〜 『キツネと羽根と混沌と 』第8話前編 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 8/23)
〜 pause 〜
最初から決まっていたのかもしれない。
虚ろな瞳で・・・・・
彼女はそんなことを考えていた。
もう自分は立ち上がれない。・・・立ち上がる気力もすでに無い。
ドクドクと・・・肩口から流れる赤い液体に触れながら、彼女はゆっくり空を見上げる。
血の気の引いた肌を、ピタリと床に張りつかせ・・何をするでもなく、見上げ続ける。
・・・真っ暗だった。
このまま意識を手放せば、きっともう2度と戻ってくることはないのだろう。
もう逢えない・・・あの人とも・・。
・・・・。
だから、彼女は想うのだ。
これはもう・・・ずっと昔に決まっていた、ある一つの結末だったのではないのだろうか、と。
出会いも。
別れも。
恋も。
そして、笑顔も。
・・全ては今流す、この涙のために在ったものなのではないのだろうか、と。
嫌だと思った。
認めたくないと思った。
それではまるで・・・・
まるで、自分は・・・・・・
悲しみに向かって、ただ歩いてきたようなものではないか。
「・・・・こわれちゃえば・・・・・・いいのに・・・」
彼女は言った。
壊れてしまえばいい・・・・何もかも。この世界全部。
弾けて、潰れて、裂けて、崩れて、割れて、燃えて、捩れて、滅茶苦茶になって・・
最後には、みんな消えてしまえばいい。
・・・。
・・・・・・。
もしも、それが叶わないことだというのなら・・・
誰も、そんなことは望まないと、そう言うのなら・・・・・
壊『し』てしまえばいい・・・・この私が・・。
壊してしまえばいい・・・あらゆるものを・・・この灰色の翼で・・・・
〜 『キツネと羽根と混沌と 』〜
そして、日々は壊れ始める。
◇
「ふははははははははははっ!!
もう作者もやめたくてやめたくてしょうがないのに、何故かズルズル引っぱられて4話目に突入してしまったこのバトルも、
ついに最終局面に突入だっ!!」
「・・・・・。」
あかずの間。
つっこみ疲れてすでに哀愁すら漂う横島が、げんなりと一つ、ため息をついた。
部屋のすみにはうずくまるタマモ。
・・いや、別にケガを負ったとかそういうわけではなく・・前々回のラスト。
―――――「さぁ!!お嬢さん!大人しく私に下着を渡していただきましょうか!?」
「「・・って、狙いはそっちかいっ!!」」――――――
・・・の後。結局、妖魔の猛攻を防ぎきることができず・・・
「も・・もうお嫁にいけない・・」
一体、どんな手品を使ったのかは知らないが・・結局、妖魔に・・・・
何故か、服を着ているのにも関わらず、上から下着を剥ぎ取られていたりして・・・
「アッハッハッハッ!!見たか!?わが秘技を!伊達に10年以上、下着ドロをしていないだろうっ!?」
「ちょっ・・人の下着を振り回すのやめてよ!か・・返して!」
・・なんてことを叫ぶタマモの顔は、もうほとんど半泣きだった。
それを横目で、軽く確認した横島は・・
「・・こういうネタばっかり多用するから、このシリーズからは女性読者が離れていくんだろうなぁ・・」
と、気のない調子でつぶやきながら、ノロノロと妖魔との距離を縮めていく。
面倒くさそうに頭をかいてはいるが・・その眉は少し怒ってでもいるかのように吊り上げられていて・・・
「あ〜・・何つーかな・・あんまガキをいじめんのはよせって。どうしてこう、オレが最近闘う奴らはロリコンばっかなのかね〜」
肩をすくめる横島から、敵を威圧する独特の気配が滲み出る。・・遅ればせながらようやくエンジンがかかったようだ。
「フ・・フン!す・・凄んでも無駄だぞ。私にはまだ切り札が・・」
「・・言われなくても大体見当はついてるよ。まぁ、たしかに下着ドロにはうってつけの力だよな。」
腕を組む横島の目の前で、妖魔の輪郭がボヤけていく。
毒々しいピンク色の体から、見る見るうちに色素が抜け落ち・・・ものの数秒で、その姿は風景のキャンバスに溶け込んでしまった。
「・・透過能力?」
自分が学校に同行したのは、事件に幻術が絡んでいるから・・
そんな当初の理由をようやく思い出し、目を見開くタマモ。
それに横島は苦笑して・・・
「う〜ん・・幻術使いが相手、ってじゃなかったわけだ・・。ま、アイツの気持ちも分からんでもないけど・・。
オレだって透明人間になれたら、真っ先に手を出すのは下着ドロだろうし・・」
言いながら、思わず半眼になる。
色々な意味で女の敵と言っていい相手だったが・・結局は自分に似ているのかもしれない。
「・・忠告しとくけど。お前の未来は大人しくGメンに捕まるか、ボコボコにされてやっぱりGメンに捕まるかのどっちかだぞ?
