ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は狐 最終日


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 8/16)


旦那様の名前は 忠夫

奥様の名前は タマモ

ごく普通の二人が

ごく普通に恋をし

ごく普通の結婚をしました

――――――・・・が

ただ一つ違ったのは、奥様は

『狐』

だったのです

(ハァ・・・いい加減相手するのも疲れたわ・・・)

―――――――――――――――


「ふーん『従業員』と『愛人』をカン違いしただけなのね。・・・なんかつまらないわねぇ・・・」
そういうと美智恵は少し冷めた天麩羅を頬張る。

「つまんなくて結構よ。人事だと思って・・・」
憮然とした表情のタマモが稲荷寿司を持ったまま答える。

「あら、だって人事ですもの♪」

あっけらかんと言い切る美智恵に眉をしかめながら、手にもった稲荷寿司をパクつくタマモ。


病室に戻る前に、皆が空腹を感じていた事もあって途中で寄り道をした。
令子とおキヌはコンビニでサンドイッチと飲み物を購入し、シロはフライドチキンを大量にテイクアウトしていた。
美智恵はデパートの地下で和の惣菜詰め合わせとおにぎりを幾つか見繕い、病室に戻ってきたのだった。

横島は当然病院がだす味気ない食事で、タマモはお弁当として持ってきた自作のいなり寿司だ。

病室に戻ってからみんなで食事となったのだが、タマモは利き腕の使えない横島の補助。
美智恵はひのめのミルクの支度等があって、二人だけ遅い食事となったのだ。

先に食べ終えた令子とおキヌはひのめの世話をし、横島は既に何度も読んでいる雑誌を手に取りボーっとしていた。

ちなみにシロは傷心も手伝って、いまだにフライドチキンをヤケ喰いしている最中である。

「それにしても意外だわ・・・横島君が愛人を拒否するなんて・・・」
ひのめをあやしながら、心底意外そうに令子が呟く。

「そうですね、でも私はなんだかホッとしましたよ」
着替え終えたベビー服をたたみながら穏やかな笑顔で同意してみせるおキヌ。

「・・・俺がまともになっちゃおかしいんですか?」
横島はそんな二人に情けない顔で抗議する事しかできなかった。

「いえ、そんな・・・・・・横島さんだって・・・え〜と・・・」
「・・・たとえハルマゲドンが起きようとも、横島君がまともになるなんてありえない事よ!」

慌ててフォローするが、上手い慰めの言葉が出てこないおキヌとキッパリと言い切る令子。

落ち込んでしまう横島だった。



「でも意外です・・・横島さんもう独立の資金貯まってるんですね♪」

おキヌがなんの気なしに発した言葉は波乱を呼ぶ事にになってしまった。

「え?あ・・・いや『まだ』なんだけど・・・」
雑誌を膝の上に置き、頭を掻く横島。

「そうなのよね〜・・・この分だと宝くじでも当たらないと子供が生まれるまでには、間に合いそうにもないし・・・」
タマモはタッパーをしまいながらため息混じりに呟く。

「あら?もうできちゃってるの?」
妊娠しているという事をあっさりと受け止められるのは、二児の母親である美智恵だけだった。

三人の『乙女』は、妊娠へと繋がる『とある行為』を連想して真っ赤になるだけだ。

「うん。今はもう3ヶ月って所かしら?」
嬉しそうにお腹に手を当てて、微笑むタマモ。

「それなら余計に物入りになるじゃない・・・大丈夫なの?」
食べ終えて出たゴミを片付けながら心配そうにたずねる美智恵。
経験者として当時の出来事を思い出して心配しているようだ。

「それがですね・・・タマモって妖狐じゃないですか。少なくとも二人は生まれてくるみたいで・・・
 そうなったらとてもじゃないですけど、あのアパートでは生活できそうに無いんで、余計に困ってるんですよね・・・」

こめかみに手を当てて揉み解すような仕草をする横島だが、顔の方はそう深刻でもないような表情をしている。
新しい家族の登場が、タマモと自分の子供が生まれてくるのが嬉しくて仕方が無いようだ。

