ザ・グレート・展開予測ショー

『  Shower For The Sweethearts  (前編) 』


投稿者名:墓無し春夏
投稿日時:(04/ 8/15)


俺は肩を掴んで、しっかりと目を見据えて――言った。

「あのっ……美神さんっ!もうずっと前から言ってた事だし、今更かもしんないけど、
 今度ばっかは本気なんです。俺、ずっとずっと、ずっと前から美神さんの事が…………………………………っ!!!!」

――バシィッ……

初めて叩かれた。初めて美神さんに、平手打ちで叩かれた。
いや、美神さんに叩かれるとかはもういつもの事になっちゃったけど。
グーパンチで殴られたり、神通棍でグリグリされたりにももう慣れちゃったけど。
それは全部、優しさや温もりとか、そういうのの裏返しだってわかってたから。

でも、今のは違った。
人よりかなり鈍いって自覚してる俺でもわかる。
キッと俺を睨んだ眼にあった、明らかな拒絶。心からの怒り。
優しさも温もりも、そんなもんはそこには微塵も無かった。

そりゃある程度予想はしてたけれども、こうなっても後悔しないって思って言ったけども。
やっぱり、ツライ。
俺って奴は美神さんにとっては丁稚でしかなくて。
そんな俺が告白なんて大それた真似しでかしたから、美神さんは俺の事を……

「うっ……うっ……うわぁぁあぁあぁああぁあっっっ!!!」

その場にいるのが耐えられなかった。一刻も早くこの場から消え去りたかった。
だから全力で走った。美神さんの顔なんて見ないで、ただがむしゃらに。

目に映る世界全てが歪んで見える。
涙のせいでまともに見えない視界の中で、街灯のぼんやりとした灯りだけが後ろにすっ飛んでいく。

昔からフラれた男がする事っていえば、
力の限り走り去るかそれとも絶望のあまり寝るかっていうけど、俺は走るタイプだったんだな……。



   『  Shower For The Sweethearts 』





 〜約5時間前 事務所にて〜

「美神さーん!」
「どうしたの横島クン?今日は休み取るって言ってたでしょ?」

ソファに座ってテレビを見ていた美神さんは俺にそう聞き返してきた。

「その休みの使い方なんすよ。美神さん、今日これから時間あります?」
「別に予定はないけど……何考えてるのよ?」
「これから俺と一緒に映画行きませんか?ほら、チケットもここに――」

めきゃっ
チケットを差し出した途端、俺の顔面に美神さんの拳が飛んできた。

「馬鹿言ってんじゃないわよ。アンタなんかと映画行ったら、それこそ妊娠しちゃうでしょーが!」
「そっ、そこまで言わんでもいいでしょう……」

美神さんの拳が顔面にめり込んだまま反論する俺。
もう、ツッコミ自体が日常と化してるみたいだ。

でもわかってる。
こんな事してたって、美神さんは俺のことを認めてくれてるって。
GSの仕事だって責任のある仕事を任される事が多くなってきたし。
期待されるってのは嬉しいから、それに応えられるように俺も必死でやってるつもりだ。

「それにあんたが選ぶ映画なんて、きっと『ピー』で『ピー』な『ピー』で……」
「何なんすかそれはっ!いくら俺でもそんなんは選びませんよっ!」

自信を持って言う美神さんに必死で反論する俺。
そんな美神さんに手に握っていたチケットを差し出した。

「何よ……って、これ……もしかして……」
「そうっすよ。美神さん、確かこの映画見たいって言ってたでしょう?」
「そりゃそうだけど……あんたこれどうやって手に入れたのよ。結構難しいって聞いたけど……」
「あぁ、こないだテレビで応募してたんすよ。当たったらいいな〜くらいなノリでハガキ書いたら見事当たっちゃって」

