ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その5 後編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 8/24)

がさがさ

ブラックジャガー10の叫び声と同時に、林の中から偵察に出ていた09と10が飛び出してくる。

「02、敵の待ち伏せです。周りを囲まれました。」

その叫びと同じくして周りから竜族の兵10人ほど出てきた。
尖った角が特徴的な、竜神族の下級兵士だ。
だがそんな下級兵士にしても、魔族側からすれば十分な脅威だった。
神族一人に魔族が三人で相手をするのが、軍で教わっている戦いの基本だ。
もちろん、魔族だって神族に十分張り合える者たちは居るのだが、
数が少なすぎて前線に十分な数が出せないのが現実だった。

ましてや今居る403部隊は戦闘に不向きな者を集めた部隊だ。
正直この数に勝てるとは思えなかった。

「へへへ、言われて来てみれば弱そうな魔族が沢山居やがる。
これだけの数を殺せば、竜神王も喜んでくださるぜ。あんなガキにしゃしゃり出られてたまるもんか。」

竜族の一人がこちらを見て吐き捨てるように言ってくるが、内容はワルキューレには理解できなかった。
今はこの不利な状況をどうすれば良いのか考える事で頭が一杯なので、余計な事を考える余裕が無い。
本部がこの状況なら各チームも無事ではすまないはずだ。

「こちらスカルフィッシュ09。敵に囲まれました。これより突破します。」

「こちらレッドバット03。竜族兵10と遭遇、排除に入ります。」

「こちらスカイキャット04、敵が囲んでこようとしましたが、しつこい奴数人残して逃げ切りました。
我々に追いつこうなんて千年は早いです、残りもこれから片付けます。」

「こちらパープルフォックス11。囲まれちゃいました。助けに来てくれると嬉しいのですが無理ですよね?
適当にがんばります。

「イエローベアー01です。敵の待ち伏せに遭遇、06、11が喜んでます!」

恐れていた通り次々に通信鬼から竜族の襲撃を告げる連絡が入る。
最後の方になるにつれ、だんだんと緊張感が無くなっていく気がするが気にしない事にする。

「02、ここは私が抑えます。包囲網を崩しますから逃げてください。」

ワルキューレは言いながら前に出る。
おそらく今このチームの中で戦力として期待できるのは自分と隊長しか居ないはずだ。
隊長を戦わせるわけにはいかないので、戦うとしたら自分しか居ない。

「と言う事らしいがどうする05?」

さきほどから動いていなかった隊長が、横に居た05に向かって緊張感の無い質問をする。

「そうですね〜、俺としてはせっかくだから逃げたいのですが、07の目が怖いのでそれは却下ですね。」

その会話に驚いたワルキューレがつい後ろを振り向いてしまう。

「隊長なにを?!」

言っているんですかと続けようとしたが、背後からの声にはっとして止まってしまう。

「馬鹿が!」

その一瞬に竜族の兵がワルキューレに向かって襲い掛かってきた。
防ぐのも避けるのも、もはや間に合わない。まともに食らうと思った瞬間にその轟音は来た。

ドキュゥゥゥン

耳を突き抜けるような轟音と共に、ワルキューレに襲いかかろうとしていた竜族の兵が横に吹き飛ばされる。
大木まで吹き飛ばされた竜族は、そのまま崩れ落ちると動きを止めた。
ワルキューレだけではなく、竜族の兵も状況が分からず、固まったまま倒れた兵を見ている。

「08〜〜伏せろ!」

その声に反射的にワルキューレは地面に伏せる。

ドドドドッ

その轟音は、ワルキューレたちを囲んでいた竜族全てに向けられた。
ワルキューレが再び立ち上がった時には、もはや全ての竜族が倒されていた。

周りに目を向けると、相変わらず一歩も動かず立ったままの隊長と、
隊長を囲むように守っている07たちの姿がある。

「大丈夫か08?」

「ああ、問題ない。」

07が声を掛けてきたので返事を返しながら、相手の手に持っている武器を見る。
ワルキューレにも見覚えがあった、精霊石を弾として飛ばす銃で威力は凄まじいのだが、
まだ実用段階では無かったはずだ。

