ザ・グレート・展開予測ショー

二人の横島───魔神対人間───


投稿者名:Dr.J
投稿日時:(04/ 8/21)


 これは、言わば三次創作です。遊さんの『GS美神「ミッシングリンク」』(現在、「椎名作品二次創作小説投稿広場」に掲載されています。)が、夜華に掲載されていた頃、それに触発されて書いたものです。遊さんの物語で誕生した、魔神と人間、二人の横島の対決シーン。クライマックス前半のごく一部だけですが、よろしければ読んでみてください。


*** 二人の横島───魔神対人間─── ***


「じゃ、いきますよ。」

 横島が、霊波刀の出力を最大限に上げ、扉に叩きつける。吹き飛んだ扉の向こうに広がっていたのは……とてつもなく巨大な温室のような、植物園のような場所だった。中央がテラスのようになっており、そこで二人の魔族がテーブルに着いていた。一人は、彼らの知っているあの仮面の女魔族、もう一人の姿は、椅子の背もたれに隠されてよく見えない。

「さすがに世界最高のGSチーム、アシュタロス事件の英雄たちだ。一人も欠けることなく、ここまでたどり着くとは。」

 こちらに背を向けたまま、その魔族が声を発する。落ち着いた口調だが、声はまだ幼さの残る、青年のそれであった。

「貴様がこの事件の黒幕か!」

 西条が霊剣ジャスティスを構える。

「その通りだよ。君たちに会えるのを、楽しみにしていた。」

 その言葉と共に、いきなり強烈な霊波がGSたちを襲った。横島も西条も、令子や他の面々も、その霊圧に押されて動くこともできない。

「美神さん、こいつ!」

「メドーサなんか比べものにならない……ひょっとして魔神クラス?!」

「正解だ。」

 霊圧は、襲ってきた時と同様唐突にかき消えた。椅子にかけていた魔族、いや魔神が、ゆっくりと立ち上がる。GSチームの全員が、あっと息を呑んだ。その姿は、髪が短いことを除けば、アシュタロスに瓜二つであったから。

「アシュタロス?!」

「違うね。君たちも知っているではないか。アシュタロスは完全に死んだ。転生することはあり得るだろうが、再び魔神として復活することは、もう、あり得ない。」
 皮肉な口調で答える魔神。確かに言われてみると、全体の印象こそそっくりであったが、アシュタロスに比べて細身で、顔立ちもアシュタロスほど端正ではない。

