ナンバー329843 その5 前編
投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 8/24)
その作戦はワルキューレが403部隊に入った後、やっとチーム編成が行われると思った頃に起こった。
403部隊に入隊すると、まず最初は各チームのリーダであるブルーアイズチームに配属される。
ここで403部隊としての基礎知識や、訓練を行い。適正とされるチームに配属されるのが一般的だった。
ワルキューレも類にもれず、まずはブルーアイズチーム08として入隊となり、訓練を行っていた。
「魔界に入り込んだ神族の戦力調査ですか。」
広い空間の中05の声だけが、その場に響き渡る。
ワルキューレを含む403部隊の一同は、隊長に呼ばれ第6作戦室にそろっていた。
次の偵察任務の打ち合わせなのだが、お茶とお菓子が配られているのはどうかと、ワルキューレは考える。
「そ〜なんですよっ!
あのしょぼくれ爺がすました顔して、『あ〜我々は神族を魔界から叩き出そうと考えています。
それにはまず敵の戦力を知っておかねばなりません。
屑、おっと失礼。余り魔族として使い物にならないあなたたちでも、偵察ぐらいの才能はあるでしょう。
行って確かめてきてください。』ですって信じられますか!」
正面の段に立った隊長が、わざわざ声真似と身振り手振りを入れて熱く語ってくれる。
顔は怒ってますと言わんばかりに真っ赤にしているのだが、少なくても部隊の隊長としての威厳は欠片も無い。
「た、隊長。」
いちばん、隊長寄りの席に座っていた07が恐る恐る手を上げる。
「はい、07さん。なんですか?」
手を上げた07を、本当に不思議そうに見つめながら、隊長が声を掛ける。
きょとんとした顔をしているのだが、ワルキューレの周りではざわめきと共に混じって、
隊長LOVEですと囁く声が聞こえる。
はっきり言って嫌だった・・・
「隊長のお気持ちは十分に分かります。
ですが、その、作戦会議の時には髪を縛りましょうねと約束したじゃないですか。」
途端にあっと驚いた顔になった隊長は、自分のポケットをあさり始める。
多分結ぶための紐を捜しているのだろう。
「ごめんなさい、ちょっと待ってね。」
そう言いながらも探すのだが、いまだに見つからない様子だ。
「ちょっと待った〜〜〜〜隊長落ち着いてください。」
「は、はい。」
突然立ち上がって叫んだ05に、隊長は驚きながらも返事をする。
「隊長の愛くるしい顔を、十分に堪能させて貰ったので言うのですが、
我々はそのままの隊長でかまいません。いや、そのまんまじゃないと嫌です!」
「きさま、なにをふざけた事を。」
隊長が返事をするよりも早く、07が怒って叫ぶのだが、05は微塵も揺るがず07を見つめる。
「これは我々の総意だ。お前ら、隊長はこのままのほうが良いと思う奴返事をしろ!」
『サ〜イエッサ〜』
一瞬気が遠くなるような爆音が周り中から聞こえる。ワルキューレが周りを見渡せば、
左右の魔族も前後の魔族も、ついでに斜めの魔族も興奮気味に立ち上がっている。
病んでいるな・・・耳鳴りを我慢しながらワルキューレは確信する。
07も頭を抱えて嘆いていたが、救いの女神がそんな彼女に訪れた。
「05さん、お気持ちは嬉しいのですが、やはり駄目です。
07さんと先に約束していたので今回は髪を結びます、ごめんなさい。」
05の申し出を丁寧に断ると、隊長がぺこりと頭を下げる。
それを見た05は目をうるうるさせながら、隊長を抱き締めた。
途端に周りからは、05にたいするブーイングの嵐だ。05自体は全然気にしている様子は無いようだが。
「あ〜〜〜もう、隊長は可愛すぎます!