「予想以上の威力ですね、隊長。」

05が隊長に声を掛ける。

「まったく、くだらない物を作る・・・・と言いたいが正直今回は救われたな。」

「ははは、俺が開発から書類誤魔化して大量に奪ってきた事をほめてください。
まだどこの部隊にも配られていない最新型ですよ。」

隊長が撃たれて崩れ落ちている竜族の前に立った。

「神族がこんな物を使う事はありえないからな、こちらが優位に立てる切り札だが・・・・・
こんなのは戦いでは無いな・・・ただの虐殺だ。」

「それでも我々が生き残るためには必要ですよ。」

05が今まで見た事の無いような真剣な表情で隊長に言葉を向ける。

「そうだな、その通りだ。」

そこまで言うと隊長はこちらを向いて回りに指示を出し始める。

「相手側にヒャクメが確認された。作戦続行は不可能と判断して本部を破棄する。
どうせ生き残ってると思われる各チームに撤退を指示しろ!
敵の戦力はほとんど調べた、さっさと尻尾を巻いて逃げるぞ。」

隊長が命令を告げ終わると同時に、それは通信鬼から流れた。
今までの報告とはまったく雰囲気の違う、切羽詰ったブラックジャガー10の声。

後にして思えばこれが403部隊、崩壊の始まりだった。

「こちらブラックジャガー10、敵本陣から現れた神族と交戦中。
敵は一人ですが逃げ切れないどころかすでに04と06がやられました。
ちくしょう、相手の動きが見えない。援護をお願いします。繰り返します、逃げ切れません援護をお・・」

ざぁぁぁぁ

ブラックジャガー10の声は途中で途切れ、後に響くのは通信鬼から流れるノイズ音だけだった。

「おい、ブラックジャガー10。どうした、ブラックジャガー10!」

急いで07が通信鬼に向かって叫ぶが、もはや返事が返ってくることは無かった。





あの後、隊長は比較的近くに居たパープルフォックスを向かわせたが結果は同じだった。
そして次々に各チームから連絡が途絶え、最後に残ったブルーアイズも自分を逃がした後、
戻ってくる事は無かった。

ワルキューレは後から隊長だけが助け出されたと聞いて会いに行ったのだが、
命令無視と勝手に神族との戦闘行為をおこなったと言う罪で、
隊長は軍法会議に掛けられると言う話を聞かされる。

そしていつの間にか自分は403強行偵察部隊から除隊されている事を知った。
それも作戦前にだ、なにもかもが突然で、しかも全てが狂っている。





「なぜですか!
私は確かに作戦に参加しました。作戦だって大尉から命令を受けた正式なものだったはずです。
それなのになぜ隊長が拘束されているのですか。」

基礎訓練時代に自分に戦いを教えてくれていた教官を尋ねたワルキューレは、
いつもの冷静さを全て失って叫んでいた。

「抑えろワルキューレ、その大尉が命令など出していないと言い張っているのだ。
もし、もし仮に命令したとしても、すでに証拠など残していないだろう。あいつはそう言う男だ。」