でも、これは……ウソ。
本当はクラスメイトのメガネが当たったチケットを頼み込んで譲って貰ったんだ。
どうしても欲しかった。プライドなんてかなぐり捨てて頼み込んでた。回りから見たら惨めだったかもしれないけども。
それでも何でそうしたかって言えば、美神さんが見たがってたのを知ってたから。
美神さんと一緒に――

「美神さんと一緒に見に行きたいから応募したんすよっ!ちょうど今日だしっ!行きましょうよっ!
 っていうか行ってください、お願いしますーーっ!!」
「泣いて飛びかかるなーっ!」

ズガンッ!
美神さんに飛びついた俺の脳天に今度は肘鉄が打ち込まれた。

「ったく……わ、わかったわよ。チケットもったいないし、そこまで言うなら一緒に行ってあげるわよ!」
「いよっしゃーっ!!」
「まぁそれに……」

血が噴き出してる事も忘れて喜んでた俺。
そんなんだから美神さんの顔が赤く見えたのも血のせいだと思ったし、言葉の最後の方は聞こえなかった。

「へ?すいません、今なんか言いました?」
「なっ、何でもないわよっ!じゃあ準備するからちょっと待ってなさいっ!!」

そこまで言うと美神さんは早足でドアの向こうに行ってしまった。
やっぱり顔が赤くなってたみたいだ。でも何で?
まぁ、いいか。

部屋の中をぐるぐるとうろつく。
そわそわしてても仕方ないからテレビのチャンネルを変える。
天気予報、バラエティ、ドラマ……内容なんて覚えてない。
頭の中で考えてたことはこれからの事だけだった。

「おまたせー……って、アンタその格好で映画行くつもり?」
「俺が服装に金かけられないのは一体誰のせいです……か……!?」

どれくらい考えていただろうか。奥から美神さんが出てきた。
ちょっと皮肉を込めたように返事をしてから後ろを向くと……うおぉ……

いつものボディコンじゃない。少しスリットがはいった黒いスカート。
着ているシャツは白いV字カットで、その上には黒のジャケットを着込んでいた。

「どしたの、変な顔して?」
「えっ、いやその……なんか新鮮だなぁって……」
「はぁ?」
「なっ、何でもないっすよっ!じゃ、行きましょうっ!」

毎日のように美神さんの事は見てるのに、何で心臓がバクバクいってるんだろうか。

俺は照れを隠すようにして急いで事務所を出た。
適当に話をしながら二人並んで映画館へ向かう。

はー……それにしても美神さんって本当に美人だよな。
こうやって二人で歩いてて、同じ人間なんだって信じられないくらいだもんな。


ん?


…………ちょっとまて。自分から誘っておいて今更気づくのもアレだけど、仕事が休みな日に
二人で映画を見に行くなんて、ひょっとして世間一般では『でーと』って言うんじゃなかろーか!?
やっぱりデートって言ったら映画見終わったらそれなりにすげぇレストランかどっか行って!
高級ホテルのバーとかでお酒飲んだ後に適当なところで『実は部屋を取ってあるんだ…』とか言って一気に……!!」

めきゃっ!!

「あり得ない妄想を口に出してこんな街中で叫んでんじゃないっ!!」
「ぐふっ……す、ずびばぜん……」





そんなこんなで目的の映画館に着いた。だが……

「ちょっとちょっと……いくら人気作だからってこれはないでしょ……」
「すっげぇすね……これは……」

俺たちが見たのはズラリと並ぶ長蛇の列。
評判のラーメン屋?そんなもんは目じゃない。
いくら映画館の収容人数が多いからってこれは多すぎだろう。
メガネ、よくチケットとれたな。

しかもいるのは何故か揃いも揃ってカップルばかり。
予想外の状況に半分パニックになっていると、横で美神さんがふと呟いた。

「やっぱ帰ろうかしら……」
「そりゃないっしょーっ!?ここまで来といてーっ!?」
「服の裾を掴むなーっ!回りが見てるでしょーがっ!」

踵を返しそうになった美神さんを必死で呼び止める。
ここで帰られたら今までの苦労も喜びも水の泡になっちまう。

……こんな俺たち、回りから見るとどう見えてるんだろう?
俺は美神さんに釣り合うような男に見えてるんだろうか?