そんな事は気にしないでください。このブルーアイズ05、死ぬまで付いていきます。
・・・・・・あ、ちなみに紐はこれです。」
05が自分のポケットから取り出した紐を隊長に渡す。
隊長はそれを受け取ると、自分の髪をゆったりと一つに縛った。
途端に隊長がまとっている雰囲気ががらりと変わる。
目つきは鋭くなり、先ほどまで微笑んでいた顔は、引き締まった表情を作る。
ワルキューレはいつ見ても思うのだが、本当に同一人物かと疑いたくなる。
まあ目の前で変わられたら、疑いようが無いのだが・・・
「気をつけ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
隊長の号令とともに一瞬にして作戦室は静まり返る。
「08、なにをぼさっとしている!」
自分に付けられたコールサイン、ブルーアイズ08と呼ばれたワルキューレは、
いつの間にか自分だけがボーとしている事に気がついた。
先ほどまで騒いでいた連中は、優秀な兵士のお手本のような感じで全員机に着席している。
いつのまに・・・・・
「申し訳ありませんっ!」
謝罪を済ませると自分の席に身なりを整えて座る。
「さて話の続きだ。本日とても素晴しい大尉どのから、くそったれな命令が届いた。
お前らも話は聞いていると思うが、神界よりかなりの戦力が魔界に侵入した。それに対して、
魔族側の意見は日和見派と武闘派で意見が真っ二つに割れている。このままにらみ合いを続けるか、
それとも魔界の戦力を集めて叩き出すかだ。
手元の資料を見ろ、現在の魔族側の結集している戦力図と神族側の予想戦力だ。
我々の任務は現在神族が占領している地点に潜入して、神族側の予想戦力を確定戦力に変える事だ。
どうだ、分かったか!」
そう言うと隊長は周りを見渡す。質問があるか確認をしているのだろう。
「隊長。」
手を上げたのは最前列に座る07だった。
「なんだ、言ってみろ。」
「隊長曰く、とても素晴しい大尉どのは、武闘派の一人だったと思います。
と言う事はハルマゲドンが起こる可能性があると言う事でしょうか。」
隊長から許可がおりると、07は立ち上がって質問をし、言うだけ言うと再び座った。
「さあな、とてもとても素晴しい大尉どのも、さすがに馬鹿じゃない。
神族側の戦力次第では負け戦に挑むとは思えない、だからこそ我々を使って正確な戦力を知りたいのだろう。
つまり我々の活躍次第ではハルマゲドンを回避できる、素晴しい任務だ。やる気が出てきただろ。」
口ではそう言っているが、ワルキューレには皮肉としか聞こえない。
武闘派はよほどの事じゃない限り諦めはしないだろう。いや、奴らは本当の所神族の戦力など関係ないのだ。
自分の闘争心を満たす為なら、ハルマゲドンなど恐れてはいない。ようは口実がほしいのだ。
和平派を押し切り魔族全体を動かす口実が、それは神族の戦力でも良いし他の何かでも良い、
おそらく我々が失敗した場合も口実の一つとして考えているはずだ。隊長もその辺は分かっているのだろう。
「今なら20%増量キャンペーンでもやりますか。」
07の隣にいた05が隊長に言うと、周りからは笑い声が聞こえてくる。
「さて、では具体的な作戦を決めるぞ。」
ピィ〜〜〜〜〜〜〜〜
隊長がそこまで言うと、突然甲高い笛の音のような音が聞こえだす。
すると突然05が立ち上がり、隊長へと歩いて行く。
「どうした05?」
隊長が質問すると、05は目の前に止まって一礼する。
「隊長、お湯が沸きましたので後はお茶を飲みながら話しましょう。」
それだけ言うと、あっという間に隊長の髪を止める紐を解いてしまう。
すると先ほどまで引き締まっていた隊長の顔は、暑い日差しの中に出したバターのように溶けてしまった。
「そうですね、お茶飲みながら作戦決めましょうか。」
その一言で場は再び、騒ぎの中へと戻っていく。
本当に不思議な事に、それでもきちんとした作戦が決まってしまうから驚きだ。
「あ、隊長、そっちよりこっち重要視しましょうよ。
神族ってばかっぽそうだからこっち来る可能性高いですよ。07〜お茶のお代わり。」
「しるか!」
「ん〜そうですね。で、こっちにはスカルフィッシュに行ってもらうと。
あ、それ私が目を付けてたお菓子ですよ!」
『で、我々の美しい筋肉はどの辺で見せびらかせばよいのですかな。』
相変わらずなマッチョコンビがポージングを取っている。
「そうですね、この辺で見せびらかしながら隠れてください。
もし見つかったら熱い抱擁で黙らせてくださいね。あ〜〜隊長命令です!