「ばかな、それでは我々は何のために戦ったのですか。」

ワルキューレが詰め寄るが、教官は身動き一つせずにワルキューレを見つめる。

「ワルキューレ、いまから話すことは全て憶測だ。他言無用にできるな。」

「・・・・・はい」

教官の真剣な表情に、ワルキューレも冷静さを取り戻して返事をする。

「今回、魔界に侵入してきた神族を倒す倒さないで魔族はもめていた。
神と魔の最高指導者が和平を考えている。
その噂が広まっている現在、それを良しとしない武闘派と、
和平を支持する和平派で魔族軍は真っ二つに分かれた。
403部隊に今回の任務を命令したと思われる大尉は、武闘派に属しているのは知っていると思うが、
奴め、今回の件をきっかけに和平派に鞍替えをしたよ。
しかも、神族と交渉をして全ての罪を403部隊に擦り付ける事で、
進入してきた竜神族を引かせる事に成功した。
竜神族としても襲ってきた魔族を撃退して、神族内部に存在を示す事が出来れば、
それで満足だったんだろうな。
竜神王とて馬鹿じゃない、ハルマゲドンまで起こすつもりは無かったと言う事だ。
相手のプライドを満足させつつ、自分の目的を達成する。軍人としては最低だが、効果は絶大だ。
奴はこの件をきっかけに少佐に昇進したよ。」

「我々は捨て駒だったと言う事ですか!」

ワルキューレは悔しさの余り拳を握り締めながら、教官をジッと睨む。
その視線を真正面から受け止めながら、教官は言葉を続ける。

「最初からそうだったかは分からんな、神族の戦力次第では武闘派側で戦いを始めただろう。
どっちでも奴にとっては良いように動いていたと考えたほうが自然だ。食えない狸だ。
・・・・・・・
実はな403部隊の隊長から作戦前に俺に連絡があった。
もしもの時はワルキューレをお返ししますってな、
気づいていたんだろうな自分たちが捨て駒に使われるのを、
だから入って間もないお前だけでもと、除隊の手続きを作戦前に終わらせていたんだろう。
魔族としては理解できない考え方だが、俺も落ちこぼれでな、理解できしまうんだよな。」

「隊長・・・」

ワルキューレはこらえる様にぎゅっと拳を握り締める。
思い浮かべる403部隊での生活は、全て二度と関わりあいたくない出来事だったが、
不思議と嫌だとは感じた事は無かった気がする。


「教官、自分は諦めません。」

いったい何をとは聞き返されなかった、答えなど自分でも分からない。
まだはっきりと形に出来ないが、その思いだけはワルキューレの中にあった。
諦めない、そう自分は絶対に諦めない。

「そうか、ならお前の次の部隊が決まっている。最初の希望通り前線の一流と呼べる部隊に転属だ。
せいぜい出世して来い。」

「はい。」

書類を受け取ると、敬礼を済ませ扉に向かう。

隊長、自分はまだ諦めません。



隊長が入れられた刑務所でいろいろと黒い噂が流れているのを、しばらくしてワルキューレの耳に入った。
しかも、その刑務所の管理をしているのが少佐に昇進した男だったのである。
だがまだ力の無いワルキューレにはどうする事も出来ずに、ただ我慢をするしか無かった。




部隊を全滅へと追い込んだ小竜姫と出合ったのは大分経ってからだった。
作戦の中、妙神山の手助けを受けた時に出会ったのだが、正直思い浮かべていた姿とはまったく違っていた。
その姿を見て憎んだ時もある、殺してやりたいと思った時もある。
だが、次々に起こる問題の中、小竜姫と何度も協力をし、小竜姫の過去まで知ってしまった今では、
自分で殺す事はもう出来ないと理解している。
それでも403部隊の顔がちらつくたびに、どうしようもない気持ちになるのだ。
理解していても分かっていても、おそらく自分は小竜姫とは真の友人にはなれないだろうと思う。
それは神族、魔族とはちがう理由で
・・・・だがいつか、それすらも乗り越えて共に肩を並べる事が出来るのだろうか。
それはまだワルキューレには分からなかった。



あとがき
ほんとお久しぶりです。
初めての方、こんにちは

2ヶ月ぶりぐらいです><

実際間が開きすぎた事や、趣味に走りすぎて人気が出てないこともあり
続けるか悩んだのですが、読んでくれている人も居る中で途中で終わらせるのは
よくないと思い続きを載せました。

今回はワルキューレ回想後編となります。
舞台背景が美神とは違うので違和感がある方が多いと思います。
その辺はご了承ください。

最後まで書こうと思っていますので、よろしくお願いします。


青い猫又

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