「いやぁ、結構面白かったっすねー」

映画は結構面白かった。なんでもアジアのほとんどの有名な俳優を集めて撮った大作で、
銀ちゃんもメインではなかったけど出演していた。

「そうね。でもあのヒロイン、何でか他人とは思えなかったわね……」

そのヒロインは美人でカッコ良くて銃を自在に操るという役だった。
何となく、雰囲気が美神さんに似ていた気もする。それに似ていたと言えば……

「がめつい所とかですか?」
「誰ががめついのよっ、誰がっ!」
「冗談っすよ……でも美神さんのほうが美人っすよね」
「んなっ……何言ってんのよっ」

ゴスッ!
何気なく言った一言なのに、何故か美神さんは赤くなって俺の頭を殴ってきた。

「な、何で殴るんすか……褒めたのに……」
「うるさいっ!」

スタスタと先を歩いていってしまう美神さん。
いつもよりも歩幅が広くて、早足だ。何であんなに早く歩くんだろう。

……そのまま何の会話もなしに歩き続けた。
何を何と言ったらいいかわからない、とても微妙な雰囲気だった。

ぴたっ

不意に、美神さんが立ち止まった。何かを考えてるように、腕組みをして「う〜ん…」と唸ってる。
何を考えてるのか、俺にはまったくわからなかった。

「み、美神さん?どうしたんすか?」
「あー、そのー……横島クン?」
「はい?」

振り向いた美神さんの顔は月明かりに照らされてハッキリと見えた。
あの顔は……照れてる顔だ。時々、本当に時々見せる、素直になった時の顔だ。

「今日はその……ありがとね……誘ってくれて」

いきなり俺の心に、風が吹いた。
爽やかで、心地よくて。熱くて、燃えさかるような風が。
しだいに沸々と沸き上がってくる感情。だんだん姿をハッキリとしてくるその気持ち。
薄々気づいてはいたけど今、わかった。
俺は、俺はずっと前から美神さんのことが……

「あのっ、美神さん……っ!俺……っ!」
「え?」

プルルルルル

「…………」
「…………」
「……美神さん、ちょっと待っててください」

何てタイミングの悪い電話だ。
無視しても良かったけど、着信音を鳴らしたままで言うなんて気が引ける。
さっさと話を終わらせるつもりで、電話に出る。
スピーカーの向こうから聞こえてきたのは、チケットを譲ったメガネの声だった。

『おー、横島。俺だ』
「どうした?」
『あぁ、さっき愛子から電話がきてな。明日学校に絶対に来いだとさ』
「何でだ?」
『都の方からお偉いさんが学校を見にくるんだとさ。全員出席らしい』
「お前、そんな事言うために電話よこしたのか?」
『それ以外でお前に電話なんかしねーよ』
「うるせぇな。もう良いだろ、切るぞ」
『あぁ。おっと、そういやお前、あのチケットどうした?今日までだったろ』
「ん、あのチケットか?ちゃんと使ったよ、お前のおかげだ」
『メシ一週間分だからな、忘れるなよー』
「わかってるよ、今日のデートの事を考えると、安いもんさ」
『デ、デートっ!?上手くいったのかっ!?まさか……横島に限って……』
「じゃ、切るぞー」
『待て横島。話はこれから――』

「これでおしまいっと。すいません、美神さん……美神さん?」

振り返ると美神さんがじっとこっちを見ている。
いや、正確には俺の手に握られた携帯電話を見ているらしい。

それでも、言いそびれないうちにと思って、俺は美神さんの方に歩いていく。
そして肩を掴んで、しっかりと目を見据えて――言った。

「さっきの続きなんすけど……
 あのっ……美神さんっ!もうずっと前から言ってた事だし、今更かもしんないけど、
 今度ばっかは本気なんです。俺、ずっと、ずっと前から美神さんの事が…………………………………っ!!!!」