よく考えて選べよ。」
「う・・言ってくれる・・。私の姿が見えるとでもいうのかい?」
部屋に響く声。
見回しても、妖魔の姿はどこにもない・・・どころか、彼から発せられるはずの霊波すら、カケラも感じ取ることが出来ないのだ。
考えられる限りの、自分を取り巻く「気配」全てを遮断する・・完全な透過能力。
次の瞬間、横島たちのすぐ傍にあった鉄製の柱が、衝撃とともに粉砕する。
「・・くっ・・まずいんじゃない・・?これ・・私の幻術なんかよりよっぽどたちが悪い・・」
うめくようにつぶやくタマモに向かって、何故か横島は楽しげな様子で唇を歪めて・・
「いいから見てろって。」
ごそごそと・・ポケットから投げやりに文珠を取り出し始めた。
数は4つ。声の方向から妖魔の位置をおおまかに把握すると・・彼は躊躇もなくそれら全てを連結し・・
・・瞬間。文珠を中心にして、閃光と強烈な突風がほとばしる。
「きゃっ!ちょっと・・!私、下着つけてないんだから気をつけ・・・」
スカートを両手で抑えながら・・しかし、突然、タマモが驚いたように顔を上げ・・・
「4・・・つ?・・・ねぇ・・たしかあんたって、同時には3つまでしか文珠の制御ができなかったんじゃ・・」
聞くまでもなかった。
この突風は明らかに文珠の霊力によって引き起こされたもの・・つまり、珠内の力が外に漏れ出ていることを示すわけで・・
「は?何だよ、今ごろ気づいたのか?」
キョトンとする横島。
「『気づいたのか』・・て、それはどういう・・」
「まだ秘密〜。ほれ、んなことより気をつけないと舌噛むぞ?」
時が経つごとに、勢いを増していく風と光。
あまりの威力に吹き飛ばされそうになったタマモの体を・・・
「・・えっ!?」
突然、横島が背後から抱き寄せてきて・・・
「・・は・・・放してよ・・。」
「・・・あのね、君。自分が助けられたって分かってる?お兄さんとしてはもうちょい可愛げのある反応を期待したいんだけど。」
横島のやる気なさげな口調とは裏腹に、部屋の中央あたりでは・・
「ぬ・・ぬおおおおおおっ!!?な・・なんじゃこりゃあああああああ!!!」
相変わらず透明なままの妖魔が、どこからかとんでもない絶叫を上げている。
「おぉ、おぉ苦しんどる、苦しんどる・・。どうだ兄弟?気分の方は。」
「お・・おのれぇ・・!しかし何を仕掛けても無駄だ・・。お前に私の姿は・・」
ヘラヘラ笑う横島に向かって、妖魔が悔しげにそう叫んで・・・
だが数秒後、彼はおろかタマモまで、続く横島の発言に耳を疑った。
「見えないけど関係ないだろ?この部屋全部、ぶっ飛ばすから。」
「「へ?」」
呆気にとられる2人をよそに、横島はチラリと宙に浮かぶ文珠の様子をうかがって・・
「お・・そろそろだな。それじゃあそーいうわけで、死ぬなよ〜変態妖魔。」
「・・は?お・・おい!ちょっと!?」
言うが早いか、彼はタマモの腕を引き、そのまま敵に背を向け走り出してしまう。
脇見も振らず・・・それはもう、感心するぐらいに素晴らしい逃げっぷりで・・・・
呆然と立ち尽くす(といっても姿は見えないが)妖魔を尻目に・・・文珠が奇妙な音を立て、砕け散り・・
ちょうどその時、タマモは横島がボソリと何かを口にするのを耳にした。
「・・4つか・・。ちっと多すぎたかも・・。」
「?何を言って・・」
刹那。
「な・・なんとおおおおおおおおおおお!?」
妖魔の悲鳴が・・・それに次いで、とてつもない轟音が部屋にとどろく。
後方で何か・・信じられない程の霊波の流れが巻き起こり・・・・思わず、タマモは振り向きかけた。
「はいはい・・秘密っていったろーが・・。それに振り返るヒマなんてないぜ?下手するとオレらまで巻き込まれるし」
「・・何・・そのひっかかる言い方・・。」
「・・まだ研究中なんだよ、こいつは。・・もういいや、とにかく走れ。」
「??」
その時は怪訝そうな顔をするタマモだったが・・
それから約5分後、彼女は横島が何を言っているのか・・嫌というほど理解することになる。