「なるほど、扶養家族も増える事だし、一家の大黒柱として責任も感じて独立ってわけね」
美智恵は横島の嬉しそうな表情を見て、つられて笑顔になる。
が、すぐに険しい表情をすると、いつの間にか妹をおキヌにあずけて逃げ出そうとドアノブに手を掛けていた娘を睨む。

「どこに行くの令子?これは貴女にも関係のある話じゃないの?」

「な、何よ・・・もう横島君は一人前だって認めたハズよ?独立しようが何しようがもう私に関係の無い事じゃない!」

精一杯の虚勢を張って答えるが母親相手に通用するものではなかった。

「それはそうでしょうけれど、どうして一人前のGSの横島君が一年以上も働いているのに独立資金に困ってるのか
 私にも解るように説明してちょうだいね♪」

「・・・無駄遣いが多いからじゃないの?」

「私が家計を預かってる以上、そんなことはありえないわね」
自信たっぷりに言い返すタマモ。

「隠れてコッソリどっかでつかってるんでしょう?」

「俺、貰った給料そのままタマモに渡してるんですが・・・美神さんの目の前でいつもやってるじゃないですか」

横島の言葉に無言で同意を示すおキヌとシロを見て、美智恵の目が険しくなる。

「・・・という事は貴女はまだ横島君に法外な値段で働いてもらってるのかしら?」

「う・・・じ、時給なら『三倍』にしたわよ!!」

「三倍っていっても一番最初の頃の三倍ですから・・・750円ですね」
おキヌが補足すると、美智恵の目が更に険しくなる。

「横島君が個人で引き受けた除霊のギャラは全額渡してるじゃないのッ!!!」

「そういえば・・・・先生が『ぎゃら』を受け取った後、
 なぜ美神殿がもう一度依頼人から『ぎゃら』を受け取っていたのでござろうか?
 ・・・拙者いつも不思議に思っていたでござるよ♪」
骨についた軟骨をコリコリと齧りながら、なんでも無いような事を口にした『つもり』のシロ。

シロの言葉を聞いて青ざめる令子と、反対に烈火のごとく怒りを顕にするタマモと美智恵。

「「もしかして、忠夫(横島君)のギャラをピンハネしてたのかしら?」」

冷や汗を流して後ずさる令子。

「(な、何とか上手い言い訳を言わないと・・・・・・)それは・・・ホラ、あれよ!!
 え〜っと・・・横島君が独立するときの為に私が前もって貯めておいたのよ!」
タップリ考えた末の苦しい言い訳だ。

おキヌは真に受けて感動しているが、タマモと美智恵は疑っている。

「その言葉が嘘だったら貴女のGS資格取り消し処分じゃぁ済まないわよ、令子」
念を押し、令子から言質を取る美智恵。この辺りの抜かりの無さは流石と言ったところか。

「も、もちろんよ!(半年前の書類はすでに捏造済みだから、いくらかは誤魔化せるわ!!)」
幾分冷や汗も引いてきた令子が、少しでも出費を抑えることに頭をめぐらせ始めた。

病室に居る全員を前に、半ば強制的に横島に金を払うと宣言した令子を見て、美智恵はわずかに表情を緩める。


「まぁ・・・意外な展開だけど、これは一応喜ばしいことなのかな?」
今までのやり取りを苦笑交じりに眺めていた横島がポツリともらす。

「そうなんじゃない?」
横島に寄り添いながら優しい笑みを浮かべるタマモ。

そこには仲の良い夫婦がいた。



「さて、そろそろおいとましようかしら?騒がしくてゴメンね横島君」
ひのめを抱いた美智恵が腰をあげる。

「いえ、にぎやかで楽しかったですよ」
横島が答えるが、タマモが「にぎやかすぎよ・・・」と突っ込むので苦笑するしかなかった。

「じゃぁね横島君」
「・・・・・・・・・(あとはどうやって未処分の奴を誤魔化すかね・・・)」
「早く良くなってくださいね、横島さん」
「先生!一緒に散歩できる日を待ってるでござるよ!」