そこのお菓子に手を出してはいけません!」
『あ、熱い抱擁・・・・了解した!』
本当に不思議だと思うワルキューレだった。
進入は一瞬、月の無い魔界の夜は、深遠と呼べる真の闇だ。
ワルキューレを含むブルーアイズチームは、その闇をものともせず駆けて行く。
すでに敵の警戒地域に入っているのだが、今のところ気づかれている様子は無い。
入る前に分かれた他のチームからは、定期的に連絡が入るが今のところ問題は無いようだった。
「こちらスカイキャット04、作戦ポイントに到着、本部設営と同時に行動を開始する。」
「こちらブルーアイズ07、了解した。」
さすがに早いなと思う、スカイキャットチームは翼を持つ魔族が主体となっているチームだ。
単純な移動スピードだけなら1、2を争う。もちろん翼があるなしに関わらず、
それなりの魔族なら問題なく飛べるのだが、翼のある魔族は飛ぶ事に特化しているのか、
他より早いものが多い。今はまだチーム分けをしていないワルキューレだが、
配属されるならスカイキャットチーム辺りになると思っている。
「08、作戦ポイントだ。設営を開始しろ。」
次々に07の通信鬼に連絡が入る中、ブルーアイズチームは作戦ポイントにたどり着いた。
ワルキューレは装備の中から簡易机を取り出すと、慣れた手順で組み上げる。
そしてその上にこの辺り一帯の地図を取り出すと広げた。
そこまで終わらせると、周りに待機していた魔族たちが集まってくる。
「準備完了です。」
ワルキューレが完了を報告すると、それを待っていた07がすぐさま通信鬼に向かって叫ぶ。
「こちらブルーアイズ07、各チーム行動を開始せよ。」
『了解』
「こちらスカルフィッシュ04、3783263地点に敵戦力B3を確認。」
「こちらレッドバッド03、5783245地点に敵戦力C1を確認。」
「こちらイエローベアー01、2435621地点に敵戦力A2を確認。」
行動開始とともに、すごい勢いで敵の戦力情報が入ってくる。
その報告に返事を返す事はせず、机の上に通信鬼を置くと何人かで地図に書き込み、
他の者がそれとは違う紙に記録を始める。
「08、こっちに来い。」
手伝う事がまだ出来ないワルキューレが、無防備になる皆を守るために偵察に出ようとすると、
隊長から声が掛かった。
「サーイエッサー」
返事をして隊長に駆け寄る。
「偵察なら、10と09を行かせた。今回お前はここに居て見ていろ。」
「了解です。」
訓練を抜かせば、ワルキューレが作戦に参加するのは今回が始めてである。
隊長はまずワルキューレに、自分たちの仕事を見せたいと思ったのかもしれない。
「こちらスカイキャット04、8392645地点に敵戦力B1を確認。」
「こちらスカルフィッシュ09、2076104地点に敵戦力A2を確認。」
次々に入る報告によって、あっという間に地図の上には神族側の戦力と配置が浮かび上がってくる。
「ブラックジャガー10で〜す。3156089地点に敵戦力A1確認しましたわよ。」
突然野太い声のおっさんが、かわいらしく報告を上げてくる。
とっさに05が通信鬼を蹴飛ばそうとするが、通信鬼の一番近くにいた07が持ち上げて、
05の足を空振りさせる。
「ちっ」
05の舌打ちをする声が聞こえるが、07はまったく気にせずに通信鬼に向かって叫ぶ。
「遊んでないでさっさと仕事しろ!」
「了解!、こちらブラックジャガー10、今7843254地点ですが敵戦力SSSを確認しました、
予想通りです。」
瞬間、本部内に軽い緊張が走る。戦力SSSとは敵の本陣の事を指す。
つまり今回侵略してきている神族側の急所を見つけた事になるのだ。
ワルキューレの横に居た隊長が07から通信鬼を受け取る。
「よくやったブラックジャガー10、さっそくだが敵の旗持ちはどこだ?」
隊長は旗持ちと聞いているが、実際に旗を持っているわけではない。
隊長が聞いているのは今回攻めてきている神族側が、
いったいどこの種族が主体となっているかを確認しているのだ。
一口に神族と言っても一枚岩ではない。
魔族が武闘派と和平派に分かれているように、神族側も様々な派閥に分かれている。
その派閥の大元と言えるのが各種族なのである。
種族ごとに派閥を作る事はあっても種族内で争う事は神族にはありえないのだ。
だからこそ、攻めてきている種族を確認できれば、相手の考えもある程度判断できる。
「竜神族ですね、間違いなく。なんとびっくり、竜神王の旗印が見えますよ。」
その言葉にさすがの隊長も一瞬焦った声を出す。
「なっ、馬鹿な竜神王自らが来ていると言うのか?!」
本部内や通信鬼を通して聞いているであろう各チームのメンバーに、あきらかな動揺が走った。
「竜神王めなにを焦っているのだ、本気でハルマゲドンを起こす気か。」
隊長の言う事はもっともだった。
仮にも竜神族の王である竜神王が前線に出てくれば、竜神族としては引く事は出来ない。
プライドの問題だ、竜神王まで前に出した竜神族はもはや前にしか進まないだろう。
また魔族としても一旦攻撃が始まれば、竜神族の王を目の前にして引く事は無いだろう。
魔族にとって竜神王は目の前に吊るされたニンジンも同じだった、
美味しい餌を目の前に誰が引く事ができようか。
「どうしますか隊長、竜神族が旗持ちなのは情報通りですが、竜神王が来ているのは予想外です。」
隊長の横に控えていた05が、声を掛ける。
「くっそ、残念だがそこまでは我々が考える問題じゃない。我々は我々の仕事をこなすしか無いのだ。
ブラックジャガー10、他に確認できるものはないか?」
「どうも本陣の中で動きがあります。
戦闘準備をしているようですが、なにを目標にしているのか不明です。」
近くに魔族軍は居なかったはずだとワルキューレは記憶している。
ではいったい神族はなにと戦うつもりなのか、前線を前に伸ばすにしても急すぎる。
嫌な予感がした。
「中央で指示を出している一団を確認できました。竜神族じゃない奴が一人混じっていますね。
あれは・・・・・、げっ目が合った。ヒャクメだ!!」
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