おそらく、この時振り向いていれば足がすくんで動けなくなっていただろう。
それほどまでに・・今、2人の背後に広がる光景は、常軌を逸したものだった。
◇
(・・・・。)
日の沈む空。
校舎の窓から、薄暗い街を見つめながら・・・神薙美冬が、一人、瞳を曇らせていた。
ユミールが去り際に吐いた台詞を思い出すと、我知らずため息が漏れてしまう。
「3日後・・ですか・・。」
3日・・敵の動向を探るにしろ、それを未然に防ぐにしろ・・何らかの行動を起こすには絶望的な時間だった。
「・・・。」
・・おそらくは、ユミールの誘いに乗るしかないのだろう。
どれほど不利な戦いを強いられようと、敵方にフェンリルが現れると分かっているのだ・・。
自分が出る以外、最良の手段があるとは思えなかった。
(・・このような時に備えて、スズノを仲間に引き入れたかったのですが・・・いえ、今となっては考えても詮無いことですね・・)
間に合わないとしても、出来得る限り多くの情報を知る必要がある。
今夜あたりメドーサに指示を出しておかなければ・・・
・・・そんなことを考えつつ、神薙がゲタ箱に手を入れようとした・・その時。
「あ。」
不意に、彼女は・・あることを思い出し、弾かれるように校舎へと視線を戻した。
・・そういえば、横島とタマモはどうしたのだろう?(もともとそれが目的で校内を探索していたのだ)
時間が時間なだけに、すでに下校している可能性がかなり高いが・・・・
「・・もう少し・・探してみましょうか・・?」
ぼそり。
先ほどとはまた違う・・焦りのような感情が入り混じった声音。
誰にともなく咳払いすると、神薙は足早に今来た道を引き返し・・・・・・
「・・・?」
そして、そこで彼女は気づいてしまった。
遠くから何故か聞こえてくる・・・悲鳴のような甲高い叫びに。
・・・。
窓の向こうに豆粒のような黒い点が映ったかと思うと・・・それがどんどん近づいてきて・・・
数秒後!
「げっはあああああああああああっ!?」
どかーーーーん。
・・いきなり、頭上の天井が突き破られる。
もの凄い勢いで『妙なもの』が降ってきて・・さらに、その『妙なもの』は派手な音を立て、床へと思いっきり激突したのだ。
「・・え?あ・・あの・・」
意味がわからず、目を白黒させる神薙の目の前で『妙なもの』がムクリと起き上がり・・
「だれが『妙なもの』だ!!おのれ、あの小僧・・ほんとに部屋ごとぶっ飛ばしやがった!!おかげでコレクションが全てパーだ!!」
・・それは、神薙が初めて出会う・・というか、見たこともないような魔族だった。
まず目に付くのはピンク。凝視するだけで視界がチカチカしてきそうな、毒々しい、どピンクの体。
・・もう1つ・・次に神薙の瞳に止まったのは・・・
「・・・・。」
「リベンジだっ!!待ってろ小僧。すぐに決着を・・・」
・・・。
その妖魔がヘルメットのごとく装着している・・ワンポイントのリボンがついた、シンプルな白い下着だったりして・・
「そ・・それは・・わ・・私の・・パンツ・・」
「ん〜?なんだぁ〜誰かいるのか?」
顔色を赤くしたり、青くしたりと忙しい神薙の方へ、変態妖魔が首を向けた・・・そのしばらく後。
長いタイムラグを終え、神薙の周囲に極寒の冷気が渦を巻く。
ユミールと闘っていた時より、よっぽど力の入った眼光が妖魔の体に突き刺さり・・・・
「あ・・あのう・・君は何を怒って・・・」
「ぶ・・無礼な・・。仮にも魔神を掴まえて・・・あなたは一体、何をやっているのです・・!」
・・・なんてことを神薙が震える声で言い放ったのが・・・最後だった。
直後、誰のものとも分からない、「ふんぎゃあああああああ!!」という絶叫が木霊して・・・
・・・。
茶道部を騒がせた盗難事件の幕は・・・こうして、依頼主本人の手によって直々に下ろされたのだった。
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