ザ・グレート・展開予測ショー

たとえ、試供品であっても。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 8/19)

秋深し、と誰かが呟いた。
学校帰りの三人、横島、ピート、タイガーも時折の寒風に首を竦めている。
枯葉を踏む音も聞こえて久しい。
「にしてもなー」
と、横島が何やらで数回お手玉をしている。
その後ろでは、
「秋冬物の口紅、最新版です、どうぞ!」
試供品を配っている女性がいた。横島が持っている件の品のようだ。
「横島ハンの事ジャ、おねーさん目当てでもろうたんじゃろ?」
タイガーがからかい気味に口を開く。
「まーな、でもこんなんを貰ってもな」
肩を竦めておどけ模様の横島。
「でも、本当の洒落者は男でもルージュをしますよ!」
ぴんと指を立て指摘したのがピートである。
「俺がそんな男にみえっかよ。オカマじゃあるまいし」
「じゃのー、よっぽどピートしゃんの方が・・」
「じょ、冗談ですよね?タイガー君」
あは、あは、と軽く笑って見せるがやや焦り気味である。
「だなー、この口紅いるか?ピート」
「い、いりませんよ!」
「そっか?お前なら女共が『きゃーきゃー』いいそうだけどな」
俺が持ってたらヘンタイ扱いだぜ、と呟いた。
「ま、いっか、事務所の誰かにあげるわ」
「そうですよ、横島さん」
口では肯定しながらやや、残念そうなピートをタイガーは見逃さなかった。

「誰にあげようかな?美神さんはぁ」
美神さんは、自分専用のを持ってるみたいだ。
おキヌちゃんは学校の関係だと思うけどお化粧はあまりしてない。
タマモは・・、よくわかんねぇな。
シロは、考えるだけ無駄だな、
となる。結局そんな喜ばれるものではなさそうだな、
「じゃ、最初に目に付いたのに、あげればいっか」
事務所に着く前にそう思考が纏まっていた。
「ちわーっす!寒くなってきましたねー」
中に入ると、丁度美神令子が玄関先でブーツを脱いでいたところ。
「あぁ、横島クン」
ものぐさな彼女もブーツの手入れは自分でするようだ。
「ちょっと、早く閉めてよ、寒いじゃない」
「はいっす」
ぱたん、とドアがしまる直前建物の構造関係でひときわ強い風がおきた。
「うぅ、さむっ!」
身を竦めた美神令子。
「美神さん」
「ん?何?」
「これ、あげるっす、試供品なんすけどね。口紅みたいっすよ。俺が持ってても」
本気でいらない物なので、半ば押し付けるが如くである。
ぽんと、手に渡す。
すると美神、顔を真っ赤にして、
「も、もらっていいの?」
「えぇ」
「ホントに?」
「迷惑なら捨ててくれてもかまわないっすから」
そういいながら暖を求め事務所の中へと向かう。
「あ、アンタ、なんか下心あるんじゃないの?」
振り返って横島。
「下心っすか?そりゃ何時でもあるっすよ。俺は煩悩の塊っすからねー」
けらけら笑いながらである。
「やべ、変なこといったかな?」
びくつきながら美神令子の方を見ると、硬直しているではないか。
「・・・??美神さん」
「あ、ああ、ま、ありがとね。私もうちょっとブーツの手入れしてるから先に中入ってて」
おキヌがお茶の用意してたから、と付け加えた。
ぱたんと、事務所に通じるドアが開いてそしてしまった。
横島が消えたのを確認してから。
「・・・あの、馬鹿ったら」
ぎゅっと、試供品の口紅を握り締める美神がそこにいた。
うふ、と薄笑いまで浮かべている。
其処に。
「先生が来た様でござるな、美神殿」
「これでティータイムになるわね、美神さん!」
お茶菓子目当ての獣娘組みが降りてくる。
固まっている美神。
「・・どうしたで御座るか?」
「手に持ってるの何?」
声がしてようやく気がついた感の有る美神。
「えへー。横島クンから貰った口紅なのー」
へー、あいつが、と意外そうな顔を見せたのはタマモである。
シロはと言えば。玄関先にはもういない。

「大分寒くなってきたね、おキヌちゃん」
「そうですね、横島さん。えーっとそっちの棚のクッキー取ってください」
二人でお茶の準備をしている。
女の子だけの家というか。
お菓子やお茶は必ずストックがあるのがこの事務所だ。
そうなると、賞味期限の浅いものを中心に出されることになるのだが。
「まだ、大丈夫でしょ?シロ」
「そうで御座るな美神殿」
この二人、大胆といおうか。その一人が、
「先生!」
勢いよく、こちらにむかったかと思えば、
「美神殿にプレゼントをしたで御座るか?なんでで御座る、御座るぅぅ!」
下手すれば押し倒されるのではないかといほどの力。
尻尾は怒りを表しているのか、ぴんと張り立っている。
「こ、こら離れろ、シロ、おキヌちゃんも何かいってよ!」
助けを求めキッチンに目やると、
「・・おキヌちゃん・・??」
青ざめた顔をしてこっちをみているではないか。
「わ、私はマフラーあげたのにぃ」
今にもなきそうな様子である。
「ちょ、ちょっと待て、確かに美神さんには、口紅あげたけど、あれは試供品、タダの品だぜ?」
「じゃあ、なぜ拙者にくれなかったので御座るかぁ?」
「私にもですよっ」
おキヌちゃんつかつかとこちらに寄ってくるその姿、恐怖すら感じさせる。
「だ、だから口紅なんて俺がもっててもしょうがないだろ?最初に目に入ったのが美神さんたっただけ!」
離れろとばかりに腕に力をいれた。
「そういうことなんですか?横島さん??」
「そーだって、他意もないし、それにマフラーのお礼ならおキヌちゃんにセーターあげたじゃん!」
「そ、そうでしたね、えへ」
怒りは解いたおキヌであったが、シロは。
「うわーん、拙者は先生に何ももらってないで御座るぅ」
へなへなと、その場に座り込んでしまったから大変だ。
「先生の馬鹿、けち、女ったらし、えんがちょ」
「し、シロさん?」
その変貌振りに驚きを隠せない横島。
だが何か言うでもなくオロオロしている。
そんな風景の中。
鼻歌交じりに美神令子といつもどおり無表情なタマモがやってくる。
「おキヌちゃんお茶の用意できた〜」
どこか言葉が上げ調子である。
「ん?馬鹿犬どうしたの?泣いちゃって」
そういわれれば食って掛かるシロも。
「ふんだ、先生は拙者がきらいなんで御座るよ」
「わ、判ったってじゃあ今度なんかやるよ、骨とか、ドックフードとか」
「食べ物で釣らないで欲しいで御座る!」
ふんだ、とそっぽを向いてしまう。
「ほら、シロ横島クンから何ももらえなかったからって拗ねないの、それに理由も聞いたでしょ?」
と、その場は美神がなだめたから一先ずは治まった。