それそぞれの挨拶に手を振って応え、見送る横島とタマモ。


「さて、それじゃ早速事務所に行きましょうか?」
「な・・・ママ、別に今日じゃなくてもいいじゃない!?」
「ダメよ。一日でも空けるとどう誤魔化されるか解ったものじゃないわ」
「・・・・・クゥゥゥゥッ!!!(ああ、腸が切れそう・・・)」


ドアの向こうから聞こえる会話に、またも苦笑するしかない二人だった。


因みに・・・令子が改ざんした書類やら脱税の裏帳簿が人工幽霊一号の助力で全て明るみに出たのはまた別のお話・・・













15年後



横島除霊事務所と書かれた看板の建物に駆け込む六道女学院の制服姿の三人の少女。

「「ただいまー!」」
「おっじゃましまーす♪」

年齢に見合った元気な声が事務所内に響く。

「やれやれ・・・うるさいのが帰って来たわね・・・」
鮮やかな金髪を九つの房に分けた独特の髪型の女性が、お茶をすすりながら誰ともなしに、しかし嬉しそうに呟く。

「あれ、ママだけ?もしかしてパパはお仕事?」
父親譲りの黒髪をおかっぱにした少女がカバンを放り投げながらたずねる。

「ん〜〜、上で犬のしつけよ。だから今日は幻術の稽古ね、蛍♪」

「そんなぁ〜・・・」

父親を異常に慕っている長女の落胆に、意地の悪い笑みを浮かべる次女。

「残念でした、おねえちゃん♪まぁ、霊波刀を覚えたっていっても果物ナイフサイズじゃぁね〜」
そう言って、姉と違い母親とそっくりの金髪のツインテールを揺らしながら、テーブルに載っていたお茶請けを頬張る。

そんな次女の頭をかるく叩くと
「生意気な事言ってるけど珠(タマエ)・・・あんたいつになったらお札燃やさないで使えるようになるのかしら〜?
 ひのめはすっかり狐火のコントロールをマスターしたっていうのに・・・」
そう言って亜麻色の髪の毛を背中まで伸ばした少女に目をやる。