「では貴様は何者だ?」

 西条が怪訝そうな顔で問う。

「言ってもわからないと思うがね……我が名は、ヨグフ=ダダ。」

「ヨグフ=ダダ?」

「そう、それが私の正式な名前だ。魔神としてのね。」

「何者だ! ヨグフ=ダダなんて名前、聞いたことも無い! 少なくとも僕の知るかぎりのどんな神話にも伝説にも、そんな名前は出てこないはずだぞ!」

「そうよ、これまで私が目を通したどんな文献にも、そんな名前は出てこなかったわ!」

 美智恵が追いうちをかける。

「アンタ、いったい誰よ! 魔神クラスなら、少なくとも名前くらいは知られているはずなのに!」

 それを聞いた魔神は、いきなり火のついたような勢いで笑い出した。

「フ……アーハッハッハッハッハッ!」

「オーッホッホッホッホッ!」

 呆気にとられるGSたちの前で、腹を抱えて笑い転げる。背後に控えていたあの女幹部までが、身をよじって笑い転げていた。

「なにがおかしいっ!」

 我に返った横島が、魔神たちを怒鳴りつける。

「い、いや、失礼。君たちが、あんまり的外れなことを言ってくれたものでね。正直な話、これが笑わずにいられるか、だよ。」

「どういう意味だ?」

「神話や文献に私が登場しないのは当然さ。なにしろ私は、二年ほど前に誕生したばかりなのだから。」

「何?!」と西条。

「君たちも聞いているのだろう? アシュタロスの死がもたらしたもののことを?」

 その言葉に、GSたちは思わず顔を見合わせた。一同を代表するように、美智恵が答える。

「神族と魔族の、勢力バランスの狂い……。」

「そうだ、その狂いを修正するため、神族と魔族の最上層部が合意の上で、二年前にある処置がとられた。」

「…その結果、新たな魔神が誕生した。それがアンタだって言うの!」令子が叫ぶ。

「そういうことだ。」

「つまり、あんたはアシュタロスの後継者ってワケ?」これはエミ。

「そう考えてもらってかまわない。ついでに言うと、私にはアシュタロスの記憶も与えられている。彼が知っていたことは、何もかも知っているよ。」

「アシュタロスの記憶を? すべて?」

「そうだ、やろうと思えば、私の手でもう一度、コスモプロセッサを造ることもできる。もちろん実際にやる気はないがね。」

「待てよ……アシュタロスの記憶を持っているってことは……ひょっとして」横島がつぶやく。

「ひょっとして、今回の事件の目的は………アシュタロスの復讐か! 俺たちに対しての!」

 その言葉に、一同が再び息を呑む。しかし、ヨゴス=ダダと名乗る魔神は、あっさりそれを否定した。

「復讐? そんなことは考えていないよ。私はアシュタロスの記憶すべてを持っている。つまり、彼が真に望んでいたのは何なのかも、知っているということだ。彼は自分の望んでいたものを手に入れた。彼自身が今ここにいたとしても、君たちに対する復讐など考えもしないだろう。」

「でも、アシュタロスの記憶を持っているということは、あんたもいつかアシュタロスと同じ運命をたどるんじゃないの? あいつの言う、『魂の牢獄』とやらに囚われて。本来なら、あんたにそれを与えた最高指導者たちを怨むべきところだけど、あんたもさすがに最高指導者にはかなわない。ゆえに、その怒りを私たちに向ける、ということは、ありそうに思えるけど?」

「なかなか鋭い、そして君らしい推測だな。美神令子。しかし残念ながらハズレだ。私は君と違って、八つ当たりや逆恨みとは無縁なのでね。」

「なによ、馬鹿にする気!」

 相手の口調の中に侮蔑を感じ取り、令子が激高する。しかし当然ながら、魔神はそんなものは意にも解さなかった。

「アシュタロスの記憶を持っているといっても、私は彼ではない。彼は自分が茶番劇の悪役であることに耐えられなかったが、私は違う。むしろ茶番劇の悪役という立場を、大いに楽しませてもらうつもりだよ。」

「茶番劇だと!」

「そうだよ。私は茶番劇の作者兼悪役俳優。主人公で主演男優は、多分そこにいる横島君。主演女優は誰だろうな?」

「つまり今回の事件も、お前が書いた茶番劇だと言うのか!」

「そうさ。これは私が、魔神として初めて書いた茶番劇。最初の作品としては、まあまあの出来だと思っている。私自身、結構楽しめた。」

「自分が楽しむために、人の命を奪うっていうの!」美智恵の叫び声が響く。

「その言葉は心外だな。そもそも、今回の一件で、誰か一人でも死んでいるかね?」

「え………」

 そう言われて、一同は初めて気がついた。重傷者は数え切れないほど出ているし、被害額も甚大だが、死者が出たという知らせは一度も聞いていないことに。

「致命傷を負った者は、命に別状がない程度まで回復させておいた。責任問題への恐怖から自殺しようとした者は、部下に命じて止めさせた。『お前が自殺したら、お前の家族すべて、友人すべてを皆殺しにしてやる。』そう脅してね。」

「なぜそんなことをする!」

「理由は二つ。一つは私自身が、殺すという行為を好まないこと。もう一つは、人間たちに思い知ってもらうためだ。すべての人間に、自分たちがいかに醜く、愚かで、無知で、無力な存在であるかを、思い知ってもらいたい。そのことで、大いに苦しんでもらいたいね。殺してしまったら、それ以上思い知らせてやれなくなる。」

 そこまで言うと、魔神はにやりと笑った。

「人間たちが、その苦しみに負けてしまえば私の勝ち。苦しみを乗り越え、それを糧として成長すれば彼らの勝ちだ。これは試練だよ。私は、いわば人類全体に試練を与え、彼らを導く師匠役というところだね。」

「……とんでもない愉快犯ね。ある意味では、アシュタロス以上に始末が悪いわ。」

 令子が魔神を睨みつける。

「決してそんなつもりはないが、本当のことを言ったところで、どうせ君たちは信じまい。───言っておくが、ここで私を倒せたとしても、所詮は一時しのぎだよ。魔神クラスともなれば、死にたくても死ねないことは、君たちも知っているはずだ。」

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