とはいえ。
「お茶のお変わりは横島クン」
「え、あ、自分でするっす」
終止べたべた、何かと声をかける美神令子の態度に戸惑いを覚える。
いやそれ以上に、
「じーーー」「じーーーーーーーーー」
どうもおキヌちゃんとシロ視線が身に痛い。
タマモはそんな中でもマイペースに、
「今日のお茶はちょっと濃いかも」
冷静に舌を楽しんでいるようだ。
(今日はこのお茶会、早く終わって〜〜〜)
心の叫びが聞こえそうなきょうであった。
「な、なんか疲れたお茶会だったなー」
ソファーにだらしなく身を任せた横島である。
おキヌちゃんは片付けをはじめ、シロは拗ねて屋根裏にいってしまったようだ。
美神も。
「ちょっと書類整理があるから待っててねー」
と、名残惜しそうな態度で事務室に入った。
「おい、タマモ」
「ん?なぁに?」
誰とも無しにつけたテレビはニュースである。それをこれまた何気なしに見ていたタマモ。
「なんだったんだよ?今日は」
「馬鹿犬とおキヌちゃんに美神さん」
「そ」
手のひらを二三度振りかざし、
「美神さんはべたべたしてくるし、おキヌちゃんは怖いし、シロはよぉ」
文句が始まると察したのか、タマモ。
「ストップ!今日は全部アンタが悪い!」
「へ?」
「何が『へ?』よ、ったく、鈍感もここまで来たら天然記念物ね」
一息ついてから。
「タダでもなんで、身近な異性から贈り物が来たとあったら格があがるでしょ?
 それが面白くないのは女としては当然じゃないの、少しは考えなさいよ、判る?」判るわけ、ないでしょうけどね、と付け加えると。
「そうか・・よっしゃ、タマモ。俺ちょっと出かけてくる」
言うや急ぎで外に向かう。ジャンパーを着てないところをみると直ぐ戻ってくるのか。
「・・・まさか・・ねぇ」
ぽつりと言ったタマモも、再度テレビに釘付けになった。

数分後。おキヌちゃんもテレビの人に。其処へ。
「ただいまー!」
息を切らした横島がやってきた。
「あら?横島さんどこか行ってたんですか?」
「あぁ、これ、おキヌちゃんにあげるよ」
手にあるのは、
「これって、美神さんにあげた口紅?」
「あぁ、よかったよ、配ってたお姉さん、まだいて」
にこやかな顔を見せる横島につられた形になるのか、おキヌちゃん。
「はいっ、ありがとーございます!」
目の険が取れた。
「あと、同じモンだけどタマモにもな」
「そう?じゃ貰っとくわね、でシロの分もあるんでしょ?あいつは屋根裏よ」
どたどたと、階段を上っていく音が響いた。
「・・ホント判ってないな。アイツ」
ポツリとタマモが零した。
居間からシロの嬉声が聞こえたのは、想像に易い。

さらに時間は進むと。
今度は美神令子である。
「横島クン?」
「はいっ?」
怒り顔とまではいかないが、なにやら面白くないと態度だ。
「この前の仕事で使った除魔札、在庫と合わないんだけど?」
「知りませんて俺は使いませんよ!」
「じゃあ、これなんだけどぉ」
と、意地悪とも言える難癖を付けてきた。
幸い、
どれも身知らぬことゆえ鉄拳制裁は無しですんだのだが。
「今日はもう仕事ないから、上がっていいわ、てか、とっとと上がりなさい」
にっこりと、笑顔が今日一番の恐怖であったか。
それでも、帰り品に、
「きょ、今日はありがとね」
と、付け加えてはいたが。
「なんなんだよ、いったい今日は」
ぶつぶついいながらの帰宅を窓から眺めたのはタマモである。
「ホント女心のわからないやつね。横島って」
それが魅力でもあるだんなんて、言わないだけマシだけどね、
心でつなげながら、
今は鏡の前でお化粧のチャレンジをしている。
「あーん、はみ出ちゃった。口紅って難しいなぁ」
なかなか難しい化粧品のようである。
枯葉が木枯らしで舞っている。

FIN

PS
 贈り物も考えてね。横島っ!
    Byタマモ

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