「そんな・・・ひのめちゃんは二年生なんだよ?」
叩かれた頭を押さえながら、批難交じりの視線を母親に向ける。

「そんな事は関係ないのよ。ホラ、早く着替えてきなさい!」
二人の娘の背中をかるく押して部屋へと追いやる。

そんな中、自分の家より勝手を知っている事務所の台所に赴き、牛乳を一気飲みしているひのめがパックを片手に戻ってきた。

「そうそうタマモさん、お姉ちゃん産休に入るからしばらくの間氷室さんコッチに来るって」

その言葉を聞いたタマモが意外そうな表情をうかべる。

「産休?ふ〜ん・・・向こうもそれなりに上手くやってるみたいね・・・」

かつての姿を思い出し、今現在弟子である彼女の妹からの報告に軽く違和感を感じていた。

「それよりもひのめ・・・あんたもいい加減諦めなさい。うちの牛乳全部飲む気?」

「ブハッ・・・なぁっ!い、いいじゃない、ケチケチしないでよ!」
パックに直接口を付けて牛乳を飲んでいたが、タマモの言葉におもわずむせてしまっていた。

「そもそも牛乳飲んだからって大きくなるとは限らないわよ」

タマモ自身、傾国の美女の転生とあって見事なプロポーションをしていた。

「うぅうぅぅ〜〜・・・なんでアタシだけこうなのよー!お姉ちゃんもママもバン、キュ、バンな体型なのにぃ〜」
涙を流して絶叫するひのめ。

そこへいつの間にか着替え終わった蛍が、同じように涙を流しながら絶叫に加わる。

「その気持ちよく解るわ、ひのめちゃん!!!ママも珠もあんなに大きいのにっ!なんで私だけ?」

「こればっかりはねぇ・・・」
「仕方が無い事よねぇ♪」

泣いて抱き合う二人を複雑な表情で見つめるタマモと、勝ち誇ったような表情を浮かべる珠。

そこへ、犬のしつけ・・・もとい弟子の修行を終えた事務所の主が戻ってきた。

「おーおー、賑やかだと思ったら・・・みんな帰ってきてたのか」

乱れたオールバックの頭髪を軽く整えながら部屋に入ってきた父親に、

「ただいまっ!パパ♪」
飛びつく蛍と、

「ただいま、おとーさん」
少しそっけない斗北子。

「お邪魔してます横島さん」
そして、礼儀正しいひのめ。

「お帰り蛍、珠。いらっしゃい、ひのめちゃん」

首っ玉にくっついて離れない娘を抱きとめながらこたえる。

「おつかれさま忠夫。シロはどうしたの?」
持ってきたタオルで夫の額の汗を拭きながら、いままで横島が相手していたであろう人物のことを尋ねる。

「あぁ、あいつ一人で散歩に行ってくるってよ・・・元気だよなぁ・・・」
呆れたように呟く横島。

「そう、なら夕飯が出来る頃には帰ってきそうね。私の稽古も早めに終わらせないとね・・・
 ほらほら聞いてたんでしょ、みんな先に行って準備体操やらなんやらしておきなさい!」

急かされた珠とひのめは生返事を返しながら屋上へと向っていく。
しかし、蛍は未だに横島に抱きついたままタマモを涙目で睨み返す。
因みに横島とタマモが会話している最中、蛍はずっとほお擦りしたりほっぺにキスを繰り返していた。

「・・・睨んだってダメよ、アンタも先に行ってなさい」
呆れ半分、嫉妬半分の冷たいとも暖かいともいえない視線を返すタマモ。

「うぅぅうぅ〜〜・・・じゃぁパパがキスしてくれたら行くわ♪」

そういって目を閉じて爪先立ちになる。

そんなやり取りをする娘と妻をみてだらしなく表情を崩していたが、タマモのプレッシャーに押されてしまう。
そして今日何度目になるのかわからないため息をつき、娘の額にキスをした。

「あぁ〜!!何でおでこなのよっ!普通こういう時は口と口を合わせて舌を絡めた濃厚な、痛っ!!」

「バカな事言ってるんじゃないわよ!ほらさっさと行きなさい!!」

まだ何か言いたそうな蛍だったが、怒るタマモを見て渋々屋上へと向っていく。

「全くっ・・・あの子は何考えてるんだか・・・」

「まぁまぁ・・・可愛いじゃないか、それよりも俺は珠の方が何を考えてるか解んないんだよな・・・
 最近は話かけてもあんまり答えてくれないしな、ちょっと寂しいよ」

「普通あの年頃女はそういうものよ、どっちかって言うと蛍が異常なのよ・・・
 それとちょっと汗臭いわよ、夕飯前までにはシャワー浴びておいてね」

そういうと横島の首に腕をまわし、娘が企んでいたディープキスを始める。

横島もあっさりとタマモの行為を受け止める。
タマモの腰に腕をまわし、力強く抱きしめると口の中を蹂躙するソレにこたえる。




二人が結婚十五年目にして未だに『新婚バカップル空間』に入り浸っているその頃。
屋上に作られた結界で覆われた修行場で柔軟体操をしている三人がなにやら話し込んでいた。

「蛍ちゃん、横島さんと結婚するって本気なの?」
「いつものことだから気にしないでひのめちゃん・・・」
「・・・ウフフフ、私妖怪でよかったわ!近親相○、重婚も皆人間の法律!ビバ妖怪っ!!!」

「「・・・ハイハイ、頑張ってね・・・・・・・」」

一人は闘志を燃やし、二人はあきれ返っていた。







「うふふふ・・・ひさしぶりに横島さんと一緒にお仕事です!これはチャンスですっ、絶対にモノにして見せます!!」

「アレは・・・おキヌ殿?いやまさかそんな・・・おキヌ殿はあんな事を言うはずがないでござる!
 きっと他人の空似でござる!・・・そうでないとイヤ過ぎるでござる・・・・・・・」

黒い決意と共に周囲の人々を引かせ、約一名を恐怖のどん底に叩き落としていた。




これから横島とその奥様がどうなるかは神様にも解らない。

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