言った途端、美神さんにキッっと睨まれて。
何をするつもりなんだろうとか思ってたら……

――バシィッ……





「ううっ……ちきしょぉ……ちくしょぉ……」

走って走って、たどり着いたどっかの公園で俺は泣いていた。
嗚咽を漏らす度に、身が削り取られていく感じだった。

情けなかった。
あの場から逃げてしまった自分が。

惨めだった。
こんなトコで泣いてる自分が。

そして何より、
美神さんも俺の事を好きでいてくれて、その後は――
なんて事を考えてた自分自身が、ひどくバカくさく思えた。

「俺じゃダメなのかよ……俺じゃぁ……」

一番最初は荷物持ちから始まって。
仕事で海に行ったり、山に行ったり、宇宙に行ったりだとか……いろんな所に行った。
俺が何かヘマやらかす度に美神さんに殴られて。
でもそんな美神さんがへこたれそうになったときにはできるだけ支えようとしてきて。

ワガママで、イケイケで、タチ悪くて金にがめつくて。
強くて、イイ女で、意地っ張りで傲慢だけど時々かわいいところもあって。
良いところも悪いところも含めて、美神さんの事が好きになってたのに……

美神さんが俺のことを認めてくれてるなんて、俺の勘違いだった。
美神さんの事ならなんでもわかってるって思ってたのも、俺の思い上がりだった。
美神さんの傍にずっと一緒にいる事なんて、俺にしかできないって思ってたのも、
全部、全部自惚れにしか過ぎなかったんだ……っ!!

涙がどんどん溢れてきて。
それが垂れ落ちた所は水たまりとは言わないまでも結構ぐちゃぐちゃとしていて。
まるで今の俺みたいだった。

『―――――♪―――♪――♪―――♪』

「!!!?」

いつもジーパンのポケットに入れてる携帯電話の着メロに、
心臓が飛び出るんじゃないかってぐらいに驚いた。

この音は美神さんだ。間違いない。
だって、俺が選んだ曲だから。
バイトが忙しくて最近の曲なんて全然知らないけど、
美神さんに似合いそうな曲を選んだんだから。

気持ちとは裏腹に明るく光るディスプレイ。
そこに映る『美神さん』の文字。
何故か、それ越しに美神さんの顔が見えた気がした。

『――ただいま、電話に出ることができません。
 ピーという発信音の後、メッセージをお入れください――』

機械的な留守番電話のメッセージが流れる。
だけど、何も聞こえずしばらくしてからその音も切れた。

もう何も言わない携帯電話を握りしめる。
『仕事用だからねっ、仕事用っ!!』とか言って美神さんが買ってくれた携帯電話。
何でかは知らないけど、最初から美神さんの番号が入力されてたんだっけ……
その後、ついつい美神さんに電話かけたんだったな……

その時の事を思い出すと、良い思い出のハズなのに胸が苦しくなってきて。
堰を切ったようにまた涙がどんどん溢れてきた。

何で、良い思い出で泣かなきゃいけないんだ……
何で、俺がこんな風にならなきゃいけないんだ……
何で、好きって言ったのにこんなにも苦しんで、惨めにならなきゃいけないんだ……

『―――――♪―――♪――♪―――♪』

声を押し殺して泣いてる俺の右手から、携帯電話が再び鳴り始めた。
さっきと同じ着信音。

「何で……何でなんすか……何でこんな時に、こんなに電話かけてくるんですか……っ
 これじゃ俺が……俺がどんどん惨めになっていくだけじゃないっすか……っ!!」

聞こえるはずのない電話の向こうの美神さんに、聞こえるはずのない愚痴をこぼす。

『――ただいま、電話に出ることができません。
 ピーという発信音の後、メッセージをお入れください――』

再び同じ応答をする留守電のメッセージを聞くのも辛くなってくる。
こんな状態で、電話になんて出られる訳がない。
深い、深い溜息をついて、俺は携帯電話の電源を切った。

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