと説明しなければならないことがある」
「ここはお前の教会じゃないだろ、西条。失礼します。唐巣神父」
「……あ、ああ。お茶を入れなおしてこよう」
だれも手をつけていなかった三つ目の湯飲みをそそくさと回収すると、唐巣は恐る恐るというふうに西条にきいた。
「君のお茶も、ぬるくなってはいないかね?」
「ええ、もちろん代わりをいただきます」

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